王道ロボット戦記小説、血巡る戦場の記憶 作:dwwyakata@2024
敵を兵器工廠があるN176ブラックホール星系に追い込んだことで、ついに長らく続いたヴァーグラット戦線の結末が近づいてきています。
この星系は要塞同然の人工星系であり、衰えたりとはいえまだ400万隻以上の敵艦隊が此処を守っている状態です。
しかも侵略者の性質上降伏はありません。殲滅するしかないのです。
激戦が始まります。
序、要塞攻略戦開始
パドフ中将が得た直前のデータを元に、N176ブラックホール星系の精密地図が展開される。
現在804万隻に達する支援者艦隊が、422万隻に撃ち減らされた侵略者艦隊を、N176ブラックホール星系に追い込んだが。
前はすっからかんだったこの人工星系は。
今は難攻不落の要塞に変じていた。
超巨大ブラックホールの存在が確認されており、これをブラックホール展開機が包んでいる。
元々ブラックホールの制御技術はとっくに確立されており、以前小規模銀河の中心核だったらしいこの超巨大ブラックホール(天の川銀河が他の銀河と合体した時に取り込んだものであるようだ)は、今は資源の供出源となっているが。
いくつか厄介な点がある。
敵艦隊が、いくつか細工をしているのである。
ブラックホールに存在する、いわゆる事象の地平線。
そこから生じる強烈なガンマ線バーストを、防御に利用しているのである。
強烈なガンマ線バーストが発射されている地点がいくつか存在していて、それが明確な盾になっている。
またブラックホール周辺の状態も意図的に乱されていて。
重力異常。
時間異常も起こされていた。
それがこの大きくもない人工星系を複雑な迷宮のようにしていて。
なかなか兵器工廠に近づけないようにしている。
ちなみに敵はこの星系から出てこようとはしていない。
何度か挑発目的の攻撃が行われたのだが。
敵は完全に無視。
今の時点では、相手を引きずり出すことは不可能だという結論が出ていた。
ミランはミーティングに自室から参加しつつ、その話を聞く。無言でいるのは、今口を挟むべきではないと判断しているからだ。
「敵の援軍の可能性は」
「今の時点ではありません。 メタトロンが撃沈されたことにより、相当な混乱を引き起こしているとみられます。 それにこの人工星系の周囲では、現在六個艦隊が制圧作戦を進めており、ワープ阻害装置も展開している状態です。 敵は今回、各戦線から無理に兵力を捻出しており、これ以上は無理だという総司令部の結論です」
「だといいんだがな」
「いや、流石にこれ以上は敵も息切れだろう。 問題なのは、敵の兵器工廠だ」
その通りである。
超巨大ブラックホールは宇宙の鉱山だ。無尽蔵に物資を取り出すことが出来る。
こうしている今も、敵艦隊の修理と補給が進んでいるのが確認されている。このまま行くと、敵艦隊も補充されるだろう。
あまりもたついてはいられない。
兵糧攻めは、状況的に出来ないのだ。
「以前はあっさり兵器工廠に攻撃を入れられたという話であるのに……」
「それは敵艦隊がいなかったからです。 どれだけ頑強な要塞でも、無人では無意味だということです」
「そ、そうですね。 すみません」
誰か中将が余計な事をいい。
パドフ中将に窘められて、首をすくめていた。
パーミルトン大将が咳払い。
部署が違うのに、客員としてきてくれているのだ。失礼は許さないという無言の圧が感じられる。
実際先の決戦でも、パドフ中将がこなければ、前線が突破された可能性は普通にあったのだから。
「それで攻め手はあるか」
「は。 まずは三つに作戦地点を絞ります」
クルアッハ少将が提案する。
そして図が表示された。
この三つは、敵艦隊が逃げ込んだ地点も示しているという。
これらはガンマ線バーストも重力異常も起きておらず、入り込むのは容易。
ただしいわゆる死地になっており、入り込もうとすると袋だたきにされるのも確定だとか。
「戦いづらい地形のようだが、つけいる隙はあるのか」
「無人艦を放り込んでも無駄でしょうね。 まずは亜光速ミサイルを連続して投射して、敵の迎撃能力を飽和させます。 亜光速ミサイルには通信阻害用の物質も搭載し、破壊させることで敵の動きを封じます」
なるほど。
前回の決戦時、敵がやってきた事をやり返すわけだ。
そして、状況を見ながら、突入と撤退を繰り返すという。
「突入地点三つのうち、一つで攻勢を掛け、二つは敵の脱出を阻止に徹します。 通信阻害物質が散布されていますので、有人艦艇で攻めるしかありません。 被害が増えるのは覚悟しなければなりませんが……」
クルアッハ少将がいうと。
今回の戦役での被害を考えて、提督達が黙り込む。
パーミルトン大将がそれを見て言った。
「腰が引けていては、勝てる戦いも勝てなくなる。 第三艦隊が最前衛を務める」
「それは……!」
「流石に方面軍司令官が、司令部もろとも最前線に立つのは」
「そうでもしなければ、貴官らは勇気を振り絞れまい」
確かに、それはそうだ。
ただ第三艦隊は連戦で規模を半減させている。半数が戦死した訳ではなく、損傷した艦艇などが後方で修理を待っていたりする状態だ。特に高速機動戦艦等の精鋭部隊の被害が大きい。
無理はさせられない。
「橋頭堡を確保し次第、次の作戦に移行します。 以降は掃討戦を行いつつ、ブラックホール展開機に肉薄することになります」
「ブラックホール展開機なら破壊が比較的容易なのだったな」
「容易とは言っても、超巨大ブラックホールのブラックホール展開機です。 主砲を一発撃ち込んだ程度で機能停止は不可能です。 ただ、映像を確認して、弱点部分は既に割り出しています」
まるでブラックホールを包み込むような巨大な四本の腕状の構造が、四つの結節点でつながっている。
その中の一つ。
節くれた部分が、赤く強調された。
「この地点の破壊は、ブラックホール展開機と、兵器工廠の連携を断ちます。 兵器工廠の電源も、ブラックホール展開機から供給されている要素が大きく、これを断てば或いは……」
破壊することも出来るし。
陸戦部隊を送り込んで制圧すれば、敵の大規模拠点を丸々手に入れられる、ということだろう。
ミランはなるほどと思った。
ただし、話を聞く限り、要塞攻略戦で、敵は必死の抵抗をしてくる。
ちょっと違うか。
今まで何度か経験した侵略者の制圧した星での地上戦のように。
それこそ自爆特攻を繰り返してくるはずだ。
ぞっとしない話である。
だが、それでもやらなければならないが。
「攻略までの想定被害は120万隻を覚悟しています」
「120万……!」
「此処で敵の超巨大ブラックホールを奪えば、敵の補給能力を大幅に奪うことが出来ます。 更に敵の兵力そのものも大幅に削れるでしょう。 攻略の価値はあります。 現在、増援を手配して貰っています。 橋頭堡確保後は、盾艦を用いて猛攻をしのぎながら、確実に敵を削る事になるでしょう」
皆が黙り込む。
それに、第三艦隊が先陣を切ると言っている以上、下がるともいえない。
パーミルトン大将は、この辺りはとてもうまい。
意固地なだけではなくて、きちんと部下を使えてもいる。
ただし、それは或いはだが。
パドフ中将のやり方を見て、覚えたのかも知れないが。
「それではミーティングを終了する。 増援部隊が届き、各艦隊の補給、修理が完了し次第、敵要塞星系に仕掛ける!」
敬礼。
それで会議は終わった。
ミランは横になると、ため息をつく。色々厄介だなと感じたからである。
簡単に勝てる相手じゃない。
被害120万隻というと、下手すると死者は億を超える。
既にヴァーグラット戦線にメタトロンがきてから撃沈までで、通算での味方の死者が三億を超えているとか聞いた。
これに更に一億が追加か。
皆、人生がある者達が三億。
この要塞攻略戦でも更に一億。
命を落とすことになる。
ミランは悲しい話だと思うが。侵略者に星を襲われた場合、民間人がその何十倍も命を落とすのだ。
それは看過できなかった。
通信が来る。
クルアッハ少将だった。
「ミラン中佐。 いくつか残念な話がある」
「はい」
「今回の君の功績は素晴らしいが、人事のバランスで、勲章の授与で済ませるそうだ。 階級は据え置きで中佐となる」
「いえ、階級にはこだわりません。 気になさらないでも大丈夫です」
そうかと、クルアッハ少将はいう。
ただ、これだけの功績を挙げて出世が無しとなると、兵士達はあまりいい顔をしないのも事実だそうだ。
自分もそうなるのではないか。
そういう意見が出るから、らしい。
「もう一つは、この要塞攻略戦を終えた後、また辺境の戦線に飛んでほしい。 侵略者から攻撃を受けている星の奪還作戦なんだがな」
「侵略者が完全に抑えている星よりも、現在進行形で人々が虐げられている星を守るべきではないのでしょうか」
「分かる。 だが、此処が厄介極まりない曰く付きの星でな。 赴任した司令官が、ずっと頭を痛めているのだ」
どういうことなのか。
話によると、住んでいる原住民が非常に問題のある種族で、支援者にさえ敵意むき出しなのだという。
ヒューマノイド種族なのだが、非常に独善的で傲慢な種族であり。
この戦争が終わったら賠償をよこせとか。
侵略者がきたのは支援者のせいだとか。
植民星をいくつか住める状態でよこせとか。
無茶苦茶な要求をしてきているという。
勿論彼ら単独で侵略者と戦う力はない。それなのに、支援者に対していつも敵意を向けていて、支援に向かうと罵声が必ず飛んでくるとか。
「縄張り意識が強い種族なのでしょうか」
「いや、それはよく分かっていない。 ただ上層部としては、侵略者を追い払った後は、関わり合いになりたくないらしい。 さっさと戦闘を終わらせたくて、君を送り込みたいそうだ。 支援者に加わらないかという提案さえ蹴られたらしくてな」
「はあ……」
ミランのウォーリア三型なんか、戦局を決定する力は無い。
だったら10万隻でもいいから援軍の宇宙艦隊を出すべきだろうと思う。それで数の力で押しつぶすべきだろうに。
まあ、まだ告げられていない事情があるのかもしれない。
「次はストレスフルな戦場になる。 不愉快な思いをするかも知れないが、その戦線を片付けるのに貢献してくれたら、特務の大佐となることを約束しよう」
「先にも言いましたが、地位にはこだわりはありません」
「そうか。 だが大佐になれば色々動きやすくなる」
「……」
ウォーリア三型ですらエネルギーの残量が怪しくなってきた今。
これを強化できるかも知れない。
そう思うと、アリかも知れないとは感じたが。
だがそのために、ハコトや整備クルーまで危険にさらすのは考え物だ。
「今はともかく、N176ブラックホール星系の制圧に集中しましょう」
「うむ、頼む」
通信が切れる。
面倒な話になっている。
次の戦場は。今回とはまた別の意味で、過酷極まりないものになるかも知れなかった。
メタトロンが撃墜された後、侵略者の指導者は、N176ブラックホール星系の工廠に通信で姿を見せた。
勿論怒り狂っていた。
指導者の愛用しているメタトロンが破壊されたことは当然無能な部下達のせいにきまっているし。
それどころか、メタトロンには指導者が自分で作った像がいくつか積まれていたのだ。
勿論暇つぶしに作ったものだが、それでも侵略者の命1億より重いと指導者は考えている。
それがよりにもよって肉の手に渡り穢されている。
それで激怒して、指導者はまた人員をあらかた粛正した。
その後は、徹底抗戦、玉砕を命じて。
新しく作り直した侵略者達に後を任せて通信を切る。
もう知らない。
そういういじけ方だった。
親衛軍NO3_009116は、そのヒステリーぶりを失笑しながら見ていたが。しかし、指導者はそれで通信を切った。
普段は遠隔でも指揮を執るものだが、それを放棄したのだ。
体の一つ……生体端末の一つが破壊されたのも要因なのだろうが。恐らく悟ったのだ。この戦いは負けたのだと。
指導者の生体端末が破壊されたのは何時ぶりなのだろう。
親衛軍NO3_009116が知る限り、ここ200期はない。以前破壊されたのは、メタトロンの同級艦であるミカエルが破壊された時。
それ以降、指導者は神経質なくらい前線に出るのを避けてきた。
それがここ最近の負けの続きで苛立ったのか、久しぶりに最前線に出てきたわけだが。
200期前に比べても、色々と衰えているのではないか。
それを自覚したのであれば。
これは面白い事になりそうだと、親衛軍NO3_009116は思った。
とりあえず、いくつかの手を打つことにする。
表だっての造反をすると流石に気付かれるので、他の親衛軍とも当然接触はしない。データに直に接触するような真似もしない。
自分の記憶と意識がどこに転写されているか。
それを確認しておきたい。
恐らくは母星近くにあるという超巨大圧縮型DBだろうとは思うのだが。
指導者がお気に入りの親衛軍を量産しない理由がよく分からない。
同じ意識を持つ存在が二人以上いると問題が発生するとか言う話もあるらしいのだけれども。
オカルトだろうと、親衛軍NO3_009116は考えていた。
少し考えた後。
機体の整備を任せた後、工廠内の設備を調べておく。
いくつかDBがある。
だが、どれもメタトロンに搭載されていたほどの強力なものじゃない。
恐らくメタトロンに搭載されていたDBは敵の手に渡ったはずだ。
あれの中に親衛軍NO3_009116の生態情報があれば話は早いのだが。事はそう簡単ではないだろう。
いくつか考えた後、面白い場所を見つける。
これをそのまま切り離せば。
DBをほぼ無傷のまま、敵に引き渡せる。
この間のメタトロンのDBと、此処のDB。
特に此処のは、親衛軍NO3_009116の記憶データをリアルタイムで記録している筈だ。
再生する時に備えて、生体データもある可能性がある。
ならば。
戦闘が佳境になった時、これを切り離すように破壊すれば良い。
後はどう破壊するか、だが。
それについては、いくつか手段がある。ただしそれをやる場合は、余程上手にやらないとまずい。
知られたら一瞬で殺されるのは、今も同じなのだ。
いくつかの手を考えておく。
我ながら悪辣な事だ。
そう考えて、くつくつと親衛軍NO3_009116は笑った。他の親衛軍は、もはやそれすら出来ない。
いや、違う。
親衛軍NO3_009116だってそうだった。
ミランというあの戦士と何度か戦っているうちに、急激に感情が戻ってきているように思う。
これはこれは。
或いはだが、他の親衛軍も同じようにすれば。
愛するものも、或いは。
ふっと笑うと、親衛軍NO3_009116は、要塞防衛戦で丁度良いタイミングまで死なないようにすべく。うまい立ち回りを考えるのだった。
此処からだ。
この肉体を失うことは仕方がない。
ナノマシンなしでは生きられないし、造反がばれれば確定で死ぬ。指導者の手から離れても死ぬ。
だったら記憶と意識を何らかの形で持ち越すしかないのだ。
生物としてのあり方について、親衛軍NO3_009116はあまり考えていない。
実際親衛軍になってから、何度も作り直されては記憶を移植されている。
第四世代の親衛軍だって、第三世代から記憶を持ち越され、バージョンが上がっている者もいる。
そもそも侵略者自体が、現在ではクローンで増えている状況だ。
生物のあり方など考えても滑稽なだけだ。
その考えていくと、侵略者自体が生物として許されないことになる。
親衛軍NO3_009116はそんな理由で死ぬつもりはない。
記憶と意識こそが親衛軍NO3_009116だ。
それを持ち越して、なんとしてでも生きてやる。
それが指導者の手下から脱するために必要なモチベだ。
そしてその機会は何度も訪れない。
ずっとヴァーグラット戦線で戦い続けてきた親衛軍NO3_009116だからこそ、それは嫌になるほど理解していた。
さて、細かいスケジュールを組むか。
敵にはかなり手強い司令官がいる。そいつだろう。先の二回の大規模戦闘で形勢をひっくり返した奴は。
それに加えてミランもいる。
油断すると一瞬でやられるな。
特にミランは更にこの瞬間も強くなっている。
あれは指導者が宇宙最強最高を自称しているのが滑稽になるほどの戦闘適性だ。記憶の並列蓄積までして共有している親衛軍が、既にほとんど勝てる者がいなくなってきている。戦うのが楽しみであると同時に。
作戦遂行の際に戦う際には、冷や汗ものだ。
だが、それこそが。心臓をつかまれるようなスリルが、親衛軍NO3_009116を楽しませてくれる。
概ねの作戦は立てた。
後は、出来るだけ無傷で。兵器工廠の巨大DBを敵に渡し、それで。
親衛軍NO3_009116は自由を手に入れるのだ。
※N176ブラックホール星系
超大型ブラックホールN176を中心とした星系です。このN176は元々は別の銀河の中心核だったものが、天の川銀河と衝突して取り込まれたものです。
本作の世界ではブラックホールは鉱山と同じで、このN176ブラックホールにも巨大なブラックホール展開機が据え付けられ、重要な侵略者の鉱山となっていた他。
巨大な兵器工廠(地球なんかよりずっと巨大です)と一体化していて、大量の兵器を生産して吐き出していました。
これを落とすべく始まったのがヴァーグラット戦線です。
そして今、ついにこの戦線の締めくくりとして、N176ブラックホール星系の攻略戦が始まったのです。
本作にどういった要素がほしいですか。要望があれば遠慮なくどうぞ。
-
詳細なマシンデザイン
-
圧倒的な武力による蹂躙
-
緻密な人間ドラマ
-
種族や文明の描写
-
近接した力量のライバルとの死闘