――ねえお父さん、このお人形買って!
今日も『僕』の可愛い『妹』が、愛らしい上目遣いでなにかをおねだりしている。
童話のお姫様のような洋服に包まれたその子は、『僕』にそっくりなその顔をこちらに向け、花が咲くような笑顔を見せた。
――『ランラン』! ランランも何か欲しいものは無いのか? 『私』が一緒におねだりして……
『僕』はそんな『妹』に、いつも通りの笑顔で応え――
「――朝、か」
今日も広い部屋の中、レースカーテンの掛かった天蓋付きのベッドで『ワタシ』は目を覚ました。
壁のコルクボードには、数々の家族写真がマスキングテープで貼り合わせてある。部屋の隅にはファンシーなデザインのドレッサーが、窓際には造花が挿された瓶が立っていて。そしてワタシもまた、その部屋の内装に相応しいネグリジェを身に纏い、柔らかいナイトキャップを被っていた。
ふかふかのカーペットが敷かれた部屋を出て、すぐ隣のドアをノックする。ドアプレートに『アンちゃんのお部屋』と、可愛らしく飾られた文字が踊っているドアを、返事が返ってくるのを待たずに開けた。
「アンちゃん、おはよ。もう起きる時間だよ」
電気も点けずに薄暗いままの部屋の中は、ワタシの部屋とは違いかなり散らかっている。そしてワタシのと同じ天蓋ベッドには、人ひとり分の膨らみが見えていた。白いシーツの中に浮かび上がるそれは、まるで大きな大福のような。
一瞬の迷いもなく、ワタシはその掛け布団を半分ほど引っぺがした。中からふんわりした白銀の長髪が現れる。
「ほら、朝ごはん一緒に作るんでしょ。起きて」
スッ、と銀髪の下から何かが差し出される。見ると、小さな紙切れに、マジックペンで何か走り書きがされたものだった。
――『あと5分だけ』。
メモの内容を見たワタシの口から、盛大に深いため息が出た。
「だーめ。そう言って5分でちゃんと起きた試しが一度でもあったかな。無いでしょ」
まるで寝坊助な子どもを叱責する母親のように、腰に両手を当てる。
「アンちゃんがだらしない子にならないように、ワタシは心を鬼にしないといけないの。ほら、10秒以内に起きないと、今日は『おはようのハグ』してあげないよ」
そう言った瞬間、目の前の大福が動きを見せた。
「ッ!」
ばさりと掛け布団がめくれ上がった。その中から、ワタシと色違いのネグリジェを着た、同じ背丈の少女が姿を現す。その表情は今にも泣きそうに目元を歪め、唇を噛んでいた。深い紫色の大きな瞳は微かに潤み、まるでお預けを食らった子犬のような雰囲気を感じさせた。
「……」
「よし、ちゃんと起きたね。えらいえらい」
「……っ…?」
「うん、大丈夫だよ。起きてくれたからね。ほら、おいで」
一言も発さない目の前の少女に向け、両手を大きく広げる。するとその子は、勢いよく飛びついてきた。
強く抱きしめてくるその子に負けじと、ワタシも腕の力を強めた。回した腕に伝わるその子の腰はひどく細く、体温も低く感じた。
「……ランのいじわる…」
ふと、耳元にそんな囁き声が届いた。少し掠れた、幼さの残る声だ。
「ごめんごめん。でもこれもアンちゃんのためだからね」
「……それは、わかっているが…」
不満げな声だった。振り切るように、身を離してからその余り袖になった手を取った。
「ほら、着替えて台所行こう。今日はフレンチトーストだよ」
フレンチトースト、と聞いて目を輝かせるその子の手を引いて、ワタシは部屋を出た。
――遅ればせながら、自己紹介をしよう。
ワタシは『夏目ランラン』。名前からして分かりやすいが、『魔法少女ノ魔女裁判』の登場人物がひとり、『夏目アンアン』と双子である。ちなみにワタシが姉。
随分と愉快な響きの名前を付けられてしまったが、今世の親に付けてもらった大事な名だ。誇りに思っている。
………その『親』は、現在廃人と化し、精神病棟に入っているのだが。
そう、ワタシは。知っていながら守れなかったのだ。お父さんとお母さんを。大事な妹のアンアンの心を。
手は尽くしたつもりだった。ワタシの【魔法】でどうにか両親に掛かった洗脳を打ち消そうとしたり、アンアンにおねだりを少し我慢してもらったり……
でも、駄目だった。
ワタシの【魔法】よりも、アンアンの【魔法】の方が効力が強く、制御が利かなかった。取消し不可のアンアンのおねだりは、ワタシたちを本気で愛し、幸せにしようと手を尽くす両親には劇薬過ぎた。
ワタシだけは壊れずにいられたのは果たして、最初から知っていたが故に気を強く持てたからか、もしくは繧「繝ウ繧「繝ウ繧呈?縺励※縺ェ縺九▲縺溘°――。
そんなワタシは今、広すぎる家の中で、アンアンとふたりで暮らしている。
部屋に篭りがちなアンアンを図書館や古本屋へ連れ出したり、自分で物事ができるように色々と教えたり。
現在年齢は15歳。ワタシは学校に通っていて、ついこの間卒業式を迎えた。アンアンと少しでも一緒にいる為に、高校には進学しないことを選んだ。既に家でできる仕事には見当がついており、アンアンの近くに居ながら収入を得る方法が確立されている。
……まあ、牢屋敷送りが確定している以上、この備えが役に立つ日が来るのかは疑問だが。
そうしてまた少し時が過ぎ――
「やっぱり、来ちゃったか」
4月の某日、ワタシは冷たい石の牢獄で目を覚ました。
囚人番号661番 夏目ランラン
魔法:■■■ トラウマ:■■■■■■■■
誕生日:3月28日 身長:145cm
体重:41kg
原罪:■■■■■■■■■
メインの執筆は少しづつ着実に進んでいるんですが、それはそれとしてなにか投稿したい欲に駆られてしまったので初投稿です。
テーマ曲で脳をウェルダンにされてしまったので、アンアンちゃんにお姉ちゃんを生やすことにしました。これ書いてる間アンアンのテーマ曲ずっとループで聞いてました。頭おかしくなりそう。というかなった。なんなら魔女化した。
こちらはメイン作品の気休めというか、滞った時などに投稿されるサブですので、投稿頻度はメイン以上に遅いです。そして本編と変わらない箇所はどんどん飛ばしてダイジェストのように進むのでそちらもご了承を。