ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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盆休み中だから人の目は多いはずということで…

ゴッドイーター無印のメインヒロインと言えるあの子がようやく登場!もうめちゃ長かった…ここまで来るのに

ほんの少ししかアレンジを加えてないのでほぼ原作通りです。



アラガミの少女

「探してほしいものがあるんだ」

「探してほしいもの、ですか?」

ヨハネスから吹く体調就任の祝辞を頂き、リンドウの特務も受け継いでから数日のある日、サカキから呼び出されたユウはサカキから突如頼みごとの相談を受けた。

「支部長から頼まれていた特務の一つなんだが、とあるアラガミを見つけてほしいんだ。ソーマにも以前から同じようなお願いをしていてね。いつでも任務に出られるように準備をしておいてほしい」

支部長からの特務。そう聞いて気が引き締まった。貴重かつ莫大な報酬を支部長権限でいられる代わりに、かなりの高難易度とされている特務。場合によってはギンガに変身しなければ生き残れないようなものかもしれない。

「了解しました。……あの、博士」

「何かな?」

「…顔が近いです」

そのとき、まるでユウに断らせないように念を押すように、サカキが視界いっぱいに入り込むくらいに自分の顔をユウの顔に近づけていた。

「おっと、すまないね。無意識のうちだった。とにかく、よろしく頼んだよ?」

「だから近いですって…」

何を考えているのか読みづらいその笑みが、超至近距離である分だけ妙にプレッシャーを感じさせられた。

 

 

 

小さな褐色肌の少年が、真っ黒な刀身の大剣…神機を持たされていた。

そこは、ゴッドイーターたちが己を鍛えるために用意された訓練スペース。その部屋の広さは、旧時代の体育館にも匹敵するほどの広い床と高い天井を誇る。ただ、体育館などと違い、銃弾の跡や切り傷など、生々しい傷が天井や床・壁に刻み込まれていた。

しかしその日、少年が刻み込んだものはもっと深い亀裂だった。

あまりにも強力な一撃を訓練で放ったためか、近くで彼の力を測定するように付き添っていた研究員たちも衝撃の煽りを受けて負傷していた。

研究員たちを傷つけてしまった。少年はやりすぎてしまったこと、故意ではなかったことを伝えようとしたが…次に研究員たちが口にしたのは…

『ば、化け物!!!』

『!?』

少年は、研究員たちに伸ばそうとした手を引っ込めた。自分をアラガミと同じ、怪物として見なしていることを彼らの目を見て悟った。

認めたくなかった。自分が化け物だなんて。

二階ほどに見えた窓ガラスの向こうのフロアから見下ろしている父を見て、研究員たちからの畏怖の視線に耐えられない少年は思わず叫ぶ。

『お父さん!僕は人間だよね!?そうだよね!!』

父親に、お前は人間だ。そう言ってほしかった。

だが…

『お前は…すべてのアラガミを滅ぼすために生まれた。

いいな…あれをすべて殲滅しろ』

欲しかったはずの父の愛情に満ちた言葉などなく、淡々と使命という名の責任の押しつけを行う父に、自分は道具扱いされている身でしかないことを…気づかされた。

アラガミを…滅ぼせ?

知らない。そんなこと…

俺は…俺がほしかったのは…そんな押し付けられた使命なんかじゃない。

でも、彼はそれを拒めなかった。父と母の願いどおり、自分の力で何かができることがあることもまた知っていた。自分が力を振るうことで、誰かを救い、命を守れるのだと。

でも、自分が守ってこれた人間などほとんどいない。仲間たちは、自分に与えられた危険な任務に同行するたびに死んでいく。長年連れ添ってきてくれたリンドウやエリックさえ帰らぬ人となった。

自分の周囲の誰かが死に絶えるたびに、自分はまた『死神』『化け物』と蔑まれる。

そして現在では…得体のしれない光の巨人どもに役目を食われてしまう始末だ。

『ウルトラマンと違って、役に立たない死神なんざとっとと死ねばいいのによ…』

自分を蔑むゴッドイーターの心無き言葉が頭の中に響く。

自分が両親から与えられ果たすべきだったであろう使命が、ウルトラマンによって果たされる。それに伴い、自分は役立たずの烙印さえ押された。そして、拗ねる暇などないというように、父の言葉も蘇る。

『すべてのアラガミを滅ぼせ。それがお前の母の願いでもあるのだ』

目の前で、ヨハネスと共に、人間と同じサイズのウルトラマンギンガと、新たに現れた第2のウルトラマン…ビクトリーが、これまで自分を死神や化け物などと蔑むゴッドイーターたちが、ソーマを嘲笑ってきた。

 

 

滅ぼせ…滅ぼせ…

 

 

―――煩い…

 

 

仲間を殺す死神が

 

 

――――黙れ

 

 

滅ぼせ!!

 

 

死ねよ!!

 

 

「うるせぇ!!」

「きゃあ!?い、いきなり大声出さないでくださいよ!?」

思わずソーマは喚き散らしながら起き上り、すぐそばにいたアリサを驚かせてしまった。

そこは、鎮魂の廃寺の山門の一室。ゴッドイーターたちが廃寺エリア内の入口としてよく通る場所だ

多量の冷や汗を浴びていたソーマが見たのは、ユウ、コウタ、アリサの三人だった。今の悲鳴は、一番近くにいたアリサのものだったようだ。

任務開始予定時間まで時間がやや空いていたようで、自分は待機している間に寝ていたらしい。

「…悪かった」

「お、やけに素直じゃん?」

素直に謝ってきた意外そうにコウタが目を丸くする。

「ソーマ。うなされていたようだけど悪い夢でも見ていたの?」

「…どうでもいい話だろうが」

身を案じたユウが尋ねると、ソーマは腰を上げて神機を担ぐと、ユウに近づいて耳打ちした。

「忘れてないだろうな?」

「うん。サカキ博士からの仕事だろ?」

ユウは忘れてないから、と一言加えてソーマに答えた。

メテオライト作戦で大量のアラガミを討伐したためか、まだアラガミの数はさほど多くない状態なので任務自体はこれまでと比べていささか楽になっていた。今回自分たちは4人で任務に向かうことになっている。サカキが支部長から頼まれている「特殊なコア反応を持つアラガミを探してほしい」という頼みを、通常任務がてら探している。しかし数回ほどここ数日の間にその仕事をこなそうとしていたが、そもそも姿かたちがどんなものかわからず、とりあえずそのアラガミがいるという周辺の通常のアラガミを討伐するという流れになっていた。

今日も同じだ。ただ、サクヤがこの日別の任務に当たっているため、少し遅れてから合流するとのことだ。

「わかっているならいい」

てっきり忘れていたとでも思っていたのだろうか。自分は寝ていた癖に…などとユウは心の中でごちる。

「…あの、二人で何を話してるんですか?あれを見たとかなにかとか」

アリサが二人でこそこそと喋りあっている二人を見て疑うような視線を向けてくる。

「…は!?もしかしてお前ら…そういう関係!?」

「え、ええ!?」「な…」

爆弾発言をかますコウタに、行きなり何を言い出すんだとユウは声をあげた。アリサもショックのあまりユウと同様に声を上げ、あんまりな誤解にはソーマも絶句する。

「そんなわけないでしょ!ただ…」

「ただ?」

「…まぁ、うまく話せない頼まれごとがあるっていうか…」

何て誤魔化しにもならない言い訳なのか。ユウのしどろもどろな発言に、二人の疑惑は確信的になってしまう。

「怪し過ぎる!!さてはやはり…!」

「ユウ、不潔です!あなたがそんな人だったなんて!信じたくないです!」

「だから違うってばさ!」

「…てめえらいい加減にしろ!さっさと任務を終わらせて帰るぞ!」

4人の騒ぎ声は、その声を聞き付けてアラガミが接近するまで続いた。

「…前途多難だな、これでは」

ユウの服のポケット内で一部始終を聞いていたタロウが、深くため息を漏らした。

 

 

 

「はああああ!!」

廃寺の東側には、満月が美しく輝くポイントがある。第1部隊によってそこへ追い込まれたシユウとヴァジュラが、同時にユウたちを襲ってくる。前衛にはユウとソーマが、後方にはコウタとアリサの二人が前衛二人への援護を行う。

ソーマもヴァジュラを相手に、これまで何度も相手にしてきたこともあってか全く苦戦するそぶりはなかった。ヴァジュラが放ってきた電撃弾を避け、足を狙って神機を振るった。だが、ヴァジュラは思いの外すばしっこく、ソーマの一撃をすぐに避けた。

「っち…」

ソーマは軽く舌打ちし、すぐにヴァジュラを目で追って次の攻撃への態勢に入る。ヴァジュラは咆哮を上げながら、今度は自らがソーマを食らおうと駈け出した。

これまでソーマから嫌な態度ばかりを見せつけられてきたコウタは、内心ではソーマへの援護に不満を抱いていた。だが、仲間を見捨てるような奴にも成り下がりたくない。だから本音では渋々ながらも、ソーマがヴァジュラの攻撃を受けないようにバレットを遠距離から撃ちこみ、援護する。動きを止めたヴァジュラに向け、ソーマは神機でヴァジュラの体に傷を刻み込んだ。

シユウの翼手から放たれる火炎弾を、ユウは装甲を展開してシャットアウト。シユウは急接近してユウを捕食しようと、滑空しながら突進を仕掛ける。それを見てアリサがシユウの頭上を飛び越えながら、空中で華麗に回転切りをする。悲鳴を上げて地面に落下するシユウだが、傷が浅かったのかまだ倒れない。立ち上がろうとしたところへ、アリサとユウは神機を捕食形態に可変し、地面を蹴った。瞬間、捕食形態から車の排気パイプのような部位から空気が噴出。その勢いでさっきのシユウを超える速度の突進を仕掛けた。二人が神機に捕えさせたのは、シユウの翼手。同時にかじりつかれ、そして二人が引っ張り上げたところでシユウは両腕をもぎ取られた。両腕を失い、立ち上がれなくなったシユウはいつでも倒せる。

「コウタ!」

「よっしゃ!!パワーアップ!」

「ソーマ!」

「…ふん」

二人は神機に取り込ませたオラクルでバースト状態に移行、ユウはコウタに向けて、アリサはソーマに向けてシユウから取り込んだオラクルを銃で受け渡す。すると、コウタとソーマがリンクバースト状態に入り、コウタはシユウのオラクルバレット『爆炎連弾』でヴァジュラの顔面を焼き、その皮膚が脆くなったところをソーマが頭上から振りかざしたバスターブレードで真っ二つに叩き斬った。

二体のアラガミは、たやすく彼ら4人の手で沈黙した。

「任務完了、だね」

「はい」

「うっし!今日も生き残れたね」

何事もなく討伐対象を無事倒し、ユウはアリサとコウタの二人にそれぞれハイタッチした。

「キレが良くなってきているじゃないか、アリサ。もうヴァジュラも敵じゃない」

ユウから誉められ、アリサは少し照れ臭そうにしながらも、はにかんだ笑みを浮かべた。

「ユウとタロウが見ていてくれたおかげです」

「タロウ?何、二人の知り合い?」

「あ…!」

しまった!とアリサは思わず口をつぐんだ。ユウと、服に隠れているタロウまでも思わずドキッとしてしまう。うっかりタロウの名前を口にしてしまった。タロウのことがバレたら、ユウの正体も明るみになってしまうかもしれない。コウタはかつての自分と違ってウルトラマンのことを強く信頼しているから、協力的になってくれるかもしれない。でも、アリサはどうしてもコウタに対して不安を抱いていた。様々な面で抜けまくりな彼のことだから、うっかり喋ってしまうかもしれない…ってそれは今の自分だろう!と思わず自分に対して心の中で突っ込んでしまった。

とにかく何か誤魔化さなければ…そう思っていると、ユウが先に口を開いた。

「じ、実はアリサと一緒に外部居住区の人に自主連に付き合ってもらってたんだ」

「そうなの?でもそれなら、訓練スペースでやったらよくない?」

「あそこは…たまに後がつかえることがあるから、その時にね」

「ふーん、でどんな風に訓練してたのさ?」

「そ…そうだなぁ…ジープで追いかけ回されながら足腰を鍛える…とか?」

「…それ、自主連じゃなくて事件じゃねぇの?」

またしどろもどろ誤魔化すユウの言動に、コウタも流石におかしいと思う。

(ユウ、誤魔化すにしても、それはないと思うんですけど…)

アリサもユウに対して、変に嘘をつくのが苦手なのだと認識した。

(…前にセブン兄さんがレオに施した特訓エピソードが地味に響いたか)

誤魔化しの内容を聞いていたタロウはそんなことを考えていた。

「おい、さっさとコアを回収しろ」

しびれをきらしてソーマが早くしろと急かしてくる。自分達が話し込んでる間にすでにヴァジュラのコアを神機に取り込ませたようだ。おっとそうだった…とユウは気を取り直してシユウの死体に神機を向ける。

「待ってもらえるかな」

「皆無事?」

捕食形態に変えようとしたところで、ユウを止める声が聞こえたユウたちが振り替えると、サクヤともう一人、意外な人物が姿を現した。

「サクヤさん…って、サカキ博士!?」

思わず声を上げたのはアリサ。他の三人も驚いた。

なんと、サクヤと共に現れたのはサカキだった。

「なんで博士がここに…サクヤさん、これはどう言うこと?」

「私もまだ詳しくは聞かされてないの。ただ、博士に外へ護衛してくれって言われて…」

コウタから尋ねられたサクヤだが、ちゃんとした理由までは聞かされていないようだ。

「でも、博士の立場から考えて、こんなところへ来るなんて危険すぎます」

アリサの言うとおりだ。神機および極東支部における開発技術の統括者でもある彼が、アナグラを離れてこんな場所に来るなんて、本来ならあり得ないことだし、許されることではない。

「もちろん危険は承知の上さ。だから君たち第1部隊に頼らせてもらうことにしたんだよ」

アリサから指摘を受けたサカキはそのように答えた。

「とにかく、時間がない。説明はあとでするから、一旦シユウのコアはそのままに、隠れてもらえるかい?」

「は、はぁ…」

第1部隊の面々はサカキに言われるまま、近くの石の階段の陰に隠れた。

 

 

 

待つこと2分。壁伝いに一列に並んだ第1部隊+サカキたちは、サカキを先頭に何かを待ち続けた。

「いったい博士は何を待っているんだ…?」

他の仲間たちに見えないようにタロウがポケットから顔を出し、皆に聞こえないようにユウに小声で話しかける。

「わからない。でも、博士が支部長から頼まれた特務と何か関係あるのかも…」

サカキは、ヨハネスからあるアラガミを探してほしい、といっていた。討伐ではなく、あくまで『探す』。それほど危険性の高いアラガミなのだろうかと思ったが、それを頼まれた矢先に支部の外に姿を現して、討伐したアラガミを一度放置して何かが来るのを待たせている。

「来るとしたら、アラガミなんでしょうけど…」

「危険なアラガミかもしれないわ。みんな、いつでも迎撃できるように準備して」

アリサの警戒心に同調し、サクヤがユウたち隊員に戦闘準備を促す。ユウとアリサは銃型へ神機を可変させ、コウタもサクヤと同様に神機のオラクルエネルギーの残量とバレットの装填状況を確認、ソーマは神機を肩に担いでいつでも振り下ろせる態勢に入る。

そんな彼らにサカキが呟く。

「できれば、すぐに神機をぶっ放しちゃうなんてことは避けてほしいけどね…お、来たよ」

サカキがやや興奮気味に視線を、シユウの死体を置いた場所に向けた。

皆が目を向ける。アラガミが来たのか…と思ったら、それはまた意外なものだった。

(…人?)

シユウの死体に近づいてきたのは、一人の人間だった。その姿かたちは、今自分たちが見ている場所から見てもはっきりわかった。背丈と華奢な体つきから見て、年端もいかない、コウタやアリサとも比べると2,3歳ほど幼く見える少女だった。むしゃむしゃ、と何か生々しい音もする。

「みんな、彼女の元へ行こう。くれぐれも驚かせたり、いきなりの攻撃はダメだ」

「…了解しました。みんな、行くわよ」

腑に落ちない気持ちを抱きながらも、サクヤはユウたちに出るように言い、神機を構えながらその少女にゆっくり近づいた。

少女はシユウの死体を漁っていたようで、その体と、服の代わりなのか体にまとっていたボロボロのフェンリルの旗を赤く染めていた。

「オナカ…スイタ…ヨ」

「ひぃ!?」

「コウタ、落ち着いて!」

真っ白な肌を赤く染めているという、あどけなく可憐な顔である分だけグロテスクにも見えたのか、振り返ってきた少女にコウタが思わず銃で撃ちそうになるほど恐怖を抱いた。ユウが思わず制止するが、銃口を向けられているのに少女はきょとんとしながらユウたちを見ている。

ユウは、少女を凝視する。

(あれ…この子、どこかで見たような…)

以前にも見覚えがあるような感覚を抱いた。

ユウはほぼ記憶してないが、実はギンガスパークを手に入れ、初めてウルトラマンとなって戦ったその日、この廃寺屋根の上にこの少女がいたのだ。その少女に一度気を取られ、ギンガスパークが眠っていたこの地へ選ばれし者となるユウが訪れた。まるでこの少女がユウにウルトラマンとなるように導いたようにも思わされる。

「あぁ、よかった。やっと姿を見せてくれて。コア反応自体は私の方で探知できていたけど、メテオライト作戦の巻き添えになってなくてよかったよ。みんなのおかげで居合わせることができた。ありがとう!」

「…いい加減どういうことか説明しろ」

ソーマがサカキに説明を促してきた。

「前々から彼女を探してたんだ。でも、アラガミの反応も多いせいか彼女が中々姿を見せてくれなくてね。なら、メテオライト作戦後でアラガミの数が著しく減っている今の時期に、彼女がいるこの一帯の生き残っているアラガミを根絶やしにさせてもらったんだ。どんな偏食家でも空腹には耐えられないだろう?」

「っち…悪知恵は相変わらず一流だな」

「えっと、博士この子は?」

コウタは何が何だかわからず、きょろきょろとユウたちを見る少女を見ながらサカキに尋ねる。

「そうだね。でも、焦らすようで申し訳ないが、まずはこの子を連れてアナグラに戻ろう」

まだこの場ではうまく説明ができないのだろうか。サカキはまだ詳しいことを明かしてこなかった。だが、わざと話を流そうとしているわけではない。ちゃんと帰還したらその時に明かすのだろう。

サカキは、白い少女の前に立って、手を差し伸べてきた。

「お預けにしてしまってごめんよ。今から美味しいご飯を用意してる場所に案内するから、一緒に来てくれるね?」

少女は首を傾げる。着いて行こうかどうか考えているのだろうか。ふと、彼女の目にソーマの姿が映る。

「…あ?」

なぜか自分を見て笑みを浮かべたことにソーマは困惑する。なんで自分を見て笑ってきやがったのか。

「…イタダキマス!」

それは了解のつもりなのだろう。笑顔を見て少女は会釈して快諾したが、その了解の言葉は食事の際の挨拶だった。

「…イタダキ、マシタ?」

少女は言葉の使い方を間違ったことに気が付いて訂正したが、それもまた正しい使い方ができたものではなかった。

 

 

 

そしてアナグラへ帰還し、サカキの研究ラボラトリへ彼女を連れて行ったところで…ユウたちはその少女の衝撃な事実を明かされた。

 

「「「ええええええええぇぇぇぇぇーーーーーー!!!?」」」

 

絶叫。サカキの明かした衝撃の事実に、全員が声を上げていた。

「あ、あの…博士、今なんと…」

「何度でも言おう。この少女は……

 

アラガミだよ

 

サクヤから尋ねられ、さも当たり前のようにとんでもないことをサカキは復唱した。

なんとその少女は現在の人類の天敵にして…ユウたちゴッドイーターにとって倒さなければならないはずの、

『アラガミ』だったのである。

「ちょ、あぶ!?」

「え、え!?」

コウタとアリサがとっさにその身を手で覆って身構える。今の自分たちはアナグラの中にいるので当然丸腰、その状況で、人の姿とはいえアラガミと同じ部屋にいる。食われる!と思うのも当然だった。

(人間の姿をした、アラガミだなんて…)

(なんということだ…こんなことがあるとは!)

唯一、この部屋の中でアラガミの少女が危害を加えても対処できるのは、ギンガスパークを持つユウと、彼の服に隠れているタロウの二人だ。いざというときに備えて構えるが、サカキが呑気に思われるようなことを言う。

「落ち着きたまえ。この子が君たちを捕食することはないよ」

「な、なんでそんなことが言えるんですか!?」

アリサが信じられないと反論する。そう、アラガミならば人間を食べて当然だ。なのになぜそのような楽天的に決められるのだろうか。

「前にも話したけど、全てのアラガミには『偏食』と言われる特性を有しているのは知ってるよね?」

「アラガミが個体独自に持っている捕食の傾向…私たちの神機の制御にも関わってくる性質の事ですね」

「そうだね。君たち神機使いにとっては常識だ」

「え…知ってた?」

常識だというのに、どうも忘れていたのかそれとも聞いてなかったのか、コウタがユウに尋ねる。

「コウタ…」

ユウはコウタに対して呆れていた。その反応に、コウタは気まずさを覚えた。加えてアリサの「だらしなすぎます」と言わんばかりの冷たい視線が突き刺さって痛い。

この常識『神機を含めたすべてのアラガミには偏食の特性(人間的に言えば好き嫌い)の特性がある』ことは、ユウとアリサは当然だが、コウタもゴッドイーターになりたての頃に義務付けられているサカキからの講習で教わったことだった。偏食の特性を把握し、あのアラガミが何を好み、何を嫌って食べたがらないのか、それを知ることができれば生存率の上昇にもつながる。それを知らないというのは、ゴッドイーターとしてはちょっと致命的なのだ。どうしても長話が苦手なのかコウタは講義中、何度も居眠りしてしまっている。ハマっているアニメ『バガラリー』を遅くまで視聴する悪い癖もあって中々それが治らなかった。

「そんなだから、『相変わらず神機についての基礎知識が欠けてるから、下の者も注意を促すように』って、ツバキ教官がノルン上のあなたのプロフィールに書き込むことになるんですよ」

「今それ言う!?言っちゃう!?」

アリサが明かしたことだが、事実である。ツバキはよほどコウタの集中力の無さを心配しているようだ。しかも、後々に入隊するかもしれない新人たちにも注意を促すように書き記しているとはよほどである。まるで彼女の祖国ロシアの、一昔前の冷たさのようなアリサの厳しいコメントに、コウタは当たり前とはいえショックを受ける。いつしか後輩におバカっぷりを指摘され舐められるかもしれない…という嫌な予感が過った。

サカキはあまりそのやり取りに構わず流すように話を続けた。

「で、この子の偏食傾向だが、より高次のアラガミに対して向けられているようなんだ。つまり、我々は既に食物の範疇に入っていないのだよ」

「にわかには信じられないんですが…」

サクヤが少女を見て呟く。確かに一件、人を食べるようなアラガミには見えないのだが、アラガミと知った以上、どうしてもサカキの言動が本当かわからなくなる。今こそ確かにこちらを食べに襲ってくる、ということはないのだが…。

さらにサカキが説明を続けた。

「よく誤解されがちだが、アラガミは他の生物の特徴を持って発生するのではない。彼らは捕食を通じて凄まじいスピードで学習し、様々な情報を取り入れて適応する…それが驚くべき早さで進化しているように見えるだけなんだ。結果として、ごく短期間に多種多様の可能性が凝縮される。それがアラガミという存在だ」

「つまり、この子は…オラクルが人間の情報を取り入れ続けた結果、人間の少女の姿で誕生した特殊なパターン…ということですか?」

サカキの説明を聞き、一つの予想をユウが口にすると、サカキがうん、と頷いた。

「正解だよ、ユウ君。この子は我々と同じ…『とりあえずの進化の袋小路』に迷い込んだ者…人間に近しい進化をたどったアラガミだよ」

「人間に近い…アラガミだと…!?」

ソーマがそれを聞いて、一番驚いた反応を示した。

「そう、先程彼女の体を少し調べてみたのだが、頭部神経節に相当する部分が、まるで人間の脳のように働いているみたいでね。学習能力もすこぶる高いとみえる。しかも臓器や生殖器官さえあり、いずれもが機能しているんだ。肉体がオラクル細胞で構成されていることを除けば、ほぼ人間そのものだ。実に興味深いね」

肉体的にも、構成しているものがオラクル細胞というだけで、人間とはさほど変わらないなんて…とはいえ、サカキの説明が続く間、まるで親と同伴で公共施設へ来た幼い子供が待合室で待っている間のように、アラガミの少女は床の上でゴロゴロと転がり続けたり寝そべったりしている。

「先生!」

まるで授業を受ける生徒のように、コウタが手を挙げて質問をする。

「なにかな、コウタ君」

「大体の事は分かったっていうか、やっぱりよく分かんなかったけど…こいつのゴハンー!とかイタダキマス!って何なんですかね?」

「ゴハーン!」

「こいつが言うとシャレになんないですけど…!?」

わざとなのかと言いたくなるようなタイミングでご飯と言ってきた少女に、コウタはビビらずにいられなかった。

「さっき言った通り、アラガミは自分と近い形質のものは食べないんだ」

「え?でも、確か…よくよく考えたら、あのピターは…」

アリサが、憎き親の仇でもあるピターのことを思い出す。リンドウが行方不明になったあの時、ピターは同じヴァジュラの亜種であるプリティヴィ・マータを迷うことなく食らい尽くしていた。

「確かに、例のディアウス・ピターのような例外もあるだろう。

だから、さっきみたいに本当にお腹が空いたら、不味かろうと何だろうとガブリッ!…だろうね」

ガブリッ!とサカキが口にした途端、ユウたちは事前に申し合わせていたかのように同じタイミングで後退りした。

「…お願いですから脅かさないでください」

「ごめんごめん。ちょっと怖がらせ過ぎたね」

ユウから睨まれ、サカキはさすがにふざけが過ぎたかなと思い、説明を続けた。

「まあそれは例外さ。アラガミと言う名は彼らの俗称だけど、実際にいくつもの個体が、我々人間がイメージする神々の意匠を取り込んでいる事例が各地で報告されているんだ。一体彼らが、どのように至って神をかたるに至ったのか…実に興味深いじゃないか。そんな中、完全に人間の形をしたその子は、ユウ君が言ったようにさらに貴重なケースのひとつなのさ。

…おっと話が逸れちゃったね。勉強会はこのくらいにしよう。…最後にこれは私と君たち第一部隊だけの秘密にしておいて欲しい。いいね?」

「ですが、教官と支部長には報告しなければ…」

サカキの頼みに対して、サクヤは第1部隊の隊長として報告の義務からそのように主張する。

「サクヤ君」

しかし、それを聞いた瞬間、サカキが穏やかな表情とは裏腹に、こちらを威圧するような雰囲気でサクヤに視線を向けた。

「君は天下に名立たる人類の守護者…ゴッドイーターが、その前線拠点に『秘密裏にアラガミを連れ込んだ』と…そう報告するつもりかい?」

「そ、それは…しかし、一体何のために?」 

そう尋ねられ、いつぞやのユウに対してと同じように、彼はサクヤにドアップで顔を近づけてきた。何が何でも、自らの好奇心のために自分の選択を押し通すつもり、と言うように。

「言っただろう?これは貴重なケースのサンプルなんだ。あくまで観察者としての、私個人の調査研究対象さ。なに心配要らない。この部屋は他の区画と通信インフラやセキュリティは独立させてある。外に漏れることはないさ」

サカキの狐目がわずかに開いて、サクヤに耳打ちする。

「……君だって今個人的にやっている活動に、余計なツッコミは入れられたくないだろう?」

それを聞いたサクヤの目が大きく見開かれた。

(なんで…博士がそのことを…!?)

彼女の頭にめぐるのは、図星を突かれての混乱だった。一体いつ、『自分が密かに行っている事』について知っているのだろうか。

「…わかり、ました」

サクヤに、サカキからの要求を拒むことはできなかった。

(サクヤさん…?)

さっきの二人の小さく一瞬のやり取りをユウは見逃さなかった。あのサクヤが簡単に丸め込まれたのだ。何かサクヤ自身の弱みを掴んでいると見た。

「そう、我々は既に共犯なんだ。覚えておいて欲しいね。まあ、そう言うわけで、彼女とも仲良くしてやって欲しい。ソーマ、君も頼むよ?」

「タノムヨー」

さっそく言葉を覚えたのか、少女もサカキに便乗してソーマに言った。彼に対して、妙に笑顔が多いことにユウは気づいた。

(…もしかしてこの子、ソーマに何かを感じてるのか?)

そしてそれはソーマも気づいた。

 

同じ人間たちからは身勝手な理由で嫌われてるのに、化け物なんかに好かれているという屈辱が募った。

 

「ふざけるな!」

ソーマはサカキに対して声を荒げた。声がやたらと大きく、ユウたちもそうだが、アラガミの少女さえもぎょっとして気圧される。

 

ソーマの脳裏に、父ヨハネスに対して少年時代に言った言葉が蘇る。

 

『お父さん、僕は人間だよね!?』

 

しかし返ってきたのは淡々とした言葉だった。

 

『お前は全てのアラガミを滅ぼすために生まれた。いいな?あれをすべて殲滅しろ』

 

叶うならば、なんてことない人間でありたかった。だが、親の願いを押し付けられ、人ならざる力を持った体を持って生まれた。死神、化け物。何度もそのように蔑まれてきた。人を守る使命、それ自体は大いに結構だ。ソーマ自身も、本心では誰かの死を望むような男ではなかったし、だからこそこの呪われた体を活かしてアラガミへ進んで戦いに挑むこともできたし、リンドウやエリックの死で嘆き悲しんだことも事実だ。同時に、周囲から化け物や死神、父から『アラガミを滅ぼすための存在』としか見られない自分にとって、『自分は人間である』という自己顕示欲を満たせた。

なのに…その矢先に、この少女が…人間の姿をしたアラガミが現れた。自分と少女の境界線が、無いに等しく思える。どこまでも、世界が自分を『化け物』として、『死神』として扱いたがっているようだ。それは人間でありたいと強く願うソーマにとって耐えがたい苦痛だった。

 

「人間の真似事をしようが…化け物は、化け物だ…」

 

少女を拒絶し蔑む言葉のはずが、自分に対するブーメランにもなる。人間でありたいのに、自分でそうだと認めたいのに、そうすることさえもできなくなったソーマは、サカキの言うことに素直に従いたくなかった。

ソーマは、仲間たちからの視線から逃げるように、サカキの研究室から去って行った。

(………)

誰もが沈黙する中、ユウはふと少女を見る。その時の彼女は、寂しそうにソーマの去った扉を見つめていた。

悲しんでいる、と確信した。アラガミでありながら、人間の持つ喜怒哀楽を彼女は持っていた。

 




○NORN DATA BASE
・ホモ疑惑
元ネタはウルトラマンメビウス24話『復活のヤプール』から。劇場版『メビウス&ウルトラ兄弟』で倒されたヤプールが、メビウス=ミライの親友であるアイハラ・リュウ隊員に憑依し、メビウスの戦意を削ごうとした。リュウの姿で、テレパシー越しで挑発するヤプールに対してミライも睨み返しているのだが、傍から見ると男同士が熱い視線で見つめ合っているようにも見えたせいか、他の三人の隊員たちからそのような疑惑をかけられる。しかもリュウが「実は俺たちには誰にも言えない秘密がある」と決定的なことを言ってしまったために仲間たちからドン引きされたとか。意図的ではないにせよ、ヤプールもふざけたジョークをかます奴と言えるかもしれない…。



最後に愚痴…
投稿する度にお気に入り件数がまた減るとやはりへこみますね…

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