ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
都市最強のLv9オッタルには、悩みがあった。
【フレイヤ・ファミリア】においても、次世代の子供達が産まれている。ヘイズを筆頭に幾名かの団員達が子育てを始めていた。団長として、団員やその子供達が安全に働ける環境づくりは急務だった。
だが、普段の団長業とは全く異なる性質であり、
この手の事は、幹部であるプルシュカやニーナに相談したいと思っていた。彼女たちは、【アスクレピオス・ファミリア】ではどうやって対応していたのだろうか。その辺りの情報を知りたいと思った。だが、彼女たちは今、なぜかアミッドと一緒にダンジョンに潜っており、帰ってくるのは数日後だ。
オラリオ最大派閥の団長にして、都市最強の男と言われるようになったオッタルだが……ファミリア間の団長交流においては、後手に回っている。出産ブームで各ファミリアがその手の整備に力を入れているが、話を聞きに行こうにもオッタルが直接尋ねに行くのは違う気がする。
だから、困り果てたオッタルは……閉店間際の『豊穣の女主人』で酒を飲んでいる。
「まったく、アンタが飲みに来るなんて珍しい事もあるじゃないか。猪坊主」
「ミアか。少し、悩みがあってな。団員達が子育てしやすい環境を作らねばならん。団長として……だが、わからん。何から始めればいいか。やはり、俺は団長にふさわしくない」
かつてオラリオ最強と言われた
「ふふ、まったくお前さんが何をされたか思い出せばいいだけだろう。猪坊主 がフレイヤに拾われて、ファミリアに世話になった時は、そりゃいう事を聞かないガキだったんだから。なんなら、あの時の話でもしてやろうか」
世界広しと言えども、オッタルを子ども扱いできるのはミアだけだ。
【フレイヤ・ファミリア】の元団長として、昔を思い出しながら語った。神フレイヤが突然子供を拾ってきて、育てろなんて投げやりな事をしたおかげで大変だったと。そんなことを飯を作りながら語るミアの言葉に、オッタルも当時を懐かしんだ。
そういえば、そんなこともあったなと。
オッタルは、ミア母さんの作る上手い飯をたらふく食べて帰路に就く。そして、もう少しいろいろ考えて頑張ろうと明日への英気を貰う。それから、一般客が帰宅してミアが閉店準備をする頃になるとオッタルが店に通う日々が続く。
………
……
…
ミア母さん……オラリオでも数少ない
だが、生涯現役で店を支えるつもりのミア・グランドも定期健診は欠かさないようにしている。彼女の診察を担当するのは、【アスクレピオス・ファミリア】の院長達だ。『豊穣の女主人』には、ボンドルド達もお世話になっている。プルシュカやニーナが直通の予約
ならば、子供達が世話になっているのならば、恩返しするのが親の務め。
ボンドルド達は、若かりし頃に団長をやっていたミア・グランドを知っている。だから、彼女には院長達自らアンチエイジングを施す。診療も嘘ではないが、それと同時に日に1歳ずつ若返るかのような施術を行った。
無駄な脂肪を”賢者の石”で燃焼させ、内臓器官を活性化、水で薄めた
この内緒のお礼は、ミア・グランドに伝えても素直に承諾しないだろうから、健康診断の結果、要観察する事があるので2週間毎日通ってくれと、真剣な声で伝える。彼女も、冒険者時代と比べれば確かに健康的とは言えない生活習慣をしており、医者の指示に素直に従うのだった。
その日から、毎朝健康診断に通うミア・グランド。
1日のわずかな変化には、中々気が付かないものだ。それなりの時間一緒にいるポンコツやシルですら、ミアの変化には全く気付かず5日が経過する。すると、シルがミア母さんの異変に少し気が付く。
「ねぇ、ミア母さん。少しやせた?あと、小じわも減っているような」
「医者からは、栄養過多だと言われて食事制限しているんだよ。あの院長達は指示が細かいんだから。神様はいいわね、永遠に不変で」
院長という単語で、ミアが何処に通っているか一発で皆が理解する。確かに、オラリオで医者に診てもらうなら誰と問われれば彼らしかいないだろう。回復魔法では怪我は治るが病気は難しい。
「もしかして、ミア母さん。どこか悪いの?」
「さぁね、とりあえず二週間程、毎日診察だってよ。忙しいのに、嫌になるね。あたしゃ簡単には死なないさ。まだ、そこら辺の若い連中には負けないよ」
シルはそれでも納得はしなかった。美の女神として、明らかな変化がミア・グランドに現れている事に気が付く。女とは人の色恋沙汰には、敏感だ。女が綺麗になる時は、男の影がある。
それは、シルも実体験からよく理解している。
同じく店員であるポンコツも爆弾発言をする。
「ミア母さん、男ですか?いい年して、若い燕に手を出すのは犯罪ですよ。そういえば、私達を早めに返して、ミア母さんだけで閉店作業していますよね?何か関係でもあるんでしょうか」
「勘のいいポンコツは嫌いだよ。……はぁ~、シルがいるからあまり言いたくなかったが、猪坊主が最近ファミリアの運営で相談に来るんだよ。【フレイヤ・ファミリア】内でも子持ちが増ただろう。だから、何かできる事は無いかとね」
「嘘!! オッタルが!? もう、立派な団長じゃない。だから、傍仕えが減っていたのね。
シルは、団長として成長したオッタルを褒めた。
この間の99階層到達から帰ってきてから、指揮能力も高まり仲間への指示出しや円滑なコミュニケーションも頑張っており微笑ましい限りで、【フレイヤ・ファミリア】の一段上のステージに進めたと神フレイヤは思っている。
「あぁ、そうそうポンコツエルフ。アンタ、今月の給料10%カットだからね。何が『若い燕に手を出すのは犯罪だ』だよ。アンタの方が手を出しそうじゃないか。ふざけた事ばかり言っていると、次の夏は、水着で接客させるよ」
「横暴です、ミア母さん。じゃあ、ミア母さんが若い燕に手を出したら水着で接待です」
ミア母さんの水着姿……どの客層に需要があるのだろうかと思いつつ冗談の提案をした。だが、それをミア母さんは承諾する。
………
……
…
それから約20日が経過した。『豊穣の女主人』では、ある噂が流れ始める。そこの女主人であり、第一級冒険者のミア・グランドがヤバい薬に手を出していると。日に日に若くなり、身体は引き締まり、肌と髪は艶やかになる。
大改造!!劇的ビフォーアフター。
一か月ぶり位に開催された【ロキ・ファミリア】の貸切宴会。その場で、神ロキがミア・グランドを見て彼女だとは全く認識できなかった。
「なんや、ミア母さんは体調でも崩したんか。新入りの娘っ子にしては、肝っ玉座ってそうな貫禄があるな。ミア母さんの子供か。なかなか、美人やな。お~い、シル。あの美人さん誰や?」
「だれって。ミア母さんですよ。……ここ最近、みんな聞いてくるんですよね」
【ロキ・ファミリア】のメンバー全員が注目する。
あのミア母さんだ。彼らの記憶からイメージをすり合わせる。確かに面影はある。それどころか、昔を知っていれば、確かにその姿だ。若返りの魔法、変身魔法など色々考えられる。女性とはいつになっても若いままがいいと思う物だ。
だから、誰もがそっとしておいた。
「おもろい冗談やな。……えっ!? マジなん!? 確かに、この味付けはミア母さんそのまんまやが、20歳近く若返っとらへんか?何があったんや」
「なんか健康診断で悪い所が見つかったとかで、2週間近く【アスクレピオス・ファミリア】に通ってるみたいです。あそこの院長達、遂に若返りにも手を出し始めたみたいですね」
ガタガタ。
女性陣営が席を立ち、今すぐにでも健康診断の予約をしに行こうとしていた。だが、これ以上、【アスクレピオス・ファミリア】の世話になるのもいいのだろうかと常識的な事を考え思いとどまる。
そんな若返ったミア母さんの料理を味わいながら、【ロキ・ファミリア】の宴会は盛り上がった。
◇◆◇◆
【アスクレピオス・ファミリア】で治療を受け始めてから、身体が軽いどころか若返った気すらするミア・グランド。鏡に映る姿は、確かに若干若返った気もしていたが、前からこの程度だったと思い出が美化されていた。
今日もオッタルからの相談を受けるため、裏口を開けていた。
ミア・グランドの治療完了記念として、院長各位からソーマが山ほど贈呈されていた。しかも、アルコール度数は高めで、水割りの代わりに飲みやすい様にスポーツドリンクもプレゼント。
これで、普段酔わない冒険者もイチコロにできる程、アルコールが吸収される。二度目は耐性ができるだろうが、一度なら通じる。
オッタルも日に日に昔に戻り美しくなるミア母さんと食事や酒を楽しみながら相談するのは心地よかった。この飯が無ければ耐えられなかったとしみじみと思い出している。二人そろって昔話に花を咲かせ、酒を飲み進めた。
いつしか、記憶を失う程に。まさか
オッタルは、酷い頭痛で目が覚めた。これが二日酔いの感覚だと気付き、久しく感じなかったものだと理解する。レベルが上がり過ぎると、このあたりも強化されるためだ。
だが、その二日酔いや頭痛が一発で覚めた。
全裸のオッタル。そして、知らないベッドの上に女性の匂いがする空間。彼の横にあるシーツにくるまった謎のふくらみ。
フレイヤ様以外の神に祈る事はないと信念があるが、この時ばかりは他の神に祈った。せめて、知らない誰かであってくれと。もし、一夜の過ちをやらかしたのが、店の店員であったなら、色々と終わってしまう。
オッタルの中で様々なパターンが駆け巡る。
せめて、同じファミリアの誰かであれと。
オッタルがシーツをそーーっとめくりあげる。そこには、美しい大人の女性が生まれたままの姿で寝ており、ばっちりと目が合う。お互いに昨晩の事を少し思い出してきた。
「猪坊主。……いいや、坊主じゃなかったな。オッタル……お互い、昨日の事は忘れよう。すまなかった」
「待て、ミア。謝るな。俺と結婚してくれ。ずっと考えていた。昔から俺は、ミアに憧れていた。一時の気の迷いではない」
オッタルの中で神フレイヤへの崇拝する気持ちは、消える事はない。
だが、今は彼女の心を支えるのは自分でなくても大丈夫だと理解している。虎杖がいる。彼ならば、自分以上に神フレイヤに寄り添い、支えられると。
この年になって女の幸せを手にする事になるとは思わなかったミア。年齢的にも子供が欲しいなら最後のチャンスであり、本日オラリオの人気酒場『豊穣の女主人』は臨時休業となる。
その看板を下げたのはシルとプルシュカ、ニーナの三名だった。シルは、途中から勘づきプルシュカ達の企みに合流した。眷属の幸せのためなら一肌脱ぐ……彼女もいい神にとなった。
「まったく、オッタルも世話がかかるわね。手伝ってくれてありがとうね、プルシュカちゃん、ニーナちゃん」
「このくらいなら問題ないわ。遠征じゃ助けて貰ったから、恩返ししないといけないからね。でも本当にプルシュカとニーナちゃんが、オッタルさんの不在時の団長代理なんてやっていいの?完全に別のファミリアよ」
「そうだよ、ファミリア内で問題になるんじゃないの?」
【フレイヤ・ファミリア】の団長代理……本来なら、副団長に昇進したヘディンの役目だ。だが、彼も彼で、プライベートで仲良くなったメルーナとの関係を進展させないといけないとシルが裏で手を引いている。
なにより、プルシュカとニーナを歓迎しない者など【フレイヤ・ファミリア】に誰もいない。むしろ、いつ移籍してもらえるのかと、
これは、神フレイヤにとっても一度で二度おいしい。彼女たちを合法的に団長代理に座らせられる。
初物ハンター編は時系列的にちょっと未来になるので、後回しかな。
多分こんな話の予感。
懸賞金8億ヴァリス……『ショタ喰い』リュー・リオン。
旧【アストレア・ファミリア】のメンバーの全財産。それが、彼女の首につけられた値段だ。99階層到達者であり、Lv7であり、ベヒーモス・オルタナティブ装備を持っている事から、簡単には首は取れない。
DEAD OR ALIVEであり、ギルドでも過去最高金額だ。彼女が一体
あのアストレア様ですら擁護できず、眷属たちの騒動を見守るしかできなかった。神アストレアも男日照りで我慢しているのに、先に手を出しただけでなく、全部先に手を出したリオンを許さなかった。半神であるアルケイデスは、神の伴侶として相応しいのになんてことをするんだと。