本作はシンフォギアのキャラクター性をオマージュしながら、リリカルなのは世界で新たな物語を作りたいと思い執筆しました。
このキャラはあのキャラのポジションなんだな、中の人はきっとこの人だろうな、など。
そんな風に楽しんで頂ければ幸いです。
“人の為に生きなさい。それがあなたの為になるんだから”
自分の記憶力のなさには自信があるけど、私がまだ、赤ちゃん卒業し立てに亡くなったおばあちゃんの、その言葉だけは今でもちゃんと覚えてる。
お陰様で、今や人助けは私の趣味なんじゃないかっていうくらいのものになっている。
迷子の親捜しとか、木に引っ掛かった風船とか。
若干後ろめたいのは、人助けと言っても別に
"その人が困ってるから助けないと!"
っていうわけじゃなくて。
自分の目の前で悲しそうにされていると、
堪らなく嫌な気持ちになって、
その後の一日が台無しになるからって理由。
結局は自分の為だから、自己犠牲ってわけでもないと思う。
ここ、わりと重要。
これから私に何かされる人たちは、決して私を過大評価しないこと。
お腹が痛くなりますから。主に私の。
...ああ、そろそろ気になりますよね。
このモノローグ何?シリアス?みたいな。
一言で言えば現実逃避なのです。
その現実が見たい?
仕方ないなー。
それでは皆さんにはこちらの映像を、
「聞いてますか星宮さんっ!!」
「ひゃいっ!?」
高校の教室というより、大学のそれに近い大教室。女性教師の怒号と、その対象である女生徒の悲鳴が響き渡る。
周りの生徒の様子は様々で、
またか、と呆れる者。
またか、と笑ってしまう者。
そして、またか、とおどおどする者である。
「貴女という人は何度目ですか!?通学時間20分の道で一体何がどうなって1週間連続で遅刻するんですかぁ!!」
「先生、土日は休みなので1週間ではないです。」
「知ってます!一般社会では平日5日も1週間と表現するんですっ!」
「いやぁ、今日は財布を落としちゃったお婆さんがいて。」
「三日前も同じ理由でしたよね!?」
「三日前はお婆さんじゃなくておばさんです。」
「一緒です!!年齢の差なんて関係ありませんっ!!」
「自分に言い聞かせたい言葉ランキング一位ですか?」
「気にする年じゃないから!まだ婚期逃してませんからぁ!!」
これがこのクラスの日課である。
"ミッドチルダ魔法学院"。
魔法都市ミッドチルダの中で最も大きい高等学校である。
この世界は一般的な教養科目の他、"魔法教育"のカリキュラムが存在する。
特にこの学院はその部分が充実しており、魔法を操る者、つまり"魔導師"となる優秀な生徒を毎年輩出している。
こちらは分校の女学校であり、所属する生徒と言えばいかにもお嬢様な娘が大多数。
教員と共にそのイメージに違わない、清廉として潔癖とした者ばかりである。
ですわねぇ。とか。うふふ~。みたいな口調の。
...はずなのだが。
「流石に毎日これはお腹が痛くなるなぁ...。」
漸く半ばストレス発散と化したお説教から解放され、机に突っ伏す件の女生徒。
それを隣にいる三人組が見て、思わずと言ったように笑う。
「まこちーは持ってるよね、うんうん。もう先生すら面白く見えてくるもん。」
「人助けで遅刻は主人公にのみ許される特権...つまり真はこれからこの学院をハーレムに!?」
「しません。」
随分と楽しそうな友人に苦々しげに睨みを効かせつつ、彼女はそのキャラクターに似合わない深いため息を吐いた。
「学校、辞めたくないなぁ。」
最近彼女の頭にちらつき始めた、"退学"の二文字。
入学時から続く遅刻癖に加え、彼女はあまり頭脳労働が得意ではなかった。
まともなのは体育と音楽、家庭科くらいのものである。
そして何よりも致命的なのが、その魔法適性。
学園での評価はDランク。
つまり、魔法は使えないに等しい。
この学院においての一番のステータスが、既に赤点。
退学に怯えるのも無理はない。
「流石にまだ退学はないでしょ。まだ。」
「大事なとこを二回言ったよね。まだってことはwillだよね。」
「英語勉強したんだ?未来形修得おめおめ。」
「中学英語の範囲なんですが...!」
「星宮さん、頼まれていた雑誌をお持ち」
「ありがとう!大好き!」
「切り替えが早い。そこに痺れないし憧れない。」
どうにもならない現実とネットスラングを無視して、彼女は友人の一人が差し出した雑誌を受け取る。
「フェイトさんのインタビュー記事!持つべきものは本屋でバイトしてる友達だよぉ!」
「喜んで頂けて嬉しいですわ。」
「その執務官の人本当に好きだよね。そんなに有名だったっけ?」
「管理局志望なら誰でも知ってる超敏腕執務官だよ!小学生の頃からロストロギア関係の事件を何回も解決して、今も沢山の大事件を捜査してるらしいんだよね!おまけに超美人!」
「結局世の中顔なんだ...!」
「あら、板場さんは素敵な女性ですわよ?」
「貴女が女神か!結婚してくれぇ!」
「はいはいコントしてないで。まこちーはそのフェイトさんを目指してるんだ?」
「まあ、今の成績じゃ執務官どころか管理局にも入れなさそうだけどね。あはは...。」
自嘲気味に雑誌のページを捲り、金髪の魔導師の写真を見つめる。
執務官はエリート中のエリート。
管理局員すら怪しいこの少女には、憧れと呼ぶにも遠い存在ではある。
それでも、"いつかはきっと"と願わずにはいられない。
"
――――――――――――――――――――――
「じゃあ、また明日!」
放課後。
騒がしい友人たちと別れ、真は彼女のアルバイト先であるレストランへと向かう。
思春期の女学生としては、何気なく街に繰り出しウィンドウショッピングを決め込むのが正常な気がするが、彼女にもそれなりの"事情"がある。
星宮真は現在、一人暮らしである。
訳あって両親と離れている彼女は、仕送りを断るどころか、なけなしのバイト代を実家に送りさえしている側なのだ。
所謂、苦学生。
バイト代を稼がないことには、退学する前に餓死する可能性すらある。
16歳にして自給自足。
このアルバイトは彼女にとって、まさに生命線と言える。
そういった事情を知る担任教師が、実は気を利かして遅刻の件を教室の外に持ち出していないことを、真は知る由もない。
幸い、このバイトに関しては今まで無遅刻無欠勤、超優良バイト戦士として無類の信頼を得られている。
神様もそこら辺は空気を読んでいるのだろう。
「おはようございます!!」
元気のよい挨拶と共に"準備中"プレートのかかる扉を開くと、そこにはどこか懐かしい、昔ながらの洋食店が待っていた。
優しい暖色の明かりの下に、見通しのいいカウンター、テーブルと椅子は淀みなく並べられ埃1つ見られない。
懐かしいと言いつつ綺麗で、飲食店として完璧な清潔感を持つこの店。
レストラン"SONG"。
それが真のバイト先だった。
「おはよう、真君!相変わらず元気で結構結構!」
「ありがとうございます店長。それだけが取り柄ですから!」
まず挨拶を返したのは、厨房で淡々と仕込みをこなす大柄な男性。
その背中からでも筋骨粒々と分かる体型といい、見る者に虎か竜かと思わせる迫力満点の顔といい。
明らかにただ者ではないのだが、歴としたこの店の店長である。
つまり一般人。
その渋い声と気さくな笑顔の通り、快活でダンディな人物で、真にとって"大人"とは彼のような人間を言う。
「おはよう真ちゃん。今日は学校間に合った?」
「え、え~っとぉ...」
「まさか今日もかい?人助けは立派だけど、ここまで来ると呪われてるレベルだね。あ、おはよう。」
「あ、あはは...呪われ系女子で~す...。」
勿論同僚は店長だけではない。
テーブルやメニュー表のチェックをしているクールな印象の女性に、グラスの清掃をテキパキとこなす軟派な印象の男性。
どちらもバイトではなく正式な社員だが、分け隔たりなく真に接してくれている。
年の離れたお姉さんとお兄さん、という具合だろうか。
女性は真の遅刻癖を心配するように、男性はからかうようにそれぞれの反応を見せる。
「正しいことだと信じるなら、それを貫けばいい。たとえルールを破ることになっても、守りたいモノの為に人は生きてるんだからな。」
「店長...!」
「安心しろ!もし退学になっても、うちでちゃんと雇ってやるさ。バイト代に色を付けてな。」
「そこはしっかり社員でお願いします...。」
真剣なアドバイスから、ちょっとした一笑いが起こり。
真を加えた一同は再び夜の開店準備に戻っていく。
この店でアルバイトとして雇われているのは真ただ一人。
何故彼女だけがこの店で働くことになったのか。
それはまた、別のタイミングで語るとしよう。
「ありがとうございましたー!!」
いざ開店してみれば、意外なことに客席はすぐに満席の大繁盛。
隠れた名店そのままに、出てくる料理は手頃ながら絶品ばかり。
接客も少数精鋭ながら淀みなく、言われなければウェイトレス姿の真がただのアルバイトだとは思わないだろう。
嬉しい悲鳴を心の中で上げながら、SONGのディナータイムは忙しなく過ぎ去っていった。
「ふぅ~。やっとこさどっこい余裕が...って、あれ?」
漸く空席が目立ち始めた20時過ぎ。
真がふと窓の外を眺めると、店の外に気になるモノが見えた。
浮世離れした、美しい銀髪の少女。
小学生くらいだろうか。
細長い二房お下げが特徴的な可愛らしい髪型に反して、その瞳は力強く真っ直ぐに真を見つめているように見えた。
「...店長、私ちょっと。」
「ん?...分かった、任せる。」
店長は真の指差す先を見ると、すぐにその意図を察して頷いた。
真はエプロンをカウンターに一度置き、駆け足気味に店外に出ていく。
向かった先は勿論、銀髪少女のところだ。
「キミ、大丈夫?迷子になっちゃったのかな?それとも、どこか怪我しちゃった?」
目線を合わせて、なるべく優しい声で話しかける。
しかし少女は驚いた様子もなく顔を上げ、間近に迫った真をただじっと観察する。
それはまるで、何かを見定めているようにも見えた。
それを数秒続けると、少女は何も言うことなく立ち上がった。
「...怪我はないみたいだね。どうしてこんなところで座って」
「おまえ、
「へ...?」
あくまでも少女を心配する真。
そんな彼女にやっと口を開いたかと思えば、出てきた言葉はあまりに予想外。
しかも到底子どもとは思えない冷たい目をして、そう問い掛けてきたのだ。
ゆっくり言葉を咀嚼し考えるが、やはりまるで意味が分からない。
「...見つけた。逃がすつもりはねぇ。
おまえに選択権なんてねぇが、仕方なく聞いてやる。くたばる覚悟はあるか。」
「ちょ、いきなりどうしたの!?というか口悪っ!?」
「...ふん。」
銀髪の少女はそれだけ言って満足したのか、真の返答を待たず振り返って、そのままどこかへ向かって歩いていく。
「ま、待って!?本当に、どういう!?とりあえず迷子じゃないんだよね...!?」
呆気に取られて追うのが遅れた。
信号に阻まれ、遠くなる少女の背中に真の問い掛けは最早届かない。
二人の間を車が一台通り過ぎると、かの少女はもういなくなっていた。
―――――――――――――――――――――――
「バイト中もぼーっとしちゃった。...なんだったんだろ、あの子。」
無事アルバイトを終え、賄いもご馳走になり。
自宅のアパートに帰る22時前。
結局、あの後彼女の頭の中は例の銀髪少女でいっぱいになってしまった。
人形のような美少女っぷりはともかく、子どもということを考えればイタズラという可能性はある。
今流行りのアニメの真似とか、そういう類い。
しかし、あの瞳の真剣さだけがずっと引っ掛かっている。
死ぬ覚悟だとか、逃がさないだとか。
言葉尻だけだと完全に暗殺者である。
「...バカが考えてもしょうがないか。早く帰ってお風呂入って、宿題は~...明日の朝早起きしてやる!うん、そうしよう!」
空元気を出し、無理矢理にでもそのモヤモヤを消し去る。
気になりはするが、あんな物言いが出来るなら迷子ではなかったのだろう。
心配する必要はない。
困っている人じゃないなら、いくら人助け最優先の真でも助けようがない。
むしろ私を助けて欲しい。学業的な意味で。
そう思った、その時だった。
「ハァっ...ハァっ...!!」
「あの子!?」
視線の先、路地裏の方へ向かって。
夕方の少女が走っていくのが見えた。
「っ!よく分からないけど、小学生の出歩いていい時間じゃないでしょーが!!」
真の判断は早かった。
事情はまったく分からないが、少女がただならぬ状態なのは間違いない。
幸い住んでいる場所から近く、道に詳しい彼女は近道と抜け道を駆使して少女の逃げた方に向かう。
「こっち!」
「!?おまえ...!」
待ち伏せるように少女と合流した真はそのままその手を掴み、また裏路地を通ってひたすらに遠くへと走る。
誰に追われているのかも分からない。
そもそも少女のことを真は知らない。
でも、そうしなければならないと分かった。
チラリと見えた少女の顔には、年相応の不安と恐怖が見て取れた。
だから、守らないと。
それが正しいと、彼女の心は叫んでいた。
「はぁ、はぁ...っ...だいぶ、走ったはずなんだけど。」
しばらく走り続け、いつの間にか人気のない"工事区画"へとやって来てしまったようだ。
周囲を見渡す限り怪しい人物はいないし、上手く撒けたのだと真は安心する。
「大丈夫?キミ、怪我はない?」
「...自分から来るとはな。飛んで火に入る夏のばかってか?」
「今は夏じゃないし、お姉さんにばか呼ばわりはよくないと思うよ。
小学生がこんな時間に出歩いちゃダメ。誰に追われてたの?お母さんはおうち?」
「...あたしに母親なんていねぇ。それに心配するなら、自分の方を心配しろ。
「え?」
ぶっきらぼうにそう答えた後、少女は空を見上げる。
否、
瞬間。
二人は空から降り注ぐ、"赤い光"に包まれた。
身体が宙を舞い、爆音と熱が五感を激しく揺さぶる。
「っ...今の...魔法...っ...?」
気付いた時には地面に倒れていて、辺りは瓦礫と煙に包まれていた。
直撃はしなかったからか、真の身体に大きな傷はない。
そうは言ってもあちこちを擦りむいたりぶつけたりして、傷だらけになってしまっていた。
「いっ...つぅ...!」
何とか立ち上がり、次第に意識が確かになっていく。
そうしてやっと、近くにあの銀髪少女がいないことに気付いた。
直前まで抱いて庇っていたはずだが、どこかで離してしまったのか。
「まさか瓦礫にっ!?」
最悪の想像をし、自身の怪我にも構わず慌てて周りの残骸に手を伸ばす。
その時。
「瓦礫に潰させるようなへまはしないよ。これだけ苦労したからねぇ。壊れてもらっちゃあ、困る。」
頭上から声が聞こえた。
月明かりを受けてハッキリと見えるその下手人の姿。
赤い髪の女性。
バリアジャケットを纏った、"魔導師"がそこにいた。
特徴的な眼帯や肩に担ぐ銃型デバイスに目が行くが、今気になるのはそこじゃない。
魔導師がその左手で、乱雑にあの少女を掴んでいることだ。
「その子のお母さん...じゃないですよね!その子を離して!誘拐は犯罪ですよっ!」
「法律が恐くてこんな仕事出来るわけないだろ?それに、あんたにはこれが
真の反応を心底可笑しそうに嗤いながら、魔導師は掴む場所を少女の襟から首に変える。
その態度が、何より少女の苦痛を考えないその乱暴さが気に食わない。
いつ以来になるか分からない他者への怒りを感じ、真はその拳を握り締める。
「どっからどう見ても可愛い女の子です!管理局を呼びますからね!」
しかし、すぐにその頭は冷静さを取り戻す。
星宮真に魔導師と戦う術などないのだ。
不甲斐なさと情けなさは無視して、彼女が憧れる管理局に助けを求めることにする。
せめて時間を稼げれば。
そう考えて携帯端末を取り出すが、なんと電波を示すアンテナが見当たらない。
「無駄だよ。人払いに電波阻害もしてある。
誰一人邪魔は出来ないのさ。」
言われて気付く。戦慄する。
そういえば、これだけ派手に町を壊しているのに
悲鳴も何も聞こえない。
いくら人気がないとはいえ、夜中でも工事をまったくしないということはないだろう。
つまり、真たちは追い付かれたのではない。
この場にまんまと誘い出されたのだ。
「それにしても妙だねぇ。アンタ、人払いが効かないなんて。よっぽど魔法適正が高いエリートちゃんとか?そんなら、お得意の魔法で何とかしてみるかい?」
挑発の笑みを浮かべる魔導師。
魔法戦に自信があるのだろう、期待とも取れる視線を真に向ける。
「っ...!」
そんな魔導師に彼女が出来たのは、ただ小さい瓦礫を拾って投げるということだけだった。
「おっと?...まさかアンタ、簡単な魔法すら使えないのかい?話にならないねぇ。
久しぶりに魔法戦ってのを楽しめると思ったのに。」
小馬鹿にされても言い返すことが出来ない。
魔法が使えないというのは真のコンプレックスだ。
そして何より彼女が恐れていたのは、魔法が使えないことで、誰かを助けられないこと。
つまり、今この状況だった。
悔しげに歯を食い縛るが、だからと言って手加減をしてくれる相手ではなかった。
「いたぶるのは趣味じゃないが、見逃すわけにもいかないねぇ。」
魔導師は一瞬困ったような顔をして、
「せめて、楽に逝きな。」
直ぐ様そのデバイスから、容赦なく銃弾を放った。
「がふっ...!?ぁ...」
真の身体が、彼女の意思に反して倒れる。
その腹からは夥しい量の血が溢れ出す。
あまりに呆気ない幕切れ。
星宮真は、ここで死ぬ。
「お仕事終了ってね。」
真っ赤にチカチカと光が瞬く視界に、翻る魔導師のマントが僅かに映る。
"痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、痛いっ!!"
光が弾け、視界がぼやける。
激しく起こる"痛い"という感覚も、一瞬で感じられなくなる。
真の意識は残酷なほど速く、闇に溶けていく。
後数秒で、命の灯火は消える。
「起きちまったか。おとなしく...っ!?」
しかし、魔導師側に異常があった。
気絶していた少女が意識を取り戻し、魔導師の手に文字通り噛みついたのだ。
反射的にその手を離してしまい、銀髪少女はそのまま落下。
ちょうど真の上に落ちていく。
「答えろっ...!!!」
少女の怒声に、消えかけていた真の意識がわずかに戻る。
頭に浮かぶのは、妙に達観した感想に。
どうしようもない、心残りの記憶。
"答えろって、あれ?"
"死ぬ覚悟、だっけ。"
"覚悟も何も、もう死にそうだよ。"
"痛い。すごく痛い。死ぬのって、ホント痛い。"
"それなりに正しく生きてきたと思ってたのに。"
"バチが当たった?"
"迷子に声をかけただけなんだけどなぁ...。"
"親孝行もまだなのに。"
"フェイトさんのサイン、まだゲットしてないのに。"
"見たい映画の続編、確か来月公開だったなぁ。"
"あーあ、未練しかないよ。"
"悔いしかないじゃん、私の人生。"
"寂しいなぁ。一人で逝くの。"
"誰かと一緒ならいいってわけじゃないけど、
"でもやっぱり"
『寂しい、です。』
そして最後に浮かんだのは、何よりも大切だった、弱々しいけれど、温かい。
大好きな
『おともだち、つくるの...にがて、です...。』
『だいすき、です!』
幼い頃の思い出たち。
いつも一緒にいた、あの子の言葉。
『ひとりにしないで...!』
『だいじょうぶ!また、あえるよ!やくそくしよ!』
あの時繋いだ指が思い出させる。
真はまだ、約束を果たせていない。
決して忘れてはならない約束を、破ってはならないと決めた約束を。
"やく、そく。"
"した。確かに。"
"覚えてる、約束。まだ、守ってない。"
"守らなきゃ。"
"だって、泣いちゃう。きっと。"
"あの子の、笑顔は...キレイだった。"
"とっても、とっても...!"
"キレイだった...だからっ!"
「しね、るかああぁぁぁぁッッッ!!!!!」
真は叫ぶ。
血を吐きながら、それでも生きなければと思えたから。
それに応えるように、少女の身体が光輝き、真の身体に重なる。
目映い光を放ち、真は変わる。
力を持つ者へ。
呪われし鎧を纏う者へ。
『Engage Completed. 』
契約は今、果たされた。
―――――――――――――――――――――――
「なん、だ...?」
魔導師は漸く霧散した光の先を注視する。
死にかけの学生と少女が重なって、凄まじい魔力の奔流を感じた。
考え得る最悪のパターン。
かくして、光の中から現れたのは。
『...』
紅と白の機械的な装甲を身に纏い、特徴的なマフラーをたなびかせた、
緑に輝く瞳を持つ"何か"であった。
「生き、てる...?」
真の意識が覚醒する。
気づいたら立ち上がっていた。
一体何が起こったのか。
「あれ...?」
あれだけ酷い風穴が塞がるどころか、痛みも疲労も感じない。
むしろ身体に力が漲り、今なら何でも出来るという気持ちにすらなってくる。
こんなのはおかしい。
しかし、もっと
「って、何これ!?」
見える範囲だけでも彼女の格好が制服じゃないのが分かった。
手にはグローブというか、ガントレット的な物々しい装甲が付いているし、足にも同じような装備が見える。
写真で見た魔導師のバリアジャケットより、かなりいかついというのが彼女の感想だ。
それなのに胴体は異様に寒そうな、ピッチリした服?になっている。
敢えてオブラートに包まずに言えば、1歩間違えれば痴女である。
「恥ずかし!?何かのユニフォーム!?」
『ユニフォームじゃねぇ。"アーマー"だ。』
「大事なところにアーマーがないんですけど!?」
どうせなら全身覆って欲しい。
そう訴えてから、その"違和感"に気付く。
「...今の声どこから?」
『あ?』
「......私のお腹からーっ!?」
なんとあの銀髪小学生の声が、真の腹部辺りから聞こえてくるのだ。
あまりに異常事態が続くので頭がパンクしたのか、
やだ、私ったらいつの間に...。などという意味不明な感想を抱く真。
『んなわけあるかバカ!いいかよく聞け!おまえは』
混乱する真に乱暴ながら説明しようとする少女。
そんな少女の言葉を邪魔したのは、真の顔スレスレを通り過ぎた弾丸だった。
「まさか、
面倒なことになったもんだよ。」
忌々しげに真を睨む魔導師。
真と違い、彼女はすっかり事態を把握しているらしい。
臨戦体勢、銃を構えそのまま真目掛けて急降下してくる。
「まあ、せっかく覚醒したんだ。不完全燃焼の分、楽しませてもらうよ!」
「!?」
魔導師が続け様に弾丸を放つ。
先程は反応すら出来なかったその凶撃。
今度もまた、全て受けて蜂の巣になってしまう。
そう思った。
「避けれたぁ...!?」
しかし、そうはならなかった。
まるで止まっているみたい、と言うと大袈裟だろうか。
何の苦もなく、当たり前のように真は弾丸を回避した。出来てしまった。
『当たり前だ。おまえの身体能力は人間の域を超えた。おまえの
やはり、意味が分からない。
少女を纏うとはどういう?
いくら疑問符を浮かべても、少女は今それに応える気はないようだ。
『
「ちぃっ...!」
混乱しながら、それでも真の身体は回避を難なく続ける。
魔導師が何度も射撃するが、いずれもその深紅の外殻を捉えることが出来ない。
これなら、自力でこの場を逃げ切ることが出来るかもしれない。
真の中には、まだ真正面から戦うという選択肢がなかった。
全速力で走ろうと足に力を込める。
「今なら逃げっ...!」
そう思った瞬間。
彼女の身体は雲と雲の間、地上の敵が見えない程の高さまで
「な、なななななっっ!?」
『バカ!何も考えずに飛び上がるヤツがいるか!』
力加減の分からぬ真は、まさかの大ジャンプ。
自由の効かない空中で、よりによって射撃型に隙を晒してしまうことになった。
「しめた!素人で助かったよ...!」
自身の状態に戸惑いながら、しかし頭に鳴り響く"警報"には気付くことが出来た。
落下する先、あの魔導師が自身の銃に"莫大な魔力"を充填しているのが分かる。
「あれ、"収束魔法"...!?」
「そんな体勢じゃ軌道修正もできやしないさ!
くたばりなぁ!!」
再び世界を染める赤い閃光。
先程の弾丸とは比較にもならない魔力の束が、真を呑み込もうと迫る。
「これやばい...!死...!?」
『拳を突き出せっ!!』
「拳って」
『いいからやれ!
死にたくねぇ理由があるんだろーが!!』
「ッ...!」
生きたいと願ったのは、約束を果たす為。
訳も分からず失って、訳も分からず助かった命。
だからこそ、もう二度と手放すことは出来ない。
離さないように、握り締める。
その拳を、その心を強く。
強く強く、全霊の力を込めて。
『解放全開だあぁッッ!!!』
稲妻が走り、"雷"が真の拳に宿る。
まるでロケットが噴射するかのように、腕部の装甲から電撃が迸る。
「こんのおぉぉぉーーーーーッッ!!!!!」
我武者羅な拳が、収束魔法と激突する。
普通ならば一瞬にして溶けるその身体。
しかし。
「なん、だと...!?」
拮抗などしない。
空から地上に落ちる、鳴神。
真っ直ぐに、一直線に光を割って。
鉄の拳は敵を穿った。
「ハァ...っ!!ハァ...っ!!」
足元には完全に意識を失った魔導師が倒れている。
「これ...私、が...?」
『そうだ。お前が倒した。』
本で読んだことしかない収束魔法。
それをただ、
魔法も使えない、弱いはずの自分が。
『剣も出せないとはな。素人も素人、ホットチョコより甘ぇチェリーちゃんってか?』
「言ってること...全然分からな、い...。」
自身への戸惑いとか、恐怖とか。
そんな余裕は今の真には残されていなかった。
糸が切れたようにその場に倒れ、その意識が途切れる。
彼女の中で、少女は笑う。
少女の身体は、鋼で出来ていた。
―――――――――――――――――――――――
と、そんな感じで。
以上が今日あったことの振り返りなのでしたー。
いやー、我ながら日頃の行いが悪かったのか神様と仏様に懺悔したいレベルで呪われてるんじゃないかっていうとんでもデイでしたね。
まあ、とりあえず命の危機は脱したし?
死んだけど生き返ったみたいだし。
これで温かいお布団と美味しいカレーが沢山食べられれば明日からは強く生きられる!
...って、そう自分を騙していたわけなんだけど。
「星宮真さん。
貴女を、このまま帰すわけにはいきません。」
目の前の女性。
金髪で赤目で、黒い制服がバチッと決まった私の憧れの人。
"フェイト・T・ハラオウン"さんは、
凛々しい目で、私にそう言い放った。
「...なんでえぇぇぇぇーーーーっ!?!?!?」
いかがだったでしょうか?
稚拙な文章ですが、少しでも好きになって頂けたら嬉しいです。
感想、評価もお待ちしてます。
お時間頂き、ありがとうございました!