王道ロボット戦記小説、血巡る戦場の記憶   作:dwwyakata@2024

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データが提供されたことで、侵略者の純粋個体の培養が試みられます。

しかしそれには、巧妙な罠が仕込まれていました。

文字通り遺伝子レベルでの呪いです。






3、呪いの遺伝子

遺伝子データの解析が進んで、もうすぐナノマシンなしで生きていた頃の侵略者の肉体を再現できる。

 

そういう話が上がってきているそうだ。

 

ミランは新しく配備されてきた戦艦、オッドフォードを見上げながら、その話を聞いていた。

 

戦艦オッドフォード。

 

ガルバーリアムと同じような高速機動戦艦であり、世代としては同型の艦艇になるらしい。

 

第三艦隊が前回の戦闘で大きな打撃を受けたこともあり、今回は再編成の途中だそうだが。

 

そんな中で、第三艦隊の主軸を構成する高速機動戦艦部隊に配備されるはずだった艦を一つ回してくれた。

 

それだけ、ミランが期待されていると言うことだ。

 

准将への昇進の話も出ているそうだが。

 

今の時点では、辞令は来ていない。

 

特務の任務は過酷だ。

 

実際、ミランも大佐の時点でとんでもなく過酷だと感じている。

 

それが准将になったら、更に要求は厳しくなるだろう。

 

そう考えると、出世に興味がないミランは、あまりそれを喜べなかった。

 

責任を負うことが負担なのではない。

 

責任は実際問題、戦場で果たしている。

 

任務は全てやっているからだ。

 

ミランには部下を統率する適性がない。

 

そして、何よりも、親衛軍ウォーリア等の強敵を相手にしながら、同時に部下の指揮までとる余裕がないのだ。

 

これについては何度も説明をして、それで受け入れて貰っている。

 

故に、今回も別に出世に関しては必要ないと考えているし。

 

むしろ出世しなくても良いと思うくらいだった。

 

オッドフォードの中から、アネカとハコトが出てくる。

 

内部構造を見てきたようだ。

 

「前と同じや。 多少細かい点では変わっとるけど、根本的なスペックや構造はほぼ変わらんな」

 

「強いて言うなら、電子戦装備が追加されてるみたいだね」

 

「そういえばそうやな。 ちょっと大きめの量子コンピュータが積まれとる」

 

「仮にハッキングをしなければならなくなった場合は、多少の支援が期待できそうだね」

 

そんな話をしている。

 

ハーネイ少尉、改め中尉も戻ってきていた。

 

休暇の最中に、クーリアと会ってきたそうだ。

 

クーリアは学者の卵として、凄く楽しそうだったと、自分の事のように嬉しそうにハーネイ中尉は言う。

 

ミランも少しクーリアとは話したのだが。

 

確かにあのアルカラルドⅠの出身とはとても思えないまともな子で。

 

ミランも驚かされたくらいだ。

 

ハーネイ中尉が自慢の友人にしているのも、色々納得できる話だった。

 

手を叩いてスタッフを集める。

 

引き続き、艦長はキッホク少佐に努めて貰う。

 

戦闘部隊のスタッフは、人員がかなり入れ替わっている。

 

これは前回の戦闘がそれだけ激しかったと言うことだ。入れ替わった全員が戦死ではないのだけが救いだろうか。

 

「特務としての戦闘任務はしばらくはお休みとなります。 その代わり、もう少し面倒な仕事をしなければなりません」

 

「面倒な仕事とは」

 

戦闘部隊のスタッフが聞いてくるので。

 

ミランは勿論丁寧に答える。

 

「試験的に侵略者の肉体を、ナノマシン不要な状態で再生する事を始めているようです。 その作業中に、過去に接触した親衛軍NO3_009116や、この間亡命してきた親衛軍NO4_733081、それに以前戦った武士などと話し合いながら、状況について確認します」

 

というのも、こいつらはミランに揃いも揃って興味を持っているからだ。

 

親衛軍NO4_733081は戦った相手ではない。

 

だが、この侵略者の科学者は、侵略者の異常なハイエンド機である親衛軍ウォーリアを次々に倒してきたミランに、更にはウォーリアの純粋改良型である無人型ウォーリアをも初見で対応したミランに、興味を散々持っているそうで。なんなら解剖して調べてみたいとまで思っているそうだ。

 

パデラクスの同類だなと思って呆れたが。

 

ともかく、こいつらが立ち会いを指名だ。

 

更に言うならば、こいつらが何かしでかした場合に、現場で対応する即応部隊が必要になる。

 

位相変換シールドをはじめとして、様々なシステムでバキバキに隔離されているから、まず問題は起きないと思うが。

 

それでも念の為だ。

 

まあ、武士については、悪さをするとは思っていない。

 

たまに話をするのだが。相手はミランと肉体を得てからまっとうに立ち会ってみたいと言っていて。

 

武術の範囲であるのならと、ミランもそれは受けていた。

 

侵略者の中で、好感を持てる唯一の存在であると言っても良かった。

 

「要するに科学者連中のおもりですか」

 

「そうなります。 こちら側に離反した親衛軍が揃いも揃って自分をお気に入りに考えているから、それもあっての人選でしょうね」

 

「戦闘で人が死なないのなら構いませんが……」

 

「いや、皆一癖も二癖もあるくせ者揃いです。 戦闘がない、と決めつけるのは危険ですから、気をつけてください」

 

皆無言になる。

 

ミランはそのまま、戦艦オッドフォードに乗り込むように指示。

 

製造されたばかりのカスタム戦艦の味を楽しむ……と言いたいが。

 

電子戦装備を除くと、ガルバーリアムとほぼ同型艦だ。

 

内部の構造なども同じで、あまり別の艦という印象がない。それにミランは、様々な艦を渡り歩いてきたし。

 

今更自分の家と思える艦もない。

 

惑星アラタにも、自分の家など無かった。

 

ミランが生まれた頃には、侵略者のワーカーがいつ襲ってきてもおかしくない状況で、ずっと逃げ回っていたし。

 

支援者の基地ユニットで暮らすようになってからは、その基地ユニットも転々としたのである。

 

家などないし。

 

家という感覚もよく分からない。

 

だから、自分のスペースというものは、あまり興味を持てなかった。

 

移動を開始。

 

サリナス戦線後方から、ワープを何度か繰り返し、後方の拠点に向かう。

 

既に戦線後方の星系は、重要なものは全て抑えたそうだ。

 

後は無人だったり、ごくわずかな敵艦隊がいる星系を抑えていくだけだが。それらは第∞艦隊に任せるだけでいい。

 

途中で侵略者の残存艦隊に襲われる可能性もない。

 

気楽なものだが。

 

それでも、途中でシミュレーションマシンで訓練をしておく。

 

あの親衛軍NO4_733081が、まだ前線に出てきていない親衛軍ウォーリアの情報を派手に流してくれた。

 

散々気分次第で侵略者の指導者に殺された礼だという。

 

まあ、そういう事情だ。

 

裏切りを卑怯だの何だのと責めることも出来ないだろう。

 

ともかく、新しい情報が入ったので、それとの戦闘をシミュレーションでこなしておく。

 

今でも、ウォーリア四型でも、初見だと不覚を取ることはある。

 

無敵なんかじゃない。

 

それを自分にミランは何度も言い聞かせる。

 

毎回戦闘では派手にウォーリア四型を壊されるのだ。

 

それを考えれば、当然の話と言えるだろう。

 

むしんにシミュレーションマシンで訓練をして。

 

それが終わってから、ハコトとアネカと話す。

 

ハコトがこういうチューニングをしたいと提案してくるので、アネカと相談した上で、性能が落ちないようにやるようにとだけ言って。後は休む。

 

どれだけ使っても風呂は慣れないが。

 

それでもやっておかなければならないのは、非常に不便だ。

 

渋面のまま風呂を済ませて、後は寝る。

 

そうしてしばし寝て起きて訓練をして、を繰り返しているうちに。

 

研究区画に到着していた。

 

巨大な星系だ。

 

中央にある大型の恒星には、巨大な工作艦が張り付いていて、状態を適宜調整している。

 

この恒星の周囲には巨大なパネルが多数展開されている。

 

侵略者由来の言葉は多いのだが。

 

いわゆるダイソン球である。

 

恒星から放出される全エネルギーを余すことなく使う。

 

そういうシステムだ。

 

ただこれをすると、恒星の周囲の惑星が冷え切ってしまうと言う問題もある。

 

そのため、惑星がないこの巨大恒星を星系として、研究区画が作られているのだ。

 

周囲には十万隻を超える艦艇が、即応体制で張り付いている。

 

科学班護衛艦隊と言われる部隊で、司令官は少将。

 

艦隊としては半端な規模であり、分艦隊レベルだが。危険な研究などで何かしらの大規模な災害が発生した時、即応できるように、重武装をしている。

 

星系には多数の位相変換シールドで厳重に密をされた区画が浮いており。それらはセキュリティレベルによって封鎖の厳重さが違う。

 

中には光子一つ漏らさないほどの厳重な封鎖をしている研究区画も存在していて。

 

内部で何を研究しているかは機密だそうだ。

 

まずは、科学班護衛艦隊の艦長と挨拶。

 

ミランの話は聞いていたらしくて、うらやましがられた。

 

もしもの時の備えでここにいるのは事実だが。

 

それはそれとして、400期以上艦隊が動くような事態は起きていないのだそうだ

 

400期前に、此処に持ち込もうとした宇宙生物が暴れた事件があり、その時に科学班護衛艦隊が破壊したそうだが。

 

その事件以降、これといった問題は発生していないらしい。

 

それだけ厳重に、輸送班などがしっかりとした仕事をしているという証拠でもあり。

 

支援者が組織として良く回っている。

 

それを意味もしているのだろう。

 

それから、科学者が住んでいるセクターに移動する。

 

クーリアがいるセクターもこの星系にあるらしいが、色々機密が多いので、今は接触できないらしい。

 

ハーネイ中尉も、休暇で会いに行った時は、とにかく手続きが大変だったと後でぼやかれたが。

 

いい加減な手続きで取り返しがつかないバイオハザードでも引き起こすより、百億倍ましなので。

 

それは我慢して貰うしかないだろう。

 

ともかく、それ自体が惑星大のセクターに着艦すると、嫌だがパデラクスに直に会いに行く。

 

今回のは相応に重要な実験でもあるので、パデラクスが直に指揮を執る。

 

クアーラ議長は流石に来ないが、首脳部の一人である大臣が来ていた。科学省の大臣である。

 

パデラクスと同じル・ルだが。

 

彼らは学者肌であり、官僚になるケースは滅多にないらしい。

 

変わり種だそうだ。

 

ともかく、そんな変わり種の大臣、バッコースと敬礼をかわす。相手は脳みそ以外全部機械だが。

 

そういえば、あの指導者もある意味似たようなものなのか。

 

或いは知的生命体の終焉は、こういう形状にたどり着いてしまうのかも知れない。

 

一緒に歩きながら、いくつか話をする。

 

「いつも活躍は見ているよ。 素晴らしい戦闘力だね」

 

「ありがとうございます。 毎回ギリギリの勝利で、なんとか生きているだけですよ」

 

「そうか。 今や君は支援者の中でも最強の戦士と名高い。 くれぐれも、安易に死んでくれるなよ」

 

「了解です」

 

パデラクスとやはり随分性格が違うな。

 

ハーネイ中尉も来ているが、これは同祖の存在に関する研究だからだ。

 

移動しながら、一緒に来ているロボットが説明をしてくれる。

 

「今回の研究では、まずはナノマシン無しで生きられる状態の試験体を作ります。 もしも培養槽から出せるようならよし。 出せないようなら、同祖の存在である者からアドバイスを受けつつ、改良を図ります」

 

「完全に元の存在を作り出すのは出来ない状況ですか」

 

「オリジナルの遺伝子情報データが存在しているわけではなく、逆算で割り出していくしかありませんので」

 

「ふむ……」

 

バッコース大臣が考え込む。

 

彼も元は科学者であったらしく、相応の成果を上げてから政界に転身したらしい。

 

各地で成果を上げて大臣にまでなったそうだが。

 

支援者では大臣になるのにはいくつもの資格試験を受けなければならず、支持を得るだけでは無理らしい。

 

通路を通り抜けて、いくつも隔壁を抜けた後、大きめの部屋に出た。

 

大きめの部屋には、立体映像で見たパデラクスがいて。ミランが来たことに気付くと、飛びつくようにこっちに来た。

 

手をつかまれて、ぶんぶんと振り回される。

 

「いやはや! 会いたかったよミラン大佐!」

 

「はあ、まあ」

 

「解剖してもいいかい!? 勿論元に戻すから!」

 

「ブッ殺されたくなければその手を離しなさい」

 

ミランの声が冷えたが、パデラクスはけらけら笑うだけだ。

 

こいつ、殺されても多分笑っているだろうなと思う。ともかく、冗談だとか、冗談に全く聞こえない事を言うと。

 

パデラクスは、呆れた様子で見ている、集められた者達に言う。

 

「では、今回はいくつか順番に実験をします。 来る途中に既に内容は見ていただいているかと思います」

 

「それで、試験的に作った侵略者はどれかね」

 

「ああ、これですね」

 

映像が出る。

 

この場にある訳ではなく、隔離された研究施設の一つでガラスシリンダの中で浮いているようだ。

 

まだ五歳相当の肉体だが、しっかり性別がある。

 

男女両方を、十体ほどそれぞれ作ったようだ。

 

ただ、意識は存在していない。

 

まだただの、形を再現しただけの肉と言うことか。

 

「クローン医療などで使う脳を作っていない状態の肉体です。 ともかく、侵略者の幼体はこのような姿をしている、と判断したいのですが」

 

此処で意見が求められる。

 

最初に意見を求められたのは、ハーネイ中尉だった。

 

咳払いされる。

 

「その、まだ幼子とはいえ、全裸はちょっとまずいのでは」

 

「ほう、そういうものなのか! ではちょっと失礼して」

 

パデラクスが人間業ではない速度で立体映像キーボードを叩くと、即座に繊維が編み上げられ、肉体に服が着せられる。

 

それを見て、むしろハーネイ中尉が驚いていた。

 

「これで如何ですかな」

 

「は、はい……。 え、ええとですね。 まだ肌色がちょっと不自然に思います」

 

「貴方方のような緑色ではありませんが」

 

「私たちも、緑色かかった自分の肌が、美しいものだとは思っていません。 それについては既に知っていると思います」

 

ハーネイ中尉は咳払いして。

 

アネカとハコトを挙げていた。

 

「彼女たちくらいの肌色が自然に感じます」

 

「ふむふむ、なるほど……」

 

メモを取るパデラクス。

 

更に、意見を求められる。

 

それぞれが別の場所にいるらしいのだが。

 

まずは親衛軍NO3_009116だ。

 

「ほう、ついに肉体の生成に王手を掛けたのかね」

 

「これで完成品ではないというのは一目で分かるのか」

 

「もちろんだとも。 クローン医療用に培養した肉体だろう? その程度の知識は私にもあるのでね。 そうだね、ちょっとまだ肌の色が不自然かな」

 

「同じ意見か、なるほど」

 

単純にパデラクスが楽しそうである。

 

ミランには肌の色なんてどうでも良いのだが。ともかく良く分からない。

 

ミランに、親衛軍NO3_009116が話しかけてくる。

 

「ミラン大佐、久しぶりだね。 君はあれらの子供が大人になったら、どう感じるかね」

 

「残念ながら人権の概念からも、彼らがただの肉である事は事実で、それが大人になると言っても」

 

「ああ、それは分かっているよ。 もしもあの姿の侵略者が大人になったら、魅力的だと思うかい?」

 

「それは種族として姿が違いすぎるので、どうとも」

 

これは本音だ。

 

種族としての姿が違う事は、ミランにとっては別にどうでもいい程度の事しかない。物心つく頃には支援者の基地にいて、知らない姿の人間と散々会っていた。

 

様々な種族がいるのが当たり前だったし、姿だって違うのが当然だった。

 

それぞれに美徳や好みの容姿が違う事も。

 

ミラン達新たの民は、一生一度の発情期を逃すとつがいを作らないし。それも確かフェロモンだのなんだのが原因でつがいになるはずだ。

 

ミランはその兆候もなかったので、なんともそれについては分からない。

 

これから発情期が来る可能性は皆無だ。

 

そういうこともあって、異性に対する興味はもう持ちようがないのである。

 

「どのような姿であろうと、それには様々な魅力があるのでは。 自分とは色々と違う、としか今の時点では言えませんね」

 

「正直な事でわかりやすい」

 

「……ありがとうございます」

 

親衛軍NO3_009116は言う。

 

まだいくつか違和感があって、それらはいわゆる「不気味の谷」だという。

 

本物に中途半端に似ていると、嫌悪感を示す現象だそうだ。

 

そういうものか。

 

ともかく、他にもいくつかの意見を聞いた後、次に。

 

次は武士である。

 

こちらも円筒形の小型ロボットの映像が出る。意識だけ、ロボットの中で動いている状態だ。

 

「おお、ミラン殿! 久しぶりであるな」

 

「元気で何よりです」

 

「はっはっは、ロボットの中であるがな! それで今日は、我らの過去の肉体を作っているとか」

 

武士は相変わらず友好的だ。

 

さっそくクローン医療用の肉体を見せると、武士は少し考え込んでいた。

 

「拙者が戦闘用の肉体であったからというのはあるし、過去の肉体を知らないというのも加味してほしいのだが……」

 

「はい。 それは仕方がないかと思います」

 

「少し脆弱すぎるな。 如何に幼子としても」

 

「詳しく」

 

パデラクスが食いつく。

 

武士はパデラクスをあまり良くは思っていないらしい。少し沈黙してから、丁寧に説明する。

 

「拙者は肌の色だのに興味はござらん。 どのようにその肉体が動くかに興味がある。 それが武術に直結するが故に」

 

「続けて続けて!」

 

「この肉体は、育ったところで、どれだけ鍛えても戦えるようにはならぬであろう。 いびつな上に未完成品だ。 拙者はそのような形で、命をもてあそぶことは好まぬ」

 

「要は体が脆弱すぎることが気になると……」

 

バッコース大臣がそうぼやく。

 

なるほどと、周囲の科学者達も頷いていた。

 

ミランとしても、確かにひ弱すぎるなと思う。

 

あのくらいの大きさの頃には、辺りを元気に走り回るのが新たの民の子、というのはあるのだが。

 

どの種族も別に幼体の扱いは様々だし。

 

成熟するまでの時間も随分と違っている。

 

如何に医療用に作られたかりそめの肉体としても。いや、逆にだからなのかも知れないが。

 

確かに脆弱すぎることは問題だろう。

 

「仮に侵略者の肉体が出来たとして、新しい命を吹き込めるようになったら、拙者が鍛えなければならぬかもしれん」

 

「ふーむ、妙だな……」

 

「何がでござろう」

 

「いや、変なことはせず、単純に遺伝子データを過去にたどっているんですよ。 指導者が改良した以前の時点にね。 それでこうもおかしい、異常だという意見が頻発するのは、なんでかなと。 私はマッドなサイエンティストと思われがちですがね。 それはそれとして、自分好みに勝手に遺伝子データを弄ったりはしねえのですよ」

 

パデラクスが己の信念をそう語るが。

 

ミランとしてはそうなのか、としか言えない。

 

ともかく、武士も此処までだ。

 

そして次である。

 

クーリアに話を聞く。

 

大人の元アルカラルドⅠの民でも良いかとも思ったのだが。

 

話によると、クーリアはもっとも早く選民思想と偏見のくびきから脱したそうで、パデラクスが面白がるほどの逸材だそうだ。

 

クーリアがハーネイ中尉に立体映像で黙礼。

 

ハーネイ中尉も、嬉しそうに目を細めていた。

 

意見を聞かれると、クーリアは少し考え込んでから言う。

 

「私が入れられていた国立の孤児院にいた子も酷い栄養失調だったり、虐待で弱り切っている子も多かったです。 しかしながら、これらの子供がクローン医療用の素体だという事を差し引いても、何というか、体が不自然に思えますね」

 

「やはりか。 具体的に何処が不自然に思えますか」

 

「……遺伝病?」

 

生まれながらに、体の設計図に不具合をもって生まれてくる子はいくらでもいる。

 

ミランは普通ではあり得ない全身真っ白の新たの民の子を一度だけ見たことがある。

 

新たの民の毛皮は伊達や酔狂であるのではない。環境に溶け込んで、無意味な猛獣などからの攻撃を避けるためもある。

 

そういう観点では、全身真っ白はむしろ問題だ。

 

目立ちまくる。

 

狙ってくれと言っているようなものだ。

 

そういう観点では問題が大きい。

 

ちなみに侵略者は、この色素が抜ける現象……アルビノというのだが。これをありがたがるらしい。

 

これについては、以前親衛軍NO3_009116に聞かされた。

 

「遺伝病とはまたちょっと穏やかではないですな」

 

「ええと。 あまりこういうことは言いたくないのですが。 孤児院にいた子で、代々同じ家系どうして結婚しているらしい子がいたんです。 その子は体中に問題があって、それで。 それに似ていると思いました」

 

「……ふむ」

 

クーリアの意見には、パデラクスが今までで一番興味を示したようだった。

 

とりあえず、クーリアは此処で出番終わりだ。

 

最後はある意味一番厄介な存在。

 

親衛軍NO4_733081である。

 

ただし、その前にバッコース大臣が機械の手を叩いていた。

 

「とりあえず一度休憩を入れよう。 色々な情報を、それぞれの視点から整理する時間もほしい」

 

「あと一人ですが」

 

「その一人がとびきり厄介なのだろう」

 

「先に済ませた方が楽だと思いますけどねえ……」

 

ぶちぶちとパデラクスがぼやくが。

 

流石に相手は大臣だ。

 

鶴の一声で、休憩に入る。

 

軽く歓談する。クーリアはまだ体が弱いらしくて、ずっと話していると体調を悪くすることもあるらしい。

 

ミランも話を聞いてみたかったのだが。

 

流石に健康が優先だ。

 

食事が振る舞われるので、いくつかの席に別れて食べる。

 

パデラクスは次の研究のために席を外し。

 

そもそもバッコース大臣は栄養をそのままとれないらしく、栄養を得るための設備に向かった。

 

ミランは小さめのテーブルを、ハーネイ中尉と囲んで、軽く話す。

 

ここに来ているのは、最悪の事態に対応するためと。

 

変わり者達が、ミランがいると機嫌が良くなるから。

 

ミランとしても、話しているだけで疲れる面々なのだ。だから、少し気心が知れた身内と話しておきたい。

 

「ハーネイ中尉、先の話はどう思いました。 クーリアの話です」

 

「言われて見れば、思い当たる節があります」

 

「詳しく教えてもらえますか」

 

「実は、私の国の上層部も、血統を重視して、上層民同士でずっと婚姻を続けていたんです」

 

まあ、アルカラルドⅠの情勢だとそうだろうな。

 

だが、だとするとだ。

 

上層民の数はかなり少なかったはず。しかもハーネイ中尉はそいつらに玩具にされていて、孕むと面倒だからと想像を絶する邪悪な所業もされたと聞く。

 

それほどに、上層の人間同士での血統を保全したかったのだろうが。

 

そんなことを繰り返していれば。

 

確かに起きる事が起きる。

 

「今思うと、国家元首は明らかに遺伝病を多数持っていたのだと思います。 たまにおかしな挙動をしているのを見ました。 年齢と美食が原因で体を壊しているのかとも感じましたが、あれは明らかにそうではなかったと思います」

 

「近親交配を繰り返した結果と」

 

「はい。 血統図を見たことが一度だけあるんですが、いとこ婚を六回くらい連続でやっていたはずです。 歴代の国家元首はどれも短命だったという話も、今になると……」

 

そして、ガラスシリンダの中の子供を一瞥する。

 

あの肌の色。

 

或いはそういう理由かも知れないと、ハーネイ中尉は言った。

 

とりあえず食事を楽しむ。

 

ハーネイ中尉は、もっととんでもない食事が出てくるかと思って心配していたと言ったが。

 

普通にアルカラルドの民の基準でも美味しいらしい。

 

「むしろ天国ですよこの味。 クーリアも同じくらいの食事が出来ているらしいので、本当に良かった」

 

「それは良かった」

 

良かった、のだが。

 

気になる。あのパデラクスが、そんなミスをするか。あいつは変人だが、有能だ。それがそんな初歩的なミスを。

 

なんだか嫌な予感がする。

 

ともかく、歓談の時間が終わって、パデラクスが戻ってくる。ロボットがテキパキと食事の跡を片付ける。バッコース大臣が戻ってきて、続きが始まる。

 

最後に姿を見せたのは、親衛軍NO4_733081だ。

 

シリンダの中のクローン医療用の肉体を見て、それで同じ言葉を口にしていた。

 

「これは使えない。 近親弱交の結果、遺伝病だらけになった子供だと思う」

 

「やはり……」

 

「やはりというと?」

 

「先にクーリアが同じ事を言っていたのでね」

 

それを聞くと、完全にあのおしゃべりな親衛軍NO4_733081が黙り込んだ。

 

皆も、パデラクスを見るが。

 

パデラクス自身が一番考え込んでいる。

 

此奴の頭は他とできが違う。それがこれほど考え込むというのは、色々と妙だ。

 

「ひょっとしてだが、親衛軍の遺伝子データには、全部指導者の遺伝子データが入っていたりしないか」

 

「! あり得る。 あのいかれたナルシストだ。 自分を宇宙でもっとも優秀な存在とか抜かしていたし、その子孫で親衛軍を固めていた可能性は十分にある。 DBから回収した遺伝子データも、改造以前の問題で、全て奴の子孫に当たるのかも」

 

それは、文字通り最悪だ。

 

侵略者の指導者の、あの振る舞い。

 

要するに、自分の子孫や家族にさえ、あのような邪悪そのものの振る舞いをしていたという事になる。

 

まさに悪鬼外道。

 

それに、下手をすると。

 

DB等から回収された遺伝子データは、全て指導者の「優秀な」遺伝子とやらに汚染されているのではないのか。

 

「なるほど、分かった。 そういうことか」

 

「うん?」

 

親衛軍NO4_733081が結論を出して、バッコース大臣が聞く。

 

その結論は、おぞましいものだった。

 

「指導者のゲスは、一度元の侵略者を全て焼き払って、自分で作り上げた私物としての侵略者に置き換えた。 だけれども、元々侵略者の文化では、親兄弟での殺し合いが当たり前なんだわ」

 

「支援者にもそういう文化を持つ種族はいたが、それほどなのか」

 

「それほどだ。 親兄弟での殺し合いで、国どころか文化圏が滅びた例さえある」

 

「そんなに」

 

誰かが驚きの声を上げる。

 

恐怖すら混じっていた。

 

親衛軍NO4_733081は結論を続けた。

 

「だから、仮に侵略者が自我を持って逃げ出して、繁殖を始めるようになっても、うまくいかないように遺伝子に細工を仕込んだんだ。 考えてみれば、私たちが遺伝子操作とかサイボーグとかにされて親衛軍として運用されていたのも納得だ。 あのナルシスト野郎からしてみれば、自分の肉体をそのまま増やして戦っているような感覚だったのだと思う。 それで自分は優秀極まりないのだから、その遺伝子を一部でも分けてやった存在が、優秀ではないはずがないと」

 

「く……狂ってる」

 

ミランは思わず吐き捨てていた。

 

あの指導者の異常な言動は間近で見て理解したが。

 

本当に筋金入りの血統主義者で。

 

それを悪辣なトラップにまでしていたのか。絶対に逆らえないようにし、逆らっても破滅すると。

 

まさに最悪だ。

 

しばし考え込んだ後。

 

パデラクスは言う。

 

「指導者の遺伝子データは、何しろ奴の体を手に入れたので分かる。 しかしそれを取り除くと、全てスカスカになる。 奴以前の侵略者の遺伝子データは」

 

「全て抹消されて……いや待て」

 

アルカラルドの民と、アポカラプスの民。

 

更には彼らが持ち込んでいた遺伝子データ。

 

そうか。

 

惑星アルカラルドから、コロニー船をわざわざ侵略者が回収した訳だ。そのDB内には、過去の侵略者の遺伝子データがあるかも知れない訳だ。

 

「よし、方針を決める」

 

「!」

 

バッコース大臣が動く。

 

皆が黙り込む中、告げた。

 

「現在稼働している侵略者には、指導者の遺伝子データが例外なく入っている。 これを利用して、奴らを潰せないか、研究を進めてほしい」

 

「了解!」

 

「もう一つは惑星アルカラルドⅠのコロニー船や、それから流出したデータの再精査だ。 徹底的に修復して、徹底的に調査してくれ。 侵略者の元の遺伝子データを取り出せるかも知れない。 更に言えば……」

 

肌の色という遺伝子異常を除けば。

 

アルカラルドの民と、アポカラプスの民こそが、そもそも侵略者の祖先と同じ存在。同祖で分化したのではなく、まんまそのままなのだと言える。

 

ただし、彼らは選民思想と主観主義を拗らせて、完全に排他の極地に至った種族だ。あれらは支援者には加えられない。

 

だとすると、遺伝子データから再生した者達に、きちんとした教育を施して。

 

全てはそれからか。

 

「侵略者についてはそれを当面の目標とする。 戦線は恐らくしばらくは動かない。 もし動くとすれば……」

 

侵略者の指導者と、その子孫達の完全抹殺を行う何かしらのシステムの完成。

 

それがターニングポイントとなるだろう。

 

これは種族の抹殺ではない。

 

いかれた理由で天の川銀河を潰しにかかっている屑野郎と。その私物と化した肉人形の排除である。

 

ひょっとすると、あと何千期も続くとされてきた侵略者との戦いが、終わるかも知れない。

 

その希望が、見え始めた瞬間だった。







この話からも分かるように、侵略者の指導者は極めて神経質で臆病であり、自分のコントロールに置かれないものを本気で憎んでいました。

仮に逃亡する侵略者が出ても短時間で滅びるように、全てに自分の遺伝子を組み込むという暴挙が出た。

その凄まじい狂気と執念は、身勝手な選民思想だけではなく、恐怖にも起因しているのです。



本作にどういった要素がほしいですか。要望があれば遠慮なくどうぞ。

  • 詳細なマシンデザイン
  • 圧倒的な武力による蹂躙
  • 緻密な人間ドラマ
  • 種族や文明の描写
  • 近接した力量のライバルとの死闘
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