王道ロボット戦記小説、血巡る戦場の記憶 作:dwwyakata@2024
侵略者の指導者は怒り狂っていた。ずっと怒ってばかりだ。そしてその理由は、全部無能な部下にある。少なくとも指導者の中ではそうだった。
敵のいまだかつてない大規模攻勢。
その中で、突出した艦隊の一つが、ピンポイントで予備の肉体をおいている星系を攻撃している。
今は覚醒させていない肉体だが、どうしてこのようなことに。
裏切り者でも出たのか。
だが、誰にも知らせて等はいない。
この星系を攻撃しても割に合わない。
そう思い込ませるために、今ありったけの戦力をつぎ込んでいるのだが。敵は諦める様子がない。
それが更に指導者を苛立たせていた。
「ウォフ・マナフの準備はどうなっている!」
「調整中です」
係留中の最大親衛艦は11隻。それらはとにかく維持だけで凄まじいコストを用いるし。指導者が端末とは言え乗り込むとなると手間も掛かる。
それもあって、簡単には出撃できない。
ウォフ・マナフはいつでも出られるように準備をさせていた最大親衛艦の一隻なのだが。
それでも即座に出られないのは事実だ。
「さっさとしろ!」
「最大速度で実施中です」
「無能が!」
吐き捨てると、指導者は通信をつなぐ。
親衛軍の科学者のところだ。
そろそろ機嫌が直ったか。
通信越しに様子を見に行くが、相変わらず膝を抱えてむくれていた。
「おい、そろそろ機嫌を直せ! 私が今出なければならないほどの事態になろうとしているのだ!」
「……」
無視か。
此処で更に暴力でも振るうと、機嫌を直すまで更に時間が掛かる。此奴は面倒くさい奴だなと、指導者は思った。
自分の方が余程人格に問題があることは、指導者は気づけていない。
今後も気づくことは永久にないだろう。
「意見を聞かせろ! 今回の状況、偶然か! それにしては様子がおかしい!」
「もう私を殺さないと約束してくれるのであれば」
「私にそのような命令をするつもりか!」
「……」
頭に血が上る。
徹底的に拷問してやろうかと思ったが、どうにか踏みとどまる。ちょっと殺したくらいでむくれるのだ。
拷問なんかしたら、後は永久に言うことなど聞かなくなるだろう。
指導者がここまで自制心を働かせなければならないのは、此奴だけだった。
「分かった、貴様に落ち度がない場合に限りな」
「前もそんなことを言っていたのに、感情にまかせて私を殺しましたよね」
「黙れ……っ」
「……」
埒があかない。
仕方がないので、約束してやる。
そうすると、しばしして。
親衛軍の科学者は話し始めた。
「これは必然ですね」
「なんだと……」
「少し前にいさなに制裁を受けたでしょう。 いさなと肉が連携していたとは私も思いませんが、その様子が恐らく超光速通信で漏れたのだと思いますね」
怒りで沸騰しかけるが。
それでもどうにかこらえる指導者。
制裁だの何だのと言う言葉がかんに障ったからだが。今は我慢しなければならないのである。
続きを言わせる。
「肉体の並列化と意識のクラウド化がそれでばれたんです。 だから、そのシステムをかっさらいに来たと見て良いでしょうね」
「ふ、ふざけ、ふざけおって……! この私の神聖不可侵の肉体を……!」
「神聖不可侵はともかく、この様子だと自爆も増援も間に合わないと思いますよ。 相手には貴方ご自慢の親衛軍ウォーリアをばったばったと倒しているミランって肉が確実に来ているでしょうし」
「あんなものは何かしらのインチキをしているだけだ! 私の選抜した完璧な戦士達の方が優秀に決まっている!」
吠え猛るが。
まったく科学者はどこ吹く風だ。
「完璧も何も、自分好みに作り出しただけでしょうに。 ともかく、並列化と、意識のクラウド化のシステムを急いで作り直すべきだと思いますね。 下手をすると、全部まとめてやられると思います」
「……分かった」
「お急ぎをー」
相変わらずなめた口を利いてくる。
だがこいつが、他の科学者を束にしたより頭が切れるし、仕事が出来るのも事実なのである。
我慢しなければならない。
いくつかの手を打つ。
科学者を増員して、新規システムの構築に取りかからせるが、一から十まで指示をしなければならないので手間が掛かる。
これも全部、意識も思考能力も奪った当然の帰結なのだが。
勿論指導者はそれに気付くことなど出来なかった。
ただ無能な部下に怒り続けるが。
部下を無能にしたのは自分である事にも気付けなかった。
それがあらゆる優性思想と選民主義を凝縮した先に生まれた怪物の。
限界だったのかも知れなかった。
(続)
侵略者の指導者は、客観という概念を持っていません。
これは彼が生まれた時代の侵略者が、客観という概念を笑い飛ばし、捨て果てたからですね。
彼は不世出の天才だった。それは間違いないことです。
あらゆるスペックで史上最高だった。それも間違いないことです。
しかし、それでも。
どうしても生まれ育った時代の影響は受けてしまったのです。
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