ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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Mad Dorctor(後編)

その頃、フェンリル極東支部、通称アナグラ…。

「全員集まったな」

作戦司令室に、いつぞやのように第1部隊が集まっていた。しかし、本来ならいるはずの3人のメンバーたちが、いない。できれば夢であってほしかったサクヤにとって、リンドウがいないことが特に心細さを覚えていた。ソーマもいつものような無愛想な顔だが、どこか落ち着きを感じない。

「ツバキさん、もしかしてユウたちの反応が見つかったんですか!?」

トラブルが発生したアーサソールとの合同任務に向かったリンドウたちを連れて返すことができず、消耗も激しかった。だが今は、次の任務に備えられるだけの十分な状態にある。今ならあの時のディアウス・ピターとやらが来ることになっても、ユウたちを連れて帰れるはずだ。息を巻くコウタだが、ツバキが「慌てるな」と言って黙らせる。

「確かにお前たちの期待通り、腕輪のビーコン反応を探知した。しかしその反応が見つかったのは、神薙ユウとエリック・デア=フォーゲルヴァイデの二名のみ。雨宮リンドウ少尉の反応は見つかっていない」

サクヤはリンドウの生死が未だに掴めないことに肩を落とすしかなかった。

「じゃあ、アリサは?」

「アリサさんの反応ですが、反応が見つかった時刻はありますけど、それが消えたり再び探知されていたりと、曖昧な状態が続いてるんです」

コウタの問いに、オペレーションデスクの前に座っていたヒバリがそのように答えた。

「もしかして…腕輪が故障したのですか!?」

話を聞いて、その予想が思いついたサクヤ。腕輪は神機を制御するのに必要なものだが、それ以上にそのゴッドイーターの体内のオラクル細胞を制御するために必要なものだ。それを壊したりすれば、そのゴッドイーターはアラガミとなり果ててしまう。少しの故障も取り外しも許されない。

「まだわからんが、その可能性もあるだろう。または…腕輪の信号を狂わせる何かがあるのかもしれん。また、二人の反応が検知された地点にはウルトラマンの反応もあった」

「ウルトラマン!?」

その名前に真っ先にコウタが食いつく。

「これまでウルトラマンが現れたその時は、異常進化したアラガミ…つまり合成神獣との交戦状態があった。諸君らは現地に赴き、二名を回収次第、直ちに帰還しろ。

オペレーション・メテオライトの成功、そしてその先にある数多のミッションを成功させ、多くの人間をアラガミの脅威から救うためにも、二人の救出を優先し、敵との交戦は極力回避しろ」

 

 

 

 

ボガールをアリサと呼ぶ大車、そしてウルトラマンとなったユウ。

リディアは目の前で展開されたユウと大車の話にも、ユウが起こした超常現象にも理解が追いつけきれていなかった。

「ユウさんが、噂のウルトラマン…」

「リディア君、ここはユウたちに任せて下がるんだ!」

それに…このウルトラマンのような小さな人形が喋っているということにも。思わず眼鏡をとって目をこすり、幻覚を見ていないか確かめてしまった。

「これ、夢じゃない…んですよね?」

「そんなこと言っている場合か!!早く!!」

「ひゃ!!」

タロウが小さな体からは想像つかない力で、リディアの背中を押していった。

(…頼んだぞ、ユウ!ギンガ!)

後ろを振り返り、タロウは自分の使命を託した戦士の武運を祈った。

 

 

 

「ギンガ、また力を貸してくれてありがとう…」

ギンガの中にある不思議な空間『インナースペース』。ユウはそこでギンガと向き合っていた。

『いや、礼には及ばない。それよりも私は、君に詫びなければならない。私の力不足で、君や君の仲間を危機に追いやってしまった。あまつさえ、エリックも…』

ただで差口数が少ないギンガが、自ら謝罪を述べたことにユウは少し戸惑いを覚えたが、すぐに首を横に振る。

「いいんです。本来は僕自身が、どうにかしなくっちゃいけなかった。でもそれができなかった。だからあなたの責任じゃないです」

『そうか…』

「それよりも、あいつをどうにかしなくっちゃね…」

頷くギンガと、ユウは一緒に『目の前』に視線を向ける。

二人の目…現実世界のギンガの目には、ボガールの姿があった。

彼に変身した今なら見える。奴の中にいる、救うべき仲間の姿が。

暗い闇の中にアリサはいた。いつものように神機を片手に、こちらを見ていた。

『お前は…パパとママを…殺した…』

最初に会った時と同じ、憎しみを帯びた深い闇。大車の暗示のせいで、自分の両親を殺した仇のアラガミだと認識しているのだと見た。

『二人を殺した痛みの分だけ……オ前ヲジワジワト食ラッテヤル!!!』

「ガアアアアギイイイイ!!!」

狂った咆哮を上げるボガール。しかし二人は圧されることはなかった。

(ギンガ…行こう!今度こそ仲間を守るために!)

『…うむ!』

イメージの中でアリサが神機を振りかざすと同時に、現実で向かってきたボガールに、対するギンガも飛び掛かった。

「ジュア!!」

リディアたちや集落の避難所のある陸にあげるのは危険だ。そう思った彼は、そのままダムが溜め込んでできた湖の方へとボガールを押しやった。

互いに水飛沫に身を濡らしながら、ボガールは右手を振るってギンガの顔に殴りかかった。

二度ほど飛んできたそれらのジャブを、ギンガは一度ずつ姿勢を低めて回避し、平手で押してさらに集落から遠ざけるようにボガールを押し出す。

十分集落から距離を開けたところで、ボガールは尾を振るってギンガに攻撃を加える。思いの外早く飛んできたその一撃を避けきれず、耳の辺りに受けたギンガは怯む。隙を突くように、ボガールは両腕でギンガを挟み込んでくると、ギンガは脇腹にボガールを挟み込み、その状態で両足を上げてボガールを蹴り飛ばす。

「デア!」「ガァ!?」

さらにすかさず、ジャンプを加えた後ろ蹴りを胸元に叩き込んでさらに強くボガールを押し出した。

すぐに構え直してボガールと対峙するギンガ。今のところ、特にこちらが不利という状況ではない。油断さえしなければ、勝てない相手ではないだろう。

だが………単純に倒していい相手でもない。

ふと、視線をリディアに向けていた。

リディアは、ギンガと目が合ったことで当惑するも、その視線から不安を感じ始めた。

 

 

 

「くくく…ウルトラマンギンガ、いくら強力な力を持つ貴様とて、私のアリサには決して勝てない。わかっていたはずのことだ」

いつの間にか遠くの森の中に移動していた大車は、ボガールの方が劣勢に立っているというのに、余裕の笑みを見せていた。

「ボガールを倒すことは、場合によってはアリサを殺さなければならなくなる。果たして貴様の力を預けた人間態共々、お人よしの貴様にそれができるかな?」

アリサは、大車の都合のいい駒というだけではない。事実上の…人質だった。

「まったくどこまでも愚かな奴らだな!ためらいなく殺しにかかれば、少しは優位に立てるものを!

さあアリサ!私の野望のために、そのうざったいだけの偽善の味方を殺してしまえ!!」

 

 

怒ったように唸るボガールは、両腕からエネルギー弾をギンガに向けて二発放つ。ギンガはそれを手ではたき落とし、反撃に全身のクリスタルを赤く染め〈ギンガファイヤーボール〉の態勢に入る。だが、放とうとしたところで、攻撃を止めた。

「く、うぅ…」

だめだ…迂闊に痛手を加えたところで、アリサを傷つけてしまう。それどころか、たとえ今の彼女が洗脳の途中だとしても、今度はアラガミに加えてウルトラマンに対する恐怖を植えつけてしまうのでは?その嫌な予想がユウの中によぎり、攻撃を躊躇させた。

「ガアアアアアアアアア!!!」

攻撃をためらったところを、一気に近づいてきたボガールに蹴り飛ばされ、ギンガは山肌に背中を打ち付ける。その途端、アラガミの木々がギンガに対して反応を示し、彼の背中や肩、腕に棘を飛ばしてくる。

「ッグ!!」

体のあちこちに鋭く刺々しい感触を覚え、ギンガは悲鳴を漏らす。ボガールはそんなギンガの首を両腕でつかんで無理やり立ち上がらせて強引に引っ張り出し、腹を殴り付ける。

膝を着いたギンガに、ボガールは背中から彼を蹴りつけて、そのまま彼を水底に踏みつける。

「グアアァ!!」

『死ね…死ね…死んでしまえ!!パパとママの痛み…その身に味わえええええ!!』

ボガールは…いや、アリサはボガールの中で憎悪をむき出しにして徹底的に彼を踏みつけ続けた。自分がアラガミに…今はギンガに対して宿す憎悪を刻み込むように。まるで水が入ったままの風呂桶に憎い相手を連れ込み、溺死を図ろうとする殺人者のようであった。

狂ったようなアリサの怒りの声が、ギンガとユウの頭の中に響く。変身しているから水中の息苦しさはなかった。だが、背中から伝わってくる激痛までは決して打ち消せない。

痛い…苦しい。

この痛みは、アリサがこれまでアラガミから受け続けてきた精神的な痛みが、自分へ肉体的なそれとして伝わっている。リディアから聞いた、あの話の通りだ。アリサは心に深い傷を負って、ずっとクローゼットの中に閉じこもり続けていたのだ。そしていざ復讐が可能な力を得た途端、そこから飛び出してただひたすら憎い相手に暴力を向ける。

 

―――止めなくちゃ

 

水中で踏みつけられ続けながらも、ギンガは身を横に転がして何とか踏みつけ地獄から抜け出し、すぐに立ち上がってボガールに拳を叩き込んだ。今度はボガールが山肌に背を打ち付け、木々のアラガミの剣山のように伸びた棘に背や足などを刺された。

「ギシャアアアア!!」

すぐに立ち上がりもだえ苦しみながらも、強引に姿勢を整えたボガールは、目に入ったギンガに向かって両腕から光弾を飛ばしてくる。

〈ギンガセイバー!!〉

「フン!!シュア!!デヤ!」

それらの光弾を、ギンガは全て光の剣で切り伏せて無力化する。

『なんで…なんで倒れないの!!どうして、勝てないの…!?』

ふと、アリサの焦る声がボガールの中から聞こえてきた。憎い相手に決定打を未だに与えられず、再び苦戦しそうになっている状況に、次第に気持ちが逸りはじめる。

その声は、リディアの耳にも聞こえてきた。

「あの声は…!?」

じゃあ、やはりあの怪物は…!

「アリサちゃん、なの…!?」

さっきの大車の言葉。それを考えるとあのアラガミのような怪物が…自分が妹として大事に思い続けてきた少女だということになる。だが未だに信じられずにいた。あんな醜い化け物が、アリサだなんて…!!

『こうなったら、もっと食べて…食べてエネルギーを!!』

アリサがそういった時、ボガールはギンガから別の方向に視線を泳がせ、そちらに向かい始めた。それを見てギンガとタロウ、リディアはまさか!と動揺する。向かっているのは。多くの人たちが逃げ込んでいる避難所だった。

ボガールは翼を大きく広げ、避難所へと飛び出し始めた。

「いかん!!」

ボガールのスピードが速すぎる!タロウがウルトラ念力で一時的にボガールの動きを止めようとした。ギンガも、アリサにけがを負わせることになると思いつつも、自分が躊躇いすぎたことでまた犠牲が出ることをよしとできず、クリスタルを紫色に光らせ、〈ギンガスラッシュ〉を放とうとした。

「止めてええええええええええええ!!!」

あと少しでボガールが避難所もろとも、中の人たちを食らいつこうとしたときだった。避難所の前に、リディアが両手を広げてボガールに向かって叫んだ。

その叫びが届いたのか、ボガールは動きを止めた。

リディアの声がボガールに届くと同時に、ギンガとタロウも驚きを見せつつも動きを止める。

「アリサちゃん、なのよね…?」

自分の声が届いたことで、リディアは次第にあの怪物の正体がアリサであることを信じはじめた。なぜあんな姿なのかはわからない。ゴッドイーターに起こりうる『アラガミ化』の症状なのか、それとも別の何かなのかもリディアにはまだわからなかった。だが、間違いなく言えることがあった。

「お願い、やめて…ここには、昔のあなたのように苦しんだ人たちが大勢いるのよ?」

今にも泣きそうな、それでも絶対に退こうとしないリディアに、ボガールはただ静かな唸り声を上げる。

 

 

ボガールの中にいるアリサにも、リディアの姿がはっきりと捉えられた。

中で捕食形態に切り替えていた状態で神機を構えていた彼女は、呆然としていた。

『リディア…先生…?』

驚きのあまり、強くうろたえていた。なぜあの人が?だって、あの人は…言っていたはずだ。

 

――――リディア先生はね、もう二度と君に会いたくないそうだ

 

――――君がリディア先生の大事なものを奪ってしまったから、すごく怒ったんだ

 

極東に赴任する前に、大車からそのように聞かされていた。それなのに…

『なん、で…』

しかも今の自分は、大車から与えられた『仇を討つための力』を解放しているはずだ。そのうえで自分が、彼女の知るアリサであることに気付いている。

 

……仇を討つための力?

それはゴッドイーターとしてのそれだったか?いや、ゴッドイーターの力だけではパパとママの仇と討つことなんてできない。二人の仇であるウルトラマンは、それほど強くて…

…仇が、ウルトラマン?……違う…何かが違う……

…だったら、リンドウさん、神薙さん?……それも違う……あの人たちは、同じゴッドイーターじゃないか。仇なんかじゃない。

じゃあ誰が、パパとママを殺したの?…そうだ、アラガミのはずだ。たとえばそう、今の自分が姿を変えているような…

 

今の、自分……?

 

アリサは、今自分のいる暗い空間の足もとに、水面が広がっていることに気付く。まるで洞窟のように水音が聞こえる。水面に自分の姿も見える。

ただ、その水面に映る自分の姿が、波紋が広がると同時に、全く違う姿に変わっていく。

アラガミのようなおぞましい怪物、ボガールに。

「ひ…!!」

恐怖を感じて後ずさるアリサ。そして彼女は気が付く。水面に映っているのと同じように、自分の姿も怪物に変貌していることに。

 

『い、いや…やぁ…いやああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!』

 

アリサが頭を抱えて叫ぶと同時に、ボガールも全く同じ動きで狂った悲鳴を上げた。

ボガールの中で、自分が怪物となっていることに気が付いたアリサに、『あの声』が聞こえてきた。

『何ヲシテイル…早クアソコノ人間ヲ食ワセロ…!』

それは、かつてボガールが自身で人間の姿に化けていた時の女の声だった。頭を抱え、膝を着くアリサを、ボガールは悪魔の囁きを続ける。

『アソコノ人間ヲ食ッテ栄養ヲ取リ込メバ、私タチハアノうるとらまんニモ勝テル…!

憎イ相手ヲオ前ノ手デ殺セルンダゾ…!』

『いや、いやあああ!!』

違う!!

アリサは泣き叫びながら、頭の中に響くボガールの声を振り払った。

『これ以上私を化け物にしないでええええええええ!!』

 

 

「「「!!」」」

ギンガ、タロウ、リディアの三人は、ボガールに起きた異変に、驚愕と戸惑いを感じた。

「まさか、洗脳が解けかかって…」

そうとしか思えなかった。アリサは父と母を殺したアラガミを激しく憎んでいた。仲間の存在を蔑ろにするほどに。そんな彼女が、自分もまた人を食らう怪物に変身していることに気が付けば、ショックを受けないわけがない。そのためも含め、大車はアリサの洗脳に手を加えていたに違いない。

そんな時、ギンガが、自分の中にいるユウに向けて口を開いた。

『ユウ、ボガールの力と大車の洗脳が弱まった今なら、この技が効くはずだ』

『この技?』

『私と一つになっている今ならすぐにわかる』

何を言って、と言い掛けたが、ギンガのその言葉の意味をユウはすぐに理解した。

(…そうか、『この技』なら、アリサを助け出せる!)

意を決したギンガは、全身のクリスタルを輝かせる。今までの輝きとは異なる…エメラルドのような緑色の光だった。右手から溢れるその光は、水辺から掬い上げた天然水のように零れ落ち続ける。

「シュア…!!」

ギンガはその光をボガールの頭上に飛ばす。

〈ギンガコンフォート〉。闇の力から人を解き放つ、浄化光線。

その光は、天から彼女を祝福するかのように、ボガールに降り注いだ。

 

 

 

「アリサちゃん…!!」

元の姿に戻って倒れこんだアリサのもとに、リディアはすぐに駆け出した。早く彼女を抱きしめたい、もう手放したくない、もう離れ離れになりたくない。その一心で。

しかし、その前に大車がリディアの足もとにどこからか放たれた銃弾が突き刺さる。

「きゃ!!」

「リディア先生!!」

リディアの後ろからタロウと共に追ってきたユウが、咄嗟に彼女を後ろへ引っ張った。そして、アリサの傍らに大車が再び姿を現す。

「大車先生…!」

「ちっ、せっかくここまで作り上げてやったのに……あの方からの恩賞を独占できると思っていたのに…あのクソエイリアン共の悔しがる顔が見れると思ったのに、なんてことをしてくれたんだ」

ユウたちを見て、大車は心底忌々しそうに顔を歪めた。ちょうどリディアの隣に立ったところで、ユウは大車に向けて口を開いた。

「大車、あなたの企みもこれまでだ。アリサを利用し、リンドウさんたちを傷つけ、罪もない人たちを自分の野望の糧にした償いをするんだ。そして…あなたが隠していることも話してもらう」

ボガールとの戦闘前から、この男はどうも自分たちの知らない秘密の情報を抱え込んでいる。たった今もそうだ。『あのお方』という人物に対し、この男は膝を着いている。闇のエージェントたちとも繋がりがあることもはっきりした。このまま見逃すわけにいかない。

「ユウの言うとおりにしろ、大車。…私は、ずっと守ってきた地球人へ手を下すようなことはしたくない」

タロウもまた、痛烈な思いを口にしつつも、投降を呼びかける。この男は腐っても地球人。過去にウルトラの仲間たちと共に守ってきた人間と好きで敵対したくなかった。

「ふ、ふん!!今回は確かに私の負けだ。だが偉そうにほざくなよ…私には、まだいくらでも貴様らを殺すための策があるのだよ!」

二人の呼びかけに対し、大車は往生際の悪いことにその意志を見せなかった。それどころか、自らの盾とするつもりなのか、倒れているアリサを抱き起す。

「アリサ!」「アリサちゃん!」

「何をする気だ!?」

声を上げるユウたち。

「…以前、あなたは私に言いましたよね?リディア先生…『アリサは強い子だ。あの子の死の悲しみも飲み干せる』、とね」

「…!!まさか…!」

名指しをされたリディアは、嫌な予感をよぎらせた。それを見て、大車は悪魔のごとき微笑を浮かべた。その髭を帯びた笑顔が、まるで弱者を蹂躙し楽しんでいる時のディアウス・ピターのように見えてくる。

「どうしたのです?あなたの望みの一歩を、私が叶えてやろうというのですよ?もっと喜んだらどうなんです?」

自分の顔をアリサの耳元に近づけていく大車に、ぞっとするものを覚える。

「さあアリサ。心安らかに聞きなさい。そして思い出すんだ。失った記憶の全てを…『     』のことを」

だがそれ以上に、リディアたちの中にはもっと別の恐怖が駆け巡った。

「один、два…」

あの男が、アリサに何か最悪なことをやろうとしている、と。

「やめ…!」

「три…!!!」

だが、止める前に大車の呪いの暗示は、アリサの耳から脳へと行き届いてしまった。

「あ…う…!」

ビリッ!と、彼女の頭の中へ電流のような痛みが走る。それが全身に駆け廻り、厳重に閉ざされたアリサの中にある『扉』を開かせた。

 

 

太陽のような笑顔の少女。

 

共に背中を預けあった、姉妹同然の親友。

 

だが、予想しなかった危機…ヴァジュラとの対峙。

 

 

そして…傷ついたアリサは見た。

 

 

大切な『少女』の…

 

 

 

半分に食べられた顔。

 

 

 

 

「あああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

突然妖怪のように立ちあがったアリサは、耳が裂けるほどの悲鳴を散らした。狂ったように頭を地面に、いくら額から血が流れようとも構わずに叩きつけ続けた。

「アリサ!!」

「アリサちゃん!しっかりして、アリサちゃん!!」

必死に止めるも、ユウたちの声は今のアリサの耳に届かなかった。

「貴様ぁ!!!アリサにいったい何をし…!!?」

タロウが真っ先に激高し大車の方を振り返ったが、大車の姿がない。周囲を遠視して徹底的に見回ってみるが、影も形もなくなっていた。最後の最後で、あの男は最悪の置き土産を残してとんずらしたのだ。

「いやだ!いやああああああ!!ほっといて!!私なんか、私なんかああああああ!!」

「アリサ!気をしっかり持って!アリサ!!」

何度も呼びかけずにいられなかった。だがアリサは洗脳されていた時よりも激しく狂い、自分を抑え込んでいるユウたちを跳ね除けてどこかへ逃げようとしていた。

 

 

第1部隊の仲間たちが、ユウたちの生態信号をたどって救助目的で来訪したのは、苦労の末にアリサに鎮静剤を打ち込んでしばらく経過したころだった。

 

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