ULTRAMAN GINGA with GOD EATER 作:???second
「…くそ」
1か月と言う中々長い謹慎を言い渡されてしまい、シュンは不貞腐れて自販機前のベンチに座り込んでいた。
通達がされて早くも3日。しかし謹慎が解けるまでまだ27日もある。
最悪の気分だ。自分たちたちゴッドイーターは、アラガミを倒してなんぼだ。その機会を奪われてしまっては、ただ腕っぷしが強いだけの人間に過ぎない。そんな役に立ちたくても立てない状況に腹が立っていた。
(死神野郎に借りを作っただけでも最悪だってのに!カレルの野郎もジーナもフォローの一つもなしかよ!
つくづく最近は厄日続きだぜ。新型のあいつらが来てから色々おかしくなってやがる!
サクヤさんもツバキ教官もおかしいぜ!あいつらのせいでリンドウさんがいなくなっちまったってのに、あいつらを買い被りやがって!特にツバキ教官なんか、やっぱ引退したゴッドイーターなんかじゃまともな判断なんてできっこねぇんだ。頭ん中が老けこんでやがんだ。あの老兵崩れのゲンの爺と同じで鬼婆だ鬼婆!)
脳内でぐちぐちと逆ギレした悪ガキのような呪詛を並べては無為にイライラを募らせるシュンの頬に、冷たい感触が伝わる。
「うぉ!?」
「よぉ、随分腐ってんなシュン」
顔を上げると、缶ジュースを顔に押し付けてきているタツミの姿があった。
「んだよ、誰かと思ったらお前かよ…」
「お前かよ、はねぇだろ?お前さんが気になったから来てやってんのに」
タツミは缶ジュースを突き出したままシュンの隣に座り込む。
「ツバキ教官からよっぽどしぼられたみたいだな。ゲンさんに逆らうお前でも、あの人だけには逆らえないからな」
「うっせ」
話は既に、ジーナやカレルから聞いていたらしい。それでここへ来たのだろう。シュンはタツミから缶ジュースをぶんとる。
「ったく、散々だったぜ」
「これも全部あいつらのせいだって言いたいのか?」
「…そんなんじゃねぇ」
タツミの先読みを、彼から目を逸らすシュンは口を尖らせながら否定する。
「まだ出さないだけまだマシだけどよ。お前はガキだからな、ついつい他人のせいにしたくなっちまう時もあるだろうさ」
「だから違ーって!ガキ扱いはやめろっての!んだよ、わざわざ来たとかいって、結局お前まで俺が悪いってのか」
「当たり前だ。協力してくれた他の部隊の仲間を、おかしな対抗意識で医務室送りにしたんだからな。ジーナとカレルだってそれが分かってるからお前をフォローしなかった。
お前はガキだけど、完全なバカじゃねぇ。本心じゃ分かってはいるんだろ?『またやらかしちまった』ってよ。
違うか?」
不貞腐れ続けるシュンに、肩をすくめながらタツミは苦笑する。
「…分かったような口ききやがって」
シュンは言葉ではそう言うが、タツミから目を逸らしていた。図星を突かれて、でもそれを認めたくない子供みたいな意地がそうさせていた。
「何年、お前を含めて癖が強いメンバーしかいない防衛班の班長やってると思ってんだ」
タツミはそんなシュンを見てまた笑いながらそう言った。シュンはまた子供扱いされてるようでそれが気に入らなかった。納得がいかない様子のシュンに、「それに」とタツミは言葉を紡いでいく。
「お前、3年前のあの時…マルコが死んで腐って、ジーナまで大怪我させた俺を叱り飛ばしてくれたじゃねぇか」
「…!」
タツミから目を逸らしていたシュンの目が、見開かれた。
3年前…2068年。その年はタツミたち居住区守備担当の第2部隊(この時はまだカノンは入隊していない)と、シュンたちの所属するエイジス守備担当の第3部隊。その二班は『防衛班』として再構成された。タツミはその時に班長、彼と同期にして親友であったマルコ・ドナートはその補佐に任命された。その時から第2,3部隊は互いに顔を否応にも合わせるようになった。
結成当時は、酷いものだった。ブレンダンは生真面目すぎるくらいで問題なし、マルコは減らず口が多かったがタツミとはまた違った意味で皆のまとめ役であった。一方で守銭奴、悪ガキ、戦闘狂。それぞれが特に癖の強い第3部隊とうまく連携できるようになっていったのはマルコの存在も無くしてあり得なかっただろう。
そんなマルコがアラガミの大軍がアナグラを襲った時、シユウに食われそうになった赤子を救うべく、相打ちとなってタツミの前で死んだ。
タツミはその死を悼み、悔いた。マルコが死んだとき、自分もその場にいて、唯一彼を助けることができたのに、気づいた時にはもう遅かった。いや、どれほど早く反応できても、赤子とマルコを同時に救い出せなかったであろうことは、振り返ると分かってしまう。それでもどうにかできたのではと、当時を思うとそう思えてならない。
マルコの死を引きずった結果、ある日再び現れたアラガミの大軍が再襲撃した時、エイジスに戻るはずだったジーナが、自分を気遣ってアナグラに残って共闘してくれた。しかし、自分の理想である『みんなを守れる無敵のゴッドイーター』にはなれないと、マルコの死で絶望していたタツミは、交戦中のサリエルに隙を突かれてしまう。それを庇ってジーナがサリエルのビームに貫かれ生死の境を彷徨うことに。
この事態にシュンは激昂し、タツミを責め立てた。腑抜けるのもいい加減にしろと。
(…んなこともあったな)
シュンも、タツミから当時のことを持ち出され、その時のことを振り返った。素直に口に出すことはなかったが、マルコは悪い奴ではなかった、嫌いではなかった。今の自分たちがいるのはあいつもいたからこそだと、シュンも思っている。
けど、あの時は別段タツミのように隊長らしく立派な口上を並べるつもりもなかった。タツミのあの意気消沈ぶりに腹が立っただけだ。あの時止めようとしてくれたヒバリに怪我も負わせてしまった。
「けど今じゃ、お前が不貞腐れてる。どういう因果かあの時の俺と今のお前は、ある意味同じってことさ」
「…冗談じゃねぇっての」
ますます認めたくないことをすらすらと指摘され、シュンはただそうとだけ言い返した。
あの時のタツミのように、マルコの死という大きすぎる悲しみがあったとはいえ、ただ一つのことを悔いて引きずり続け、目の前の成すべきことから目を逸らして腐り続ける。そんなのは、シュンとて選びたくない未来であった。
悔いたくないから、変に認めたがらない。でもそれは…
「そう、嫌だろ?ダサいし。だからこそ、しないといけねぇことははっきりしてるじゃねぇか」
背を押すように、タツミはシュンの背中を叩く。
「ほら、いつまで腑抜けてんだよシュン。アラガミを叩き切るより、悪いことをした相手に謝ることくらい、ずっと簡単なことじゃねぇか。死ぬこともないんだからよ」
「……分かってんだよ、んなことはとっくに」
次第に落ち着いてきたシュンは、缶ジュースの蓋を開き、それを一気に喉に流し込む。
わかっている。わかってはいるんだ。
新型の二人も、ソーマも、自分よりもずっとできた奴らだと。
今回の件だって、自分が悪かった。
「でも俺にとっちゃ」
けど、自分だって剣術の腕前も自負できるし、戦術もせこいだのなんだのと言われるが、自分なりに堅実に立ち回ってきた。自分はこの極東支部を守り続けて来たゴッドイーターなのだ。
だから認めたくなかった。
新型神機使いという強いアドバンテージ持ちで、自分よりも遥かに短期間で頭角を表したユウを。
自分より以前にゴッドイーターとして戦って来た身で、他の仲間がどれだけ死んでいくほどのどんな危険な任務においても標的を討伐し生きて帰って来たソーマを。
ユウと同じ新型で、実際才能もあって、その癖他の誰よりもムカつくほど偉そうにしていたくせに、一度は心を壊し、リンドウをみすみす死なせたアリサを。
そんなあいつらを買っているツバキたちの考えにも、恨みを抱かないサクヤにも納得がいかない。
「あいつらに頭下げんのは、アラガミをぶっ殺し続けるより面倒なんだよ」
シュンは頭の後ろをポリポリと搔きながら立ち上がる。缶ジュースをゴミ箱へ投げつけ、見事シュートを決め込んで、エレベーターに乗ってこの場を去るのだった。
(やっぱガキだから、変に意固地なんだよなぁ)
タツミは自販機から購入した缶コーヒーを飲みながら、そんなシュンを見送った。
「まぁ、だからこそ単純でもあるし、すぐにどうにかなんだろ。
な?…マルコ」
故にタツミの言葉、ひいてはユウたちのことを受け入れないように見受けられたが…タツミはさして心配はしていなかった。
自分の言葉をすんなり聞き入れるような奴じゃないことは、もうとっくに知っている。同時に、ああいう性格だから、最初の一歩さえ踏み出せばどうとでもなることも知っていた。
タツミは天井を…その先の空を見上げながら、亡き相棒の背中を思い浮かべた。
一方、シュンと同じ部隊であるジーナは、訓練スペースにて射撃訓練を行っていた。
彼女のスナイパー神機は、たった今浮遊していた的を、鋭い一撃で貫いていた。
「かつて地球防衛組織が活用していた武器をオラクル技術で再現したバレット…ふふ、いい弾ね。早くアラガミに撃ちたいわ」
今回使っているバレットは、今までのバレットとは違うものが使われている。
アラガミの脅威で今では忘れられた、怪獣頻出期。メテオールデータ回収任務でユウたちがそれを持ち帰り、サカキ主導の元で可能な限り、当時怪獣や異星人にダメージを与え続けた兵器をオラクル兵器として利用する計画が進められていた。ジーナが今使ったバレットも、その試作品の一つである。
スナイパー神機は銃型神機の中でも貫通性に優れている。普段使っているバレットでも相手によっては大型種に風穴を開けることもできるのだが、訓練用の的は銃型神機パーツで最も威力が高いブラスト神機でも砕けないのだが…ブラスト神機でも傷が付かない的の中央に、ヒビが入り込んでいた。
「ほう…話には聞いていたが、確かに悪くないな。こんなものを、昔の防衛軍の連中は使ってたのか。
…が、一発分の費用が気がかりだな」
手に、新型バレットのリストを眺めているカレルもここにいた。
カレルも、新たに採用されているバレットには興味を示している一方、守銭奴な性格もあって費用が高くなることへの懸念を見せていた。怪獣にダメージを与えるほどの威力の兵器をオラクル技術で再現する。事実、アリサがベヒーモスとの決着時に試作品であるメテオール『オラクルスペシウムバレット』を使用した。不可能ではない…が、それだけ高性能で、ただでさえ資源不足のこの世だ。ほぼ間違いなく開発費用はバカにならない。
リストに上がっているバレットも、資源や費用の不足、加えてオラクル技術による再現の難度の高さが原因でほぼ全部がいまだに開発中扱いだ。
「もし財布の中身が吹き飛ぶような額だったら、いくら高性能でも使えない。奴に貸し付けてる金以上に損だな」
これらのバレットを使用して、レア物、大物のアラガミを倒して一気に稼ぎたいカレルだが、バレットの費用で所持金が持っていかれるようではプラスマイナスゼロだ。
「ふーん」
次の弾丸を打ち込もうと思っていたはずのジーナが、カレルの方を見ていた。視線に気づいてカレルも見返す。
「なんだ」
「いえ、やはりあなたも気になってたんだなって、思っただけよ」
「なんのことだ」
「さあ、なんのことかしらね」
微笑みながらジーナははぐらかす。まるで心情を見透かしたつもりで全てを語られてるようで、カレルは良い気はせず、元から吊り上がっている目が、不満を表すようにさらに鋭くなる。ジーナはそんな視線を見てまたくすりと笑う。
「…」
カレルはそんなジーナの視線に耐えかねたのか、彼女から背を向けて出口へ向かいだす。
「あら、試し撃ちはいいのかしら?」
「お前がとった試し撃ちのデータがあれば十分だ。それに」
カレルはそこで一呼吸分間を置いてから言葉を綴った。
「いつまでもあいつがアホのままじゃ、俺までセットでアホアホコンビなんて言われる。任務に向かわせてもらう」
「あら知ってたのね。そのコンビ名。コメディアンみたいでいいじゃない」
アホアホコンビ、とはコウタが思いついた、カレルとシュンに対するコンビ名だ。もちろん非公認。子供臭さがあからさまで自信過剰なシュンと、守銭奴なカレル。おかげで影からそんなふうに言われている。任務で稼ぐついでに、周囲の自分への評価を改めさせるつもりだ。
「誰がコメディアンだ。心底不服だ。あのバカとセット扱いなんざ…む?」
すると、カレルのポケットから着信音が鳴りだす。鳴り続ける携帯端末を取り出し、相手と連絡を取り始め、そのまま訓練スペースを後にした。
ジーナはふ、と笑みを溢し、再び射撃訓練を続ける。
「あぁ、俺だ。どうした?なに?…それはいらない心配だと言っただろ。お前は自分の仕事に専念しろ。いいか、お前は俺が言った通りにやってみればいい。トラブルが起きてもいないのに、いちいち連絡を入れてくるな。いいな?」
訓練スペースから出たカレルは、相手から相談を受けているようだが、少し揉めているようであった。カレルは面倒臭そうに話を切り捨て、通信を切ってそのまま何処かへと歩いて行った。
二人はシュンのことをあまり心配はしていないようであった。それは決して彼のことをどうでも良いと思っているではなく、長年共に戦って来た仲間だからこその信頼からくるものだった。
どのみちあいつは、元通りになって戻ってくると。
一方、ところ変わってアナグラの医務室。
ユウとソーマはエイジス防衛任務後、ここで入院することとなった。ザイシーモンスから受けた凍傷は、ゴッドイーターの回復力を持ってしても酷かった。
「まるでミイラ男だね」
「うるせぇ、てめえも変わんねぇだろうが」
ユウは、変身時に顔に冷凍波を浴びたことで、顔の半分を包帯で巻かれた。シュンを庇ったソーマも、ユウの軽口の通りミイラ男状態だ。加えて、冷凍ガスで体の熱を奪われた結果、高熱も発症している。
「でもよかったわ。二人とも大事に至らなくて」
「ええ、本当に」
症状は軽くないが、二人とも無事で済んだことに安堵するサクヤとアリサ。
「にしてもシュンの奴、いくら俺たちが気に入らないからって、こんなことになってまでやらかすか普通…」
コウタは、二人の容態を見てひとまず心の余裕ができたところで、今回のシュンの身勝手な行動への怒りが募った。
「私も失態を犯した身ですから、自分のことなら受け流そうとは思ってましたけど、今回のシュンさんは酷いですよ。ユウたちは何も悪くないのにこんなことに…」
アリサも、自分に対する仕打ちならまだしも、ユウとソーマを結果的にこんな目に合わせたシュンの勝手さには頭に来ているようだ。
「なぁ、シオは今どうしてる?」
ソーマがサクヤたちに、シオの様子を尋ねる。
「ソーマが来てないから寂しがってたわよ。あの子、特にソーマに懐いてるから。愛されてるわね」
「うっせ」
からかってきたサクヤに、ソーマは目を逸らしてそっぽを向いた。
そのタイミングで、サクヤの通信端末に着信が入り、サクヤはそれを手に取る。
「それ、新しい通信機ですか?」
ユウはサクヤの端末が、この間まで使っていたものから新調されていることに気づく。
「あ、言われてみりゃ確かに」
コウタもユウの指摘を聞いて目を奪われる。フェンリルのマークを背面に刻み、ちょうど握りやすくなるように形が整っている。以前使っていたものはミリタリー感が残る緑がかった四角い端末だったが、今サクヤが持っているのは、先が丸みを帯びて、より小型化された、カラーリングもオレンジがかったものだ。
「回収したメテオールのデータに、この通信機の元になったものがあって、博士が開発したものよ。まずは隊長格の者からって、新しいものを貰ったの」
そう言いながらサクヤは、新たに配布された通信機『メモリーディスプレイ』の画面を見て、通話してきた相手を確認する。表示された名前は『サカキ』。相手は、たった今話に上げたサカキからのようだ。
「博士から?」
一体どういう要件で連絡してきたのか、とりあえず通話に応じることにするサクヤ。
「はい、こちらサクヤ」
『おぉ〜!さくやだ〜!』
呑気な声と共に、画面いっぱいに真っ白な肌の少女の顔が映る。
「シオちゃん!?」
サカキではなく、まさかのシオの登場に目を丸くするサクヤとユウたち。
『はかせ!はこのなかにさくやがいる~!』
『はは、今回に関しては予想通りの反応だね』
画面内のシオの顔の向こうからサカキの緊張感のない声も聞こえる。サクヤは周囲を一度見渡し、自分たち第1部隊のメンバー以外誰もいないことを確認し、改めて画面内にいるサカキを問い詰める。
「博士何やってるんです!シオのこと他の人に見られたらどうするんですか」
そういった時の声も、医務室の外に漏れないように気を配った、小さめの声量だった。
『なぁに大丈夫だ。今の時間帯、医療班は他の持ち場に出張っていることは把握済みだし、万が一この会話を聞かれても、適当に親戚の子を預かってるって言い訳しておくよ』
「そんな適当な…」
自分から第1部隊全員を、シオという個人的重大機密を隠す共犯に仕立てておきながら、なんとも呑気なことを言ってのけるサカキに、サクヤをはじめ、第1部隊の皆はそれでいいのかと呆れ果てる。
『あまりそう警戒すると、他の者たちから猶更怪しまれやすくなるよ。怪しまれたくのなら、なおのこと何でもないふりをしてしまうのがいいのさ。
それになにより、シオにあまり我慢させ過ぎると、いつぞやみたいに壁を壊してでも逃げてしまうこともあるからね。これくらいのガス抜きは必要だと思ったまでだ。
今回だって、シオもソーマたちの顔を見たいってせがまれたんだよ』
出会って以来は第1部隊の面々とほぼ毎日会っているのだが、今は体調不良で第1部隊がサカキの研究室に来ない日が続いている。ソーマをはじめ、皆と出会うまでは孤独な日々を過ごしていたことを気にしていたシオは皆が中々来ない状況に寂しくなったのだろう。サカキも立場上常に研究室に引きこもってるわけにもいかないので猶更だ。
再びシオが画面の向こうからこちらを覗き込んでくる。
『そーまとゆう、おかおがあかいぞ?どうかしたの?』
「やぁシオ…ちょっと体調不良、…あ、いや、体がだるくて熱くってね」
『しってる!おねつがでたんだな!はかせがこのまえおしえてくれた!ゆうとそーま、つらい?』
ユウが明かした自身の容態を聞いて、シオがそう言った。病気の概念も知識として得たようだ。
「そうだね…頭が常にぼーっとしてて動く気が全然起きないや」
「…大したことねぇ。少し寝ときゃ治る」
『ふたりとも、はやくげんきになるんだぞー!ちゃんとなおさないとえらくないんだからなー!』
『シオもこう言ってるし、二人とも。今はゆっくり養生したまえ。君たち二人は特に無茶をしがちだ。自分たちを労わることも覚えるように。元気になったら、まだまだ君たちには頼みたいことがあるからね?』
シオとサカキの二人から養生するように言われた…のだが、最後の最後で、結局体よく未来のお使いを告知されることとなり、サカキからの通信が切れたところでソーマの口からため息が漏れた。
「休ませる気ねぇだろ、あのおっさん…」
「御尤もねぇ。とはいえ、二人が無茶をしがちなところについては、否定できないわね」
ソーマの愚痴に同意しつつ、サカキの見解ついて一か所だけ肯定するサクヤに、ユウとソーマはばつが悪そうに目を逸らした。それに続くようにアリサも口を開く。
「全くですね。でもシオちゃん、また一つ賢くなりましたね。病気に対する理解もできるなんて」
「アラガミだって病気はするんじゃね?一応生き物ってことだし、俺たちだってバレットやトラップに対アラガミ用のヴェノムを仕込んだりするじゃん。元からなんとなくでもわかってたんじゃね?」
病気の概念を覚えたシオの学習能力の高さに改めて脱帽するアリサなのだが、それについてコウタが揚げ足をとるようなことを言い出す。彼のいう通り、討伐効率化のためもありアラガミに状態異常を引き起こさせることはあり、神機以外の兵器では倒せないアラガミたちが決して健康体を維持できるわけではない証明だ。
「…なんかコウタに言われると屈辱です」
「なんでさ!!?」
「しかも今回は妙に言い返し辛いから相当です」
「だからなんでよ!?俺お前になんかやったの!?ねぇ!?」
コウタの指摘に気付かされた一方、隠しきれない屈辱感を覚えたアリサから言われ放題のコウタは納得がいかずに声を上げるのだった。
医務室から第1部隊の談笑する声が聞こえてくる。シュンは一度そちらに足を運ぼうとした。タツミから、そこで何をすべきか言われた以上、そうするのが筋だと頭では理解しているが、それを実際にするとなると、どうも気が重かった。
そうして医務室の前で右往左往し続けるシュン。
(だああ〜!なにうだうだやってんだよ俺はこんなとこで!これじゃただの変質者じゃねぇか!)
気まずさばかりが勝って帽子の上から頭を掻きむしりながらその場でまごついてしまう。
「あれ、シュンさん?そんなところで何してるんですか?」
「うわ!?」
声をかけられシュンは飛び上がる。振り返ると、バスケットを抱えてきょとんと首を傾げているカノンがいた。
「お、おお脅かすんじゃねぇよカノン!」
「えぇ…ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんですけど…あ、よかったらお菓子どうですか?第1部隊の皆さんにお差し入れに来たんですけど、シュンさんの分もありますよ?」
そう言ってカノンはバスケットの中を見せると、香ばしい香りと共に、シュンの目に籠いっぱいのクッキーが飛び込む。
「じゃあ…一つもらう」
シュンは香りに吊られたこともあってクッキーを早速一つ頬張る。
「うん…やっぱお前の菓子うめぇな」
「えへへ、ありがとうございます」
菓子の出来栄えを褒められてはにかんだ笑みを浮かべるカノン。
「…けど、結局シュンさんは何でここに?医務室にご用事ですか?」
「あ、えっとそれは…」(い、言えねぇ…第1部隊の新型と死神野郎に頭下げに来たけど、ウジウジして医務室に入れもしなかったなんて死んでも言えねえ!ましてやこいつに!)
カノンから、なぜ医務室に入りもせず扉の前で右往左往していたのか問われるも、自身のプライドもあって言えなかった。ましてや誤射率の高い、自分から見てまだまだ格下に捉えている後輩に弱みを曝け出すなどできなかった。そんなシュンの心情など知る由もないカノンはどうしたのだろうかと首を傾げていたが、もしやと思って頭に浮かんだ推測を口に出そうとする。
「あ、もしかしてソーマさんたちに…?」
「お前は気にしなくていいんだよ!俺を気にするより、誤射の一つで減らしとけっての」
「うぅ…それは言わないでくださいぃ…」
話を逸らそうと、カノンの誤射癖を指摘するシュンに、カノンは肩を落とす。
そんな時だった。アナグラ内部全域に、警報が鳴り響き、ヒバリの緊急放送が流れた。
『緊急事態発生!アナグラに向かって2体の合成神獣が接近中!!』
「合成神獣が…」
当然、医務室内の第1部隊にも通達があり、中からアリサたち三人が飛び出してくる。
「あ!お前…!」
シュンの顔を見るやコウタの目が鋭くなる。最初に会った頃からずっと鼻に付く態度で接してきたこともあるが、それ以上にユウとソーマ、二人の仲間を危険に晒したことへの怒りが込み上げていた。
アリサは何も言わない。ユウたちを傷つけられた怒りもあるが、自分も取り返しのつかない過ちを犯しただけに、複雑な胸中だ。
「行きましょう、二人とも、今はいがみ合ってる場合じゃないわ」
リンドウを喪った矢先だ。サクヤとしても、シュンのことは個人的に良く思えないが、アリサのように悔い改めてくれる可能性まで否定する訳にもいかない。サクヤはアリサとコウタを連れて、この場を後にした。
「…」
シュンは、何も言い返せなかった。言い訳する間も無く、彼女たちを乗せたエレベーターの扉を見つめ、やがて俯いた。
「あの、シュンさん」
そんな彼を見かけてカノンが恐る恐る声をかける。彼女も同じ防衛班として、シュンが謹慎処分を下された経緯は聞き及んでいた。
「私まだまだへっぽこですけど、私でもなんとかアラガミと戦えてるのは、防衛班の皆さんがいるからです。でも、誰か一人でもいなかったら、シュンさんもいてくれたから今に至ることもできなかったとも思うんです。だから元気を出してください!私たち皆で防衛班なんですから!」
必死に言葉を紡いでシュンを励まそうとする。特別な言葉なんてものはないが、それでも必死にシュンを思っての言葉だった。
「あ、このお菓子お預けしますね!後でまた作りますから、食べてもいいですよ!」
しかし今は緊急事態ゆえ時間がない自分も行かなければ。クッキーの入った籠を押し付けられた。
カノンもエレベーターに乗って出撃に向かうと、シュンは籠の中いっぱいのクッキーを見つめる。
「あいつにまで心配されるたぁ、俺も落ちたもんだな…」
入隊した頃の彼女の、今以上に下手くそな射撃の腕前はよく覚えている。現在はほんの少し標的に当てることができるようになりつつあるが、あの頃は丸1日訓練に時間をかけても全く的にかすりもしなかった。初日の射撃訓練の時なんて、ダミーアラガミではなく防弾ガラス越しの自分に彼女の撃った弾丸が向かってきてガラスをひび割れさせたりもした。しかも銃型神機の中で一番高威力のブラストだったから、あまりの出来事に魂がちょぴっと抜け出たほどだ。
そんな彼女は問題児のシュンから見ても、世話のかかる後輩に見えていたのだが…
彼女の励ましを受け、押し付けられた籠いっぱいのクッキーに目を落とす。
「…あんがとよ」
シュンも、いつまでもここでじっとしたままではいられなかった。カノンのクッキーをまたひとつ頬張り、エレベーターでエントランスまで降りて行った。