西暦2552年 8月30日 20:00 惑星リーチ
時刻はすでに夜を迎えているはずだった
しかし、空は終わりのないプラズマ爆撃によって赤錆色に濁り不気味な明かりで地表を照らし出している
かつて人類の軍事拠点として栄華を誇った惑星リーチはコヴナントの手によって、ガラスの焦土へと変えられていた
その地獄のような光景の中ノーブル・シックスは押し寄せてくるコヴナント軍と一人で戦っていた
シックスは戦場に転がる海兵隊の遺体から、無造作にM6G拳銃を拾い上げる。流れるような動作でスライドを引くと眼前に肉薄していたグラントの頭部へ正確に銃弾を叩き込んだ
12.7mmの大口径弾が硬質な皮膚を粉砕する
残弾を撃ち切ると、シックスは銃を躊躇なく投げ捨てた。リロードの時間すら惜しい
シックスは背中の磁気マウントからDMRを引き抜き構え、スコープを覗き一瞬の間に、遠方の高台からニードル・ライフルでこちらを狙撃しようとしていたジャッカルの頭部を捉え、その引き金を引いた
乾いた銃声と共にジャッカルの細い首が不自然な方向に弾け飛ぶ
「――っ!」
直後にヘルメットのHUDに表示されているモーショントラッカーがこちらに接近する存在を捉えた
エナジーソードを構えたコヴナントの精鋭であるエリートが咆哮と共に突撃してきた
シックスはエリートが振るう青白い刃を紙一重で避けると先ほど倒したグラントが持っていたプラズマガンを手に取り、トリガーを押し込んで限界までエネルギーをチャージした
放たれた緑色のプラズマ弾がエリートに直撃し、その強固なエネルギーシールドを強制的に圧壊させた
シックスは肩に装備しているコンバットナイフを抜くと、エリートの強靭な顎の下――シールドの消えた無防備な首筋にナイフをSPARTANの超人的な力を乗せて深く突き立てた
紫色の鮮血がヘルメットを汚す。シックスは絶命したエリートの遺体からまだパチパチとプラズマを放つエナジーソードを奪いとった
さらに前方から、別のエリートがこちらへ向けて突進してくる
シックスは左手のDMRで弾丸を浴びせ敵のシールドを強引に剥ぎ取ると、すぐさま右腕を振り抜き、エナジーソードの青白い刃でエリートの頭部をエネルギーシールドごと切り飛ばした
勇猛果敢。まさに歩く兵器。しかし、どれほど超人的な肉体を持とうとも、物理的な限界は確実に迫っていた
ミョルニルアーマーの装甲は至る所が砕け散り、内部の構造が露出している。エネルギーシールドは完全に機能を停止したのかリチャージされる気配がない。ヘルメットのバイザーには蜘蛛の巣のような無数のひびが入り、視界を著しく制限している
周囲を見渡せば、地平線を埋め尽くすほどのコヴナントの精鋭たち
満身創痍となったシックスを見てこれを好機と捉えたのか、複数のエリートたちが勝機を確信したように、エナジーソードを起動して一斉に肉薄してきた
シックスは重く息を吐き出すと、ひび割れて使い物にならなくなったヘルメットのロックを解除して取り外し、ヘルメットを静かに地面に置いた
シックスは地面に転がっていたMA5CアサルトライフルとM6G拳銃を両手で持ち、引き金を引く
銃声がガラスの焦土に響き渡る。向かってくるグラントやエリートを肉片へと変えていくが蓄積した疲労と無数の傷、そして圧倒的な数的不利は覆せない
エナジーソードを持つエリートについに至近距離への接近を許してしまった
シックスは銃床でエリートの顔面を殴りつけ、負けじと抵抗を試みる
しかし、別の方向から放たれたプラズマ弾が彼の脇腹を焼き、ついに体勢を崩して地面へと倒れ込んでしまった
すぐさま起き上がろうとしたが、他のエリートに力ずくで押さえつけられ身動きができない
そしてーー
超高温のプラズマを纏ったエナジーソードの光刃がシックスの胸部装甲を貫き、冷酷にその肉体を突き刺した
「が……はっ……」
激痛の後、急速に体温が奪われていく
視界が急激に狭まり、世界が静寂に包まれていく
(俺も、ここまでか……)
意識が深い闇へと沈んでいくのを感じながら、ノーブル・シックスは惑星リーチの終わりを、そして己の長い任務の終わりを確信した
誇り高き孤狼の命の灯火は激しく燃え盛るリーチの炎の中に、静かに溶けて消えていった。
◇ ◇ ◇
「どこだ...ここは....」
気がつくとシックスは見覚えのない廃墟らしき場所で一人横たわっていた
「俺はエリートに刺されて....」
刺されたはずの胸を確認すると刺された傷も空いているはずのアーマーの穴も何事もなかったように塞がっていた
さらには刺される前に機能を停止していたエネルギーシールドやアーマーとヘルメットの破損も完全に消えていた
生体モニターで自身の体調の診断を行うが結果は良好
所持品を確認するとDMR、M6G拳銃、エリートから奪ったエナジーソード、フラググレネード2個、コンバットナイフと十分な量の弾薬があった
「ひとまず友軍がいるかどうか確かめないとな...」
(友軍がいるかもわからない状況だと補給は見込めない....今は十分な量があるが節約の為に出来る限り銃は使わずに素手かナイフで対処しなとな....)
そう考えたシックスは廃墟から外に出るとそこには謎の黒い結晶のような物とその結晶で体ができているコヴナントとは別の黒い結晶に包まれて斧のようになった標識を持つ巨大な異形の怪物がいた
(なんだこいつは...?)
シックスが怪物を見て警戒を強めたその瞬間、怪物がシックスの存在に気づき斧ような標識を振り上げながらこちらに向かって来た
(何が何だかわからんがとりあえずこいつは敵か)
そう結論づけたシックスは側に落ちていた鉄パイプを拾い戦い始めた
◇ ◇ ◇
「ーー待って前方から戦闘音が聞こえる」
アキラが操るボンプの案内に従いヴィジョンの陰謀を阻止しようと行動していた邪兎屋のメンバーはアンビーの一言によって足を止める
「ちょっとアンビー、気のせいじゃないの? ここはデッドエンドホロウよ。あたしたちとヴィジョン以外に誰がいるっていうのよ」
「いやアンビーの言う通りだ」
ボンプ越しにアキラがニコの疑問に答える
「僕の方でも前方で誰かが戦っているのがわかる。それにこれは.....治安局でも防衛軍でもない...一体誰が戦っているんだ....?それと.....ちょうど前方であの『デッドエンドブッチャー』が激しい戦闘を行っている」
「はぁ!? あのでっかいエーテリアスと真正面からやり合ってるイカれた奴がいるってわけか!?」
そうビリーが叫んだその瞬間
ズドォォォォン!!!
コンクリートが爆破され砕け散ったような、凄まじい衝撃音がホロウに鳴り響く。続いて聞こえてきたのは、あの凶悪なデッドエンドブッチャーの怒りと苦悶を同時に吐き出すような猛々しい咆哮だった
異常な戦闘音を聞いた邪兎屋はその出所を探る為に音の発生源へ向かった。そこで邪兎屋の目に飛び込んだのは常識では考えられないような光景だった
そこには身長2mほどの灰色の装甲服のようなものを着た謎の大男がいた
背中にはライフルを背負い腰にはよく分からない柄のようなものと手榴弾らしき球体の物体、肩にはナイフを装備していた
そして男の右手にはそこら辺で拾ったような鉄パイプと左手には大型の拳銃が握られていた
「オオオオオ!」
ブッチャーが咆哮と共に侵蝕によって巨大な斧へと変貌した道路標識をその巨躯を活かした凄まじい力で大男に向かって振り下ろす
まともに喰らえば装甲車すらも両断されるような一撃
しかし大男はそれを避けようともせず動かない
「危ないッ!」
そうニコが叫んだ瞬間、大男は前に一歩踏み込み右手の鉄パイプを斜めに掲げて斧の軌道を変えて受け流した
キィィィィン! と火花が散り、鉄パイプが激しく軋む
その一瞬の肉薄に乗じ、大男は左手の大型拳銃を至近距離で発砲し大口径の弾丸をブッチャーの顔面に向かって叩き込んだ
凄まじい銃声が鳴り響きブッチャーの顔面のエーテル結晶が激しく飛び散る
(な、何だあの戦闘技術は……!?鉄パイプと銃器を完璧に織り交ぜて戦っている……!)
ボンプ越しにその光景を見たアキラは素人でもわかるような高度な戦闘技術に感嘆の声をあげる
そして何よりも驚いたのはその大男の装甲服の灰色の装甲には傷一つ、塗装の剥げすら見当たらないことだった
(あれほどのエーテリアスを無傷で抑え込んでいるということなのか...!?)
しかし、デッドエンド・ブッチャーの真の脅威はここからだった
大口径弾を顔面に喰らった化け物は、さらに激昂して耳が潰れるような咆哮を上げる
そしてこれまで武器にしていた道路標識の斧を荒々しく地面へ投げ捨てた
直後、ブッチャーの巨躯の肩口からドス黒いエーテル結晶を纏った新たな2本の腕が肩を突き破るようにして現れた
瞬く間に「四本腕」の異形へと変貌を遂げたデッドエンドブッチャー
その凶暴性は先ほどの比ではなかった
四本の腕を激しく振り回し猛獣のような速度で突進してくるブッチャー
大男は手に持っていた鉄パイプをへし折ると破断面が鋭利に尖った鉄パイプを槍投げの要領でブッチャーに向かって投擲した
空気を引き裂く凄まじい風切り音と共に放たれた鉄パイプは正確にブッチャーの肩の関節へと突き刺さりその突進の勢いを強引に削ぎ落とした
突進の勢いが弱くなったブッチャーに対して大男は背中のライフルを手に取り構え、距離を保ちながら正確無比な精密射撃をブッチャーの脚部へ叩き込んだ
だがそれでも突進をやめないブッチャーを見た大男は突進を止めるのは不可能と判断したのかライフルを背中に戻すと腰を落としてどっしりと構え防御体勢をとった
いくらなんでもデッドエンドブッチャーのあの剛腕から繰り出される攻撃はあの大男でも真正面から受け止めるのは不可能だろう
そう思ったニコは声を張り上げる
「ちょっとビリー!アンビー! 助けに入るわよ――」
ニコが飛び出そうとした時さらに信じられないものが視界を染めた
ドンッ!!!
至近距離まで接近したブッチャーが大男に向かって四本腕で猛攻を仕掛けた
そして凄まじい衝突音と共に大男の装甲服が半透明の膜のようなものに包まれていた
大男はその膜に守られたようで無傷だった
「おいおいおい! あいつブッチャーの猛攻をバリアみたいなやつで耐えてるぞ!」
ビリーが二挺のリボルバーを握り締めたまま、興奮と驚愕の混じった声を上げる
バリアのようなものが激しく火花を散らし今にも壊れそうになったその刹那、大男の動きが変わった
猛攻の合間に生まれた一瞬の隙を使い男は腰に付いていた柄のようなものを掴むとその柄から青白い光り輝く刃が形成された
バチチチッ!
暗いホロウ空間に青白い閃光が奔る
そして大男はその光の刃をブッチャーの核に突き立て一直線に貫いた
「グ、ォ……」
自分たちを苦しめるはずだったデッドエンドブッチャーが、悲鳴を上げながらエーテルの霧へと静かに霧散して消えていき広場に静寂が戻った
広場に残ったのはその様子を見ていた邪兎屋とアキラ、そしてデッドエンドブッチャーを仕留めた大男だけだった