「敵機、接近!」
鋭い警報音がリリー・マルレーンのブリッジを駆け抜けた。メインスクリーンに、次々と赤く点滅する光点が浮かび上がる。
ザフトの主力MS――ジン。
そして、その中には見覚えのある機影も混じっていた。
「右舷前方にMS反応、多数! イージス、バスター、ブリッツ! デュエルは……アークエンジェルからの情報通り、増加装甲を確認!」
「……来やがったねぇ」
シーマは眼前に迫る光点の群れを冷ややかに睨みつけながら口角を上げた。
以前にも刃を交えた相手だ。
クルーゼ隊。
そして、あの四機のG兵器。
大気圏突入シークエンスに入ったアークエンジェルは、すでに自由な機動を取れない。ここで敵の接近を許せば、地球の重力に引かれる前に撃沈される可能性すらある。
「アークエンジェルへ通信!」
「近距離回線、開きます!」
回線が開く。
『――こちらアークエンジェル! 敵部隊を確認しました! 本艦は予定通り大気圏突入シークエンスへ移行します!』
「了解したよ」
シーマは短く答えた。
「こっちは契約通り、あんたたちを守る。余計な心配をせずに降りな」
『……感謝します、シーマ司令』
通信が切れる。
デトローフが固い表情でシーマを振り返った。
「敵の頭数はジンも含めて多数。しかも、あのG兵器四機です。正面から打ち合っては保ちませんぞ」
「ああ」
「こちらのMSの稼働数は?」
「現在、即応可能な主力MSは四機です」
「四機しかない、だろう?」
シーマは口元を吊り上げた。
「だったら、その四機でやれることをやるだけさ」
シーマは通信機へ手を伸ばし、MS隊へ回線を開いた。
「全MS隊、聞こえるかい」
『こちらヴァルター。ゲルググM一番機、出撃準備完了』
『クルト。二番機、同じく』
『クララ、三番機。いつでも出られます』
シーマは一瞬だけ目を閉じる。
ガーベラ・テトラが一機。
そして三機のゲルググM。
今のシーマ艦隊が、この苛烈な宙域で動かせる、かけがえのない戦力だった。
「いいかい」
シーマの声が低く、だが滑らかに通信回線へ響く。
「今回は撃墜数を競う戦いじゃない」
『了解』
「アークエンジェルに近づけさせない。それだけだ」
クララから、わずかに緊張を含んだ声が返る。
『……それだけ、ですか?』
「そうさ」
シーマは淡々と笑った。
「敵を全部倒す必要なんざどこにもない。撃って、避けて、邪魔して、追い払う」
一拍置いて、その声に鋭さが加わる。
「深追いは厳禁だ。無茶をして落ちるんじゃないよ」
シーマはスクリーンに並ぶ三機の機影を見つめた。
「あんたたちは、生きて帰るために、その機体に乗ってるんだからねぇ」
『了解しました、隊長!』
「よし」
シーマは通信回線を切り替えた。
「キラ、ムウ。あんたら二人も、今だけあたしの指揮に入りな」
『え?』
キラの戸惑った声が返る。
「そうさ。あんたたちがどこの誰だろうと、今は関係ない。ここじゃ、アークエンジェルを守るために動く。あたしの指示に合わせてもらうよ」
『……分かりました』
キラが答える。
『俺も了解だ、司令』
ムウも続いた。
『この状況なら、艦隊行動に合わせたほうがやりやすい』
「話が早くて助かるよ」
シーマは満足げに笑った。
シーマはシートに深く腰を据え、操縦桿を握り直した。
「出るよ」
カタパルトデッキ。
重厚な固定アームが解かれ、ガーベラ・テトラの鮮烈な赤が露わになる。
背部スラスター群から青白い熱が噴き出した。
『ガーベラ・テトラ、シーマ・ガラハウ。出る!』
赤い機体が弾丸のように宇宙へ躍り出る。
続いて三機のゲルググMが射出された。
『ゲルググM一番機、ヴァルター・グリム。出るぞ!』
『ゲルググM二番機、クルト。出撃します!』
『ゲルググM三番機、クララ・ロッジ。出撃します!』
三機はそれぞれの配置へ散開し、アークエンジェルを中心とした防衛線を形成した。
その直後、白い艦のデッキから一機の機影が飛び出した。
『キラ・ヤマト、ストライク、いきます!』
白い装甲に身を包んだストライク。
さらに、その後方から有線式ガンバレルを四基備えたメビウス・ゼロが飛翔する。
『こちらメビウス・ゼロ! ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!』
「……へぇ」
シーマの目が細くなる。
「ムウのやつが乗ってるのはMAかい。しかも、あの有線兵器……」
『シーマさん』
キラから通信が入った。
『僕も戦います』
「そうかい」
シーマはストライクの位置を確認した。
「なら、あんたはアークエンジェルの直衛だ。余計な真似をして防衛線を崩すんじゃないよ」
『はい』
「そして無茶もするんじゃないよ」
『……分かっています』
「本当に分かってるのかねぇ」
『努力します』
「ハッ」
シーマは短く笑った。
「正直で結構」
そこへメビウス・ゼロのムウから声が割り込んでくる。
『シーマ司令』
「何だい?」
『あんたのところはMS四機か。相手はクルーゼ隊だ。俺がガンバレルで広い範囲を抑えてやる』
シーマはメビウス・ゼロが描く変幻自在の軌道に目を留めた。
「話が早くて助かるねぇ。あのガンバレル、落とすんじゃないよ」
『俺はエンデュミオンの鷹だからな。心配いらんよ!』
「なんだい?異名かい?それを自分で言うかねぇ」
『言わなきゃ誰も言ってくれないんでね』
「そりゃ結構」
シーマの口元に笑みが戻る。
「ただし、落ちてあたしたちの手間を増やすんじゃないよ」
『そっちこそな』
「全員、ここで落ちたってなんの意味もないんだ。無茶はするんじゃないよ」
一瞬だけ、部下たちの機体を見やる。
「生きて帰るために、その機体に乗ってるんだからねぇ」
『了解!』
その返事と同時に、六機のMSとMAが一斉に散開した。
アークエンジェルを中心とした防衛陣形が組み上がる。
そして、その真正面から――クルーゼ隊が迫ってきた。
「来るよ!」
バスターが遠方から砲身を展開する。
デュエル・アサルトシュラウドとブリッツが左右へ散開し、イージスが正面から突進してくる。
さらに、その周囲を多数のジンが埋め尽くしていた。
「ヴァルター、右のジン群を牽制!」
『了解!』
「クルト、左翼! アークエンジェルへ回り込ませるんじゃないよ!」
『了解!』
「クララ、後方警戒を維持!」
『了解!』
三機のゲルググMが、それぞれの担当宙域へ散開する。
その間を縫うように、ストライクがイージスの前へ割り込んだ。
『アスラン!』
キラの声と同時に、二機のMSが激突する。
さらにムウのメビウス・ゼロがガンバレルを展開した。
四基の端末がそれぞれ別方向へ飛び、宇宙空間に複雑な射撃網を形成する。
『そこだ!』
ガンバレルから放たれた銃弾が、バスターの射線へ割り込んだ。
『チッ……!』
ディアッカのバスターが砲撃を中断する。
その隙に、ゲルググMがジンの一群へ銃弾を叩き込んだ。
『今です!』
クララの射撃を受け、一機のジンが大きく姿勢を崩す。
だが、別のジンがその隙を突いてアークエンジェルへ接近する。
「させるかい!」
ガーベラ・テトラが一気に加速した。
ビーム・マシンガンが火を噴く。
直撃を狙った射撃ではない。
敵の進路を塞ぎ、アークエンジェルから引き剥がすための射撃だった。
ジンが回避する。
その瞬間、ガーベラ・テトラが懐へ潜り込んだ。
ビーム・サーベルが一閃する。
敵機の武装だけを切り飛ばし、シーマはすぐに離脱した。
「追うんじゃない!」
『了解!』
「離れた敵は放っておきな!」
シーマは再びアークエンジェルの防衛線へ戻る。
その直後だった。
『シーマさん!』
キラの声が響く。
「どうしたい?」
『デュエルとイージスが、アークエンジェルへ向かっています!』
「なら、そいつらを止めな!」
『はい!』
ストライクが二機の前へ立ちはだかった。
イージスが変形し、猛然と突っ込む。
ビーム・サーベルが交錯した。
一方、デュエル・アサルトシュラウドはシヴァを構える。
その射線へガーベラ・テトラが滑り込んだ。
「撃たせるか!」
ビーム・マシンガンの掃射。
デュエルが回避する。
その横をゲルググMが抜け、追撃を牽制する。
『今です!』
クララのビーム・ライフルがデュエルの進路を塞ぐ。
イザークが舌打ちする。
『チッ……邪魔だ!』
「こちとら邪魔するためにいるんだよ!」
シーマが笑った。
その時、ミラージュコロイドを解除したブリッツが、アークエンジェル後方へ姿を現した。
「左後方!」
オペレーターの叫びが響く。
「ブリッツ、急接近!」
「クララ!」
『はい!』
ブリッツのトリケロスからランサーダートが放たれる。
クララは間一髪でゲルググMを捻った。
火花が装甲を削る。
『っ……被弾!』
「クララ!」
『大丈夫です! スラスター生きてます!』
「無理はするんじゃないよ!」
『了解!』
追撃を狙うブリッツ。
その瞬間、四方から実体弾が飛んできた。
『なっ……!』
ニコルの声が漏れる。
メビウス・ゼロのガンバレルが、ブリッツの進路を完全に塞いだ。
『隠れんぼは俺には通用しないぜ!』
ブリッツが後退する。
『助かりました……!』
クララが息を吐く。
『礼は後だ! まだ敵の数が多いぞ!』
ムウのメビウス・ゼロが反転し、迫るジンへガンバレルを向ける。
「……なるほどねぇ」
シーマは感心したように呟いた。
「伊達に『鷹』なんて名乗っちゃいないねぇ、あの男」
視線を転じる。
イージスとデュエルを相手に、キラのストライクが頑強な壁となっていた。
だが、二機を相手にしているせいで、少しずつアークエンジェルから離されている。
「坊や!」
『はい!』
「一人で全部を抱え込もうとするんじゃないよ!」
『大丈夫です!』
「なら――」
シーマはガーベラ・テトラのスラスターを全開にした。
機体が一気に加速する。
イージスの側面へ突き刺さり、ビーム・マシンガンを掃射。
アスランの機体が強制的に後退する。
同時にデュエルも距離を取った。
『ありがとうございます!』
「礼なんざいらないよ!」
シーマは怒鳴った。
「今は、あの白い艦を落とさせない。それだけに集中しな!」
『はい!』
その時だった。
アークエンジェルの艦体が大きく揺れた。
『きゃあっ!』
ブリッジから悲鳴が響く。
「何だい!?」
『艦底部に被弾! 推進系統に異常発生!』
マリューの声が返ってくる。
『大気圏突入シークエンスは継続していますが、機関出力が安定しません!』
「……ちっ」
シーマが舌打ちした。
「まだ降り切ってないってのに!」
その直後、バスターの砲撃がアークエンジェルの進路を掠めた。
『――ッ!』
白い艦体が大きく傾く。
『艦長! 機関部の出力低下がさらに拡大しています!』
『分かった!』
マリューの声が緊張する。
『このままでは予定していた降下軌道を維持できません!』
ナタルが続ける。
『予定軌道を外れます!』
シーマはスクリーンに表示された軌道を睨んだ。
本来なら、アークエンジェルはそのままアラスカ方面へ向かうはずだった。
だが――。
機関部の損傷。
不安定な推進系。
大気圏突入中という最悪の状況。
予定された航路へ戻る余裕など、もはや残されていない。
『シーマ司令!』
マリューから通信が入る。
『本艦は予定していたアラスカ方面への航路を維持できません!』
「……だったら、どこへ行く?」
『現在の軌道と機関出力から計算すると――』
一瞬の沈黙。
『北アフリカ方面へ降下するしかありません』
シーマの目が細くなる。
「北アフリカ……」
『申し訳ありません!』
「謝るこたぁないさ」
シーマは前方を見据えた。
「契約は地球へ降りるところまで。そいつは変わらない」
『……はい!』
「だったら、そこまで守るだけさ」
ガーベラ・テトラが再び加速する。
「全機、聞きな!」
『はい!』
『了解!』
『了解です!』
「アークエンジェルの機関部がやられた。予定航路は変更だ。北アフリカへ降りる!」
一瞬、通信が静かになる。
そしてクララが答えた。
『了解しました!』
「ザフトの連中を近づけるんじゃないよ!」
シーマは迫る敵影を睨みつける。
「白い艦が地球へ降りるまで、あたしたちが壁になる!」
その言葉に呼応するように、三機のゲルググMが再び防衛陣形を組んだ。
ストライクがアークエンジェルの直衛へ戻る。
メビウス・ゼロがその外側へ展開する。
そしてガーベラ・テトラは、最も危険な正面へ躍り出た。
やがて、大気圏突入限界が近づいてきた。
クルーゼ隊もこれ以上の追撃を断念し、ジンが一機、また一機と離脱していく。
「追うんじゃないよ!」
シーマが叫ぶ。
「こっちの仕事は、あの白い艦を降ろすことだ!」
『了解!』
ヴァルターの一番機が右舷を押さえ、クルトの二番機が左翼を守る。
クララの三番機はアークエンジェル後方を警戒し、接近する敵機を次々と牽制していく。
その間にも、アークエンジェルは地球へ向けて降下を続けていた。
『シーマ司令!』
マリューの声が響く。
『これより大気圏突入に入ります!』
「了解。あたしらも最後まで付き合うよ」
シーマは全機へ通信を開いた。
「ただし、ここからは帰艦だ。持ち場を離れられる機体から順次戻りな!」
『了解!』
『了解!』
『了解です!』
シーマはアークエンジェルを見つめた。
「キラ、ムウ。あんたらもだ!」
『はい!』
『了解!』
「降下前に必ず艦へ戻りな。宇宙で名残惜しんでる暇はないよ!」
『分かっています!』
キラのストライクがアークエンジェルへ向けて反転する。
メビウス・ゼロも続いた。
それを確認したシーマは、ゲルググM隊へ視線を向ける。
「ヴァルター、一番機!」
『了解!』
「クルト、二番機!」
『はい!』
「クララ、三番機!」
『了解です!』
「全員、帰投!」
三機のゲルググMが一斉に反転した。
リリー・マルレーンのカタパルトデッキが開く。
『一番機、ヴァルター・グリム。帰艦する』
ヴァルターのゲルググMが艦内へ滑り込む。
固定アームが機体を掴む。
「一番機、固定!」
「ロック確認!」
続いて二番機が入る。
『クルト、帰投します!』
「二番機、固定!」
「ロック確認!」
最後にクララの三番機が帰艦する。
『三番機、クララ・ロッジ。帰艦します!』
「三番機、固定!」
「ロック確認!」
『ゲルググM三機、収容完了!』
「よし」
シーマは小さく頷いた。
「ガーベラ・テトラ、帰投するよ」
『了解!』
赤い機体がリリー・マルレーンへ向けて加速する。
カタパルトデッキへ滑り込んだガーベラ・テトラを、固定アームが両側から掴んだ。
「固定!」
「ロック確認!」
「全系統、接続!」
『ガーベラ・テトラ、収容完了!』
「全MS、収容確認!」
オペレーターの報告が響く。
シーマはそこで初めて、わずかに肩の力を抜いた。
「上出来だ」
その頃、アークエンジェルでも同じようにストライクの収容作業が進んでいた。
『ストライク、帰艦します!』
『了解! カタパルトデッキ開放!』
白い機体が艦内へ滑り込み、固定アームに拘束される。
『ストライク、収容完了!』
続いてメビウス・ゼロが帰艦する。
『メビウス・ゼロ、帰投するぞ!』
『収容システム、スタンバイ!』
ムウの機体がデッキへ進入し、ガンバレルを収納した状態で固定される。
『メビウス・ゼロ、収容完了!』
『全MS・MA、収容確認!』
「よし……」
マリューが短く息を吐いた。
『これより、本艦は大気圏突入へ移行します!』
アークエンジェルの艦体各部で耐熱機構が作動する。
『シーマ司令! 後方から友軍機……いや、連合軍の艦隊です!』
「連合軍?」
シーマが眉をひそめる。
メインスクリーンの奥。
複数の艦艇が、アークエンジェルの進路へ向けて接近していた。
「所属は?」
『第八艦隊です!』
「……第八艦隊?」
シーマは一瞬だけ黙った。
そして、嫌な予感がした。
「通信を拾いな」
『こちら第八艦隊所属、アガメムノン級――』
通信が繋がる。
『――アークエンジェルへ。こちらは第八艦隊司令、ハルバートンだ』
「……ハルバートン?」
シーマの目が細くなる。
『貴艦を援護する。予定軌道を維持し、地球へ降下せよ』
「随分と殊勝な連中が来たもんだねぇ」
デトローフが険しい顔をする。
「しかし、あの艦隊規模では……」
「ああ」
シーマは短く答えた。
「あれは援護じゃない」
メインスクリーンに映る艦隊を見つめる。
「殿軍さ」
その言葉とほぼ同時だった。
第八艦隊の前方から、ザフト艦隊が姿を現した。
「……来るよ」
無数のジン。
艦艇。
ミサイル。
ビーム。
一斉に放たれた火線が、宇宙を埋め尽くす。
『第八艦隊、全艦戦闘態勢!』
ハルバートンの声が響いた。
『アークエンジェルを地球へ降ろせ!』
「……無茶を言うねぇ」
シーマの額から汗が流れる。
「あの艦隊じゃ、保たないよ」
「シーマ司令」
デトローフが振り返る。
「どうします?」
シーマはしばらく黙っていた。
そして、静かに命じる。
「降下準備急げ。あいつらの死の意味を無駄にするんじゃない」
第八艦隊は、アークエンジェルを逃がすために次々と撃沈されていく。
一隻。
また一隻。
通信回線に、途切れ途切れの断末魔が流れ込む。
『こちら第八艦隊――』
『被弾! 機関部損傷!』
『総員退艦――』
そして。
『……アークエンジェル、聞こえるか』
ハルバートンの声だった。
シーマは通信を聞きながら、無言で前を見つめていた。
『君たちは、生き延びろ』
その声には、不思議なほど穏やかさがあった。
『この戦争の先に、何があるのか……私にはまだ分からん』
一瞬、通信にノイズが混じる。
『だが、君たちが生きていれば、それでいい』
爆発。
ハルバートンの艦が大きく揺れる。
『生きてくれ』
シーマの眉が僅かに動いた。
『マリュー・ラミアス艦長』
『はい!』
『君たちは生きろ』
『そして、できるなら――』
一瞬の沈黙。
『この戦争の先を見てくれ』
通信が途切れる。
次の瞬間。
ハルバートンの艦が閃光に包まれた。
「……」
シーマは何も言わなかった。
『シーマ司令……』
クララの声が震えている。
「死んだ奴らの分まで、生き残るんだ」
第八艦隊は壊滅した。
だが、その犠牲によって生まれた僅かな時間が、アークエンジェルには残された。
『シーマ司令!』
オペレーターが叫ぶ。
『アークエンジェル、大気圏突入限界です!』
「よし」
シーマはスクリーンを見る。
「あたしたちも降りるよ」
そして、最後に一度だけ。
ハルバートンの艦が消えた宙域を見た。
「……生き残れ、か」
小さく呟く。
「あんたも、随分と面倒な遺言を残してくれたもんだねぇ」
『大気圏突入準備完了!』
デトローフから報告が入る。
シーマはメインスクリーンに映る青い地球を見つめた。
「北アフリカ……ねぇ」
本来なら、アークエンジェルはアラスカへ向かうはずだった。
それがザフトの追撃によって戦闘となり、さらに機関部まで損傷した。
その結果、予定航路を維持できなくなった。
行き先は――北アフリカ。
「まあ、予定通りにいかないのが戦場ってもんさねぇ」
シーマは煙草を取り出した。
「さて……」
赤く染まり始めた地球を見つめる。
「地上じゃ、何が待ってることやら」
アークエンジェルが大気圏へ突入する。
その後を追うように、リリー・マルレーンも降下姿勢へ移行した。
だが、残る三隻は違った。
「三隻は高軌道で待機。地上組との通信は定時連絡に切り替える。中継可能な位置を維持しな」
『了解』
「直接じゃ届かないからねぇ。使える手段は何でも使いな」
『了解しました』
三隻の艦艇がゆっくりと進路を変える。
リリー・マルレーンだけが、青い地球へ向けて降下を開始した。
シーマはメインスクリーンに映る地球を見つめる。
「……さて」
煙草を一本取り出す。
「あたしたちの新しい仕事場ってわけだねぇ」