鬼の子が人間に恋をしたと言う話です。


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短いですが感想をもらえるとうれしいです。



六兆年待ち続けた鬼の子

ここはどこだ?

辺りを見渡す。全く見覚えが無い所だ。

つうか僕って誰だ?名前は?

「うっ…。」

頭が痛い。何が起こって僕はここに居るのかも分からない。

―鬼が居たぞ!―

 そんな音が聞こえた時、俺は咄嗟に走り出した。

 何か逃げないとヤバイ気がした。

 ふと、後ろを振り向くとすぐ近くまで得体の知れない者が迫っていた。

 ?得体の知れない者?どういうことだ?僕ってあれを見たことないっけ?

 まぁいいや。どちらにせよ逃げなきゃいけないんだから。

           *

 「うう…。」

 体中が痛い。つうか何で僕はこんな道端に倒れているんだろう。

 そうだ。さっき何か分からない者から逃げていたけど捕まっちゃったんだ。

それから蹴られたり棒で殴られたりされた挙句こんな所で…。

 しかも周りにはもっと多くの得体の知れない者が僕を囲っている。

 ―この鬼はどうします?―

 ―裏山の物置にでも入れておけ―

 ―分かりました―

 大体こんな感じの会話が聞こえた。

 逃げなきゃ…でも体が動かない。体を頑張って動かそうとしていたら、急に腕を捕まれて持ち上げられた。…痛い。

 それから少し経ち、僕は暗くて狭い所に入れられた。それに腕には何か付けられていて身動きが取れない。

 これからどうしたら良いのだろう。というより何で僕は生きているんだ?  何の為に…。仮にここから出ることが出来てもきっとまた捕まって暴力を振るわれた挙句、今居るような暗くて狭い所に入れられる。それのどこが楽しい?そんなのしか無いのなら僕が生きている意味ってあるのかな…。僕がここに居ることのどこに意義があるのだろう。

 何で僕だけがこんな扱いをされなきゃいけないのだろう。何で僕は皆と一緒じゃないのだろう。何で今ここにいるんだろう。何で僕には何も出来ないのだろう。何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で

 何で…。

 目から涙が零れる。

 そういえばさっき僕の事を「鬼」って呼んでいたよね?

 本当に?僕が?もし本当にそうだとしても何でこうなるの?分かんないよ…。

 ちくしょう、もう嫌だ。死にたいよ…。

 

 あれから数日経った。未だに僕は拘束されている。生きる意味さえ分からずにただ絶望感があるだけだ。

 確かに最初の内は自分とは何だろうと思っていたり記憶を何とか戻そうとしていたけど今は何も考えなくなった。この苦しみが続くだけの毎日の中でそんなの考えるだけ無駄だ。生きる希望?そんなの無い。僕はこのまま誰にも見られずに死んでいく、それだけだ。

 「こんにちは…。」

 「!?」

 そう声がしたと思ったら目の前にあの忌々しい得体の知れない奴の毛が長いのが立っていた。僕は恐怖に震えた。今まで散々ひどい事をされて来たんだ。もう今更だけど恐い。

 奴は僕に近づいてくる。一層、体の震えがひどくなった。

 「来るな…来るな!!」

 そう怒鳴った。奴は一瞬体をピクッと震わせて止まったが更に近づいてくる。

 「来るな来るな来るな来るな来るなぁ!」

 同じ言葉を連呼する。奴は近づくのを止めない。

 僕の中にある恐怖心はピークを向かえた。声すら出ない。

 「ごめんね?急に来ちゃって、でも…。」

 僕は身構えていた。これから何をされるのか。殴られるのか或いは蹴られたりとかもっと別の事をされたりとか…。

 だけど違った。いつもは殴られたりする時だけど何もしてこない。少し安堵したが逆に不信に思ってしまう。

 「えっと…私はね、一野夜 伊亜って名前なんだ。君の名前は?」

 「名前は…無い。知らない。分からない。」

 急に聞かれて焦った。まぁそれだけなら良いのだけど名前が分からないことをどう伝えれば良いのか分からなかった。

 「そうなんだ。」

 変に思われたと思った。けど特に特別な反応は見せなかった。

 「じゃあ私が名前を決めてあげる。」

 「へっ…?」

 あまりに予想外の言葉を奴は発した。何を言っているのか理解出来なく戸惑っていた。

 そんな僕を差し置いて奴は奴はで勝手に色々悩んでいた。

 「そうだ!」

 こいつは何でも急にやる奴だ。一つ一つの動作に僕が驚いてしまう。

 「悠鬼。うん、これがいいよ。」

 「ゆう…き?」

 「そうだよ。それが君の名前。悠君って呼ぶね。だから私の事は何て呼んでも良いよ。」

 駄目だ。思考回路が追いつかない。何を言っているのかすら分からなくなるぐらいには。とりあえず僕の名前は「悠(ゆう)鬼(き)」ってことだけ分かった。

 「じゃあこれからはもう友達だよ。よろしくね。」

 まだほとんど理解の出来ていない頭をフル回転させつつ僕は、

 「よろ…しく。」

 と、なるべく笑顔を作って答えた。

 「うん。あっ…もう夕方だから帰るね。」

 「あっ…。」

 そう奴が言った時僕は引き止めた。一つだけ聞きたい事があった。

 「どうしたの?悠君。」

 「あ…あのさ、君達って何て言うの?」

 奴は少し困った顔をしながら答えてくれた。

 「?人間だよ?当たり前じゃん。」

 「人間…。」

 「そうだよ。じゃあバイバイ。」

 奴…いや彼女は僕に手を振って走って行った。あれ?今僕、奴のことを何て呼んだ?少し違う言い方をしたのだけは覚えているのだけど…。

 という事は少しずつ記憶を取り戻して来ているってことなのか?

 

 あれから彼女はほぼ毎日来て色々な話をしてくれる様になった。

 それが唯一の僕の心の救いになっていた。毎日、暴力を振るわれても彼女に会えると思うと耐えることが出来るようになった。

それだけ彼女の存在は大きかった。最初に抱いていた恐怖も無くなり多分、   人間の中でたった一人だけ信用していると言っても過言では無いだろう。

 今日もそろそろ来てくれる時間なのだけど…。

そう思っていたら来た。僕はさっきやられたことを忘れつつ笑顔で応じた。

 「ごめんね。遅くなっちゃって、ちょっと用事があって…。」

 「いや、大丈夫だよ。」

 正直少し淋しかったけど顔には出さず答えた。

 「そっか、良かった。」

 「でも良いなぁ。」

 「何が?」

 「だって伊亜はそうやって自由に動けるじゃないか。」

 僕は自分の右手に繋がれている鎖を見ながら言った。

 「そう?そんなに楽しいことじゃないよ。少し変に聞こえるかもしれないけど、私にとっては悠君が一番羨ましいよ。」

 「え?」

 こんな拘束されている状態がか?何も出来ない。自分さえも失いそうになった、これがか?…意味が分からない。彼女は続ける。

 「自由って言えば自由なんだけどね。逆に自分が何をやりたいのか、本当の自分って何だろうって思っちゃうんだ。」

 僕はハッとした。だってそれは僕自身ここに入れられて絶望感に浸っていた時に思っていたことであって、外はどんなに素晴らしいかとか考えていたことであって…。でも伊亜は全く逆の事を思っていて…もう訳が分からん。

 「あっ…ごめんね。急に変な話をしちゃって…。」

 「いや…良いんだ。でも何で?何でそんな事を思うの?」

 「…私はね、友達が居ないんだ。ずっと、多分これからも…。」

 「えっ…?」

 どういうことだ?何でそんな事が分かるんだよ…。

 「今まで私に話しかけて来てくれた子なんて誰も居なくてね。それにこっちから話しかけてもシカトされて何も聞いてくれなかった。」

 何も言えない。良い言葉が思いつかない。考えれば考える程分からなくなっていく。話は続く。

 「そんな途方の無い場所を彷徨っていても仕方ない。それならいっそどこか手の届く所に居たいんだ。だから、さ…。」

 彼女は一旦少しの間を置く。

 「本当に悠君が羨ましいんだよ…。」

 彼女は力無く笑っていた。それに対して僕は何も言う事が出来ない。既に  頭の中は真っ白で何も考えられなくなっていた。そんな頭を可能な限り働かせて出て来た言葉をただ一言だけ言う。

 「…伊亜には、もう友達が居るじゃん。」

 「へ?」

 彼女は少し驚いていた。だが話は続ける。                   

 「僕が居るじゃん。もしかして僕達は友達じゃないの?」

 「そ…そんなことは無い!悠君は大切な友達に決まってる!でも…。」

 彼女は何かを言おうとしていたけど止まった。何か言いたくない事でもあるのだろう。そんな彼女の頭を僕は空いている左手でやさしく撫でた。

 「?」

 「…つらいのなら言わなくて良いよ。今の伊亜に何があるとしても僕達は  友達でしょ?それだけが分かれば良いよ。」

 「悠君…。」

 そこまで言った所で伊唖は泣き出してしまった。どうしたら良いのか分からなかったけど、とりあえず僕は泣き止むまで伊亜の頭を撫で続けた。

           *

 あの日からもう何日過ぎたのだろう。いや何ヶ月、何年という歳月が流れていったと思う。僕の中にはまた絶望感が漂っていた。

 

戻った。

 

毎日が暴力と蔑んだ目だけの生活に…。そこにあったはずの「楽」は無くなっていた。

 伊亜が来なくなってから僕は前の僕に戻っていた。それに伴い生きる気力も無くなっていた。また、死にたいと思う様になった。けど少しでも伊唖の事を思い出すと死んだら駄目だと、このまま待っていればいつか会えると信じていたいと思うようになる。そんな葛藤をずっと繰り返している。

 「何で…。」

 伊亜は急に来なくなった。少し前ならたまたま何かあって来ないのだろうと思っていたが今ではもう無理だ。そうやって現実から逃れようとしているだけだ。そんなことは自分でも分かっている。だからこそ、つらい。

 悲しい事にこんな僕でも成長するんだな。最近思う。右手についている手錠もきつくなってきた。そういえば僕の隣にある壁には傷がついていて、少し前は、その傷より小さかったんだけど今では僕の方がでかくなっている。

 今日も来た、いつも暴行をしている奴等が…。何で毎日こうなるんだよ。

 死にたい、でも死ねない。どんな方法をやっても死ねない。更にそこに伊亜の顔が脳裏に浮かぶ。

 奴等は僕に散々暴力を振るった後、帰っていった。扉が閉められた瞬間、僕の頬を一筋の涙が撫でる。

 「もう…嫌だよ…。死にたいよ…。」

 一気に力が抜ける。そして瞼を閉じる。いっそこのまま死んでいたいと思いながら、だ。

 

 それからまた二年の歳月が流れていった。僕は未だに拘束されている。

あの頃はかろうじて生きる気力があったが、今はいつになったら死ねるのか位しか考えられない。もちろん伊亜の事なんかは随分と前に忘れている。ただ唯一あの頃と一緒なのは右手が上に吊り上げられていることだ。

 笑わない、苦しまない、悲しまない、悔やまない、涙も出ない。

 感情は切り捨てた「無」だけが心の中にある。

 今日もただ絶望感に浸っていた。ふと、耳を澄ませてみた。足音が聞こえる。また暴力をしに人間が来たのかと思ったが何かが違う。…走っているのか?

足音はどんどん近くなっていく。そして僕が居る小屋の前で止まった。

 やっぱりか…。そう思っていたのだが、扉が開いた瞬間に予想しなかった言葉が聞こえた。

 「悠君…!!」

 「!?」

 そこに立っていたのは…誰だ?悠君?それって僕のことか?分からない。

 悩んでいたらそれがが相手にも伝わったのだろう。少し焦り気味で言葉を続けてきた。

 「悠…君?私だよ?伊亜だよ?」

 あと少しで泣くんじゃないかって位の顔で聞かれた。だけど相手が望まない答えしか思い浮かばない。

「えっと…、すみません。悠君って僕の事ですか?」

 「!?。もしかして…全部忘れちゃったの…?」

 「その前に僕達って会ったこと、ありましたっけ?」

 「!?そ…そんな…酷いよ…。」

 相手は泣いてしまった。

 「どうして…?じゃあ私がここの戻ってきた意味って…?」

 「あっあの!大丈夫…ですか?」

 何か言わなきゃと思って言ったのだがそれが逆効果だった。

 「大丈…夫な訳ないでしょ…。もう嫌だ!!」

 「!?」

 急に叫んだと思ったら走って出て行ってしまった。

 何なんだよ…。本当に訳が分からん。

 …にしても僕の事をさっき「悠君」って呼んでたよね?じゃあ僕はあの子に会ったことがあるのか?…そういえば、随分と前に毎日のようにここに来た子が居たっけ…。確かその時はそれが僕が生きる希望であり、この世界での唯一の楽しみだった。でもあの子の名前までは思い出せない。

 そんな事を考えていたら、また急に足音が聞こえた。一瞬さっきの子が戻ってきたと思ったけれど多分違う。いつも暴力をしてくる奴の足音だ。

 また今日もか…。

 

更に二日経った日。

 あの子はまた来た。いやあの子じゃない。伊亜だ。昨日考えていたらパッと浮かんできた。完全に忘れ去ってはいなかったようだ。

 「悠君…やっぱり私の事を覚えてないの…?」

 俺は少し間を置き、意を決して言った。

 「…いや、間違っていたら悪いんだけど、君は〔伊亜〕だよね?」

 そう俺が言ったら伊亜の目からは涙が流れていた。

 少し焦り、何か言わなくきゃと思っていたら、ふいに話しかけてきた。

 「やっぱり、覚えててくれたんだね…本当にありがとう…。」

 「っ…!」

 そう言われた時、伊亜の事をまだ名前しか思いだしていなかった記憶が一気に戻った。初めて伊亜に会った時の事から記憶が無くなる前までのが、だ。

 「ごめんな。なかなか思い出せなくて…。」

 「いや、別にいいんだよ。…私こそ急に来れなくなってごめんね。」

 二人は黙ってしまう。久しぶり過ぎて何を話したらいいのか分からない。ただ伊亜を見つめるだけだ。でも何か落ち着いた。このまま永遠に居たいと思うぐらい。

 だがそれは叶わなかった。突如、走ってこっちに来る足音が聞こえた。それも一人じゃない。三人…いや五人は居る。

 「!?…」

 そうか、そういう事なのか…だからこのタイミングで来たんだ。

 俺は、あまり理解をしていない伊亜に怒鳴りつけるように叫んだ。

 「伊亜!早くここから出ろ!」

 急に俺がこんなことを言ったからであろうか、戸惑いを隠せていなかった。

 「何で?まだ…。」

 「いいから!早く!」

 足音が止まった。遅かった。いくら鬼でもこんなこと位分かる。

 「逃げろぉ!伊亜!」

 そう叫んだ時に扉が開いた。予想通り、五人。その中で一番先頭にいた奴が言った。

 「おやおや?ここで何をやっているのかな?お嬢ちゃん?」

 やっと伊亜も事の重大さに気づいたらしい。

 「まあいい。そこの鬼とやら、遅かったな?逃がすのが?」

 俺を嘲笑うように見下してきた。ただ睨むことしか出来ない俺をもう用なしとでも言うように鼻で笑い、伊亜の元へと行った。

 「だめだな~こんな所に居たら?でもいいや。おい!こいつを連れて行け!」

 『はい!』

 そう奴らが言い、伊亜の首を持って持ち上げた。

 「悠君!」

 「伊亜ぁぁぁぁぁ!」

 必死で叫び、抵抗したが無駄だった。奴らは伊亜を軽々と外に連れて行った。

 「ざけんなぁ!」

 俺は最後の抵抗をする。だがそんな事は予想済みだった様で俺を見下している。

 「…ふんっ、その目が気に食わないがお前も来い。おもしろいもんを見せてやるよ。」

 そう言って奴は俺の両手を縛り、ずっと繋がれていた小屋の屋根に付いていた鎖を切った。

 「早く来い。」

 最後にそう言われて歩きだす。嫌な予感を感じながら…。

           *

 奴は急に止まった。そして木に括り付けられ動けなくされた。

 「何をする気だ?」

 奴を睨み付けながら質問した。

 「まぁまぁ、焦るなよ。もうすぐ答えが分かるよ。」

 さっき、小屋に来た時とは全く違う態度をしていた。けれど顔のニヤけだけは払拭出来ていない。それが更に俺の中の恐怖心を煽る。

 しばらくしてから奴は動いた。

 「やっと、見られるよ?良かったねぇ~(笑)」

 「つっ…。」

 睨む。けれど奴は顔を正面の方に向けてしまい意味を成さなかった。

 仕方なく、前を見てみる。

 「なっ!?」

 一瞬、目の前にある光景を疑った。伊亜が腕だけを縄で縛られて木に吊るされていた。どうして伊亜が…。

 伊亜は泣いていた。必死に逃れようと足掻いていた。

 それがとても必死で、辛そうで、苦しそうで、見ていられなくなった。

 そんな俺に伊亜が気づき、助けを求めてくる。

 「悠君!」

 泣いていながらも叫びながら俺の名前を言って救ってほしいって訴えてくる。

 「伊亜ぁ!」

 体は完全に固定されていて、動けなくて俺も叫ぶことしか出来ない。

 「嫌だよぉ!辛いよぉ!!」

 俺の叫びの返事はそれだった。それに対して何も言えなかった。

 「おっと、感動の再開はもう終わりだぜ?」

 俺達の間に割って奴が入ってきた。それと同時に伊亜の元に刀を持った奴が一人近づいていた。

 もう、察しはついた。

 「やめろ!!」

 伊亜自身も気づいているらしく、泣くのを止めていた。

 刀の刃先が伊亜に向く。

 「やめろぉ!」

 もう一度叫んだ。そして気づいた。いつの間にか刀を持っている奴がさっきまで俺の横に居た奴だってことに。

 奴は、俺の方を向いて嘲笑った。

 「よく見るが良い!鬼が人間と関わってはいけない理由が良く分かるぞ!!」

 「やめろぉぉぉ!!」

 必死で叫んだ。奴の持っている刀が動く。その瞬間、伊亜が口を動かしている気がした。

 ザシュッ…

 「!?…。」

 その音と血しぶきと共に伊亜は動かなくなった。

 

 死んだ

 

 俺が鬼であったが為に伊亜は犠牲になった。

 急に力が抜け、手さえ動かなくなった。瞬間、俺は全てを思い出した。

 「そうか…そうだったのか…。ははっ…そうかぁ…そうだったのか…。」

 奴が「次はお前の番だな。」と言ってこっちに来る。

全身に力を込める。歯を食い縛り、鎖を切る。

 「なっ!?」

 奴は驚きの顔を隠せていなかった。睨む。そして地を蹴り、奴の周りにいた奴らの首を食い千切り、殺す。

 最後に奴の所に行き、自分の姿を影武者にしつつ睨みつけた。

 「お…お前は何もの…なんだよ…。」

 完全に腰が抜けて動けなくなっていた。最終的には震えだしてさえいた。

 「我が名は、土御門 鬼龍。字を悠鬼。鬼の影武者族の属する者。」

 腰に挿してある刀を抜き、奴の目の前に突きつける。

 「俺の本当の役目は豊かになり過ぎている人間に鉄槌を下すことだ。」

 そう言い残して首を撥ねる。奴は死に、全てが終わった。

 周りには野次馬が多くいる。それを見渡していたら急に蜘蛛の子が散るように逃げていった。だがそんな中で唯一、逃げずに俺に対して石を投げている人がいた。

 「何で伊亜が死ななければならなかったのよ!ねぇ、教えてよ!」

 その人はずっと同じ事を言っている。俺は静かに近づいた。その間も常に石が飛んできていた。

 その人の前で立ち止まった。人は「ヒイッ」と声にならない声を出していたが俺はその場でしゃがんだ。そして刀を差し出した。

 「あなたは伊亜の母上でありますか?」

 「えっええ…そうですよ。」

 その人は震える声で答えた。

 「今回は俺…いや私の不祥事で伊亜を殺してしまい、誠に申し訳ございませんでした。この問題は、謝って済むことじゃないって分かっております。けれども謝罪をさせて頂ければと思います。」

 頬を涙が伝っていく。

 そんな俺の態度に少し戸惑っていたが話を続ける。

 「この罪の償いとまでは行きませんがこの刀で私めを殺してください。」

 そう言うと人はそれを受け取り構えていた。俺は目を瞑り、死ぬ時を待った。

けれども、死ぬことはなかった。伊亜の母は刀を最初に俺が刀を渡したように渡してきた。

 少し戸惑った。それが伝わったのだろう。石を投げていた時とは正反対の  やさしさしか見られない目で話していた。

 「…今、私があなたを殺すことは簡単です。けれど出来ません。」

 「どうして…?」

 「それはあなたが伊亜の唯一の友達だったから…です。」

 「っ…!?」

 「確かに私はあなたが憎いです。少なくとも殺したいと思うぐらいには…。」

 「…。」

 「でも、ここであなたを殺したらきっと今私が持っている憎しみなんか比べ物にならないほど伊亜に私は憎まれるでしょう。相手がいくら鬼だと言ってもやっぱり、殺せません。」

 俺の頬を伝っていた涙が増える。それに補足するように付け足して言われた。

「鬼と人間って何が違うのでしょうね?だってあなたはそうやって人間と同じように悲しい事があったのなら泣けるじゃないですか。」

 俺は声を出して泣いた。様々な感情が心の中を支配していてどうして良いのかが分からなかった。

 さっき伊亜が消える時に言われた言葉を今知った。

 

 ―好きだったよ…ありがとう―

 

 「何で…最後にそんな…。」

 俺は地面を想いっきり、殴った。

 

 

 最後に伊亜の母はこう言った。

 「あなたは、生きていてください。多分また今回のようなつらいこともあるでしょう。それでも生き続けてください。あの子もそれを望んでいるのでしょう。」

 俺は父さんに教えられた事を思い出した。確か、人は死ぬとまた違う人として生き返る、と。

それを信じて走った。少しでも高い所にいれば見つけやすい。そう想った。

 

近くを見渡して一番高い山があったからそこへ行き、洞穴があったからその中に入り伊亜を待つことにした…。

 

 

 それからこの鬼は6兆年もの間『伊亜』と言う名の者を待ち続けたと言う…。

 

 

 

                                終

 


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