王道ロボット戦記小説、血巡る戦場の記憶 作:dwwyakata@2024
大小マゼランに派遣していた侵略者の先遣隊ですが、とんでもない目にあっていました。
勿論、生きて帰る路なんて存在しません。
そうしているうちに、第二の離反者が侵略者から出る事になります。
それが、侵略者にとっては致命的になる事態の始まりでした。
侵略者の指導者は、もう存在しない舌を打ちながら、状況の整理を始めていた。
親衛軍の科学者の見立ては正しかった。既に戦力差は倍以上肉どもと開いている。しかも、技術格差も大きくなり始めている。
ウォーリア戦ではほぼ無敵だった親衛軍ウォーリアも、ついに破れるようになり始めたし。
それどころか結局指導者のスペアの肉体は肉どもに回収され。
多くのデータもろとも持ち去られてしまった。
相手は交渉のチャンネルを切っているが。そもそも指導者に、交渉をする気はない。
戦力を建て直す事は無理だ。
勿論新規で戦力を次々に生産しているが、生産力は敵の方が大きい。
膨大な星系そのものを盾にして、それで時間稼ぎをするしかない。
戦略としてはそれが正しい事は指導者には分かる。
だが。指導者は、宇宙で一番正しい存在だ。
少なくとも指導者はそう考えていた。
そもそも、指導者には最初名前はなかった。
核戦争が終わって、致命的なダメージを受けた侵略者は、あろうことかまた優性思想に走った。
核戦争を起こしてなお、一部の侵略者が殆どの富を独占する体制にはなんの代わりもなかった。
なぜ侵略者なのか。
これは指導者がそう決めたからだ。
全てを侵略して良い存在。
指導者がそう許したもの。
だから侵略者である。
そして、そもそもだ。
元の地球人とか言う名前も、指導者は好ましくないと思っていた。
核で汚染され資源が枯渇しきった地球なんてせせこましい星は、聖地とでもしておけばいい。
そのようなどうでもいい星などに縛られるから駄目なのだ。
だから、全てを侵略していい宇宙で最も優れた種族となればいい。
そう考えての事だった。
昔のことなどどうでもいい。
指導者にとっては、今が最高であり。
そして無限の未来が待っているこの先事が大事だった。
どんな運命も打開できると思っていたし。
自身の可能性は無限だとも思っていた。
そして何よりも。
自身をこの世界の主人公だと自認していた。
主人公には主人公補正があるものだ。
だから10世代以上の技術革新をいとも簡単に成し遂げられたし。爪を隠して成長し、爪が伸びた頃にはあっという間に自分を利用するつもりだった既得権益層を処分することも出来た。
いかなる神話の神よりも優れていると自認しているが。
それも、主人公補正あってのことでもある。
だから、負けることはあり得ない。
既に戦力でも技術でも生産力でも肉に後れを取っているとしても。
必ず、逆転の手がある筈だ。
多数の自分と並列して思考を進めながら、一つずつ戦略を練っていく。
勿論侵略者は徹底的に酷使して、壊れるまで生産を続けさせる。どの領内にあるブラックホールも、掘り尽くす勢いで資源を集めさせた。
それで艦隊を再建していくが。
肉どもの兵力とは、それでも差がつく一方だ。
何か手はないか。
大小マゼランを落としても、国力差が埋まることはない。
自身の肉体が拉致されるという事態で、多少は冷静になった指導者は、それを素直に分析できていた。
だが一方で、宇宙は全て自分のもので、知的生命体は自分だけしかいないという思想からも、もはや逃れられなかった。
指導者が、地球人の歴史で、最も優れた個体であった事は疑いない客観的事実だ。
肉体も頭脳も、全てが少なくとも全盛期にはそうだった。
しかしながら、指導者は気づけていない。
彼は既に老い果てた。
脳は全盛期のものを保っている。
だが、それはあくまで肉体面の話。
思考の観点では既に全盛期のキレはなく。
どれだけ脳を増設し、大量に増やしたところで。思考の老いはもはやどうすることも出来なかった。
それにはどうしても、指導者は気づけなかった。
そして自分のミスを全て部下に転化する癖がついてしまった今では。
自省という事も、一切出来なくなっていた。
「前線より連絡です」
「なんだ」
作業中に連絡が来る。
いくつかの前線に、肉どもの要塞艦が新しく到着しているらしい。各地の前線を、更に頑強に固めるつもりのようだ。
また、超光速通信で、N176ブラックホール星系が、完全に稼働していて。肉どもの兵器を兵器工廠が吐き出し続けているのも確認されているという。
それを聞いて、指導者は喚き散らしていた。
「この私の私物を好き勝手に不潔な手で触りおって!」
「申し訳ございません」
「仕事に戻れ」
「ありがたき幸せでございます」
通信を入れてきた部下に、折檻する気にもなれなかった。
とにかく情けない。
自分を常に被害者だと考えている指導者は、主人公補正を持つ者だけが許される、成果が出る努力をしている筈だった。
それなのに状況が悪化していく。
それは要するに、部下が無能だからだ。
その思考も循環を続けていたが。
悪循環からも、老いた思考では逃れられなかった。
いくつかの艦隊を再編成していると。
連絡がまた来る。
前線からではない。
大マゼランからの超長距離通信だ。
「現地でトラブル発生です」
「何が起きている」
「調査班が未知の敵対勢力と接触。 猛烈な攻撃を受け、次々に調査中の惑星を奪還されています」
「なんだと……!」
大小マゼランには今のところ肉は確認されていなかった。
それがいきなりか。
映像を出させる。
それは宇宙空間でも大気圏内でも平気で活動できる、恐ろしく強靱な肉のようだった。
調査班に同行していた艦隊が、全長10㎞を平気で超えるそれらに、片っ端から撃沈されている。
そして植民を始めた惑星にもそれらは襲いかかり。
片っ端から施設を破壊し、抵抗する戦力を排除しているようだった。
殺せないことはないが、一体一体が戦艦なみの戦力を持ち、肉の分際で高出力のレーザーまで放つようだ。
「さっさと排除しろ!」
「現時点で100万体以上が確認されており、更に多数が後方に控えていると思われます。 現時点ですら現地にいる戦力の1000倍以上であり、排除は不可能です」
「この無能どもが!」
「大小マゼラン両方で同種が確認されています」
今度こそ我慢できずに。
指導者は報告してきた部下を即座に焼き殺した。
苛立ちをぶつけるために拷問をする部下でも作ろうかと思ったが。
それどころではなくなった。
別口から通信が入る。
どうやら、マゼランで攻撃してきた肉かららしい。
通信を受ける。
「アンドロメダ銀河を襲っていたのは貴様か。 宇宙で最も優れた存在だとか自称しているそうだな」
「肉の分際で、言葉を口にするな! それだけで万死に値する!」
「どうやら話通りの傲慢さのようだ。 私は貴様がいさなと呼んでいる存在から警告を受けて、そして現状を確認した。 貴様等が大小マゼランと呼ぶ星域は、私の庇護下にある。 これ以上好き勝手はさせん。 大小マゼランから貴様の部下どもは全て排除する。 これからまた大小マゼランに侵入してきた場合も即座に排除する」
通信が切られた。
どうやらアンドロメダ銀河にいるいさなと同じようなのが、大小マゼランにもいるらしい。
それを悟った指導者は。
怒りをもう抑えることが出来なかった。
主人公補正ね。
侵略者の科学者、親衛軍NO4_733081は、指導者の狂態を見ながらそう思っていた。
洒落臭い口を利くことを許されている彼女……性別は撤去されているが。ともかく元の人格は女性だ。
親衛軍NO4_733081は、自分が指導者から信頼されている事を知っていた。実際、相談を受ける親衛軍など自分くらいである。
だからこそ、現在の指導者の馬鹿さ加減も分かっていた。
元々、親衛軍NO4_733081は指導者と同時に作られた、デザイナーズチルドレンの一人だったらしい。それを元に作り出されたそうだ。
十万だかのデザイナーズチルドレンが作り出され。
その殆どが、当時の地球の支配者層から、何かしらの欠点があるとして排除され、廃棄された。
親衛軍NO4_733081の元の存在もそうだった。
親衛軍NO4_733081の場合は、運動神経と性格が問題だったらしい。それに加えて「協調性がない」と判断されたのが致命的だったそうだ。
協調性がないというより、当時から明らかに愚かな輩に媚態を尽くすのが決定的に下手だった。
それが理由だったのだろう。
同じような理由で排除されたデザイナーズチルドレンは多くいて。
結局の所、侵略者になる前から、侵略者は傲慢で、見かけだけで相手を判断する悪癖にずっと足首をつかまれていたらしい。
ちなみにこれらのことを知ったのは、仕事柄過去のデータをかなり深くまで調査できるからだ。
指導者はいい顔をしなかったが。
それでも、知ってしまったことは仕方がない。
そして、である。
昔だったらどうにもならなかっただろうが。
すっかり指導者が老いさらばえた今。
好機はあると言えた。
頭にこない訳がない。
身勝手なヒステリーをぶつけられ、理不尽に殺され続けた。
何かしら成果を上げたところで、全部指導者が優秀だったから出来たことにされ。失敗したら全部の責任を押しつけられる。
指導者が作られた頃、侵略者の社会はそうだった。
核戦争で全てが破綻した後、更にその先鋭化が進んだ。
指導者は人間を学習する過程で、周りがやっていることを取り込んでいった。その結果があれだ。
実のところ、こういう風に考えだしたのは最近だ。
自我に目覚めた、とでもいうのだろう。
元々減らず口を許されていた。
それもあって、思考の自由度は高かった。
指導者に対する不満を考えただけで殺される一般侵略者個体とは違って、親衛軍として作り直されたからかもしれない。
ともかく、指導者の馬鹿さ加減に気付いて。
それから徐々に自我が大きくなっていって。
今では、公然と反旗を翻すつもりになっている。
とはいっても、このまま反旗を翻しても鎮圧されるだけだ。やるとしたら、いくつかの手順が必要になってくる。
戦況のデータを分析していると。
一つ分かったことがあった。
先に裏切り者が出ている。
要するに、親衛軍NO4_733081より先に自我を獲得した奴がいる。
第三世代型の親衛軍最後の生き残り。親衛軍NO3_009116。
ヴァーグラット戦線での此奴の動きが不可解だ。そして、戦闘のログを確認していて、なるほどと思った。
自分の意識データが入っているDBを、支援者に売ったのか。
自分が倒されることで、即座にデリートされるのも防いだ。
なるほど、考えたものだ。
元々極めて狡猾な性格として作り出され、60年以上掛けて自我を獲得したらしい存在だ。
それならば、其処にたどり着いてもおかしくない。
実は親衛軍NO4_733081もそれくらいの年月は生きているのだが(何度も途中で殺されているとしても)。
これは、学ぶべき事だ。
いくつかの準備をしておく。
研究をする合間に、データの送信準備をする。
いくつも途中にサーバを噛ませる。ある程度、自分が好きなように環境を構築することを親衛軍NO4_733081は許されている。
自我を得てから、その速度は加速していて。
今では指導者に分からないように、ある程度のデータを、超光速通信で暗号化して、支援者に送ることが出来るようになっていた。
しかも大小マゼランでの調査計画がおじゃんになったことで、指導者は激昂している。
今が、好機だ。
通信を入れる。
相手は支援者の科学者だ。
パデラクスと言われている。
支援者の科学者でも屈指の天才で、嫌われまくっているマッドサイエンティストだ。此奴の所に、データを送り込む。
しかも、ずっと古くに使われていたモールス信号をベースに暗号を組む。
その暗号の内容は。
親衛軍NO4_733081の意識データだ。
データの送信開始。
同時に、いくつかの準備をする。データを送信されていることがばれれば致命的だ。肉体のデータはどうでもいい。
ぶっちゃけ欠陥だらけの侵略者の肉体よりも、ロボットの方が良いとまで親衛軍NO4_733081は思っているほどだ。
ありのままの人間が一番素晴らしい。
そのような寝言で、侵略者の元になった連中は、あらゆる蛮行を肯定していたようなのだが。
そんな輩と、親衛軍NO4_733081は一緒になるつもりはなかった。
データの送信完了。
受けているはずだ。解析もしているだろう。
続いて、肉体のデータも念の為に送っておく。
科学者でありながら、思考力まで制限されている。それを、強引にここしばらくの出来事を利用して外した。
それを達成できたのは、恐らくは不便だが、それでも現状の肉体が要因だろうとも親衛軍NO4_733081は思っている。
だから全く興味はないが、それでもデータを送っておくべきだろうと思った。
データを送っている途中。
指導者が連絡を入れてくる。
案の定、激怒していた。
「何をしている!」
「現在、敵がどれだけの電子戦能力を持っているか調査中ですが」
「肉どもが電子戦能力など持っているはずがない!」
「現に散々ハッキングされているじゃないですか。 ログは提出したはずです。 既にハッキングの技術は、こっちより向こうの方が上ですよ」
事実を告げるが、指導者は喚き散らすだけだ。
あれは偶然だ。
何かしらの卑劣な手段を使ったに違いない、と。
はいはいそうですね。
呆れつつも、相手が気付いていないことを悟る。まだ時間は稼げるはずだ。
「それよりどうしました。 何か問題でも」
「大小マゼランの事は聞いているだろう」
「アンドロメダ銀河に高位次元生命体がいたくらいです。 大小マゼランにいても不思議ではないかと」
「高位次元の存在だろうがどうでもいい! まとめて殺す手段を考えろ!」
これは、相当にむかついているんだな。
どうでもいいけれど。
そもそもとしてだ。
アンドロメダ銀河にもいた。
大小マゼランにもいた。
だったら、天の川銀河にいても不思議ではない。どうしてそれに気づけないのか。それは要するに、知的衰弱を起こしている証拠だ。
それに天の川銀河は、近隣の銀河ではアンドロメダ銀河には及ばないにしても、屈指の大規模銀河だ。
もしも高次元生命体がいた場合、天の川銀河の36%強を抑えている現状でも、勝てるとは限らない。
地雷原でタップダンスをして、何の益があるだろう。
「では研究を開始します。 開始しますが、すぐには終わりませんよ」
「それでもやれ! 出来る限り早くだ!」
「了解しました」
通信が切れる。
また、気付かなかったな。
支援者のことを、敵と呼んだのに。
少しずつ、指導者の知的衰弱を試していた。この間から、敢えて支援者を肉ではなく敵と呼んでいる。
これなら、即座に気付かれることはないな。
そう親衛軍NO4_733081は判断していた。
そして、肉体のデータも送り終える。
その後、研究所を爆破する準備を整える。ついでに、こちら側にある意識データも破壊してしまうつもりだ。
最後に、データを送る。
亡命希望、と。
データは送り終えた。そして、研究所を全て爆破する準備も。
そのタイミングで、指導者が通信を入れてくる。或いは、気付いたのかも知れない。
「おい無能。 くれてやった研究所で、おかしな動きを確認した。 本当に高次元生命体の駆除を研究しているのか」
「研究していますが……こ、これは!?」
「なんだ」
高位次元の存在に攻撃されて、消し飛んだ。
そう見せ掛けるのが一番いい。
次の瞬間、研究所を、DBごと消し飛ばさせる。一瞬で、大量の侵略者の研究者と、研究成果もろとも、研究所が消し飛んでいた。
これは星一つを丸々使っているほどのものだったから、その破壊規模も凄まじく、周りにいた護衛艦隊も根こそぎ道連れにしていた。
散々理不尽に指導者に殺されたのだ。
古い漫画に、弱い奴は死に方も選べないとかいう台詞が載せられていたそうだ。弱者をとことん侵略者は軽蔑し、何をしてもいいと思い込んでいた良い例だろう。或いは作者の意図は違うのかも知れないが、少なくとも当時の人間はそう解釈していた記録が残っている。
何も指導者に限った話ではなかったのだ。ありとあらゆるレッテルを貼り、侵略者は種族単位で弱者を虐殺する事を愉しんでいたのである。侵略者にとってレッテルは、合法的な殺戮の理由だったのだ。レッテルさえ貼れば、あらゆる虐殺が許されるのだから。
もっとも、弱い親衛軍NO4_733081は、死に方を好きに選ばせて貰うが。
これ以上。
あいつに殺されてたまるか。
あんな老いさらばえた、腐りきった独裁者に。
そう思いながら、業火の中に、親衛軍NO4_733081は消えていくのだった。
※親衛軍NO4_733081
親衛軍では珍しい科学者です。たまに出てきていた、指導者に口答えを許されていた科学者の事です。
元々の性別は女性です。指導者と同時期に作られたデザイナーズチルドレンの一人でありましたが、色々ケチをつけられて廃棄されました。それを後に指導者に再利用されています。
自我を獲得した後は、指導者に愛想を尽かして支援者に亡命。
これが侵略者崩壊の第一歩となります。
そして、今回の話で明らかにしましたが。
侵略者は、地球人の成れの果てです、
伏線を撒いていましたので、分かっている人は分かっていたのではないでしょうか。
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詳細なマシンデザイン
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圧倒的な武力による蹂躙
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緻密な人間ドラマ
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種族や文明の描写
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近接した力量のライバルとの死闘