ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
かつての【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】は、伊達ではなかった。70階層を攻略しているボンドルド達だが、モンスターの強度が、質が、数が明らかに上昇している。今まではその気になれば日に5階層程下れたが、厳しい現実だ。
休息を多めにもうけ、安全重視で進む。
だが、これでマシな方だった。ギルドの隠蔽体質が変わり、全ての階層についての情報が公開されている。すなわち、71階層までのモンスターの情報や地形などの情報はある程度分かっている。その上での挑戦だ。
ついに、彼らの記録に並ぶ前に下の層へと続く階段で一晩を過ごす。まだ余力はある彼らだが無理はしない。十分対処できる範囲であることは間違いない。
ストレスや疲れを明日に残さないために、食事に加えコミュニケーションを大事にする。プルシュカやニーナ、虎杖悠仁を筆頭に外部参加者たちを率先して輪に巻き込む。話題を振ったり盛り上げたり、実にうまい立ち回りをする。
わずか数日で、数か月は苦楽を共にしたファミリアメンバーに近い関係になる。
外部参加者達は、自身のファミリアの仲間や主神への連絡も忘れない。風呂上がりで冷たい水を一気飲みにしながら、下着のような姿でマッサージを受けるリュー・リオン。まるで実家のような安心感でくつろいでいる。今は女性陣営のお風呂の時間とのことで異性の目はなく、圧倒的な火力を誇る男連中がここを外から守っている。
よって、そのまま
本日の通信相手は、彼女の友人にして親友でもあるアリーゼだ。
『・・・ちょっと、リオン。流石にその恰好で通信してくるのはどうかと思うわよ。脱衣所で髪を乾かしながら? 深層でそんなことをしている余裕があるなんて、どうかしてるわよ。今どのあたりかしら?人類の到達点超えた?』
『まだ、70階層です。この「まだ」というのもおかしな言葉ですが。ここまで来るのも、大変だったんですよ。52〜58階層の”竜の壺”が可愛く見えるくらいだったんです。ヴェノムスカイ・センチピード・ドラゴンとかいう、インチキみたいに強いドラゴンが5体くらい同時に襲ってくるわ、寄生モンスターはいるわ、魔石を壊さない限り無限再生するモンスターもいるわで、正直このメンバーじゃなかったら何度か死んでいたと思う程です』
アリーゼは、リュー・リオンが誰かに肩を揉まれてマッサージされていることが非常に気になっていた。しかも、お肌の健康のために美容液も塗られ、髪の手入れまで行う誰か。顔も姿も見えないが、手だけが画面に映り込む。
彼女がそこまで肌を許した存在が遠征組に居ただろうかと考える。
『リオン、そこに居るのはプルシュカよね?』
『えぇ、そうですよ。明日に疲れを残さないようにって、みんなのサポートを買って出てくれているんです。本当にいい子ですよね。料理もうまいし、気が利くし、強いし……そりゃ、シルが狙うのも納得です』
プルシュカが顔を覗かせて、アリーゼに手を振る。ファミリアへの報告の邪魔はしないよう、大人しく仲間のお手入れに集中していた。
『当然ね。親の教育がいいからそうなるのよ。で、仲良くやっていけているの? リオンって思い込みが激しくて被害妄想があって、結構自己中心的なところがあるじゃない。協調性を持ってみんなとやっていけているか心配だったけど、大丈夫そうね』
『アリーゼ。貴方は私を何だと思っているんですか。戦闘面では少し火力が足りていないことは自覚していますが、器用貧乏と言われながらも頑張っています。そもそも、彼らの火力がおかしいんです』
実際、役に立っていた。リュー・リオンは、ルミノス・ウィンドを足場に疑似的に空を飛べる。その為、偵察から飛行系モンスターへの対処を率先して任されていた。
『凄いじゃない。……真面目な話をすると、遠征から帰って来られたら
『アリーゼ、その言葉をそっくりそのまま返します。【アストレア・ファミリア】のメンバーはみんな独身じゃないですか!! 誰一人結婚してませんよ。私だって、その気になれば、子供の一人や二人……アルケイデスって、婚約者とか居ませんでしたよね』
誰かと誓いを立てて、清いお付き合いをして、結婚して家庭を持つ脳内のイメージが全く浮かばないリュー・リオン。このままいけば、第二のリヴェリアになりかねない。
つまり、これ以上ステイタスを上げることは婚期が遠のくことを意味していた。
だからこそ、リュー・リオンは辿り着いた。伴侶がいないのならば、自らの手で伴侶を育てればいい。途中で誰かに奪われない様に自分に依存するようにすればいい。
『え、嫌よ。リオンにお義母さんなんて呼ばれたくないもの。先に言っておくけど、力づくで子供に手を出したら、リオンと言えども殺すからね』
『私がそんな破廉恥なことありません。まずは、清いお付き合いからです』
アリーゼの母親としての勘が言っている。親友は、破廉恥だ。無自覚を装った確信犯であり、誘い受けが得意なタイプだ。その証拠に、そういう声をしている。
『あ、パパ!! もう、遅いんだから。お風呂が冷める前に早く一緒に入ろう。100数えるまで湯船につからないと駄目だからね。じゃあ、ポンコツお姉ちゃん、マッサージはここまでね』
『ありがとうございます。
画面の向こうにいるアリーゼが首をかしげる。
なぜ、女風呂の時間だというのにボンドルドがそこにいるかのように言うのか。しかも、ほぼ下着同然である彼女が何の恥じらいもなく受け入れているのはなぜかと。
『ボンドルドです。いい加減、このやり取りも疲れるのですが。あと、脱衣所での通信はマナー違反です』
『まっ……』
アリーゼが、通信切断を止めようとしたが一方的に切られる。
信じて送り出した親友にNTRされたのではないかと。しかも、風呂場まで……一体どこまで二人の関係が進んでいるのだろうか。事と場合によっては、アリーゼは親友を一人失うことになるだろう。
未だにボンドルドの素顔を知らないアリーゼ。
ボンドルドの素顔を知るリュー・リオン……女の友情がどれだけ薄っぺらいかを知る日は遠くないだろう。
◆◇◆◇
エイナ・チュール。
ニイナ・チュールの姉であり、妹を助けるためならば悪魔にだって魂を売る覚悟をした人だ。彼女は、神ロキから事後報告で妹を【アスクレピオス・ファミリア】の遠征に助っ人参加させたと聞かされていた。
ヒーラーとしてオラリオの三大ヒーラーと呼ばれるまでに成長したニイナは姉にとっては誇りだ。だからこそ、ダンジョン攻略のために挑むことは止めはしない。必要であると理解している。【ロキ・ファミリア】に加入してから堅実な成長を遂げたこともあり、安心していた矢先だった。
エイナ・チュールは、【ロキ・ファミリア】のホームに乗り込んでいる。
「遠征の手伝いは理解できます。しかし、前日の夜に明日から【アスクレピオス・ファミリア】の遠征だと言って送り出すのは違うのではないでしょうか? 通常、遠征には2週間程度の準備期間が必要だと言われているんですよ。体調管理から物資の準備まで」
「しゃーないやろう。【フレイヤ・ファミリア】がオッタルを出したんや。ウチが助っ人を出さないわけにはいかん。あそこには世話になっとるんや。リヴェリア筆頭に女性陣営が……。前衛や火力は揃っているから、ヒーラーしかおらんかった」
オラリオ全体でみても破格の性能だと言えるニイナの回復魔法。彼女の魔法があれば、【ロキ・ファミリア】単独でも人類の最高到達階層である71階層まで届く可能性はあった。それは、結婚や子供という幸せを全て捨て去り、冒険に命をささげる事を引き換えに。
だが、【ロキ・ファミリア】の眷属たちはそれを選ばなかった。
故に、【アスクレピオス・ファミリア】に希望を託した。
「ロキ様、【アスクレピオス・ファミリア】のメンバーは
「あれが
あのステイタスなんて飾りだと言って、永遠の
一体、彼らがランクアップしたら
「ロキ様は、良いのですか?彼らがランクアップしたうえで、ダンジョン攻略の偉業まで達成したら、名実ともにオラリオでトップになりえます」
「面白いこと言うな。”オラリオの最後の砦”になった時から、既定路線やで。あそこに手を出そうものなら、フレイヤのとこだけやないで、ウチも、アストレアのところも加勢するで。他にも大勢や。もう、事実上トップや」
そんな連中が深層攻略に本気を出すならば、乗っからねば今後の立場が無くなる。虎の子のニイナの選択肢は間違っていなかった。他にも連れて行って欲しい眷属は居たが、妊婦や子育て真っ最中で前線復帰は厳しいので、彼女以外実質選択肢はなかった。
その説明に、エイナ・チュールも納得するしかなかった。【ロキ・ファミリア】の子育てや妊活事情は業界でも有名だった。なにより、エイナ・チュールの母親がここに勤務しているのだから、内情は手に取るようにわかっている。
時間になり、
『ロキ様、見てください!! 今日の夕食は、フェイスレス院長が気合を入れて作ったフルコース料理。この食器も全部深層でのドロップ品を加工して作ったんです。あ、お姉ちゃんも一緒なんだ。美味しそうでしょう』
『ニイナ。貴方、ダンジョンに行ったんじゃなかったの? 元気そうなのはいいけど、お姉ちゃんにも事情が分かるように説明しなさい。無茶な事させられてないわよね?』
ニイナの報告では、丁重に扱われていると。
範囲回復、結界、状態異常回復を全て行える貴重な存在だ。捨てる所がないため、重宝される。彼女のモチベーション維持も大事であり、このダンジョン内で娯楽がない代わりに食事で補っている。
人はうまい飯があれば戦える。
『うん? プルシュカちゃんや院長達のレベル? ちょっと待ってね。すみません〜ボンドルドさん。ロキ様やお姉ちゃんから皆さんのレベルはおいくつかって……申請書上は
『分かったわ。それ以上は聞かない。最後に、ニイナ……あなたの感覚でいいわ。攻略できそう?』
映像越しのニイナは、彼女の周囲のメンバーを確認する。
そして、確信を得た顔で答えた。
『できるよ、お姉ちゃん。明日には、71階層を越えて人類の記録更新。だから、待ってて。深層でのお土産話を持って帰るから』
通信が切れる。
元気な妹の姿を確認できたエイナは、多少満足していた。前人未踏への挑戦もいいが、無事に帰ってきて欲しいと切に願う。そして、院長達に”希望がない組”と判断されている自分を救ってもらうためにも、是が非でも帰ってきてくれと。
ダンジョンの謎は、どうしようかな。