ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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扉を開いて(後編)

「アリサ!待って!」

ギンガはアリサがもとへ行こうとする。が、近くに来たところで、なぜか観覧車の一歩手前で見えない何かに触れ、身体中に電撃のようなものが走って押し返された。

「グゥ!?」

強い衝撃でギンガは押し返され、仰け反る。既に光の壁が、ギンガを阻むように展開されていた。

『無駄だよ。そのバリアは私の力で展開されている。アリサを戦いに巻き込んで怪我でもされたら私も困るからね』

ギンガは心の中で舌打ちした。予想はしていた、簡単に返してはくれないことは。このバリアは、アリサの身を守るというより、彼女を閉じ込めるクローゼットだ。

正直ムカつかずにいられない。あんな男の手のひらで、アリサが未だに踊らされ続けているのは。

「だったらお前を倒してバリアを破壊する!」

『それが彼女の望みだと思っているのか?たった今見ただろう?彼女は自らこの世界にいることを望んだのだよ。君もアリサの過去を知ったはずだ。アリサがどれほど心に深い闇を抱え、絶望したのか』

確かにそれは聞いている、しかしそれがどういう意味かと問う前に、大車はその理由を明かした。

『彼女の壊れかけた心は私の作り出したこの、幸せのみで詰まった幻想の楽園によって保たれているのだ。両親と親友が存命し、そもそも最初からアラガミが存在していなかったという設定で進行しているこの世界でね!』

両手を仰ぎ、大車は高らかに言う。不利な状況であるはずの自分が、どのみち勝利するつもりでいるように。…いや、この男は自分の勝利を最初から信じて疑っていなかった。その最大の理由を、ついに明かした。

『両親も、自分に救いの手を差し伸べた少女の死を目の前で経験したことで心が壊れた…心の弱い娘だ。もし万が一私を倒し、ガザートも倒せば、私の力で形成されたこの幻想の世界は消える。あの幻影の連中も同時にな。

その時………果たして彼女は無事で済むだろうかな…?

それどころか地獄のような現実を受け入れられず、今度こそ二度と心が蘇ることなく、廃人と化すかもしれないなぁ!?』

「!!?」

廃人…だと?

たとえこのまま大車に勝って、彼女をこの世界から連れ戻したとしても、元から強くないアリサの弱り切った心が…耐えきれないかもしれない。

これが奴の狙いだったのだ。壊れかけているアリサの心を盾に、攻撃できなくなったギンガを今度こそ抹殺するために。

「ガアアアアァ!!」

「ウワァ!!?」

迷いを生んで動きが固まってしまったところで、メザイゴートのかぎ爪による反撃の一撃を、ギンガは許してしまった。

さらに、ガザートも立ち上がって背後からギンガに飛びつき、彼の左肩に思い切りかじりついてきた。

「グアアアアァァァ!!」

深々と、ガザートの牙がギンガの左肩を貫こうとする勢いで食い込み始めた。このままでは、腕を噛み千切られてしまう。ギンガはすぐに肘打ちを後ろに叩き込んでガザートをひるませ、そのまま引きはがした。

距離を取って態勢を整えようとしても、今のガザートの噛みつきのせいで、左肩が酷い有様だった。噛まれた痕が痛々しく刻み込まれている。

しかもそれだけじゃない。

(ち…力が抜けていく…!?)

傷口を元に、ギンガの体中に強い痺れが走り始めた。

ガザートの元になったアラガミ、ザイゴート堕天種(雷属性)の能力。その毒ガスはじわじわとダメージを与えていく通常のザイゴートの毒ガスと異なり、こちらは攻撃力を下げてしまう。さきほど噛まれた時に、奴の牙から毒を流し込まれていたのだ。

『ははははは!そうだ、やはりお前たちはそうなんだよウルトラマン!人質同然の身の弱い人間など見捨てて攻勢を保ってさえいれば、私を倒すことなど容易かっただろうに!

そんなだから貴様らは相も変わらず愚かなのだよ!そうやってお人よしなところを改善しないから不利になる!』

そのまま一方的に、メザイゴートはガザートと共に、傷の痛みで攻撃に対応できなかったギンガを殴り、蹴り、電撃の雨を浴びせ、蹂躙していった。しかも卑劣にも、大車たちはガザートに噛まれたギンガの傷を何度も狙って攻撃し、さらに徹底して痛めつけていく。

「グハ!!ク!!ウワアアアアアアア!!」

ギンガが電撃波を受けて吹っ飛んだところで、大車はメザイゴートの中から彼を引き続き罵倒した。

『思えばこの世界…アラガミによって支配されたこの世界に対してもだ!わざわざ貴様らがいつも通り救いの手を差し伸べなくとも、この地球は真なる救済を静かに待つのみだった!それを己の自己顕示欲を満たすかのように、相変わらず出しゃばってヒーローごっこに浸る!

全く持ってエゴに満ちた愚かさ、野蛮で…虫唾が走る!!』

「く…」

再度立ち上がったギンガは反撃しようと思ってメザイゴートたちに攻撃を繰り出そうとしたが、そこでギンガはアリサのことを思い出して攻撃を止めてしまう。

「く、うぅ…!」

このまま大車を、メザイゴートを倒してしまえばこの世界は消える。アリサを連れ帰ることも可能だ。だが、その代償にアリサは…そしてアリサの無事を祈るリディアは…そう思うと腕に握る力が弱まってしまう。

『安心したまえ…君が死んでもこの世界は本当の意味でいずれ生まれ変われる!君が手を下さずとも、地球は自らの手で再生できる!

弱くて脆いクズな人間も、人の手に余る怪獣や宇宙人さえも飲み込み、地球を蘇らせる最大の自然再生システム…オラクルがもたらす神の救済によってね!!』

「オラクルがもたらす…神の、救済…?」

この男は、何を言い出してきた?意味が分からずどう言うことかを思わず尋ねようとしたが、大車はその問いにまともに答えようとしなかった。

『今から死ぬことになる君がここで知る必要はない。あの世でゆっくりと見物すればいいからな』

ギンガは、大車にものを尋ねようとした自分を恥じた。この男がまともに答える訳がない。傷が増えた体を鞭打つように立ち上がった。しかし、フラフラだ。ガザートの毒で力がうまく入らない。

『ほう、まだ立つというのか?

確かに合成神獣にライブし、二体も用意しても、憎たらしいことに君は私より遥かに強い。だが、アリサという究極の人柱がいる以上、私の勝利は確定していたのだよ!現に君は我々の攻撃で蹂躙され、毒の影響もあって満身創痍だ』

体の痛みや毒による虚脱感はどうでもいい。それよりもアリサのことだ。アリサは、人質の状態。もし奴を倒して元の世界に戻っても、例え生き残れても…。心が壊れてしまったら、たとえギンガの技の一つ、〈ギンガコンフォート〉でもどうにも出来ない。あの技はあくまで闇の力を浄化する技だ。闇の力で心をかき乱されたならまだしも、闇の力と無縁の形でめちゃくちゃに壊れた人の心を癒す技ではない。そもそもアリサは、アラガミに大事な人たちを食われ、現実そのものを拒絶したのだ。

どうすればいい。どうすればアリサの心を壊すことなく、この男とその駒の合成神獣を倒せる?

目の前にいるメザイゴートとガザートを睨みながら、ギンガは考える。だがいくら考えてもアリサを救い、大車を撃退する手段が浮かばなかった。

 

 

―――――ウルトラマン、そいつの言葉に乗っちゃダメ!

 

 

その時だった。ユウの頭の中に、また誰かの声が聞こえた。当然ギンガやタロウの声ではない。この空間に突入した時に聞いた女の子の声だ。

何者かはわからない。この状況だからか姿もすぐに確認できない。でも…不思議と悪意を感じなかった。

 

『でも…奴らを倒せばこの幻想世界が消えて、アリサはまたあの残酷な記憶を呼び覚まして…』

 

―――――躊躇わなくていい!このままそいつの言いなりになって殺されたら、本当にアリサを助けられなくなる!

 

『だったらどうすればいいんだ?僕にはこれ以上の手が…』

 

―――――あたしに、アリサと話をさせて!あたしの言葉なら、絶対にあの子は無視できないから!

 

 

(君は………いや、待てよ…まさか、君は…!?)

 

 

『何をぶつぶつ言っている?それより、もう時間がないのではないか?』

大車の声でギンガは我に帰る。大車が指摘した通り、胸のカラータイマーが点滅を始めていた。

『このまま放置しても私の勝ちだが、それでは私の気が済まない。君には徹底的に痛め付け、屈辱的な敗北を味会わせてから殺すと決めていた。

ガザート、私と共に奴を半殺しにしろ!』

ガザートが大車の命令を受けて、メザイゴートと共に全身からこれまでにないほどの電撃をほとばしらせていく。今度はもう二度と抵抗できないようにするまでぼろぼろにするつもりだ。もうそうなってしまえば、ギンガに勝ち目がなくなり、同時にユウはアリサを連れ戻すことができないままこの世界で死ぬことを意味する。

大車は確信していた。もうこいつに勝てる要素などない。死した人間にすがり続けるアリサという人柱がいる。彼女の心が無事で済ませる状態でないと奴が満足しないことも察していた。

(こいつに最期に与える屈辱…そうだな…奴の変身が解けたところで、アリサをあいつの目の前で…)

とてつもなく、それも闇のエージェントたちでさえ引くほどの下種な手段を用いようとたくらみ始めた大車。

 

だが…

 

「オオオオオオオオオ…」

全身のクリスタルを紫に光らせ、ギンガの頭のクリスタルから光線をバリアに向けて放った。

〈ギンガスラッシュ!〉

「ディヤ!」

ギンガの光線はバリアに直撃した。しかし、毒によって力がうまく入らないせいか、直ぐに砕ける気配が見られない。

『馬鹿な…バリアを攻撃しただと!』

メザイゴートの中で大車は唖然とした。こいつは、さっきまでアリサの心を砕かれるのをあんなに躊躇っていたのに!?

バリアはまだ砕けない。だがギンガは、ユウは光線を止めなかった。アリサはこれまで何度も悲劇の中に放り込まれて苦しんできた。心を閉ざしてしまうのも無理はない。でも、彼女を思う人がいる。自分もアリサがこれ以上悲しみに溺れるのは嫌だ。こんな残酷な世界の中でも、強く幸せであってほしい。だから…大車のようなゲスのために弄ばれる何てことがあっていいわけがない。

「砕けろオオオオオオオオオオ!!」

力を振り絞って、ギンガはさらに光線の威力を強め…。

 

バリィィィィン!

 

メザイゴートのバリアは粉々に砕け散った。

大車は絶句した。非常になりきれない、だから人柱にしたアリサのために、この小僧が抵抗するわけがないと。だが、こんな思いきりを見せるなんて。

『し、正気か!?お前は救おうとしていた小娘の心がどうなってもよかったとでもいうのか!?』

「………賭けてみたんだよ」

動揺する大車に、立ち上がり、振り返ってきたギンガは言い切った。

「アリサの心を開くには、僕よりも適任の子がいるってね」

『は…?』

意味が分からず、大車は当惑する。その隙にギンガの拳が大車=メザイゴートの顔に叩き込まれた。

『ぶ!?』

「あれだけ僕らを殺したがってたんだ。この程度で済ませないからな…!

ほら、かかって来いよ、変態医師!」

倒れ込んだメザイゴートに向け、ギンガは手招きする。

『こ、このくたばり損ないのクソガキがぁ……!!ぶち殺してくれる!!』

指摘を受けた実力差などどうでもいい。恨みがましく唸りながらギンガと、彼の中にいるユウを睨み付けながら立ち上がった。

ふと、ギンガは自分の足元を見下ろした。

そのとき、アリサを遠くからみ続けていた黒コートの少女が、メザイゴートのバリアの張られていた場所を飛び越え、アリサたちが去っていった方角へ走り出していた。

 

 

 

幻影のオレーシャと両親に連れられ、アリサはギンガやメザイゴートたちから遠く離れた場所にあるコンテナへと誘導させられた。

「ふぅ、ここならあいつも来ないかな」

オレーシャが周囲を見渡し、巨人も怪獣もいないことを確認する。アリサはまだ体が震えていた。親も親友も殺され、その果てに自分が化け物にされ多くの人たちを犠牲にしてしまった記憶が彼女の中でフラッシュバックを繰り返していた。

アリサの父親が、震えて座り込む彼女を見かね、そばにあるコンテナの扉を開く。コンテナだから外の景色を映す窓もなく真っ暗で、遊園地で使われている何かの道具というものもない、空っぽだ。

「さあ、こっちへ」

母親はアリサをなるべく優しく抱き起こすと、アリサをその中へと導いた。

「アリサ、ここに隠れていなさい。私たちはあの化け物たちがいないか見て回ろう」

父親がアリサにそう言い残し、扉を閉めようとする。が、アリサの頭の中にディアウス・ピターに食われた両親の死の記憶が過ぎり、反射的にその扉をつかんで閉めるのを阻んだ。

「い、いや!行かないで…一緒にいて」

寒さに凍えているかのようにぶるぶる震え、両親とオレーシャが去るのを必死で拒んだ。

「仕方ないなぁ…」

やれやれ、そういいながらオレーシャはその願いに答えてアリサのいる倉庫の中へと入る。両親も苦笑しながらアリサの元へ歩み寄った。

「アリサ、大丈夫だよ。あたしがここであんたを守ってあげる」

震えて座り込むアリサの手を、オレーシャは握った。アリサは顔を上げて、オレーシャと両親の顔を見つめる。

「オレーシャ…パパ、ママ…」

「そう、この中にいれば、誰もお前を脅かさない…」

「私たちは、永遠にあなたを愛し続ける…」

アリサの父と母が、アリサの傍らに寄り添う。

「この闇の中こそが、アリサにとっての天国なんだよ」

オレーシャも後ろに回り込み、そっとアリサを抱き締める。アリサの心は満たされていった。

あぁ、幸せだ。もうあんな残酷で悲しいだけの世界なんか要らない。未来もほしくない。ここには私大切な人たちがいる。死ぬこともなく、永遠に共にあり続けてくれる。この人たちさえいれば、もうなにも要らない。

この闇の中に、共に大切な人たちがいるのなら、それで…

 

トントン

 

すると、扉をノックする音が聞こえてきた。

誰?アリサは疑問を抱くが、無視した。両親の死の記憶が消えたわけではないから覚えている。あのクローゼットの隙間から見えた、ピターの餌にされていく両親の最期。それがトラウマとなっている以上、扉を開くことはアリサにとって、この幸せを自らが捨てることだった。

 

トントン

 

無視を決め込むアリサだが、それでも扉をノックする音は止まらない。聞こえないふりを続けようとして、自分を包むオレーシャたちの中へと自ら埋もれていく。

 

ドンドンドン

 

ノックする音が騒がしくなった。アリサは耳を塞いで必死に無視を決め込んだ。開けてはいけない、開けたって何も良いことなんかないのだから。

 

ドンドンドンドンドン!!

 

だがノックする音は次第にうるさくなっていった。今にも扉を壊しそうな勢いだ。

 

止めて!なんで構うの!?私のことなんて放っておいてよ!

もうこんな世界にいたくないの!パパとママ、オレーシャさえいればいいの、なんで邪魔するの!

そんなに私をいじめたいの!!?そんなに私が食べたいの!?いい加減にしてよ!

 

「ああああもう!いい加減にするのはそっちでしょうが!このお馬鹿!!」

 

外から痺れを切らした声がとどろき、ノックなんてものじゃないほどの強い衝撃がコンテナの扉に叩き込まれ、扉はこちらから見てもわかるほどに凹んだ。

アリサは思わず悲鳴を漏らした。鉄の塊さえ凹ませるその強すぎる衝撃は、本当に幻であってほしかった奴らを思い出させた。

「ま、まさか…アラガミ…!?」

「アリサ、おびえなくていい。ここにいれば安全だ」

アリサの父は娘を安心させようと優しい言葉をかける。その言葉で、アリサの心は満たされていく。

 

…はずだった。

 

「あたしの姉妹をたぶらかすなああああああああああああああああ!!!」

 

いつかどこかで聞いたことのある、少女の叫び声が轟くと共に、コンテナの扉がついに破壊された。

現れたのはアラガミでも規格外の合成神獣でもなかった。

深いフード付きの、フェンリルマーク印の黒コートを身にまとった少女だった。

「アリサ、無事!?」

「え…?」

扉が破壊されると共に身をよじらせたアリサは呆けた。こんな怪しげな人物が、なぜ自分の名前を?しかも…アリサは驚くものを目にした。彼女の手には…思いもよらないものが握られていた。

(神機…!?)

小柄な体には不釣り合いの、バスターブレード神機『クレイモア改』。彼女はそれを担いでコンテナの中へと足を踏み入れる。

「アリサに近づかないでちょうだい!」

「あんた、あたしのアリサに何をする気!?」

オレーシャたちがアリサを守ろうと、黒コートの少女に立ちふさがった。すると、黒コートの少女は三人のうち…特にオレーシャを見て深くため息を漏らした。

「あのさぁ…化けるなら、もっとかわいく化けて見せなさいよ!」

怒りをにじませたような怒鳴り声を散らし、彼女は真っ先にオレーシャの顔面を殴り飛ばした。

「貴様ぁ!!」

すかさずアリサの父と母が同時に黒コートの少女を取り押さえようとする。が、その前に少女がバスターブレード神機をぶん回し、アリサの両親をその刀身で殴り飛ばした。

「どっせええええい!!」

少女に吹っ飛ばされた三人は、壁に激突すると同時に、そのまま空気に溶け込むように消滅した。アリサは思わず手を伸ばしたが、消えて行った三人を見て絶望した。

「や…いやぁ!!パパ!ママ!オレーシャ!」

また消された…大切な人たちが!縋るように三人が消えた壁を這い始めたアリサだが、その途端、黒コートの少女がアリサを無理やり立ち上がらせ、自分の顔の方へと向き直させた。

「まっったくこの子は!!相変わらずドつぼにはまっていくんだから!!」

彼女はもう呆れるばかりだと言わんばかりに、フードを取ってその素顔をアリサに見せつけた。

アリサは…目を見開いた。一体どういうことなのか理解するのが追いつけずにいた。

だって、その少女の素顔は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お…オレーシャ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たった今消されたはずの親友、オレーシャだった。

 

「やっと会えたのに、アリサってば酷いわぁ…あんな偽者なんかとごっちゃにするとか、親友として泣きたくなるわ」

「…本当に、オレーシャ…なんですか?」

唖然としたままだった。さっき消された幻影のオレーシャとどこか違うものを感じる。幻影なんかじゃない。本物の彼女だからだろうか。

「当たり前でしょ。こんな美少女、他に誰がいると思ってんの。それに、偽者なんかと違って全部覚えてるから。ロシアでアリサと出会って、みんなと一緒にアラガミと戦ってきたこととか、無茶するあんたを何度もあたしがフォローしたりとか」

「あ…」

「あと、日に日に大きくなってくアリサのおっぱいの感触もね」

「な、何を思い出してるんですか!?ドン引きです!」

「あ、今のあたしの口癖でしょ。いやぁ、口癖を真似られるほど慕われてたなんて照れるなぁ」

人がせっかく感動していたのに一気にそれを台無しにするオレーシャのセクハラ発言にアリサは顔を真っ赤にした。してやったりと言いたげなオレーシャの、詫びれないにやにや顔が憎らしい。

「けどちょっと安心したんだよ。アリサを心配してくれる人が極東にもいたんだから。ほら、あのユウって奴とか。極東に来たときも、あたしたちロシアのチームに来たときと同じ態度だったじゃん。だからずーっと心配だった」

「み、見てたんですか?」

「全部アリサの中から見てたよ。ずっと」

オレーシャはニヤニヤ顔から優しい笑みを浮かべて頷く。本当に懐かしくて太陽のように暖かい笑顔。生きていた頃の彼女と変わりなく、そして懐かしささえ覚える。

そんな彼女の笑顔が…ヴァジュラに半分に食われた時の光景がフラッシュバックした。それに続き父と母がピターに食われた時の光景が、そして大車によってボガールにされ防壁外の人たちをボガールの邪悪な意思に促されるまま、アラガミのように文字通り『食った』時の記憶が蘇った。

「いやあああああああああ!!!」

「ちょ、アリサ!」

「放して!私は…私はああああ!」

またあの地獄のような光景を見せつけられる。過去の悲惨な記憶によってこの世に対する恐怖心が溢れ出てくるあまり、アリサはコンテナの隅の方へと身を寄せようとオレーシャを突き放そうとした。

「やかましぃ!」

「ひゃう!」

オレーシャはそんなアリサを大人しくさせようと、彼女の頭にチョップを入れる。結構痛かったのかアリサは頭を押さえてうずくまる。

「ったく、相変わらず過ぎるでしょ。そういうメンタルの弱すぎるとこ。おちおち死んでなんかいられないっての」

「だって、だって、私のせいで…パパとママに続いて…オレーシャも、リンドウさんやエリックさんも…たくさんの人たちも………私なんかいない方がじゃないですか!向こうの世界ではあの人がいるんだから」

自分の回りで起きた不幸、そして悲しみがアリサの心をかき乱し、涙を落とさせた。しまいには自分の存在さえも否定した。

自分なんかいない方がいい。それを口にしたとき、一瞬オレーシャの目つきが鋭くなった。

「…ユウのこと?」

「そうです、オレーシャも私の中にいたのなら知っているはずです。

あの人が…ウルトラマンだってこと」

「…うん、知ってる」

さっきアリサの中で見ていた。アリサとユウの間で起きた感応現象。それによってユウの記憶を見たアリサがそうであるように、オレーシャもまたユウがウルトラマンギンガであることも知った。

光の勇者に選ばれたユウ。一方で、アリサは邪悪な意思に踊らされてしまい、周囲の人間を傷つけ殺していった哀れな『人形』。だからなのだろう。『自分なんかいない方がいい』と口にしたのは。

「だから、私がいなくなっても…」

「アリサ、それ以上言ったら、あたし怒るよ?」

その先は言わせまいと、オレーシャはアリサの言葉を遮った。

「いない方がいい?ふざけないで。最初からいない方がいい人間なんているわけがないんだ。誰も最初は何も知らない無垢な赤ん坊だった。それを後で悪者になるからって理由で存在を否定していい理由にはならない。寧ろそうならないように考えて、過ちを犯してもそれを正して行けばそれでいいんだよ。

ロシアにいた頃のあんたが、そうだったじゃん?」

そうかもしれない。確かに一度はオレーシャのおかげで、自分は復讐だけで戦う血濡れた道から、光さす道へと戻ることができた。でも…。

「でも…私は結局!!あなたさえも死なせたんですよ……復讐することしか能がなかった私には、ウルトラマンである神薙さんみたいに、誰かのために戦うことなんてできないんです……結局、周りの誰かを傷つけ殺す……アラガミとなんら変わらない化け物なんです……」

どこまでも卑屈で、落ち込み続け、悲しみに溺れて行こうとするアリサ。

オレーシャはついに怒りを露わにして、彼女の顔を強引に自分の方に向けさせ、怖いほどに真剣な目でアリサの視線を突き刺した。

「そのウルトラマンであるユウが、わざわざあんたを助けにここまで来たんだよ!なのにあんたはまたどつぼにはまってく!

あんたがここで彼の手を取らなかったら、今度はあの人が殺されるんだよ!もしそうなったら、今度はリディア姉が、極東の人たちが餌食にされるかもしれない!それでもいいの!?」

「う……」

リディアが、餌食になる。そう聞かされたアリサは強くうろたえた。いいわけがない。そんなこと、何度も大切な人たちを失ってきたアリサからすればとても許せることではなかった。

「あたしはアリサとリディア姉に出会えて、アーサーにダニエラ、ヘルマン…一緒に戦ってきた仲間がいて、すごく幸せだった。最期はあんな形だったけど、それでもあたしは自分が幸せだったって言える。誰にも不幸なんて言わせない。

だから………だから……たとえ誰が何と言おうと、あんた自身が自分の存在を否定しても、あたしはアリサに生きてほしいんだよ!こんな真っ暗な闇の中なんかじゃなくて…どんなに残酷でも、太陽の光が差し込んでくる、あの世界で……!!」

「お、オレーシャ…あなた…」

アリサが、自分を見て急に驚いたように目を見開いている。え?と思ったオレーシャは、その時自分の唇に塩のような味を覚えた。頬に触れて、自分が涙を流していることに気付いた。

アリサには意外だった。オレーシャはいつも笑っていた。へらへらしているともいえるくらいに、笑顔が絶えなかった。アラガミで溢れたあの残酷な世界で戦い続けていても、その笑顔で仲間たちの心に光を灯す…何度もそう思えてきたが、まさに太陽のような少女だった。そんな彼女だが、少なくとも自分の前で涙を見せたことなど一度もなかったため意外に思えてならなかった。

「あたし、あれ…はは……これじゃ、アリサみたいだ…」

「……ふふ…なんですか、それ…それじゃ、私が泣き虫…みたいじゃないですか…」

「実際、泣きまくりだったじゃん…」

「本当に…意地悪な友達です…」

二人はそう言っている内に、泣きながら次第に笑顔が戻り始めた。二人で泣いた分だけ、お互いに笑い合った。

泣き止んだところで、ズシン!とすさまじい音が鳴り響き、二人はそちらの方を振り返った。

ギンガが、二体の合成神獣を相手に苦闘しているところだった。

オレーシャと互いに頷き合い、アリサはギンガの元へすぐに駆け出した。

 

 

 

「ディイアア!」

気合の雄叫びを上げながら、ギンガはメザイゴートとガザートの方へ振り替えるとすぐに攻撃体勢に入り、全身のクリスタルを今度は水色に染め上げた。すると、ギンガの足元から水が噴水のように溢れだし、やがて凍える冷気となってギンガの体にまとわりつく。

彼はガザートに向けて左手を突き出し、その大量の水と冷気を吹雪のように浴びせた。

〈ギンガブリザード!〉

冷気と水を浴びせられ、ガザートの体は足下から凍りついていき、たちまち氷像となった。一瞬の内に凍ったガザートに、ギンガは助走をつけて突撃、力いっぱいのパンチを繰り出し、ガザートを粉々に砕け散らせた。

『ガザートが…!』

「次はお前だ…!アリサの心と人生を弄び、リンドウさんやエリック、たくさんの人々をアリサに殺させた罪を思いしれ!」

ギンガはメザイゴートに指差してきたが、大車は余裕の笑い声をあげた。

『ふ、ふふふふ……た、確かに驚かされたが、それがどうした!今の貴様は、もう残りの時間もエネルギーもないじゃないか!』

 

ピコンピコンピコン…!!

 

指摘を受けたとおり、ギンガのカラータイマーは点滅開始時と比べてもかなり点滅速度が速くなっている。大車の言うとおり、もう変身を維持できる時間も、エネルギーも尽きかけているのだ。

『燃費の悪いウルトラマンと違い、私がライブしている合成神獣は制限時間など存在しない。こうなれば、いくら本来の実力が私以上だとしても、防御に徹底しつづけさえいれば、私の勝利など揺るがないのだ!』

悪知恵に関しては何度もひらめくものだな、とギンガは心の中で悪態をつきながら片膝を着いた。

『なかなか頑張ったようだが、やはり君にアリサを救うことなどできなかった。だが君にはもっと苦しんでもらう。変身が解けたら、二度と私に抵抗できないように、手足をもぎ取らせてもらう。…そうだな、アリサにそれをやらせてあげよう。

君が守ろうとした少女の手でやってもらえるんだ。本望だろう?』

どこまでもクズであり続ける大車。こいつが本当に同じ人間なのかさえもユウは疑い始めた。

もう残りエネルギーがない今、何をどうすれば逆転できるのか。

 

「神薙さん!!」

 

ギンガ…ユウは自分を呼ぶ声を聴いて左の方角を見た。

(アリサ!)

オレーシャに連れられたアリサが、自分の元へと向かってきている。それはメザイゴートの中で大車もまた見ていた。

強く危機感を覚えた。彼女のあの顔…まさか、自分が作り出した幻影のオレーシャと両親を跳ね除けて、ギンガのもとへ向かおうとしているのか!?

(馬鹿な…あの娘にそれだけの心の強さはなかったはず!)

自分の知る限り、アリサは本来孤独におびえ、自分が信じる者に対する依存度が強い。だから付け込むことができた。両親に続いて、オレーシャという親友を失ったことで心をめちゃめちゃになったところで、自分はアリサの壊れた心に寄り添うことで、彼女からの信頼を手に入れ、同時に人形として愛でられるように自分に対する依存を強めさせた。それはもう、大の成人男性が年頃の少女に抱いてはならない…薄汚い欲情を露わにしていると言ってもよかったくらいだ。それを疑いもせずアリサは自分に依存していた。

だが、今の彼女は……明らかに自分ではなく、ギンガを求めて彼の元へと向かっている。

『貴様、アリサは私のものだ!渡さんぞ!!』

ここでアリサを奪われるのはまずい。奪われたら、ギンガに対する人質作戦は完全に効果をなくし、逆転を許してしまうことになる。ならばいっそ…

(アリサもろとも、奴をここで始末してやる!!)

ついに、自分が研究のため、そして欲望のはけ口として手元に置きたがっていたはずのアリサもろとも、ウルトラマンギンガをここで抹殺することに決めた。

メザイゴートの口から、邪悪な黒い雷を纏ったエネルギーが集まっていき……後ほんの数メートル、そこまでたどり着いたアリサに向けてそれを弾丸として放った。

『死ねえええええええ!!』

「キシャアアアア!!!」

闇のエネルギー弾に気付き、ギンガはアリサに向けて手を伸ばした。そして……

 

 

ドガアアアアアン!!!!

 

 

アリサとギンガの手が触れそうになったとき、二人のいた場所が大爆発を起こした。

 




NORN DATABASE

●ギンガブリザード
本作オリジナルのギンガの技の一つ。
全身のクリスタルが水色に光り、水と冷気を纏う。纏った水を相手に浴びせ、直後に冷気で相手のすべてを氷像のように凍てつかせる技。
『ウルトラマンR/B』にて、水属性技がないのに、アグルを差し置いてギンガが水属性扱いとなったため、水の属性技を加えようと思って思いついた。氷だけど。

他にも水属性技や、原作にあった炎属性の技なども加えようか検討中。

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