ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
オラリオのダンジョン最深部。予定通り100階層目であり、終着地点。旧世代の知的生命体の成れの果てにして、ダンジョンの母体となった存在だ。千年以上の時が経過しているにもかかわらず未だに意識があり、薄れることのない殺意で満たされていた。
待ち受けているモンスターは居ない。
99階層目にして、その手のモンスターを撃破していた。現れたのは、ベヒーモス・オルタナティブと言われる三大クエストの一角であったベヒーモスの亜種だ。本家より弱体化しているのか、今いるメンバーだけでも対処可能。
そもそも、クソデカい巨体……壁一面の的であり、98階層から99階層へ向かう階段を利用して何度も往復して削り切るという常套手段を利用した。総力戦で最大火力をぶち込んでは逃げ込むサラミ戦術で丸二日かけて削り殺したのだ。
この最深部はモンスターが湧かない
「当然よ、パパ。次にこの100階層に来た冒険者が生きて帰れるように、沢山の保存食を置いて帰るの。きっと、未来にここに来た冒険者は驚くと思うから楽しみね」
「おやおや、それは楽しみですね。いずれ我々以外もここに来られるようになる日がくるでしょう。ですが、問題はここからです。我々が目の前のアレを潰すとどうなるか。……しかし、アレでは名前が無くてかわいそうなので、ダゴンと命名しましょう。ダンジョンが崩壊して全員地の底に、なんて展開もあり得ます」
ボンドルドたちの目の前には、ダンジョンと融合……いいや、ダンジョン本体の心臓部である過去の知的生命体の成れの果てがいた。辛うじてヒト型に見えなくもないが、異形と言って差し支えない。
その姿は、外宇宙の神であるダゴンに似ている。こうして直面しているだけで精神が摩耗しそうになるほどだ。流石は、地上に捨てられた神の子であり、旧世代の知的生命体。今なお意識があるのは、それほど神が憎いかららしい。
「虎杖院長。ダゴンの体を使いますか?」
「……そうね、止めておこうかしら。興味がないと言えばウソになるけど、ダンジョンに縛られる人生は興味が湧かないわ。それこそ、ボンドルド院長はどう? あれに記憶を受け継がせて、ダンジョンをコントロールするのは」
ボンドルドは、ダゴンを確認した。
できるかできないかで言えば、出来るだろう。だが、ダゴンが人と同じ精神構造をしていないのは見るからに明らかであった。そもそも、ダンジョンで永遠を過ごすつもりは全くないボンドルド。同じく興味はあるがそこまで欲しいものではない。永遠は既に手に入れた。後はこの命を使って何を成すかだけだ。
ボンドルドは同じく仲間の院長たちを見た。彼らもやろうと思えば似たような事が出来る。だが、こんなダンジョン深層でモンスターを産み出す装置となり果てた存在に、成り代わろうなど思わない。
「これは困りました。ダンジョンでダゴンを殺すのは今すぐにでもできるでしょうが、行えばダンジョン崩壊の恐れがあります。ダゴンの代理を務めたい…希望される方はいますか? 今なら、我々院長達が総力を挙げて手伝います。オッタルさん、リューさん、ニイナさん」
名前を呼ばれた外部参加者たちは、何を言っているんだこいつらは、と思っていた。
今の話を聞いていて、ダゴンの代わりになりダンジョンを支えようなど思うはずがない。そもそも、このダンジョンそのものが過去の神々の汚点だ。幾ら眷属であっても、ダンジョンを支える化け物に成り代わるなど許容できるものではなかった。
「フレイヤ様からの使命は、遠征の戦力としての参加だ」
「私は、地上に貴方達を連れて帰るとアリーゼ達と約束していますので」
「私だって、オッタルさんと同じです。ロキ様から遠征を手伝ってきてくれやって言われたから帰らないと駄目なんです」
割と本気でここに縛り付けられるのではないかと、内心不安に思ってしまった外部参加者たち。ボンドルド達がやろうと思えば、この場の誰かをここに永住させることができると彼らには確信があった。だが、希望しない限り今まで苦楽を共にしてきた者達を無理やり生贄にするなど、外道な事はしない。
「大丈夫、パパたちも冗談で聞いているだけだからね。プルシュカに名案があるわ!! 神様達がやらかしたんだから、神様に代わりになってもらおう。虎杖院長…極東で封印した神様がいるじゃない」
「あれかい? 私の次の肉体にしようと思っていたんだが、別に構わないさ。新しい肉体は別に探す事にするよ」
特級呪具……ダンジョンの深層に辿り着くまでに大変お世話になった物の一つだ。その異次元の性能は第一級防具の更に上を行く。
虎杖院長が懐から取り出した『獄門疆』を床に転がす。そして告げる、「開門」と。
その中には極東の大派閥であり大神のアマテラスが封じられている。決して完全に封印を解放しない。獄門疆の封は解かれたが、未だに神威などあらゆるものは封じられた状態で拘束されている。
「やぁ、アマテラス様。悪いけど、あれに代わってダンジョンを維持してくれないかしら」
「羂索!! 貴様、ここは何処だ。わらわをどうする気じゃ!!」
周囲を観察するアマテラス。だが、ここが何処だか見当もつかない。しかし、オッタルの存在に気が付く。現世界最強と言われるオッタル……【フレイヤ・ファミリア】の者ならば話が通じると神は思いたかった。
「わらわは、極東の神アマテラス。オラリオに攻め込んだ賠償は必ずする。だから、わらわをこの者達から助け出してくれ、オッタル。神フレイヤの下に就くことを誓おう」
「出来ない相談だ、神アマテラス。悪いが、ここでの主導権は彼らにしかない」
アマテラスは困惑する。オラリオ最強の冒険者に主導権がない。ありえるのだろうか、オッタルならばこの場にいる他の者達を皆殺しにして助けられるのではないかと。だが、出来ぬというならば…他を探す。目に留まるは、淫乱な気配が漂うエルフ。エルフではなく、サキュバスの類ではないかと思う程の。
「……お主、【イザナミ・ファミリア】の副団長と同じ匂いがする。淫なる気を秘めたエロフよ。この者達は悪じゃ。極東でわらわの派閥を壊滅させた極悪人じゃ」
「
「ボンドルドです。私の感性が世間一般と近しいものであるならば……十分淫乱な域にいるかと思います。自分からは決して手を出さず、男性から襲わせようとする誘い受けスタイルは、一部の層には刺さるでしょう。そして、”先に手を出したのはあなたじゃないですか”とか言う。あなたは、そういう性格をしているエルフです」
「プルシュカもポンコツお姉ちゃんの評価は同じよ。それと、アマテラス様。先に手を出してきたのは神様達じゃない。船を壊すし、ゼノスの皆を無理やり捕まえたし。プルシュカ達は、悪くないもん」
この状況でもアマテラスは、まだ余裕があった。
それは、神がここを何処だか知らないからだ。精々、オラリオの何処かだろうと。神威を使えるようになれば何とでもできると。
だからこそ、ボンドルドは気を利かせて、ダゴンが見える向きに変えた。その目に映るのは、巨大な化け物…見れば精神が擦り切れるような生物だ。
「おやおや、驚かれたという事は貴方はご存じなのですね。これは、ダンジョンの心臓部……100階層にいる旧世代の知的生命体。かつて神々達がダンジョンに廃棄した汚点の成れの果てです。ここでダゴンを殺すのは容易いのですが、それだとダンジョン崩壊を招きます。だから、あれの維持管理をする為、貴方を贄として捧げたいのです。よろしいですか?」
「よろしいわけあるか!! ここがダンジョン地下100層だと!? 馬鹿も休み休み言え、ゼウス達の記録ですら71階層じゃ、お前達がそうそう来られるような……」
アマテラスは、チラチラと周囲を確認する。ここが地上だとはとても思えない。ここで初めて、作りも空気もダンジョンだと神の勘が告げている。そして、目の前で壁や床と融合している異形の生命体。
神を憎悪する神の敵。
「ダゴンも貴方を認識しました。今から、貴方には二つの選択肢があります。”ダゴンに成り代わりダンジョンを管理する” か ”ダゴンと融合させられダンジョンを管理する”。選んで構いません。ご安心ください。神とて消耗品です。貴方が駄目になる頃には別の神を連れて我々が交換に参ります。100年後か200年後か…」
いずれ、人が神の支配を脱却し、魔石、ステイタスといったダンジョン資源が要らない状況になれば、ダンジョンを潰す時だ。その為にも、ステイタスやランクアップと言ったレベルの概念を研究して、神に頼らない構造を作る必要がある。
既定の概念をぶち壊す【アスクレピオス・ファミリア】眷属たちの次の仕事だ。
人造
人造黒竜もメイニャも誕生させた。
半神も誕生させた。
そして、今……ヒトの手でダンジョンを支配する為、捕らえた神を使った人造ダンジョンにここを作り替えようとしている。これは偉業といって差し支えないだろう。
この日初めて【アスクレピオス・ファミリア】の仕事内容を外部の者達が知る。ダゴンを生きているギリギリの状態になるまでバラバラに解体して調べ上げ、同じく神アマテラスをその部品として組み込みする様子を。
神が恥も外聞もなく、涙を流し糞尿を垂らしながら助けを求める姿が記憶に刻まれる。だが、助ける事は出来ない。助ければ、自分たちがここで生き埋めになるか、彼女の代理を務める事になる。
………
……
…
人類の発展に犠牲は付き物だ。
その言葉は、嘘偽りでもない。神々が望むダンジョン攻略は、確かに一定の形を成して実現した。
この様子を丸三日間見せられ続けた外部参加者たちは、墓場までこの秘密を持っていく。誰にも言えるはずがない。主神にすら報告はできない。ダンジョンが崩壊しない事を神たちは疑問に思うだろう。しかし、それでいい。100階層まで到達したが、そこで引き返した。
その事実だけでいい。
ボンドルド達の仕事が終わり、地上に帰る日がやってきた。この数日間、地上との連絡も途絶えている。
「では、みなさん。そろそろ帰りましょう。ダンジョン最深部に何があったかをお伝えするかは、各々の意志に任せます。貴方達がいなければ、ここまで来るのに苦労したのは間違いありません。ですが、可能であるならば、口を閉ざしていてもらえると助かります。ダンジョン99階層にいたベヒーモス・オルタナティブ・・・それが、この遠征の成果として十分だともいえます。ドロップ品は山分けしますので、各々ファミリアの象徴にでもしてください」
「パパ~、ダゴンさんも神様と融合して元気になったみたいで話も出来たわ。やっぱり、知的生命体同士だから対話は大事ね。お互い神の被害者という事で、仲良くやろうって。ダンジョンも今まで通り運用してくれるみたい。パパたちのプランCには、絡ませて欲しいって」
ボンドルド達は「喜んで」と伝えた。
そして、ボンドルド達とダンジョンは契約する。共に、神に頼らない世界を作ろうと。このダンジョン100階層に、【アスクレピオス・ファミリア】の秘密の研究所が作られる。”不屈の花園”との直通路も用意されて、プランCの天界進出が進められる事になった。
外部参加者は、何も見ていない、聞いていない、知らない、と誰もが口を閉ざす事になる。
………
……
…
ボンドルド達が7日かけて、地上に戻る。
その間、神たちに99階層攻略とベヒーモス・オルタナティブの討伐の報告を入れた。それ以降の階層があるかも不明で、体力の限界で戻ってくる事にしたと。
彼らの帰還に合わせて、オラリオでは英雄たちの凱旋が行われた。ダンジョンの到達階層記録を大幅に更新したうえで、三大クエストのモンスターに匹敵するであろうベヒーモス・オルタナティブを討伐。
この偉業をたたえると。
ギルドに提出される遠征の詳細。地形やモンスターの特徴。特殊な階層の環境。これらは、将来冒険者たちの役に……立つことはなかった。こんな無茶苦茶な条件の場所に誰が踏み込めるかという物だ。
71階層より下に向かう場合は、完全に片道切符であり、死ぬことが前提だ。
ボンドルド達の証言を裏付けるためにも、遠征を記録していたプルシュカが
探索系ファミリアが目指している深層60階層からの地獄のような空間。その記録は、99階層のベヒーモス・オルタナティブ討伐を最後に途切れる。
堅実に実力と経験で攻略していったボンドルド達を疑う者は誰もいなくなる。その後日、新たにランクアップした者達が公開された。
Lv9 オッタル
Lv7 リュー・リオン
Lv5 ニイナ・チュール
彼らの名前は、オラリオの歴史に名を残す。彼らがダンジョン攻略を
Lv1の集団を率いての偉業だと。
内科、外科、眼科、歯科、小児科、産婦人科、皮膚科、精神科といった患者を診る日々。
そして、今日も担ぎ込まれる患者にボンドルド達は優しく対応する。
「おやおや、今日はどうされたのですか?」
その声を聞き安堵する患者たち。
これで助かったと。金がない冒険者や住民、特定の相手がいない冒険者や住人……彼等の最後の砦として、今日もアスクレピオス医療院は、忙しい日々を送っている。彼らが生きている限り、”オラリオの最後の砦”は生き続ける。
これが、オラリオを陰から支える【アスクレピオス・ファミリア】のハートフルファンタジー。
やっと、完結まで来れました!!
まさか執筆始めた当初は30話程度で終わると思っていましたが、100話超えるとは作者も想定外です。
医療系ファミリアによるハートフルファンタジー……心臓が震えるファンタジー。
全員は救えなかったけど、大多数は救えた事で満足しています。
このようなダンまちもあっていいとおもっています。
そして、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
三大クエストも消化して、ダンジョンも攻略して、神からの脱却など色々詰め込んでしまいましたが・・・原作でもあり得たらいいなと思っております。
後は、閑話をちょろちょろと予定しております。
投降頻度は、流石に今までのペースは厳しいのでご理解いただけますと幸いです。