メイクデビューから二週間後。
スペシャルウィークは、芝二千メートルの芙蓉ステークスへ出走した。
GⅠではないため、この日も勝負服ではなく白い体操着とゼッケン姿。デビュー戦より距離は二百メートル延びているものの、中距離適性とこれまで積み上げてきたスタミナを考えれば、距離そのものに不安はなかった。
課題は、前走で覚えたことをもう一度自分の力で再現できるかどうかだ。
『芙蓉ステークス、スタートしました!』
ゲートが開く。
【集中力】
スペは落ち着いてスタートを決め、そのまま五番手へ収まった。無理に前へ出ようとはせず、先頭集団から少し距離を取った位置で周囲の動きを確認する。
メイクデビューでは、前を塞がれそうになったことで早めに外へ進路を確保した。今回はその経験を最初から意識しているのか、内側へ入りすぎず、いつでも動ける位置を維持していた。
「いい位置だね」
序盤から中盤にかけても、スペは落ち着いていた。
前のウマ娘が速度を上げてもすぐには反応せず、自分の呼吸と残っている体力を確認しながら走っている。以前なら「前へ行きたい」という気持ちだけで追いかけていたかもしれないが、少しずつレースの中で我慢することを覚え始めていた。
千メートルを過ぎた頃、スペの呼吸が一度だけ僅かに乱れた。
「少し苦しい……」
それでも慌てず、腹部へ力を入れながら長く息を吐く。呼吸のリズムを整え、肩から余計な力を抜いたことで、消耗しかけていた身体が再び滑らかに動き始めた。
その瞬間、俺の視界へ新しい表示が浮かぶ。
【スキルを習得しました】
【栄養補給】
【レース中盤で呼吸と身体の使い方を整え、持久力の消耗を軽減します】
「レース中に……覚えた?」
驚いたのは一瞬だけだった。
今はスキルより、レースを見る。
第三コーナーから前方の動きが激しくなり、スペも徐々に位置を上げていく。最終コーナーへ入る頃には四番手まで進み、外側に十分な進路を確保していた。
直線へ向く。
前には三人。
先頭までは四バ身ほど。
「ここからだよ、スペ」
【末脚】
スペが一気に加速する。
残り三百メートルで三番手へ上がり、二百メートルを過ぎたところで二番手を捉えた。先頭を走るウマ娘も必死に粘るが、最後まで余力を残していたスペの勢いは衰えない。
残り百五十メートルで先頭へ並び、そのまま一気に抜け出す。
『スペシャルウィーク、先頭! さらに後続を突き放していく!』
ゴールまで速度を落とすことなく走り切り、二着との差は四バ身。
『一着、スペシャルウィーク! メイクデビューから無傷の二連勝です!』
芝二千メートルへ距離が延びても、スペは危なげなく結果を残した。
◇
「トレーナー!」
レースを終えたスペは、こちらを見つけるなり満面の笑顔で駆け寄ってきた。
「勝ったよ!」
「ああ。おめでとう、スペ。今日もいいレースだったよ」
「これでホープフルステークスに出られる?」
「実績としては十分だよ。このまま問題なく調整できれば出走できる」
「やった!」
スペが勢いよく抱きついてくるのを受け止めながら、俺は身体の状態を確認した。
【スペシャルウィーク】
芙蓉ステークス:一着
着差:四バ身
【ジュニア期 二戦二勝】
体調:好調
疲労:小
故障:なし
【集中力:実戦使用成功】
【末脚:実戦使用成功】
【新規習得】
《栄養補給》
脚や関節に異常はなく、疲労も通常のレース後として問題のない範囲だった。何より、メイクデビューより明らかにレース運びが上手くなっている。
「今日は中盤でも落ち着いていたね。前の子が動いても、すぐ追いかけなかった」
「うん。トレーナーが、全部に反応してたら最後に疲れちゃうって言ってたから」
「途中で少し呼吸が苦しくなってたでしょう?」
「やっぱり分かった?」
「ずっと見てるからね」
「その時ね、ご飯を食べたあとみたいに、身体へ力が戻ってくる感じがしたの」
「ご飯を食べたあとみたいに?」
妙にスペらしい表現だったが、先ほど習得した《栄養補給》の感覚を言葉にすると、本人にとってはそうなるらしい。
「苦しくなった時、息を長く吐いてたよね?」
「うん。お腹に力を入れて、ゆっくり息を吐いたら楽になったの」
「その感覚は覚えておいて。《栄養補給》っていう新しい技術になってる」
「またスキル覚えたの!?」
「ああ。中盤で無駄な力を抜いて、持久力を保つための技術だね」
「じゃあ、もっといっぱい食べたら、もっと使えるようになるかな?」
「……それは違うと思うよ」
「そうなの?」
「たぶんね」
その時は、ただの冗談に近い会話だと思っていた。
メイクデビューから二連勝し、新しいスキルまで身につけた。次はいよいよジュニア期最初の大舞台となるホープフルステークスで、初めて勝負服を着てGⅠへ挑む。
スペの競走生活は、これ以上ないほど順調に進んでいる。
少なくとも、その日のレースが終わるまではそう思っていた。
◇
「スペちゃん……今日はずいぶん食べるのね」
「ホープフルステークスに向けて、いっぱい力をつけないといけないから!」
翌日の昼休み。
学園の食堂でスペの前に積み上げられた空の皿を見て、グラスが珍しく困ったような表情を浮かべていた。
大盛りのご飯に焼き魚、生姜焼き、野菜炒め、うどん。すでにそれだけ食べ終わっているにもかかわらず、現在はデザートへ突入しており、スペの手元にはプリンとケーキまで並んでいる。
「その理屈なら、いっぱい食べるのは当然デース!」
隣ではエルも負けじと大盛りの丼を食べていた。
「エルちゃん、勝負だよ!」
「望むところデース!」
「二人とも、食事量を競うものではありませんよ?」
グラスが止めようとするが、二人の勢いはなかなか止まらない。
「食べられることと、食べてよいことは別ですわ」
キングも呆れたように指摘する。
「でも私、昨日レースの途中で《栄養補給》ってスキルを覚えたんだよ! だから、いっぱい食べたらもっと強くなると思うの!」
「それはなかなかすごい理論だねぇ」
少し離れた席で食事をしていたセイウンスカイが、面白そうに口元を緩めた。
「でも食べた分だけ速くなるなら、みんなトレーニングしないで食堂にいればいいんじゃない?」
「うっ……」
あまりにも正しい指摘に、スペの箸が一瞬止まった。
しかし、ちょうどその時。
「お待たせしました。追加のフルーツパフェです」
「わあ!」
目の前へ新しいデザートが置かれた瞬間、反省らしきものは綺麗に消え去った。
「これは別腹だから大丈夫!」
「今の話を何も聞いてませんわね……」
キングが深いため息をつき、グラスも心配そうにスペを見つめる。
それでも当の本人は幸せそうにパフェを食べていた。
◇
その日の放課後。
トレーニングコースへやって来たスペは、いつもと変わらず元気だった。
「トレーナー、今日も頑張ろう!」
「うん。その前に身体の確認をするね」
「はーい」
肩、腰、脚と順番に状態を確認していく。
前日のレースによる疲労は抜けており、筋肉の状態も良好。故障につながるような違和感もなかった。
ただし。
システムに、それ以外の表示が追加されていた。
【スペシャルウィーク】
体調:絶好調
疲労:なし
故障:なし
【保有スキル】
《集中力》
《末脚》
《栄養補給》
【新規傾向】
《食いしん坊》
【バッドコンディション】
《太り気味》
「……スペ」
「なに?」
「今日のお昼、何を食べたのかな?」
その質問をした途端、スペの耳がぴくりと動き、視線が俺から逸れた。
「ご飯と、お魚と、お肉と、野菜と、おうどんと……」
「うん。それから?」
「プリンとケーキとお汁粉と……キングちゃんが残したサンドイッチを少し」
「キングが残した分まで食べたの?」
「食べ物を残すのはもったいないから!」
「どのくらい?」
「二皿くらい……」
「それは少しじゃないね。他には?」
スペの視線がさらに泳ぐ。
「エルちゃんと購買でパンを……」
「何個?」
「三つ」
「なるほど」
「……怒った?」
「怒ってはいないよ」
ただし、原因はほぼ確定した。
「スペ、体重を測ろうか」
「えっ」
耳が固まった。
「き、昨日も測ったよ?」
「昨日は昨日。今日は今日だからね」
「でも、体重計さんも毎日働いたら疲れちゃうかもしれないよ?」
「機械の心配はしなくて大丈夫だよ」
「うぅ……」
何とか測定を回避しようとするスペを連れて、測定室へ向かう。
結果は予想どおりだった。
昨日までの身体と比べ、明らかに体重が増加している。成長やレース後の回復による自然な変動の範囲ではなく、単純に摂取量が多すぎた。
【バッドコンディション】
《太り気味》
【急激な体重増加を確認】
【重心位置:僅かに変化】
【高負荷トレーニング時、脚部負担増加の可能性あり】
「す、少しくらいなら大丈夫だよね?」
「今すぐ走れなくなるほどじゃないよ。でも、このままホープフルステークスへ行くのは駄目かな」
「そんなに!?」
「急に増えた分だけ、いつもと身体の重心が変わってる。この状態で今までと同じ強度の練習をしたら、走りづらいだけじゃなくて脚へ余計な負担がかかる」
「……」
スペの耳と尻尾が同時にしょんぼりと垂れ下がった。
「ごめんなさい……」
「怒ってないって」
俺は落ち込んだスペの頭を優しく撫でた。
「食べることが好きなのは、スペの悪いところじゃないよ。練習やレースでたくさん身体を動かすんだから、しっかり食べることも大切だ」
「でも、食べすぎた」
「そこは反省だね」
「はい……」
必要な栄養を取ることと、好きなだけ食べることは違う。
スペは食事から得たエネルギーを走りへ変換する感覚が強く、《栄養補給》を覚えたことでそれをさらに意識するようになった。その結果、「食べれば強くなる」という極端な方向へ考えが走ってしまったのかもしれない。
そして、システムに現れた《食いしん坊》という表示も気になる。
【《食いしん坊》】
《栄養補給》から派生中
【習熟度:低】
【スキルとして未完成】
【現在は食欲傾向が先行しています】
将来的には《栄養補給》をさらに高い次元へ昇華できる可能性がある。
けれど今は、名前のとおり食欲のほうが先走っている状態だった。
「ホープフルステークスまで、食事を一度見直そう」
「ご飯……減っちゃう?」
「単純に量を減らすだけじゃないよ。身体を作るために必要な栄養は確保しながら、今のスペに適した量へ調整する」
「お腹いっぱい食べられない?」
「満足できるように料理を工夫するよ」
「料理?」
スペが顔を上げる。
「今後は俺がスペの食事管理をする」
「トレーナーが?」
「うん。養成機関で栄養学も調理も勉強したからね」
「トレーナー、料理できるの!?」
「北海道にいた頃だって何回か作ったでしょう?」
「あっ! シチュー!」
「覚えてた?」
「あれ、すっごく美味しかった!」
「それなら味の心配はしなくていいかな」
スペの耳が少しずつ立ち上がる。
「毎日トレーナーの料理を食べられるの?」
「寮や学園とも相談するけど、少なくとも食事内容は全部俺が管理するよ。朝と昼は献立を食堂へお願いして、夕食は時間が取れる日は俺が作る」
「毎日!?」
「ホープフルステークスが終わっても、基本的にはね」
「それならダイエット頑張る!」
「さっきまで落ち込んでたのに」
「だってトレーナーの手料理だよ!」
スペは嬉しそうに俺の両手を握った。
「なんか、お嫁さんみたい!」
「作るのは俺だから、どちらかというとスペがお嫁さん側じゃないかな」
「えっ」
口にしてから、昔の約束を思い出した。
スペもまったく同じことを思い出したらしい。
顔が見る見る赤くなる。
「わ、私がお嫁さん……」
「ごめん、今のは深い意味ないから忘れて」
「忘れない!」
「スペ?」
「絶対に忘れないからね!」
さっきより強く手を握り直してくる。
「……まずはホープフルステークスまでに身体を戻そうか」
「うん! 将来のためにも頑張る!」
「将来?」
「なんでもない!」
そう言いながらそっぽを向くスペの尻尾が、嬉しそうに揺れていた。
◇
その日の夕方。
学園の許可を取り、トレーナー用の調理室でスペの夕食を作った。
メインは鶏むね肉と豆腐を混ぜたハンバーグ。そこへ根菜を多く使った具だくさんのスープ、玄米を混ぜたご飯、温野菜を添える。デザートには砂糖を控えたヨーグルトと果物を用意した。
量そのものは極端には減らしていない。
身体を動かすウマ娘にとって、過度な食事制限はむしろ危険だ。脂質や余計な糖分を抑え、たんぱく質や食物繊維を確保しながら、満腹感が長く続く内容へ変えている。
「いただきます!」
スペは目の前のハンバーグを一口食べた。
そのまま数秒、動きが止まる。
「……どう?」
「美味しい!」
次の瞬間、表情が一気に輝いた。
「すっごく美味しいよ、トレーナー!」
「それならよかった」
「これ、本当にダイエットのご飯なの?」
「必要な栄養を取るためのご飯だよ。だから量を守れば大丈夫」
「おかわりは?」
「スープと温野菜なら一回ずついいよ」
「やった!」
「ただし、もう少しゆっくり食べようね」
「はひ」
「口に入ってる時に返事しない」
スペは慌てて飲み込んだ。
「はーい」
一口ずつよく噛むよう伝えると、食事の速度も少しずつ落ち着いた。食べる量だけではなく、満腹感を感じるまでの時間も大切だ。
「どう? 足りなさそう?」
「ううん。ちゃんとお腹いっぱいになってきた」
「それなら成功かな」
「毎日これなら、ダイエットも全然平気!」
「毎日ハンバーグではないよ」
「えっ」
「魚の日もあるし、煮物の日もある。もちろんスペの好きな物も入れる」
「じゃあ楽しみ!」
食べる喜びを奪う必要はない。
むしろ、食事が好きなスペだからこそ、正しい形で楽しめるようにしたい。
◇
食事を見直す一方で、トレーニングの内容も一時的に変更した。
急激に体重を落とそうとはせず、軽い有酸素運動と体幹トレーニングを中心にしながら、余分に増えた分だけを少しずつ戻していく。走行フォームも毎日確認し、体重変化によって脚に無理な負担がかかっていないかを慎重に見た。
スペ自身も、今回はかなり真面目だった。
「今日の昼、ちゃんと献立どおりだった?」
「うん!」
「デザートは?」
「果物だけ!」
「購買は?」
「……通っただけ!」
「エルと一緒に?」
「パン見ただけ!」
「よく我慢したね」
「えへへ……褒められた!」
もちろん、何も食べさせないわけではない。
練習量に応じて間食もこちらで用意し、空腹のまま我慢させることはしなかった。それでも以前のように、昼食後にパンを三つ追加するようなことはなくなった。
一週間後。
【スペシャルウィーク】
体調:絶好調
疲労:なし
故障:なし
【バッドコンディション】
《太り気味》
↓
【解消】
【体重:適正範囲】
【重心:正常】
【脚部負担:正常】
「戻ったよ」
「本当!?」
「ああ。太り気味は完全に解消してる」
「やったぁ!」
スペが両腕を上げて喜ぶ。
「よく頑張ったね」
「じゃあ今日からいっぱい食べても――」
「元に戻したら意味ないよ」
「言う前に止められた!」
「スペの考えてることは大体分かるからね」
「むぅ……」
頬を膨らませているものの、本気で不満なわけではなさそうだ。
「それじゃあ、身体も戻ったし、今日は最後に二百メートルだけ動きを確認しよう」
「うん!」
スペが芝コースへ入る。
無理に速度は上げず、まずは中盤の走りを想定して呼吸を整える。
【栄養補給】
以前よりも自然に身体の力が抜け、呼吸が安定する。
そこから残り二百メートル。
【末脚】
滑らかに速度を引き上げ、設定したゴールまで綺麗なフォームのまま走り切った。
【《栄養補給》】
習熟度:上昇
【《食いしん坊》】
習熟度:上昇中
【上位スキル化条件:未達成】
【現段階での習得は非推奨】
《食いしん坊》へ進む下地は確実にできている。
それでも、今すぐ完成させる必要はない。
ジュニア期のスペに必要なのは、金スキルを次々と増やすことではなく、基礎技術を確実に自分のものにすることだ。より高度なスキルへ進むのは、クラシック期へ入り、レース経験と身体がさらに成長してからでいい。
「トレーナー!」
走り終えたスペが、軽い足取りでこちらへ戻ってくる。
「どうだった?」
「身体の動きも呼吸も問題なし。以前より《栄養補給》も自然に使えてるよ」
「太り気味も?」
「完全に解消」
「じゃあ、今日の夕食はご褒美?」
「スペの好きな人参ハンバーグにしようか」
「やった!」
嬉しそうに飛びついてくるスペを受け止める。
「トレーナーの料理、これからもずっと食べていいんだよね?」
「担当している間は食事管理するつもりだよ」
「担当が終わったら?」
「担当が終わったら……」
そこまで考えたことはなかった。
トレーナーと担当ウマ娘である以上、いつか競走生活には区切りが来る。その時も俺とスペの関係が終わるわけではないが、毎日の食事まで作る理由があるのかと言われれば話は別だ。
答えに迷っていると、スペが俺の胸へ額を預けた。
「担当が終わっても、作ってほしいな」
小さな声だった。
けれど、その意味に気づかないほど鈍くもない。
幼い頃に交わした約束。
日本一になった時、もう一度聞かせると言われた言葉。
それを思い出しながら、俺はスペの背中へ腕を回した。
「分かった。その時が来ても作るよ」
「本当?」
「ああ」
「約束?」
「約束」
スペは顔を上げると、嬉しそうに笑った。
「えへへ……じゃあ私、絶対日本一になるからね!」
「食事のため?」
「それだけじゃないよ!」
「分かってるよ」
二人で笑いながら、今日の練習を終えた。
◇
その日の練習後。
トレーナー室へ戻ると、机の横に見慣れない大きな衣装ケースが置かれていた。
「これ、何?」
「名前が書いてあるよ」
スペがケースへ近づく。
表面には、はっきりと書かれていた。
【スペシャルウィーク】
【GⅠ出走用勝負服】
文字を読んだ瞬間、スペの表情からいつもの賑やかさが消えた。
「……これが、私の勝負服?」
「ああ」
ホープフルステークス。
GⅠ。
スペにとって初めてとなる大舞台。
そして、これまで体操着とゼッケンで走ってきた彼女が、初めて自分だけの勝負服を着て挑むレースでもある。
スペは少し緊張した様子でケースへ手を伸ばし、蓋へ指をかけたところで一度俺を振り返った。
「トレーナー」
「うん?」
「一緒に見てくれる?」
「もちろん」
俺が隣へ立つと、スペは安心したように笑った。
芙蓉ステークスを制して二戦二勝。
《栄養補給》という新しい技術を身につけ、その勢いで食べすぎて《太り気味》になり、初めて本格的な食事管理まで経験した。
少し寄り道もした。
それでも、身体はもう最高の状態へ戻っている。
ホープフルステークスまで、残り一週間。
日本一を目指すスペシャルウィークが、初めてGⅠの舞台へ立つ日が近づいていた。
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