ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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流星の夜が明けて

オペレーション・メテオライト。エイジス完成のために大量のアラガミのコア…主にヴァジュラのコアを大量に集め、同時に合成神獣自然発生の確率を下げることを目的として発動したこの作戦は、成功という形で終了した。

作戦成功の方を聞いて、エントランスで帰還したアリサを待っていたリディアは、彼女の顔を見た途端、いつものようにぎゅっと彼女を抱きしめた。

「あぁ…アリサちゃん!よかった…!」

今回もまた生き残ってくれたアリサに安心を覚えるリディア。ユウたち同じ第1部隊の仲間たちもまた無事に帰還したのを見て、何も悲しい報せはない。

 

…はずだった。

 

作戦を成功させ、ウルトラマンと共にベヒーモスという強敵を打ち倒したというのに、アリサたち全員の表情が晴れやかなものではなかったことに、リディアは気づいた。

「あの、一体何が…」

「…先生…私…わたし…う、うぅぅ……」

アリサはたまらなくなって彼女の胸の中に顔を埋め、泣いた。

嗚咽する彼女を見て、今回も何か嫌な報せがあり、それで彼らが悲しんでいることをリディアは気づいた。

「ユウさん、お辛いことをお聞きするようですけど…一体何があったんですか?」

「…サクヤさん…」

その理由を、サクヤに明かすように促す。サクヤはリディアにあるものを見せてきた。

赤い輪…ゴッドイーターの証にして偏食因子を制御する腕輪だ。傷がおびただしく付けられ、元から赤い色の上に、生々しい血の跡が刻まれている。

それは……行方不明になったリンドウの腕輪だった。首をはねられたベヒーモスの死体が無数の黒いオラクルとなって消滅した場所に、リンドウの神機と共に発見されたという。

ゴッドイーターの腕輪は、決して取り外すことが許されない。ピターが合成神獣にされる前にリンドウは……誰にとってもそうとしか思えなかった。

 

メテオライト作戦終了と共に、第1部隊によって極東支部に訃報が届いた。

 

 

 

 

フェンリル極東支部第1部隊隊長

 

雨宮リンドウ KIA(殉職)

 

享年26歳

 

最終階級 二階級特進により『大尉』

 

 

 

後日、ヨハネスによる作戦終了の挨拶が行われた。

作戦に参加したすべての、各支部から呼び出しを受けたゴッドイーターたちに向けてヨハネスの演説内容は、作戦に貢献した全ゴッドイーターと技術班、通信班への感謝の言葉の他、今回の作戦前に死を遂げたエリックやリンドウへの哀悼、そして邪な作戦で妨害を図ろうとした大車などの闇のエージェントたちへ糾弾だった。

決して二度とこのような悲劇は起こしてはならない。ヨハネスの言葉に誰もが、次もリンドウと同じような目に合う人たちがいないことを強く願うばかりだった。

 

 

 

リンドウの葬儀も執り行われた。

リンドウは極東支部にて、姉であるツバキやソーマと共に長い期間ゴッドイーターとして才覚を表し、新人ゴッドイーターの生存率も彼のお陰でほぼ確実と言えるほどに高くなり、これまでたくさんの人間をアラガミの脅威から救ってきた、まさに英雄だった。

同時に人格も、この荒れた世界でも明るさと調子の良さを失わず、ふざけることも多いように見えて仲間ゴッドイーターや極東支部内勤務の職員たちにも気軽に話せる親しみやすい男だった。そんな彼の死を、多くの人たちが悼んだ。

そしてその悲しみの矛先に、リンドウの死を招いたきっかけであるアリサに、憎しみを帯びた視線が突き刺さる。

何であの生意気で口先だけの新型女が生きてリンドウさんが…。そんな陰口がどこからか聞こえる。

ユウは彼らの話し声が聞こえて拳を握った。アリサだって被害者だと言うのに。

アリサは、その声を真摯に受け止めるように、決して反論することはなかった。だが自責の念は強く、遺体がないためリンドウの写真だけが飾られた壇の前で献花するアリサは、リンドウの写真を見て堪えきれずに泣き出してしまう。

「リンドウさん…ごめんなさい…ごめんなさい…」

そんな彼女に、リンドウを慕っていたがゆえに視線を鋭くする心無き者がいた。アリサが泣いているのを見て、泣いたってリンドウさんは戻らないんだよ、と寧ろ怒りと悲しみを募らせる。

「アリサ…!」

そんな彼女のもとに、ソーマを除く第1部隊の面々が駆け寄る。リンドウの死でアリサを憎む者たちは、サクヤが涙ながらアリサを慰めていることに驚き、自分たちの怒りの矛先を見失うことになった。

ソーマは、そんな第1部隊の仲間たちを見ようとせず、その目元は前髪の影に隠れて見えなかった。

 

 

やがて、作戦に参加した別の支部のゴッドイーターやフェンリルスタッフたちもそれぞれの支部に戻る日が来た。その中にはリディアも含まれていた。

「もう、行っちゃうんですね。先生」

名残惜しそうに、彼女が乗るヘリの前で、リディアに対してそのようにアリサが言った。

「仕方ないわ。お医者さんの数もこのご時世だから少ないし、私ももっとたくさんの場所を回って、たくさんの人たちの力になりたいから」

リディアも笑みこそ浮かべているが、それはアリサとまた別れなければならないという寂しさを隠すためのものでもあった。

「先生。絶対にまた会いましょう。それまで私も、仲間たちと一緒に頑張っていきますから!」

「うん。でもアリサちゃん、無理はしないでね?」

「わかっています。オレーシャにまたどつかれちゃいますし、ロシア支部の皆にもまた会いたいですから」

相変わらず心配してくるリディアに対して平気だと主張する。死んだ後も、自分の頭にチョップを下しては叱ってくる亡き親友のことを思い出してはにかんだ笑みを浮かべた。

今回の作戦に、ロシア支部からゴッドイーターは派遣されなかった。他のヨーロッパに位置する支部から連れてくる人数分だけで事足りていたこともあるが、それ以上に、まだ少し前まで精神的に不安定なアリサとロシア支部での彼女の同僚が顔を合わせることで、オレーシャとの記憶を呼び起こされて精神面に偏重をさらにきたす危険性が考えられていたからである。だからいつか、アリサはロシア支部で共に戦ったことのある仲間たちにも改めて顔を合わせ、成長した自分を見てもらいたいとも思っていた。

「…ふふ、そうね。アリサちゃんには、もう大事な人がいるもんね」

「なぁ!?だだ、だから私は別にユウの事なんて…!!」

「誰もユウさんのことなんて言ってないわよ?」

うぐ、とアリサは息を詰まらせた。してやられた、と悔しそうに顔を膨らませた。ついなぜかこういう時はユウの名前を口に出してしまう。彼とはまだ会って間もないし、何度も迷惑をかけてきたこともあるから、そんなことあり得るわけないのに…というのが今のアリサの認識である。

「他にもロシア支部のアーサー君たちにも教えちゃおうかしら?アリサちゃんに彼氏ができたって」

「だ…だからやめてくださいよぉぉぉ!それに彼氏じゃありませんからあああぁぁぁ!!」

リディアがユウのことも話すとなると、どうしても勝手に彼氏だと説明してきそうなのが気がかりだ。現に生前のオレーシャみたいに、アリサを弄って遊んでいる。オレーシャならまだしも、普段は優しいリディアまで弄ってきて、彼女にはどうしても勝てないと認識しているアリサは反撃することもできなかった。

「やれやれ…お別れの雰囲気じゃないな」

それと少し離れた場所から見ていたユウは苦笑いを浮かべた。

「いいじゃないか。最後はお互いに笑って、次の再会を祈ってお別れしたいもんだろ」

後ろから自分に向けて声がかかってきて、振り返るとハルオミがそこにいた。

「よう。若人」

「ハルさん、今からお帰りですか?」

「まぁな。タツミの奴とも適当に挨拶済ませてきたし、後は愛する嫁とグラスゴーに戻るだけだ。留守を任せてるギル…後輩にも土産話したいしな。

そういうお前さん一人か?見送りは他にいないの?」

「サクヤさんは今リンドウさんのところですし、ソーマも別件で空いてません。コウタもこの日は家族に会いに行ってて、結局僕とアリサだけなんですよ」

「そうか~。お見送りに綺麗な美女たちを添えたかったところだが、残念だぜ」

「ハルー。またユウ君に変なこと吹き込んでるんじゃないでしょうね」

まるで申し合わせたかのようなタイミングで、ハルオミの妻であるケイトが呆れ笑いを浮かべてやって来た。

「おいおい、ちょっと話をしただけだろ?」

「どうかしらね?さっきも『お見送りに綺麗な美女たちを添えたかったところだが、残念だぜ』…なんて言ってたのはどなたかしら」

どうやら最初から話を聞いていたのだろう。途中から話に加わって来たかのように見えて、実はハルオミのことを常に監視し続けているのではないかと思う。

「ユウ君、この人から変なことまた吹き込まれなかった?何か教えてあげてるつもりのようだけど、この人の言うこと当てにし過ぎたら同じ色に染まっちゃうから気を付けてね?」

「大丈夫ですよ。さすがにこの人ほど欲望に忠実になれませんよ」

「そんな容赦のない言い方されると、お兄さん…悲しいな」

自分と同じ属性に染まりもしないユウを連れない奴だと思いながら、ハルオミは肩をすくめた。特に直る気配がないのか、それともこれはあくまで冗談の範囲内だとわかっているのか、仕方ないわね、とケイトは深いため息を漏らした。

「それはともかく、せっかく極東に来たのに、あまり極東めぐりを楽しめなかったことは残念だわ。一度延期されたこともあって、時間は十分にあったのに。…でも、仕方ないわね」

元々メテオライト作戦のために、別支部から短期間の間だけ派遣されたのだ。それがリンドウの失踪とエリックの死という立て続けの不幸の影響で期間が伸びた。だがこんな形で極東滞在の期間が延びても全く嬉しくなかったし、この状況を利用して極東めぐりを楽しんでも不謹慎でしかないので、結局フリーの時間内はアナグラの中を散策するくらいだった。

「リンドウさんの立場で考えたら、きっとあの人も残念がると思います。そういう人ですから」

「…ああ、だな」

ハルオミはリンドウとも年が近く、幼馴染であるタツミ以外では特に気の合う者同士だ。せっかくの再会のタイミングでこのような形になったことは残念だと思えてならない。

「けどま、あんまし生き残った俺たちがしみったれた顔するわけにもいかねぇ。次も同じようなことがないように、アラガミちゃんたちとのデートに励むとするか」

「言い方は考えてちょうだい」

わざと軽口を叩いて少し重くなりつつあった空気をほぐすハルオミに、ケイトは困ったように笑みを見せ、ユウもそれに乗るように笑みを浮かべた。

「ユウ、また今度に会うは一緒に任務に行こうぜ。そん時に、俺の新たなムーブメントを紹介してやるからよ」

そんな余計なひと言を最後に言い残してハルオミはケイトを連れてヘリに乗る。

こうして、真壁夫妻やリディアたちと、いつか訪れる再会の時まで別れることとなった。

次に会うまで必ず生き残って、それでいてみんなを守れるようになりたい。ユウは彼らの乗ったヘリを見送りながら強く願った。

 

 

 

その頃、サクヤは自室のターミナルを操作しながら独自の調べものに集中していた。リンドウの腕輪を手に入れ、彼が隠していた『置手紙』の中身を確認するためである。ゴッドイーターの腕輪は本人の死後、大概はその持ち主の墓に添えられるのだが、サクヤが「一日だけリンドウと一緒に最期の時間を過ごしたい」という理由で一時的に所持が認められた。当然、リンドウのディスクの中身を見るのに、リンドウの腕輪認証が必要だったのが一番の理由だが、嘘は言ってないつもりだ。

ディスクの中身は、レポートとリストファイル、プロジェクトファイル、プログラム実行ファイルがそれぞれ一つずつ収められていた。

「やっぱり、私に隠して何かしていたのね…」

大車はアリサを利用し、そしてボガールを呼び出してリンドウを殺害した。思い出すと大車への許せない気持ちで、今にもあの男を撃ってやりたい気持ちにさえ駆られてしまいそうだ。

…いけない。冷静にならないと。サクヤは一度深呼吸して頭を冷静にする。思えば、なぜ大車はアリサを洗脳し、ボガールを差し向けるという大掛かりすぎる手口でリンドウを暗殺しようとしたのか。ユウがアリサを再度攫った大車を捕まえたあの後、大車が実はあの宇宙人たちと手を組んでいたことが判明したのは聞いている。しかしリンドウはあくまでゴッドイーターの立場に身を置いていただけで、宇宙人たちにとってもさほど接点がなく、狙われる理由も不透明すぎてわからない。ゴッドイーターの力を削ぐにしても、それだけでは説得力に欠ける。あの宇宙人たちの力は、自分たちゴッドイーターよりも強大なのだから。

このディスクの中身にある何かが、そのカギを握っているのだろうか?

サクヤはまず、レポートファイルを閲覧する。そのファイルに記述されている文書の中に、一つ気になるキーワードを目にした。

 

「…『アーク計画』?」

 

サクヤは画面に見えたその単語を見て目を細めた。

 

 

 

それからまた日が経過していった。

あれからアナグラ内の屋内霊園にリンドウの墓も立てられ、第1部隊は通常任務の後にリンドウの墓で彼にその日の報告を時折語る日を送っていた。

また、ユウはウルトラマンとしての役目も全うしなければならない身でもある。そのため、新たにジャックに変身できるようにもなった時から、ジャックと同じ『ウルトラ兄弟』の一人でもあるタロウから、ジャックの代名詞でもあるウルトラブレスレットの扱い方や用途を予習するようになった。

「…他にも相手の口の中に放り込み、爆弾として暴発させることも可能なんだ」

既に幾度か説明を受けた頃のようだ。タロウからウルトラブレスレットに関する様々な話を聞いて、自分が扱うことが可能になったブレスレットの力に驚きを覚えていた。

「とんでもないな…ブレスレットの、いやウルトラマンたちの科学力ってほぼチートじゃん」

「ちいと?」

「反則技って意味だよ。コウタがよく言ってた」

ユウが口にした言葉の意味が分からず首を傾げたタロウに、そのようにユウは説明した。

「変な言葉ばかり覚えますねコウタは。そんなの覚えるくらいなら、これから戦うかもしれないアラガミのことをもっと学ぶべきだと思うのに」

同席していたアリサがここにいないコウタに対して呆れた様子を見せる。

 

同時刻…コウタの実家。

「へっくし!!」

「お兄ちゃん風邪?ちゃんと休まないと危ないよ?」

「ずず…はは、大丈夫だってノゾミ。この前の戦いでも頑張ったから、別の支部の女の子が俺の事噂してんだろ」

アリサがコウタに対して苦言を口にしていたのと同時に、お決まりのごとくくしゃみをかますコウタ。冗談交じりなのは本人もわかっているかもしれないが、くしゃみの要因が自分に対する苦言などとは、お調子者のコウタにはわかるはずもなかった。

 

「ともあれ、ジャックのおかげで僕たちは一つ、アラガミに対してまた優位に立つことができるようになったってことだね」

「だが油断はできないぞ、ユウ。ウルトラブレスレットは確かに万能武器とも言われていて、ジャック兄さんの持つブレスレットは、我々宇宙警備隊の持つ同様のものでも、特に特注品とされている」

「それなら、寧ろ心配ないんじゃないんですか?」

もうリンドウやエリックのような犠牲を出さずに済むかもしれない。そのように期待を抱いたユウに警告を入れてきたタロウに、一体何が気がかりなのだろうかとアリサが尋ねる。

「ところがそうもいかないんだ。逆にブレスレットは破壊力も高い。使いどころを間違えれば、逆に被害を拡大させてしまいかねない危険性もある。また、敵にコントロールを奪われたりすることもあり得るのだ。事実、私が地球防衛に着任する以前、当時その任務のために地球を守っていたジャック兄さんは、侵略宇宙人にブレスレットをコントロールされ危機に陥ったことさえある。所持者であるウルトラマンにさえ、ブレスレットは十分な威力を持つんだ」

「なるほど……」

自分たちの場合、神機は適合する所持者以外には扱えない特徴がある。それは神機を自由に選べないという不便さがあるが、同時にそれは悪用を防ぐためのセーフティロックともいえるかもしれない。

「しかし今後、ジャック兄さんの力が必要になることは十分に考えられる。今後も君たちの支援に尽力しよう」

「うん、ありがとうタロウ。これからも頼むよ」

「礼を言われるほどの事ではないさ。できれば私も共に戦いたいところなのだがな…」

ユウから感謝を受けるタロウが遠慮しがちに、そして自分が戦うことができない悔しさを口にする。

「タロウ、弱気にならないでくださいよ。あなただってウルトラマンなんですから」

そんなタロウに向けて、アリサが激励をかけてきた。

「それにタロウたちは、いつか地球の人たちがウルトラマンの力に頼らずとも自力で困難を乗り越えることを望んでいた…私がユウとあなたの関係を知って、光の国のことや過去に地球のウルトラマンたちの話とか、色々教えてくれた時にそう言っていたじゃないですか。今がまさにその時だと思うんです。

それは…確かに私はつい最近まで過去のトラウマが原因でみんなに迷惑をかけてきてしまった未熟者なんで偉そうに言うべきじゃないかもしれませんが…だからこそ、指導者であるタロウには毅然としてほしいんです」

傲慢さを持った言葉ではない。一人の戦士として敬意を持つからこその叱咤だった。

「そうだな…アリサ。どうも私は最近、自分だけではどうにもならないことだらけすぎて卑屈になりがちだ。このような隙に奴ら闇のエージェントが漬け込んでくる。気を付けるよ」

そうだ、彼女の言うとおり人形にされた今でも自分はウルトラマンなのだ。戦うことはできないが、自分に代わる誰かを強くなれるように教育することもできる。それが今の自分の戦いなのだと、自分に刻み込んだ。

「…闇のエージェントか」

タロウからその単語を耳にしたとき、ユウの頭にある疑問が浮かんだ。

「そう言えば、僕たちがメテオライト作戦に出てるとき、極東支部にはゴッドイーターはいないはずだよね。いると言えば警備兵の人たちだけど」

「ええ、そのはずです。なにか気になることがあるんですか、ユウ?」

「うん…闇のエージェントたちは、メテオライト作戦の内容も把握していた。でないともうひとつ誘導装置を作り出してなんていない。同時に、僕らが留守の間に合成神獣をけしかけてアナグラを攻め落とすことだってできたはずだ」

「あ…!」

タロウとアリサは目を見開く。思えばそうだ。ユウの言う通り、あの三人の闇のエージェントはこちらの動きをあらかじめ考えていた。リンドウが助けた人々の集落があることも知っていた上で誘導装置をそこに設置し、それに釣られ、アラガミたちメテオライト作戦エリアから外れていけば、いずれ自分たちのうちの誰かが確かめに向かう。当然集落の存在を知るユウが出向く可能性が高かった。その間、警備兵しか守っていない極東支部は手薄。狡猾なあいつらなら何か手を打っていたはずだ。他のエージェントの手で、アナグラを壊滅させる。

だが、あいつらはそれをしなかった。

(どう言うことなんだ…偶然なのかな…?)

すると、ユウ携帯端末にから着信音が鳴る。

連絡してきたのは技術班のリッカからだった。

『ねぇ、ユウ君。ちょっと時間あるかな?もしかして任務で時間ない?』

「いや、今日の任務はないんだ。メテオライト作戦の影響でアラガミの数が減ったみたいで」

『よかった~。君って壁外で暮らしてて、当時は旧時代の機械の修理で生計を立ててたんだよね?なら、今から頼みたいことに興味がわくと思うんだけどいいよね?』

機械弄りか…思えば最近、ゴッドイーターとして働きづめだったからそんな暇もなかなかなかったな、とユウは思い出した。

『実はこの前運用を始めた「メテオールバレット」以外にも、新しく取り入れたものがあるんだ。メテオライト作戦でこっちに赴任してきた別支部の技術班が本部から取り寄せたっていう新しい神機パーツの試験運用に付き合ってほしいの』

「新しい神機のパーツ?」

ユウは少し胸が踊った。久しぶりに機械いじりに携わり、なおかつ神機を強化してゴッドイーターとしても仲間を守りやすくなれるかもしれないという期待がわく。

「わかった。じゃあそっちに向かうよ」

『ありがと、ユウ君。それじゃ整備室で待ってるからね』

ユウはリッカが通信を切ったのを確認し、アリサとタロウの方に向き直った。

「この話は後にしよう。考えても答えが見えないんだから、今できることをした方がいい」

「今からお出掛けなんですか?」

外出の気を出すユウを見て、アリサは立ち上がった。

「リッカから用事頼まれたんだ。新しい神機のパーツでちょっと手伝ってほしいってさ」

「…仲がいいんですね」

「そうかな?まぁ、昔機械いじりで生計立ててたことあるから、それで気が合うのかもね」

「………」

「アリサ、どうかしたの?」

「い、いえ…何でもありません。それじゃあ私、先に出ますから早く行きましょう」

黙り込んだと思って声をかけたら、なぜかアリサは視線を逸らす。彼女が何か言いたいことでもあるのだろうかと思っている内に、彼女は部屋の入口の方に足を運んでいた。

「え?アリサも来るの?」

「私もゴッドイーターとして、リッカさんのいう新しい神機パーツに妙味がありますから。…なんです?私が着いて来るのが不満なんですか?」

なぜか言っている本人が不満そうにユウを睨み付けてくる。

「別にそんなことないけど…なんか妙に機嫌悪いね」

「気のせいです」

そのままぷいっとそっぽを向くと、アリサはそそくさに出て行った。

「…僕、また何か怒らせるようなこと言った?」

助けを求めるようにタロウの方を向くが、タロウは肩をすくめるばかりで何も答えてくれなかった。

 

しかし、アリサ本人も今の自分の態度がよくわかっていなかった。

(はぁ…)

アリサは、自分でも何をやっているんだろう、と思わず天井を見上げる。なぜか何の前触れもなくユウに対して態度がまた冷たくなってしまった。ただ、リッカと楽しげに会話していたユウを見ていると、妙に頭に来るような感覚がある、ということしかわからないでいた。

 

 

さて、先ほどのユウが指摘していた、ユウたちゴッドイーターがメテオライト作戦中の隙を突いて極東支部を攻めてこなかったことについて話をしよう。

実は彼の推測通り、本当ならユウたちがベヒーモスと戦ったあの日、極東支部をもう一人の闇のエージェントが襲撃し、支部を破壊するはずだった。

ゴッドイーターは神機を制御するために偏食因子を定期的に投与しなければならない。極東支部が破壊されたら、その接種が不可能となり、神機に補食される危険が出てしまうため、神機を扱うことができなくなる。しかもそれだけでなく、オラクル細胞に関する重要な医療施設が固められている極東支部が破壊されたら、ゴッドイーターたちの体内のオラクル細胞の制御もできなくなり、いずれアラガミ化して暴走してしまう。ウルトラマンとゴッドイーターの両方に位置するユウを始末する、時間と手間をかけつつも確実な抹殺方法なのだ。

だが、闇のエージェントたちは結局、メテオライト作戦中に極東支部を直接襲うことはなかった。

 

 

 

その驚くべき理由だが、時間はウルトラマンと第1部隊がベヒーモスと交戦中だった頃にさかのぼる。

 

 

 

 

テロリスト星人テイラーは、森に囲まれた集落で待機しているグレイたちとの打ち合わせ通り、ゴッドイーターたちが任務で出ている間の極東支部を襲うために、支部のすぐ近くの廃都市を訪れていた。もう夜に差し掛かろうと、遠くに夕日が見える。

「くっくっく…間抜けなゴッドイーター共は気づいていないだろうな。このテイラー様がいつでも自分たちの巣穴を踏み潰せる場所にいるということに」

テイラーはここにいないゴッドイーターたちを嘲笑った。

さて、ならばさっそくライブするとしよう。テイラーは『主』から与えられたダミースパークを取り出す。

 

だが、予想外の横槍が彼の身に入ってきた。

 

彼の手に握られたダミースパークが、突如どこからか飛んできた光弾に直撃し、木端微塵に砕けてしまう。

「ぬおお!?」

テイラーはもう片方の手に握っていたスパークドールズを、その拍子に放り投げてしまう。宙に投げ出されたスパークドールズは、テイラーの数メートル後ろの人影の足もとに転がり落ちた。

「ちぃ、誰だ!俺の邪魔をしやがったのは!!」

スパークドールズを投げてしまった方角と同じ、ちょうど後ろからさっきの光弾は飛んできていた。邪魔をされて不機嫌になるテイラーは後ろを振り返る。

後ろに立っていたその人影の正体を見て、テイラーは絶句する。

「な…貴様は…!?」

テイラーは見た途端、急に警戒心と危機感が高まり、自慢の剣〈テロリストソード〉を構える。ダミースパークは消されたが、自分は巨大化もできるし、名前の通りライブせずとも戦える。だが、今目の前にいるこいつを相手にするのは危険だと、頭の中で警鐘が鳴る。自分の襲撃が悟られてしまった以上、作戦は失敗だ。ここは一度引いて、『主』や他のエージェントたちに報告しなければ。

テイラーは左手から弾丸〈テロファイヤー〉を、現れた謎の戦士の足元に向けて撃った。とにかく撃ちまくり、土煙を濃く立ち込めさせる。

これで奴も相手に姿を黙視できまい。今のうちに…と思い、テイラーは作戦を中止して逃亡と図ろうとした…その時だった。

土煙の中から放たれた金色の光線がテイラーを襲った。

「な!?くぅ!」

テイラーはテロリストソードを盾がわりにして光線を防御する。だが自慢のテロリストソードはしばし光線に耐えたものの、土煙の中の戦士の気合いの声が響くと同時に威力を増し、無惨に砕け散ってテイラーに直撃した。

「ドォリャア!!!」

「ぎゃあああああああああああ!!!」

光線を浴びせられ、テロリスト星人テイラーは、作戦を成功させることなく、呆気なく木端微塵に砕け散った。

「…」

土煙から姿を現した戦士は、地面に転がっていたスパークドールズを拾い上げた。

 

夕日も沈み、闇夜が次第に濃くなった闇の中、

 

 

 

 

彼の体に散りばめられた『V字型のクリスタル』が金色の輝きを放ち続けていた。

 

 

 

 

後にユウたちは出会う。

 

 

 

この、もう一人のウルトラマンと。

 


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