改めて戦闘シーンって難しいなぁと頭を捻っております。
ところで、シンフォギアの劇場版ってどうなったんですかね?
「わぁー!おひめさまみたーい!」
「ひぅ...!?」
とある教室の片隅。
一人の幼い少女が興奮した様子で無邪気な声を響かせる。
その音に驚いたのか、そもそもその少女が恐いのか。
声を掛けられた側の少女は、持っていたクマのぬいぐるみですぐに顔を隠す。
「おなまえは!?わたし、まこと!」
「ほ、ほっといてください...。」
人懐こい笑顔を浮かべる女の子は、"まこと"という名前らしい。
明るい自己紹介に対し、もう片方の少女は素っ気ない態度。
ただ嫌がっているというより、戸惑っていると言う方が正しい。
その少女の身なりは普通より華美で、所謂ゴシックロリータ的な雰囲気。
少女自体も幼いながらに整った容姿をしており、まことが評した通りに"おとぎ話のお姫様"のようにも見える。
もっとも、それ故に彼女は孤立しているのだが。
「そのクマさん、かわいーね!」
「...ともだち、です...。」
先程から大事そうに抱き抱えられているクマのぬいぐるみ。
褒められて嫌な気はしなかったのか、軽く一撫でした後、それが唯一の友達であることを話す。
大人の感覚からすれば可哀想な状況ではあるが、まことはそんなことを思いもしない。
そのぬいぐるみを羨ましそうに見つめ、星のような輝く瞳を少女に向ける。
「いいなぁともだち!わたしも、ともだちになりたい!」
「え...」
「わたしとともだちになってよ!」
"どうして?"と少女は思う。
進級しこの組になって一週間。
前年から同じ組だった子には勿論、今年から一緒の子にも少女の印象は定められてしまっていた。
少女は恥ずかしがり屋で引っ込み思案。
誰とも上手く話せず、いつもぬいぐるみを抱いていているだけの変な子。
そのくせ、お金持ちで可愛い。
幼いながらに、集団の悪意というものはこの教室にも蔓延っていた。
少女にはそれが世界の全てで、家族以外は全部が恐ろしい存在だった。
それなのに、目の前のこのまことは友達になりたいと言う。
教室での彼女の扱いなんて知らないはずがないのに。
可哀想だと思われたのか。
しかし、それは違うと分かってしまう。
まことの顔に、そういった暗いモノは一切ないように思えた。
少女にはそれが不思議でしょうがなかった。
「まこと!おなまえは?」
進級後最初の自己紹介で名前くらいは言っていたはずだが、少女もまことの名前を知らなかった。
興味がなかったのかもしれないし、ぼーっとしていただけかもしれない。
自己紹介中に能天気に外を眺めているまことを想像して、少しだけ少女は口元を弛める。
「......
「リーゼちゃん!...じゃあ"りーちゃん"だねっ!」
「りー、ちゃん...。」
驚いた表情で固まる少女、リーゼ。
そんな様子にも構わず、嬉しそうにはしゃぐ真。
これが、この二人の出会いだった。
何よりも幸せだった時間、その始まり。
永遠に忘れられない、大切な存在となった瞬間だった。
―――――――――――――――――――――――
「っ...んぅ...?」
瞼の上からでも分かる陽射しの強さが、無理矢理に意識を覚醒させる。
せっかく懐かしい夢を見ていた気がするのに、どうしていいところで起きてしまうのだろう。
珍しく不機嫌そうに顔を歪めながら、ゆっくりと真は目を開く。
「やっと起きたかばかマスター。」
「......バーのマスター?」
「はぁ...ちょせえッ!!」
「イタイっ!?!?」
不機嫌なのは起こす側も同じだったらしい。
寝惚け覚ましにクラレントのチョップが真の無防備な頭に突き刺さる。
ツッコミにしては些か暴力的である。
痛みに呻きながらも意識は覚醒していき、漸く状況を理解出来るようになる。
「そっか...私、リーナさんに泊めてもらって...」
自身の服装が見慣れないTシャツ姿になっていることに気付き、昨夜までの記憶が甦る。
リーナ博士にこの研究所兼自宅に住むように言われたこと。
帰ろうにも時間がなく、一旦泊まっていくと決めたこと。
しっかりお風呂まで頂き、疲れもあってそれはもうぐっすりと眠ってしまったのだった。
ここのお風呂はなかなか大きくて広い。
その気になれば複数人で銭湯ごっこが出来る。
高校生ながらワクワクしたのを思い出して、真は上機嫌になる。
「おはよう!レンちゃん!」
「
「え?」
起床1分で早くも二回浴びせられる軽蔑の視線。
クラレントの言葉の意味を考え反芻し、そう言えば
「......今、何時?」
「自分で見ろばか。」
ギギギ...と錆びた機械のような速度で、真は近くにあった時計に顔を向ける。
指し示す時刻は"10時43分"。
とっくに2限目の授業が終了している時間である。
言うまでもなく、今日は平日だ。
人生で初めて、血の気の引く音が聞こえた気がした。
「......寝坊しちゃった☆」
「起きるのも気付くのもおっそいんだよばーか。」
「遅刻やばい退学遅刻寝坊ぉぉーーっ!?!?」
生意気な罵倒も最早耳に届かない。
クラレントの視線も気にせず、真は急いで制服へと着替える。
こんな大寝坊をかました以上、本格的に"退学"の二文字が現実味を帯びてくる。
それだけは絶対に勘弁して欲しい。
とにかく、今は早く登校しなければ。
そう焦りながらも、ちゃんと顔を洗って鏡の前で髪型を気にする辺り、真も年相応の乙女である。
「ってやっとる場合か私っ!?」
「あ、おはよう真ちゃん。机にレンレンのお昼が」
「ありがとうございますいってきまーすっ!!」
「待てばか置いてくなばかっ!!」
研究室内を走り去る途中でリーナ博士に挨拶し、言われた机の上のモノを確認せずに掴む。
勢いそのままに飛び出す真を、レンが遅れて追い掛けていく。
「青春、って感じね。いってらっしゃ~い。」
真とレンの追い掛けっこを微笑ましく窓から眺めながら、リーナはお気に入りのカップに口を付けた。
「遅刻!遅刻...!学校遅刻ぅ...!!」
「はぁ、はぁ...っ。ま、まて...待ってばか...。」
研究所から数分走り続け、見慣れた信号で仕方なくの停止を余儀なくされる真。
そこで漸く、自分を追い掛けるクラレントの存在に気付いた。
後ろをヨロヨロとよろけながら走る姿は酷く弱々しく、速度的には完全に歩きと変わらない。
運動をあまりしない、現代のもやしっ子か?と見当違いな感想を持つ真だが、そもそも高校生の全力疾走に小柄なレンがついて来られるわけがないのである。
「レンちゃん?どうしたの?レンちゃんも小学校?」
「だ、だれが小学、せい、だ...このっ...体力ばかが...!」
確かに、体育の授業は真が唯一得意な授業ではある。
「ほめてねぇ...!」
「わお、通じあってる。」
考えていることが分かるなんて、流石パートナー。
真の天然にいい加減ツッコむ気力もなくなったか、それとも単に疲労からか。
いつもの覇気もなく、諦めた表情でレンは会話を試みる。
「こんのばか...一人で出ていってどうする!危ねぇって話は昨日リーナがしただろうが!」
「あ~...。でも、学校休むわけにいかないし。それに子連れなんかで行ったら先生に怒られるどころか、心の底から心配されそうだしさぁ...。」
頭に浮かぶのは勝手に自己完結し、卒倒する担任教師の姿。
あまりに不憫で見ていられない。
"だから大人しくお家で待っててね!"と、まるでペットを宥めるように撫でようとする真の手を払いのけ。
レンは逆に、真の腹部に手を翳した。
「あのな。こうすんだよばか。」
途端にレンの身体が光を放ち、というより
目の前からいなくなったクラレント。
しかし、真には確かにレンが自分の中にいることを認識出来ていた。
「わっ...そっか。合体出来るんだったね。」
『ニュアンスがちげーがもういい。あたしはデバイスみたいなもんだ、これくらいできらぁ。』
「デバイス...。」
得意気に語るレンに対し、真の表情は曇っている。
何故彼女はこんなにも簡単に自分を"モノ"だと言えるのだろうか。
温かさも感情もあって、彼女には歴とした人間にしか思えないというのに。
『ほら、これでもう楽チンだ。
さっさと遅刻しに行けよ。』
「う、うん。」
後々、ちゃんと話したいなと真は思う。
まだ出会ったばかりだが、レンは真にとって運命共同体であり、パートナーだ。
真はレンをモノ扱いするつもりはない。
その辺り、しっかりと伝えるべきだと決めた。
新しく生まれたモヤモヤを振り払い、再び通学路を全速力で駆けていく。
今から言い訳を考えておくべきか、いや素直に言うべきだろう。
そんな、余裕が出来たタイミングだった。
「ひ、
事件に次ぐ事件。
見慣れた通学路に見慣れない誰かが倒れていた。
クリーム色の髪を所謂ロングツインテールにし、ゆるふわな雰囲気の私服を着た少女。
同い年くらいに見えるが、その身長は真よりも小さい。
しかし、仰向けで倒れていても分かる程に大きなバストを備え、まさにトランジスタグラマーなスタイルを無防備に地に投げ出している。
リズム良く上下すると、それはそれは気持ち良さそうで
「って...あれ...?」
『おいマスター。こいつ
「すぅ...すぅ...Zz」
「......快眠、だね?」
ロケーションがロケーションなのでどう見ても倒れているようにしか見えないが、その少女は息があるどころか気持ち良さそうに寝息を立ててさえいた。
"あれかな?お家ない系の方、かな...?"
と気を遣いかけた真だが、少女の洋服は綺麗で傷ついている様子もない。
どうしたものかと逡巡した後、真は躊躇いがちに少女の肩を叩いた。
「も、もしも~し?こんなとこで寝てると風邪引いちゃいますよ~...?」
『風邪じゃなく自転車辺りに牽かれんだろ。』
「っ...んぁ...?」
外部からの刺激に無関心、ということはなかったらしい。
少女はゆっくりと目を開け身体を起こす。
深い青色をした宝石のような瞳が、半目で目の前の真を捉える。
無言で不思議そうに見つめてくる少女に困惑しながら、何か言わなきゃと真は頭を必死に回転させる。
「迷子、ってことはないか...疲れてるとふと眠っちゃうことあるよね!あは!あは、は...」
「じーっ...」
日本人特有の共感して話を広げる作戦は失敗したらしい。
わざわざ声に出して観察を続ける少女。
さながらにらみ合いの現状に、真の額から冷や汗が流れ落ちる。
その時だ。
まるで怪物の野太い咆哮のような音が、少女の腹から発せられたのは。
「...お腹、空いた。」
「それはなんと、一大事...」
『今時行き倒れだぁ?』
漸く言葉を発したと思えば、少女が伝えたのはシンプルな空腹感。
行き倒れにしては随分気持ち良さげに寝ていたが、今更突っ込む気にもならない。
野生動物じゃないんだからと思いつつ、何かないかと真はカバンの中を漁ってみる。
「...お。あったあった。」
真が取り出したのは2つのパンだった。
片方がコロッケを挟んだ惣菜パン。
もう片方がクリームのたっぷり入った、細長い菓子パンだった。
『おま!?それあたしんだぞ!あたしの昼めしっ!!』
『後で代わり買ってあげるから!人助けと思って、ね?』
『あんパン追加、あと牛乳も。なら、許す。』
『パン好きなんだね、レンちゃん...。』
無意識のうちに念話を習得しながら、何とかパンの譲渡許可をもらう。
そのパン二つ共を、腹を空かせた少女に差し出した。
「はいこれ。今あるの、これくらいしかなくて。」
「!...いいの?」
「うん。だから、もうこんなとこで寝ちゃダメだよ?」
少女は初めて年頃の女の子らしい表情を浮かべると、嬉しそうにパンを受け取った。
「...ありがとう。」
「どういたしまして。それじゃ、私行くね!」
不思議だが、悪い子ではなさそうだ。
危ない目に遭う前に起こせてよかった。
満たされたような気持ちになって、真は三度通学を再開する。
離れていく真の背中をまたじーっと見送ってから、少女はおもむろに菓子パンを頬張る。
暴力的な甘味が頭を叩き、ボヤけていた思考も漸くハッキリとして来る。
「...忘れてた。
何故彼女はここにいたのか。
それは勿論、"目的"があったから。
待ち伏せの為に待機していたら、いつの間にか眠ってしまっていたというのが真相。
真が走り去って行った方向と、手元のパンを見比べて。
嬉しそうにパンに齧り付く。
問題ない。
後は"相棒"が何とかしてくれるはずだから。
少女は1つ目のパンを完食し、2つ目のパンも間を置かず口に運ぶ。
満ち足りた気分のまま、早くも今日の晩ごはんについて考え始めるのだった。
―――――――――――――――――――――――
「あら星宮さん。思っていたより早かったですね。」
教室に恐る恐る入った真を待っていたのは、意外にも穏やかで落ち着いた様子の担任教師だった。
他の生徒たちも驚いたり笑ったりする気配はない。
仲良しの友人たちに至っては、どこか安心したような雰囲気を感じられた。
「...先生が、怒ってない。
ついに見捨てられたんだ、私...。」
「何をボソボソ言っているんですか。
大変でしたね...。
途中からですが、着席して授業を受けて行ってください。」
「え、お母さん...?大変、でした?」
ついに怒る気力すら出ないということなのか。
そう勝手に絶望した真だったが、どうやら事情は違うらしい。
ただ、何故そこで母親が出てくるのだろうか。
真は一人暮らしで両親とは離れているし、母親が昨夜の顛末を知っているわけがない。
わけも分からず自席に向かう真の心に、レンの呆れた声が響いた。
『ニブいヤツだなぁ。リーナだリーナ。
朝ここに電話してたぞ。』
『リーナさんって......あ、あぁ~!なるほどぉ~!』
ここまで言えば混乱した真でも理解出来た。
つまり、朝に真が起きて来ないことを確認したリーナが母親のフリをして、学校に遅れる旨を説明していたのだろう。
話からして"事件に巻き込まれた"とでも言ったのだろうが、嘘は言っていない。
日頃の真の行動からも、厄介事に遭遇してもおかしくないと思われたようだ。
ありがとう、リーナさん。
流石です、天才科学者。
学生生命を救われたことに感謝しながら、それはそうと"言わねばなるまい"と心の声に僅かに怒気を孕ませる。
『レンちゃんさ。知ってたのに教えてくれなかったの?急がなくても大丈夫、って。』
『おまえが聞かなかったのが悪い。あたしは急げなんて言ってないからな。』
『レンちゃん。やっぱり、あんパン抜き。』
『はぁ!?おめぇそんなのぜってー許さねぇぞばか!あたしさまのあんパン寄越せあんパンー!!』
しばらく"あんパンあんパン"と駄々を捏ねる声をBGMに、心機一転の学園生活1日目が過ぎ去っていった。
「また宿題を忘れたんですか星宮さんっ!!」
「はいすみませんっ!?」
『ぷぷっ、ばーかばーか。』
宿題を忘れて結局先生に怒鳴られたり。
「これは中学生の範囲ですよ星宮さんっ!!」
「なんかすみませんっ!?」
『ばかばーか!』
授業について行けず案の定先生に怒鳴られたり。
「授業中に居眠りですか星宮さんっ!!」
「んぇ?...す、すみませ~ん...。」
『すぅ...すぅ...Zz』
レンに釣られて居眠りをかまし、やっぱり先生に怒鳴られたり。
それはそれは騒がしい授業を何とか謝り倒して乗り越えていった。
「あの。どうか...どうかお花摘みの時は見ないし聞かないし嗅がないということでどうか。何卒、えぇ。ええ...。」
『...おう。なんか...わりぃ。』
この一体化について、いくつか分かったこともある。
まず1つは"感覚の共有"。
二人のどちらかが意識して拒まない限りは、真の五感はレンにそのままフィードバックされる。
真の見る世界、聞く音、触れるモノに嗅ぐ香り。
食べ物の味まで、全てをレンも同時に経験することになる。
『なんか、食べても食べても足りない気がする。』
『ったりめぇだろ
『これまさか溜まる脂肪は私にだけダイレクトアタックだったりしないよね!?ね!?』
食べ物と言えば、一体化した状態でも真とレンの胃袋は別々に満たされるようになっているらしい。
先程の感覚と理屈は同じ。
レンが満足すれば感覚共有を切り、漸く真の分が埋まり始める仕様だ。
真はカロリーの行き先を一応気にしているようだが、そもそも彼女が異常に食べる大食漢。
子ども一人分の食事が増えようと、その変化に気付く者は誰一人いなかった。
「ちゃーんと連絡してもらっても、結局宿題はやってない。流石はまこちーって感じだよね。」
「ほんとほんと。というか事件ってなに!?巻き込まれたって、追われてる美少女を助けたりとかしたの!?なーんて!アニメじゃないんだからね~!」
「あは...あは、は...。まさかー。」
『な、何だコイツ。まさか見られてたのか?』
『違うと思うよ。たぶん。』
気付けばあっという間に放課後。
色々あって疲労困憊の真に、友人たちからの相変わらずな声が掛けられる。
偶然に真相そのものな予想をする者もいたが、あくまでもアニメ脳が故の冗談。
レンが不安がる必要はまったくない。
「ともかく、ご無事な様子で安心しましたわ。」
「しっかり怒られ倒したから、無事かどうかは微妙だけどねー。」
クラスの中で、真は"バイト帰りにちょっとした事件の目撃者になった"という風に認識されていた。
事情聴取もされて精神的にも体力的にも疲れていると聞いていた為、何だかんだで心配はしていたのだ。
先ほどのイジりも、変わらない真を見て安心したことの裏返しだったりする。
「ね。まだ元気ならさ、久しぶりにカラオケ行かない?」
「え、カラオケ?」
「そりゃカラオケよ!私のアニソン100連発を見て聞いて驚けって話よ!」
「100は多すぎでしょ。マイク握ったらしばらく離さないし、そのうち友達なくすよ?」
「私たちの絆はそんなものだったの...!?いいや、まだだ!まだ終わってねぇ!!」
「今日は一段とお元気ですね。」
これも真を元気付けようということか、彼女を遊びに誘う三人。
家でゆっくりしたいだとか、引っ越しの準備をしなきゃとか。
頭には断る選択肢も浮かんでいたが、どうも心は答えをすぐに決めてしまっているようだ。
「...うん。久しぶりにパーッと遊びたい気分かも。」
「よしきた!」
「今夜は寝かさないぜっ!」
「ちゃんと帰りましょうね?」
"安心"したのはむしろ真の方だった。
どれだけ常識外の経験をして、自分が変わってしまったとしても。
彼女たちはいつも通り。
自分もまだ、そんな彼女たちの日常にいられる。
そんな安心感に甘えていたくて、真は少しでも長く友人たちと一緒に過ごすことを選んだ。
そんな彼女の等身大の"弱さ"に、レンだけが気付いていた。
―――――――――――――――――――――――
久しぶりに4人並んでの下校。
すっかりレンが一体化しているのを忘れて、束の間のガールズトークを楽しむ真。
あそこのお店に可愛い服が云々。
あの新しい出店は値段の割に味がいまいち云々。
それぞれが日常で経験した何でもない話を、思い付いた端から脈絡なく皆が好きに話し出す。
何でもないただの雑談が、今は酷く心地よく感じた。
「そだ!アニメと言えばさ。今朝、うちの制服着た子を見かけたんだけどさ。」
「そりゃ見かけるでしょ。どこ通ってんのさ。」
「そうじゃなくて!えっと...なんだかこう、すっごく浮世離れしてるって言うの?私のアニメセンサーにビビッ!とくるような雰囲気の子だったんだよ。
"お主、只者ではないな?"みたいな!」
「その珍妙なセンサー、さっさと取って粗大ゴミで出しなって。」
「わしにしねと言うんじゃな?」
友人のオタク女子、弓美の話を聞いて思い出すのは、今朝会った行き倒れ少女のことだ。
アニメセンサーは分からないが、確かに浮世離れしている容姿だった気がする。
白ウサギの擬人化と言えば分かりやすいか。
「私も学校来る前に、不思議な女の子に会ったよ。同い年くらいで白い髪の、ツインテールの女の子。」
「真も!?...って、だとしても違う人だよ。私が見たのは黒髪で、アウトロー感があるというか、ちょいわる雰囲気の子だったから。」
よく考えたら、あの子は制服なんて着ていなかったか。
雰囲気もポワポワしていたし、同一人物ではないのだろう。
1日に近所で二人も変わった美少女を見掛けるなんてすごい偶然だ。
レン、フェイト、リーナと来て、真の知り合いにすごい勢いで美人族が追加されていく。
「なに真に受けてんのさ、まこちーは。弓美はアニメの見過ぎだって。」
「人を厨二病扱いなんて酷いなぁ。まだその周期じゃないんだからね!」
「結局ご病気の時はあるのですね...。」
そんな会話をしながら、気付けば市街地への分かれ道に来ていた。
普段は逆に進んでアルバイトか帰宅になるのだが、今日は違う。
何を歌おうかと、ワクワクした気持ちで踏み出そうとした時。
「あ!あの子だよあの子!さっき話した、アニメセンサーでアウトロー!」
興奮した様子で道の先を指差す弓美。
言われた方向を見ると、確かに真たちと同じ制服を着た少女が立っていた。
セミロングの黒髪に、キリッとつり上がった赤い瞳。
髪には特徴的なポップ調のドクロマークを象った髪留めをしている。
制服を僅かに着崩していて、弓美の言っていた印象も存外間違っていないと思えた。
他とは違う雰囲気の美少女。
だが、
「漸く見つけました。結局外で待ち伏せするなら、わざわざ制服を着る必要もなかったですね。」
「待ち伏せ...?」
「なになに?あの子知り合いなの?」
ため息交じりに話す少女、その中に眠る"何か"が真に、レンに不気味な威圧感を与えていた。
「
「なんで...!?」
『コイツ...!?』
少女は驚く二人をニヤリと嘲笑い。
黒と緑の、禍々しい"鎧"を身に纏った。
その速度は一瞬。
「地獄にご案内デス...!」
気付いた時には、目の前に
呆気に取られ動けない真。
『ぼさっとすんなっ!!』
それを無理矢理にレンが操作し、咄嗟の回避を可能にした。
引っ張られるように横側へ跳んだ為、着地も出来ず転ぶような形になる。
「いったぁ...!?」
『頭と体が繋がってんだ感謝しろばか!』
「あ、ありがとう...って、何あれ...ぶ、物騒なんてもんじゃないド物騒引っ提げてる!?」
黒い少女の手で武器が唸る。
それは剣でも鎌でもなく、
属に"チェーンソー"と呼ばれるモノに酷似していた。
改めて観察すると、少女の鎧はどこか衣装っぽく、所謂ゴスロリ衣装のように見える。
緑の三角帽子は魔女そのものだし、ドクロの意匠からは死神の要素も感じる。
総じてホラーテイスト、一人ハロウィン状態。
真から見れば、完全にホラー映画のキラーである。
「今のを避けるとは、なかなかのラッキーガールです。でも、次はありません。さっさとぶちまけてもらうデスよ!!」
そう言って少女は得物を唸らせ、再び真へと突撃して来る。
「ひぃっ!?」
避けるというよりは逃げ回っているだけ。
何とかその凶器が体に当たらないよう、真は必死に動き続ける。
「ちっ!しつこいッ!」
なかなか当たらない事実に苛立つ少女。
口調とは反対、冷静に真の動きを観察しタイミングを合わせ、チェーンソーではなく蹴りをその腹に喰らわせた。
「うがぁっ...!?」
常人のそれとはまったく違う、圧倒的威力。
骨と筋肉の悲鳴を聞きながら、真の足は地面を離れて体ごと吹っ飛ばされてしまった。
「チェックメイト。
さぁ、お待ちかねのぶちまけタイムデス。」
『まずいっ...おい!早くあたしを使えっ!』
痛みとダメージから動けない真に、少女はゆっくりと近付いていく。
レンが鎧を纏うように必死に呼び掛けるが、混濁した真の意識では応えられない。
"楽な仕事だった。"
真を嘲笑いながら、少女は余裕の表情でチェーンソーを振りかぶる。
「痛む間もなく切り刻んでっ!...ん?」
まさに刃が真を裂こうとした直前。
少女の頭に、どこからか空き缶が投げ付けられた。
そんなものが当たろうが、装備状態の魔導師に効くわけがない。
痛みもない。ただ、気持ちよく仕事を終えようとした彼女には、それが非常に不愉快に感じられた。
眉をひそめて、投げられた方向を睨む。
「真に何すんのよあんた!!あ、アニメじゃないんだから、暴力なんてダメなんだからね!?」
「っ......弓美、ちゃん...?」
「逃げて星宮さん!私たちが惹き付けておきますからっ!」
「私たちの友達に近づくな!相手なら私がしてやるよ...!」
復旧した真の視界に飛び込んで来たのは、凶器を持つ少女に必死の威嚇をする友人の姿だった。
今まで注意を配る余裕がなかったが、彼女たちは逃げ出していなかった。
突然の出来事に驚きながら、それでも真を救おうと勇気を振り絞る。
勇ましく吼える三人の足が、等しく震えていることも、真には見えていた。
「みんな...恐いのに...」
「生まれたての小鹿が三匹、よく言う。
...そんなに死にたいのなら、先にお前たちからバラすデスよ。」
「やばっ...!?」
「星宮さん逃げて!!」
「やっぱり投げる前に通報した方が良かったかも...!」
容赦なく、邪魔するならばと矛先を三人へ向ける少女。
真に背を向けると、またしても空き缶が少女の頭にヒットした。
「ぁいたっ...私の頭は的当てゲームの的じゃないのですよ!!」
今度は下手人を確認する必要もない。
振り返り様に放った魔力の弾丸が、真の頬を掠め赤い滴を滴らせる。
しかし、真は動じない。
その瞳にもう戸惑いはなく、体は恐怖に竦んでいない。
立ち上がったまま、真っ直ぐに"敵"を見つめる。
「狙いは私なんでしょ!私の友達に、手を出さないで!相手なら受けて立ってやるッ!」
「ほう?やる気になりましたか。
安い挑発...でも、ノリのいい私が乗ってやるデス!」
真は駆け出す、少しでも友人たちと離れた場所へ。元より狙いは真のみ。
邪魔が入らないなら好都合と、少女もその後を追う。
「ちょっ!?真どこ行くの!?」
「星宮さんっ!...もう見えなくなって...」
「......私たちを、逃がす為だよ...。」
―――――――――――――――――――――――
命懸けの鬼ごっこ、再び。
牽制のように飛んでくる魔力弾や魔力刃を決死の覚悟でやり過ごしながら、周囲に人がいない場所を探す。
昨日の魔導師の方が遥かに紳士的だった。
チェーンソーの少女は人や物を巻き込むことなどお構い無し。
逃げれば余計に被害が増える、けれど立ち止まって戦えば確実にその場は大惨事。
昨日と違い時間帯も夕方で、人通りはどうしても多い。
人が少ない場所を探すのにも限界がある。
悩む真の視界の端に、僅かに都市開発を免れた森林が映った。
「ここしかない...!」
『こんな時まで他人の心配たぁ余裕だなばか!』
「レンちゃん!変身ってどうすればいいの!?」
『気合いが入りゃ何でもいい!エンゲージだっ!』
「え、エンゲージ!...何もなんないけどっ!?」
『ったくこのあほぉ!!』
変身出来ないまま森林地帯に飛び込む真。
それを少女は悠々と空中から視認し、狙いを定めて刃を振るう。
「鬼ごっこは終わりデスっ!」
「しまっ...!?」
獲物を切り刻む為の刃、それが雨のように真へと降り注ぐ。
最早逃げ場はない。
生身で当たれば一溜りもない必殺の一撃。
昨夜と同じその瞬間、意識するのは"自分が死ぬ"という事実と、"死んでたまるか"という激情。
「くっそおぉぉぉーーッッ!!」
だから真は、迫り来るそれに対し身を庇うのではなく。
ただがむしゃらに、
「なぁっ!?」
腕は切り飛ぶことはなく、刃を砕き鋼の装甲を纏った。
真の体が光に包まれ、全身を装甲が覆っていく。
1秒と掛からず変身は完了し、深紅の鎧にマフラーが静かに棚引いた。
「で、出来た...?」
『ギリギリ火事場にも程があるぞバカ!!』
「...アイアン・メイデン。
それが戦闘形態ですか。」
技を防がれ動揺していた少女だが、真の姿を見るうちにその顔に怒気を含ませていく。
握る凶器がカタカタと音を立てる。
少女は地上へ、真の目の前へと降り立った。
「
さっさとぶちまけさせるデスよ...!」
『来るぞマスター!』
チェーンソーを振り上げ、正面からの突撃。
殺意の篭った一撃を、真は咄嗟に腕の装甲部分で受け止めた。
「っ!?」
チェーンソーの刃が回転し、真の腕を切り刻もうと鳴動する。
金属同士がけたたましい音を上げ、激しくぶつかり合った。
火花が散り、互いの鋼が僅かに削れ折れていく。
『ばか!?どストレートに受けてどうする!
腕がなくなってもいいのかっ!』
「わわっ...!?」
言われて自分の無茶に気付き、急いで後ろに飛び退く。
ガントレットを見ると、そこには痛々しい傷跡がしっかりと残っていた。
『武器だ!
「剣?そっか!クラレントは剣!...でもどうやって?」
「武器もまともに出せないお気楽者ですか!」
レンの言う通り、チェーンソーとやり合うならこちらにも武器が必要。
理屈は分かるが、真は出し方など知らない。
イメージも出来ない。
その隙を突き、容赦ない連撃が襲って来る。
躱して、逃げて、受け流して。
真は防戦一方になるしかなかった。
『何やってんだマスター!
武器がなきゃ戦いになんねーぞ!?』
「分かってる、けど...!」
戦いに武器は必要不可欠。
管理局だって杖や剣、銃を使う。
力は使う者次第。
それは勿論分かってる。
だが、どうしても真は進んで武器を持とうという気持ちになれなかった。
銃も刃物も、もし当ててしまったらそれだけで相手が死んでしまうかもしれない。
出来ることなら傷つけたくない。
相手は怪物じゃない。人間なんだ。
その迷いが武器だけでなく、攻撃する覚悟をも握れなくさせていた。
『あのな!?殴っても蹴っても、相手を傷つけることに代わりはねぇ!何迷ってんだ!!』
「だけどっ...!」
『負けたらおまえは死ぬ!おまえの友だちだってどうなるか分かんねぇ!いいのかおまえは!それでっ!!』
「うぅっ...!」
レンの言葉が友人たちを、更には未だ会えない親友の姿を思い起こさせる。
このレンだって、自分が負ければよくない目に遭わされるだろう。
真は確かに守ると誓った。
そう思ったから、立ち向かう勇気を持ったのだ。
ならば、ここで死ぬわけにはいかない。
逃げるわけにもいかない。
戦うしか、ないのだ。
「くっそぉぉぁぁぁーーッッ!!!」
初めて拳が力強く握られ、紅き雷の魔力が宿る。
迷いを振り切れぬまま、それでも。と、真はただ乱暴に拳を振り抜いた。
「がぁっ...!?!?」
予想外の反撃に対応し切れなかったか、少女の腹に吸い込まれるようにして拳が突き刺さる。
先程のお返しとばかりに、少女の体は宙を舞って木を薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。
「あぁっ...!」
『よしっ!いいぞマスター!』
喜ぶレンに対し、真は震えながら自分の手を見つめる。
そこには確かに、少女の柔らかい身体を殴り付けた感触が残っていた。
砂埃の中で少女がゆっくりと身を起こす。
「っ...とんだバカぢから、です...ただの拳ひとつで、ここまで...っ」
よろけた少女の口元に血が滲む。
ただの一撃でかなりのダメージを受けたようだ。
その辛そうな姿が、更に真へ罪悪感を与える。
「私っ...」
『おまえ、まだ...!?』
真の迷いが消えていないことを知り怒ろうとするレンの声を、少女の血を吐くような叫びが塗り替えてしまった。
「調子に乗るな本物っ!!負けてっ...負けてたまるか...!!アイアン・メイデンなんてっ!!だったら、だったら私たちは何で...っ!!」
彼女の慟哭に籠った怒り、そしてその瞳に浮かぶ涙を真は見逃さなかった。
ただの悪人ではない。
話を聞くべき相手だと思ったからこそ、後悔はより深まる。
『何だ...?この、変な感じ...。』
「レンちゃん...?」
「見せてやります...!私たちはっ...
レンの感じた違和感を探る間もなく、
突如として少女の身体が膨大な魔力の奔流に包まれる。
姿を変化させながら、少女は真目掛けて突進。
まさに真を呑み込もうとした瞬間。
「ッ!?」
それは1つの剣型デバイスと、
突撃を邪魔された少女から魔力が散り、元の姿へと戻ってしまう。
「な、何なのデス..!?」
少女が見上げた先にいたのは、金髪に赤い瞳の魔導師。
黒のバリアジャケットの上に羽織っている白い外套は、彼女が嫌う管理局の中でも特に面倒だと認識している、"執務官"の証だった。
「
フェイト・T・ハラオウン。
管理局最強の魔導師の姿が、そこにあった。
「民間人に対する傷害罪で、あなたを現行犯逮捕します。速やかに投降して下さい。」
□キャラクタープロフィール□
【名前】:リーナ・バレンシュタイン
【年齢】:27
【血液型】:B型
【誕生日】:10/11
【星座】:天秤座
【好きなもの】:研究、遺跡、機械全般、甘いもの全般、可愛いもの全般、コーヒー
【嫌いなもの】:管理局、虫、紳士的じゃない人
【趣味】:研究、レンレンを可愛いがること
【髪色】:プラチナブロンド
【髪型】:ロングヘア
【胸の大きさ】:かなり大きい
【挿絵表示】
ラスボスくさい?フィーネ?...誰ですそれ?←