ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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ギンガがついにウルトラギャラクシーファイトに参戦!ということで最新話投稿です。思えば今回で久しぶりにルギエルが自我をもっての復活な気がします。


最近執筆が滞り気味…申し訳ないです。でも暁と並行しながら2作品も書いてて、なおかつ向こうの方が苦戦しそうなので、向こうの方の執筆を優先して行ってます。
後、ソーマ戦のエピソードは一通り書き上げてましたが、なんか書き直した方がよさそうな気がしたので、少し手直しする予定です。時間がかかるかもしれませんが…何卒ご了承くださいませ!


忌まわしき過去(後編)

次の日、ユウはサカキの研究室へ、例のディスクを届けに来た。

「ゆう!おはよ!」

「うん、おはよう」

ソーマに拒絶された辛さなど感じさせない明るいテンションで、アラガミの少女がユウに朝の挨拶をしてきた。てっきり落ち込んでいるのではと思ったが、その辺りは思い過ごしだったようだ。この少女は案外メンタル面では結構図太い方なのかもしれない。

「サカキ博士。こちら、落とされましたよ」

ユウはサカキに、彼が落としたあのディスクを手渡した。

「あぁ、よかった。君が拾ってくれていたんだね。ありがとう。

………まさか、中身は見てないよね?」

ディスクの最後のメッセージをリピートするように、サカキが笑みを崩さずに尋ねてきた。本人にそのつもりはなさそうだが、妙なプレッシャーを放ってきているように見える。

「…はい。見ました」

「そうか、見てしまったのか。悪い子だね…と言うところだが君は正直だ。気にしないでおこう」

相変わらず何を考えているのか読めない笑みを浮かべるサカキに、わざと落としたくせに、と心の中で思った。

「…神機とゴッドイーター…それにソーマの誕生の裏に、あんなことがあったんですね」

「…まぁね。私にとって、若い頃の苦い思い出さ。

マーナガルム計画、あれはお世辞にもエレガントとは言えないものだった」

遠い過去を振り返ってか、サカキは少し遠目で語りだした。

 

 

 

同じ頃、極東支部を経って数日経過したヨハネスはヘリでヨーロッパへ向かい続けていた。窓から見える、どこまでも荒廃した大地を見つめていた。

自分達が若かった頃、まだこの地球は人に溢れていた。かつては地球防衛軍宇宙飛行士以外で宇宙へ飛び立てる者は中々いなかった。だが文明の発達に連れて、それ例外での本格的な進出が始まろうとしていた。宇宙開拓を引き受けていた組織『ZAP』の発足もその頃だっただろうか。

だが、それらは夢と消えた。…否、食われたのだ。自分達が見つけた…あの時小さかった細胞によって。

 

アラガミが現れる前、地球上のエネルギーは文明の発達に伴い、枯渇の傾向にあった。

過去に地球が、怪獣の暴威や宇宙人の侵略等、数々の滅亡の危機に立たされたこともあり、それに対抗するための兵器開発と、都市の復興のために人類は膨大な資源とエネルギーを必要とした。だがその結果、度重なる発展と復興のツケとして、エネルギー不足問題が目立ち始めたのである。

新たなエネルギー研究のために、ヨハネス、サカキ、アイーシャの三人は、新たに発見した新細胞を研究していた。それが現在のオラクル細胞である。

オラクル細胞はあらゆる物質を取り込む特性を持っているのは知っての通りだが、その特性故に、時に自ら電力を発するなどの現象を起こすことが可能であることを見つけた彼らは、この細胞をうまく利用できれば、エネルギー枯渇問題を解消、あわよくば既存の資源に代わる無限のエネルギーを得られると見た。

だが…それは夢想でしかないと思わざるを得なくなる事態が発生した。

ある日、地球防衛軍からの報告で、オラクル細胞を持った謎の生物が捕獲されたものの、無機物であるはずの檻を捕食して脱走、周囲に被害を及ぼしたという報告があった。現在でいうアラガミが、すでに姿を現し人類に害を成し始めていたのである。しかも当時の防衛軍の兵器は、怪獣を抹殺できる破壊力を持つあのメテオールでさえ効果をなさないという耳を疑いたくなる事態が起こった。

三人はすぐに、フェンリルから対抗策に関する研究を進めるように要請された。

そんな中、オラクル細胞は、互いに隣り合っているものを捕食しないという習性を見つけたのである。アラガミは現在でも滅多に共食いは行わない。稀にヴァジュラの亜種でありながら、積極的にヴァジュラを捕食するディアウス・ピターのような例外もいるが、今でもその偏食傾向は崩れていない。その研究の果てに、彼らはP73偏食因子を発見する。この細胞を人体への投与がうまくいけば、アラガミに捕食されない人間を作り出せるかもしれなかった。

だが、現在のゴッドイーターたちの肉体に投与されるP53因子と異なり、P73因子は血中への投与が不可能だった。P73因子の影響力が強すぎて、下手に投与すればアラガミ化を引き起こしてしまう。またしても、ヨハネスたちは求める結果以前の問題に差し掛かってしまうことになった。

そこで思いついたのが……胎児段階での投与。

胎児のころは、細胞分裂と自己崩壊が繰り返し盛んに行われている。よって、その段階で胎児に投与すれば、その胎児の肉体が強化され同時にアラガミの捕食されない人間となり、

アラガミ化の影響が出る前に投与したP73因子が細胞の自己崩壊に伴って一緒に消えることになる。

 

そして、その悪魔的発想の発案者であり、自らが被験者となったアイーシャは…

 

『うあああぁぁぁぁぁあ!!』

手術台に寝かされているアイーシャの悲鳴が、防護ガラスの向こう側から響いてくる。周囲で医師たちが細心の注意を払いながら、アイーシャの中からソーマを取り出そうとする中、ヨハネスは悲鳴を聞くたびに胸が果てしなく締め付けられる。サカキが乗り気でなかった気持ちが今になって理解できてきた。たとえ人類の未来のための研究であっても、こんな実験は被験者になっていないヨハネスにとっても苦痛を催すものだった。彼女の病服に隠れた首筋の肌が、オラクルの浸食をうけた影響で不気味に変色している。

『もういい…やめてくれ!アイーシャ!』

思わずそう叫ぶヨハネスだが、それを聞いたアイーシャがヨハネスの方を見て、苦しそうに首を横に振り続けた。ここで実験をやめてはならない。人類の未来を切り開くための必要な実験だと、そして生まれてくるソーマに滅び行く世界を見せたくないという思いが、彼女に実験中止という選択肢を与えなかった。

ヨハネスは、サカキから送られた安産のお守りを握り締め、とにかくアイーシャとソーマの無事を祈り続けた。

結局実験は続けられた。しかし、ソーマが中々彼女の体内から生まれてきてくれなかった。

医師たちは、メスを通して帝王切開という手段でソーマを取り出すことにした。

アイーシャの腹にメスが入った、次の瞬間…

 

悪夢が現実となった。

 

べちゃっ!

 

『うわあ!?』

防弾ガラスが一瞬で黒く塗りつぶされヨハネスのそばにいた研究員たちが悲鳴をあげた。

『なんだ…何が起こったんだ!』

ヨハネスも起きた事態をのみ込めなかった。アイーシャの腹にメスが突き刺さった時、黒くおぞましいスライムのような物が、まるで彼女の体という牢獄から閉じ込められていたところを解放されたかのような…

『アイーシャ!』

妻の名前がよぎった瞬間、彼女の元へ駆けつけようとヨハネスはアイーシャのいる手術室の扉を開こうとした。だがそれを近くの研究員が差し止めた。

『ドクター・シックザール!危険です!迂闊に開けたら…!!』

だがヨハネスが扉を開けるまでもなかった。その扉が、配管が大量の水で内部から破裂するかのように弾け飛び、ヨハネスと研究員も吹き飛ばされてしまった。

『がぁ…!!』

壁に背中を激突させたヨハネスはずり落ちる。体に重いダメージを受け、体をすぐに動かせなかった。

『ぎゃあああああ!!』

その悲鳴を聞いてヨハネスは顔を上げた。さっき自分を止めていた研究員が、アイーシャたちのいる方角からあふれ出た黒いスライムに飲み込まれていたのだ。研究員を捕食したその黒いスライムは、今度はヨハネスの方に向かって迫ってきた。

思わず反射的にヨハネスは安産のお守りを握ったままの手で身を守った。

瞬間、お守りがキィン!と光り輝き、彼を襲ってきた黒いスライムはヨハネス自身に当たることなく、彼の傍らの壁に激突した。

『…!?』

ヨハネスは、自分が助かったことが信じられず呆然とした。ふと自分の握っているお守りに目をやると、破れた袋の中に、金属片のようなものが入っていた。さっき自分がこれを握ったままかざしていたが…

(まさか、こんなものをペイラーが…!?)

ヨハネスは確信を得た。その金属片は、アラガミからの捕食を防ぐためにサカキが作り上げた、現在の『アラガミ装甲壁』のプロトタイプだった。アラガミ防壁は、アラガミが食べるのを嫌がる素材と状態を維持し続けることで、支部内の人々を守る。この時点で、サカキはその原型を完成させ、それがヨハネスの窮地を救ったのだ。

動揺のあまりその場で固まっていたヨハネスだったが、そのとき彼は耳にした。

生まれたばかりの赤子の産声を。

おぎゃあ、おぎゃあと聞こえるその声の主が誰なのかすぐにわかった。

ついに生まれてきたわが子、ソーマだ。すぐにヨハネスはソーマと、そしてアイーシャのもとへ向かった。サカキの装甲壁のプロトタイプを持っているおかげで、近づいても食われずにすんだ彼は手術室へ難なく入ることができた。

しかし、部屋はあまりにも悲惨な状態となっていた。手術の担当医たちは全員…肉片さえ残さず食われていたのだ。残っているものといえば、血と粉々になった数々の器物。もはやすべてが原形をとどめていなかった。

とにかくヨハネスは赤子の声をたどりながら自分の家族を探し続けた。そして、ついに見つけた。アイーシャと同じ褐色肌の、小さくて折れそうな、そして愛らしくも血まみれの赤子…ソーマを。

『ソーマ…!』

すぐにヨハネスはソーマを抱き上げた。ソーマも無事でいてくれた…しかもあの黒いオラクルのスライムに食われずに。実験の目的どおり、アラガミに食われない体質を持った状態で生まれてくれたようだ。

だが、アイーシャの姿がまだ見つからない。彼女が寝かされていた手術台も、粉々に破壊されていた。ヨハネスは嫌な予感がした。

『アイーシャ!僕だ!ヨハンだ!返事をしてくれ!』

荒れ放題の手術室内に向け、ヨハネスはアイーシャを呼ぶ。すると、部屋の奥の瓦礫がカタカタと揺れた。アイーシャか!?そう思って近づいたとき…ヨハネスは残酷な真実を目の当たりにした。

『AAAAAAHHHHHHHHH!!!!』

瓦礫が吹っ飛んだと思いきや、その下に潜んでいた黒いスライムが無数の触手を伸ばし、周りの瓦礫や、どこかに残っている人間の肉片を求めるように暴れだした。だがヨハネスが驚いたのは、その触手が突然現れたことではない。続いて現れた…人型の『何か』に対するものだった。

『あ……あ……』

その人型のものは、シルエットだけを見れば美しく艶かしい肢体といえた。だが実際にヨハネスが見たそれは、美しさも色気も何もない…おぞましいものだった。ゲル状にぶよぶよと膨れ上がった真っ黒の化け物。

愛するアイーシャの…アラガミと化した成れの果てだった。

『そんな…アイーシャ…嘘だ…』

アイーシャだったアラガミが、触手を伸ばしてきた。

『やめてくれアイーシャ!食うなら、僕を食え!ソーマは…ソーマだけは!!』

とっさにソーマをかばうように抱きしめたヨハネスの手の、あのお守りが再び輝き、触手たちが、自らの意思を持って嫌がるように弾かれる。アイーシャは次に、自ら急激に接近してヨハネスとソーマを食らおうとする。だがアラガミ化したアイーシャでも、それに近づくことはできなかった。見えない壁にぶつかったかのようにその場で弾け飛び、やがて…ぐずぐずに溶けて完全に崩れ落ちた。

アイーシャの本体が溶け尽くされた場所には、きれいに輝く青い宝石のようなアラガミのコアが転がっていた。

『アイーシャ………

 

うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

 

 

「実験に参加していたアイーシャ含め、ヨハンとソーマ以外の全員が死亡。

その日を持って、マーナガルム計画は永久凍結したんだ。私が噂等を通してそれを聞いたのは、このビデオメールが来るしばらく前のことだ。一度は決別したとはいえ、アイーシャの死には流石にショックを感じたよ。

それから彼の持つP73偏食因子による身体能力の向上や偏食因子による拒絶反応の減少を研究し、私はより安全な偏食因子を発見した。それが君の体にも投与されているP53偏食因子だ。マーナガルム計画の失敗を元に見つけることになるとは…二人が計画を強行する前になぜ見つけられなかったんだと自分を呪いたくなったよ」

「…」

「ヨハンがはじめてソーマを私に会わせたのは、彼が12歳に、ゴッドイーターになった頃だ。当時ロシアで核融合炉を爆破させて、周辺から集めたアラガミを殲滅する作戦に彼が参加することになったのだが、ソーマから冷たく言われたよ。『余計なことをしやがって』とね。

彼のことだ。こんな生を受けるくらいなら、最初から死んでいたほうがマシだった、と思っているだろうね…」

サカキが、ユウに返却されたディスクを見つめながら、過去を悔いるように当時のことを語った。

アラガミがという異形の怪物によって狂わされた、一つの一家の残酷な過去。もし、オラクル細胞が存在していなかったら、サカキたち三人の研究していたエネルギー枯渇解決問題が解決はしないものの、シックザール一家は明るく平凡な家庭を築けたかもしれない。

「ヨハンはあの事故以来、以前のような情熱を抱くことはなくなった。アラガミを滅ぼす戦士としてソーマを鍛えるようになり、とても当時のアイーシャとヨハンが思い描いた家庭と程遠い状態になった。

ヨハンもそうだが、ソーマも自分が生まれたせいで母親が死んだと思っている。二人とも、アイーシャの死を今でも引きずっている。一緒に戦う仲間も死んでいき、P73偏食因子の恩恵でどんなに深い傷でも死ななければ生き延びれるソーマは一人何度も生き残って、仲間たちから蔑まれ、それが今の彼を作り出してしまった。

私も彼に恨まれても仕方のない人間だ。結局、観測者としてのポリシーにこだわり、ヨハンとアイーシャの強硬姿勢を止められなかったからね…」

彼は自らを『星の観測者』と名乗っている。故に自分以外のことに首を突っ込みすぎない主義を貫いていたが、それが同時に大切な友人たちと失うことになったことへの後悔にも繋がっていた。

きっとソーマがたどった道、そしてヨハネスがたどっている茨の道はどちらの考えている以上のものだろう。自分にとっても、サカキにとっても。

「ソーマがこの子を拒絶するのも、この子の存在が…ソーマのコンプレックスを刺激しているのかもしれないから、ですか?」

「それは間違いないね。これはソーマの前では言えないことだが、アラガミに最も近い肉体を持つソーマと、人間に限りなく近いこの少女はまさに表裏一体。ソーマもそれに気づいて、でも普通の人間でありたいという願望も持っている。あくまで彼は不器用なだけで、本当はかつてのヨハンと同じ、死を恐れる心優しい若者なんだ。だからこそ敢えて、自分の肉体が呪われた体だと思いながらもゴッドイーターとして戦ってこれたんだ」

ユウは、ソーマが他者を拒絶し続け、そしてこの少女も受け入れられない理由をはっきり理解した。この少女を受け入れたら、自分がアラガミであることを認めたことになる…認めたくないのに自分が本当に化け物であるという事実を認めることに恐れを抱いているのだ。

「そういうことだから、というのも変かもしれないが、ソーマのことをあまり悪く考えないであげてほしい。そして、ソーマに気づかせてあげてほしいんだ。自分が、死神でも化け物などではないということを」

…なんだ、生い立ちもこれまでの軌跡も不幸が続いていることこそあれど、同時にソーマは幸福なところもいっぱいあるではないか。サカキもソーマのことを気遣ってくれているようだ。リンドウにエリック、父であるヨハネス、そしてサカキ。もしかしたら気がついてないだけで多くの人たちが、ソーマのことを大事に思っているのかもしれない。

「…はい」

もちろんサカキのその案を受け入れた。そもそも言われずとも、タロウからの教えやエリックとの約束もあるし、そのつもりだった。

「ありがとう。きっとアイーシャも喜ぶはずだ」

サカキはそれを聞いて安心した様子を見せた。

「うーん…」

少女の唸るような声が漏れ出た。

「わかんないけど…そーまに、いやなこと…いった。

そーまにあやまりたい。ちゃんとはなしをしたい」

サカキが明かしたソーマの話を聞いて、まだ一般常識などを身に着けてないものの、それでも彼女なりにソーマを傷つけてしまったことを彼女は理解していた。

「後でソーマに伝えるよ。君が謝りたがっているって。だから心配しないで」

少女の背に合わせて身を屈めると、ユウは少女の頭をなでる。その手の温かみが伝わったのか、少女は頷きながらさっきよりも落ち着いた顔を見せてくれた。

「あ、そうそう。話が切り替わるけど、この後君たち第1部隊に任務が与えられる。私に監督を任せた支部長発注の任務だ」

「任務ですか?」

サカキが次の任務について話を持ちかけてきて、ユウはそれに耳を傾けた。

「ジャンキラーなんだけど、今のところ解析も難しいし、オラクルメテオールの開発やスパークドールズの研究で時間が取れないんだ。だから、数機の大型ヘリでつるした状態で、エイジス島の領内へ一旦輸送し保管することにしたんだ。君たち第1部隊にはその護衛を任せたい。

改めてソーマのこと、頼んだよ」

 

 

 

あの日のお守りは…今でもヨハネスがその手に大事に持っていた。

オラクル細胞…エネルギー枯渇問題がなんだというのだ。あんなものを地球に置くべきではなかった。オラクルが産み出す恩恵など放っておいて、早く危険性について調べるべきだった。そして宇宙船で輸送し、太陽にでも突き落とすなりブラックホールの中にでも放り込んでしまえばよかった。

今でもヨハネスは、内心で当時のことを悔やんだ。あの時そうすれば、今見ている荒廃した景色を現実にすることなくアイーシャたちと今でも…

 

Prrrrrr…

 

自身の通信端末に着信音が鳴り、ヨハネスはそれを手に取った。

『やぁ、兄さん。今は極東を経ったところですか?』

通信を入れてきたのは、自分を兄と呼ぶ何者かだった。だが、ヨハネスは間違い電話だと断じたりはしなかった。ヨハネスには、弟が一人いるのだ。

「…ガーランドか。久しぶりだな。まさかお前がかけてくるとはな。

今、中国支部の領空を抜けるところだ」

肉親との久方ぶりの会話のようだ。少しだけ、ヨハネスの表情が柔らかくなった。

『極東は激戦区。しかも最近は、かなり巨大で強力なアラガミが出ているとも聞いています。さぞ、大変だったことでしょう』

「気遣ってくれて悪いな。だが人類の未来のためだ。そうも言ってられまい」

そうだ、弱音など吐けない。

時は巻き戻ることはない。巻き戻せない。ならば今、自分にできることを、それがたとえどんなに薄汚い手段だとしても、アイーシャと共に生きたこの地球を救わなければならないのだ。

『…義姉さんも、きっとあなたを応援しています。お体にお気をつけて、お帰りください』

「あぁ、しかし本当に珍しいなガーランド。お前がここまで、気遣いとねぎらいの言葉をかけるとは」

『私にも色々ありましたからね。…ええ、色々と』

少し声のトーンが低く感じたヨハネスだが、あまり気にしないでおくことにした。

「とにかく、このままそちらへ戻る。もし力を借りることがあれば、お前にも手伝ってほしい」

『お任せください。地球のためというならば…』

 

 

 

極東支部の外部居住区。

ゴッドイーターや、フェンリルの一般職員になれる者は限られている。故に働くことができずにいる人が多く、フェンリルからの定期的な配給に頼るしかない。しかしその中でも、いつか自分たちの求める未来が訪れることを信じて奮闘する人間もまた存在する。この極東支部の防壁内に迎え入れられたということは、ゴッドイーターか、フェンリル職員として迎え入れられる可能性があるのだから。

外部居住区の中でも古ぼけている一軒家。それを近くの、他の木造建ての家と比べてちょっと立派な作りになっている2階建ての民家から覗き見ていた少女がいた。

藤木ノゾミ。コウタの妹である。コウタに似ながらも、幼い少女らしい愛らしさを持つ女の子だ。兄コウタが話してくれる彼の誇張気味な伝説を大概本当のことのように飲み込み、その分だけ兄を慕う純粋さも備えており、兄とは顔だけでなく、この過酷な世界でも失われない明るい性格もよく似ていた。

そして…ちょっとしたものへの好奇心も似ていた。

彼女は二階の窓から、ボロボロの一軒家を覗き見ていた。

「ノゾミ、あまりよその家を覗くのはよくないわ」

そんな彼女を、一階のリビングから上ってきたコウタと彼女の母親がたしなめてきた。

「だってお母さん、あそこの家変なんだもん」

「変?」

「だってほら。あそこの家の人、朝からずーっとあそこに座ってるんだもん」

ノゾミは覗き見ていた家の方角を指差して言った。その指の先にある家は、窓が開いていて家の中が見えているのだが、他の窓が閉ざされているためか昼間だというのに夜のように真っ暗だった。

「別にどこも変じゃないでしょ?さあ、あまり覗き見ては失礼よ」

母は特に何もなさそうだと言い切り、再び一階へ降りて行った。母からはもう覗くなといわれたが、どうしても好奇心が沸き立つノゾミは再びあの家の中に座り続けている男を観察する。

それはたまたまのことだった。ノゾミはある日、窓の外を見ていたときだった。そのときも今のように、その家の家主と思われる男が真っ暗な家の中でじっと椅子に座り込み続けていた。たまたまじっとしているとか、病気でうまく動けない状態なのだろうと最初は思ったが、少し気になってそれから数時間後、またその男の様子を観察したノゾミだが、驚いたことに、その男は同じ位置に座り続けていた。まるで石像のようにその場から一歩も動いていなかったのだ。…いや、目を放している間にトイレや食事のために動いたはずだ、とも思ったが、それからまた様子を見てみれば、また同じ場所にその男は居座り続けていた。

ノゾミはおかしいと思えてならなかった。特にその男に興味を示さない母は当然信じていない。なら…兄ならば信じてくれるだろうか。

「お兄ちゃんが戻ってきたら、話してみよっかな」

そう決めたノゾミは、母のいる一階へ降りた。

 

 

 

「使命…承知しました。シックザールが捜している特異点の件は別の者に任せ……

 

…我輩は、あのロボットの処理と、第2の巨人について……」

 

 

 

彼女が観察していた怪しい隣人は、他に誰もいないはずなのにひとり誰かへ報告を続けていた。

 

 

 

 

 


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