ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
【アスクレピオス・ファミリア】……5人目の院長も加わり、月日が流れ彼らの活動で救われた者達も多くいる。新しい命を誕生させる協力も惜しみなく行っており、次なる課題に立ち向かう事になる。
次世代の子供達の教育の場だ。オラリオは冒険者の都市であり、学校というレベルの学術機関が存在しない。医療の次は、学業の場を提供しようと思い立った院長達は、ファミリアの隣の土地を買い上げた。焼け野原で空き地も多く、住民との交渉もスムーズに行われる。
懇切丁寧に説明したこともあり、立ち退きもスムーズだった。
しかし、どこからその話が漏れたのか、子持ちの冒険者から「いつ開校するのか」という問い合わせが殺到する。幼少期は親が付き添って育児をするため問題はない。だが、冒険者には学がない者も多くいる。可愛い我が子には最高の教育を受けさせたいと思う者もいれば、自分と同じく冒険者としてやっていかせようと思う者もいるだろう。
だが、現在のオラリオには【学区】の元生徒も多数いることから、学問の大切さは住民も理解するところだ。学があり強い冒険者の方が良いに決まっている。もしかしたら、武力ではなく学力の方に特化した才能があるかもしれない。
いつまでも続報が公開されないことから、この議題は
「【アスクレピオス・ファミリア】の横に建築されている建物というか、学術機関やったな。詳細をいい加減公開してくれや。うち、このまま帰ったら、リヴェリアママに殺されるかもしれんのやで」
「ロキ。住民説明の通り、院長達がオラリオの学力を憂いて地域密着の教育機関を作る予定だ。しかし、人手不足と資金不足で進捗が芳しくない。院長達は無料の定期健診や治療、子供達はダンジョンの無人販売店への商品補充や貧しい人達への食事提供、他にもギルド主催の各種説明会にも参加している状況だ」
神アスクレピオスの説明は、誰もが納得できる回答だ。
よくあの人数で回せていると感心するほどの業務量を請け負っている。ギルドという組織がやるべき仕事や行政機関が担うべき内容を彼らは一ファミリアだけでこなしているのだから、文句など付けようはずもない。
「……なんでそこまでやっとるんや。そもそも本来ギルドの仕事も含まれとるやろ。しかもタダ同然で請け負って。フレイヤからも何かいったれや。金も人手も、アスクレピオスや院長達が一言いえば、オラリオ中から集まるやろ」
「えぇ、いくらでも用立ててあげるわ。金も人も……プルシュカとニーナは【フレイヤ・ファミリア】の団長代理なんだから、何でも自由に使っていいのよ」
団長代理……さらっととんでもないことを美の女神フレイヤが発言する。オラリオで最強派閥と名高い【フレイヤ・ファミリア】の団長。あの『頂天』オッタルがいるのに、代理など許されるのだろうか。ファミリアの内情を知らない者が聞けば、何があったのか、まさか内部でオッタルが孤立しているのかと勘違いしかねない。
オッタルという立派な団長がいるのに、よそのファミリアの女の子を団長代理に指名するなど普通のファミリアからしたら理解できない。ロキは、そんな話は聞いていないと唇をかんでいた。あわよくば、どちらか一人でも幹部にと持っていた。しかし、【フレイヤ・ファミリア】団長代理という、事実上副団長以上の権限だ。そんな権限を【ロキ・ファミリア】では提示できない。
「それはできない相談だな、フレイヤ。誰かからの援助を受けてしまうと、援助した者の声を無視できなくなる。それでは、彼らが求める公平な活動にはつながらない。まぁ、資金難については、来週予定されている【アスクレピオス・ファミリア】の試飲会で稼ぐつもりだ」
「なんや、【ソーマ・ファミリア】の新作でも出すんか?」
神アスクレピオスは何も言わずにその場を後にした。眷属から何も聞いていないのなら話す必要はない、と言わんばかりに。
………
……
…
週末、学術機関の建設予定地で、とあるイベントが催された。
チャリティー試飲会だ。そこで売上は、全額が学術機関の建設費用に充てられる。今回はボランティアとして、街の母親たちが手伝いに訪れていた。
「ボランティアに参加してくれて、本当にありがとう。今日は、オラリオの皆の健康のため、そして栄養価抜群のミルクを皆に飲んでもらうチャリティー試飲会よ」
プルシュカはこの日のため、売り子としてシングルマザーたちを集めたのだった。彼女たちは、いずれ建設されるであろう学術機関のために力を貸そうと、善意の協力者となってくれている。
彼女たちがシングルマザーになったという噂は、多数の男性冒険者たちの脳に甚大なダメージを与えていた。それほどまでに人気を誇っていた女性たちがミルクを売るのだ。お値段は飲む人が好きな金額を支払う方式だ。
商売上手という次元を超越し、「このミルクは私の子供も飲みました」という真実を添えた宣伝文句まで掲げられている。嘘偽りもないため、神の洞察力をもってしても『真実』と判定される。当然、至って普通の最高品質ミルクだ。だが、問題はそこではない。
男たちは「もしかしたら、本当に……!?」と都合良く妄想してしまうのだ。
売り子のボランティアママさん……アリーゼや輝夜かぐやを筆頭とした【アストレア・ファミリア】のメンバー。ヘイズを筆頭とする【フレイヤ・ファミリア】のメンバー。そしてリヴェリア、アイズ、レフィーヤといった【ロキ・ファミリア】の主要女性陣など、名だたる美女や母親たちが一堂に会している。総勢50名に達する。
彼女たちが子供たちの学校のために振る舞うミルク、その代金で学校が建つのだ。
オラリオの男性冒険者たちにとっては、まさに気合の見せ所であった。この情報をいち早く入手した冒険者は数日前から会場前に並び、特にエルフの男性などはオラリオ中のみならず都市外からも駆けつけるほどだった。全財産を握りしめ、一杯のミルクを買い求めるために。
どうなるか火を見るよりも明らかな展開が待っているから、ボンドルドはプルシュカに一つだけ忠告する。
「プルシュカ。お値段は時価でもお気持でも構いませんが、帰りの費用くらいは残してあげなさい」
「大丈夫よ、パパ。ちゃんと近隣の街行きの馬車も手配済みよ。じゃあ、ミルクが足りなくなりそうだから、アステリメスさん
モンスターの成長は非常に早く、白兎の種で産まれた子供達が既に立派に成長していた。そして、見事にメスのミノタウロスだ。
地下帝国のハーレムの
地獄のようなイベントが開幕される。
その行列の中には、徹夜組として並んでいた神ロキの姿もあった。【ロキ・ファミリア】の金庫から大金を持ち出してきたのだ。
「なんつーイベントをやってくれるんや。こんなん分かっていても乗せられるに決まっているやないか。代金もお気持ちって、そんなんウチの全財産や。リヴェリアママのミルクも、アイズたんのミルクも、レフィーヤのミルクも全部ウチのもんや!」
ヒソヒソ。
「あれがオラリオ屈指の巨大ファミリアの主神ロキか……」と周囲から噂されるが、誰もが静観していた。この列に並ぶ以上、みな『同胞』なのだ。そこに種族や派閥の違いなど関係なかった。
この日、女性たちは男たちの執念と業の深さを実感することになる。紳士的に列をつくり、炎天下のなか黙々と並び続ける男たちの絶え間ない大蛇のような行列。彼女たちの目の前でミルクを一気飲みし、「最高にうまい!」と叫ぶ男たち。
彼らはお代として数万、数十万、果ては数百万ヴァリスという大金を一杯のミルクに支払って、満足げに去っていくのだった。
その裏で、学術機関を建設するための資金を黙々と数えるプルシュカとニーナ。
ボンドルドは、この手の稼ぎ方は次はダメですと優しく諭す。100億ヴァリスは必要となる学術機関設立に必要な資金だからこそ、多少の事には目をつぶる。しかし、子供の教育上よくない稼ぎ方であるため、一言苦言をいう。
「いいですかプルシュカ。男とは単純な生き物なのです。あまりからかってはいけませんよ。悪い大人になってしまいます」
「わかったわ、パパ。今回限りよ。これで建築費用の大部分は集まったからね!」
男たちも分かってはいるのだ。だが、分かっていても抗えないものがある。多少の夢を見ることくらい許されるだろう。このミルクの正体が何であれ、オラリオきっての美女たちが注いでくれたミルクなのだから。
それ以上でもそれ以下でもない。だが、それで十分だった。
何より、合法的に【アストレア・ファミリア】へお布施ができる。日頃の感謝や恩義をどう返そうか思案していた者たちにとって、これ以上ない最高の金の使い道であった。命を救われた恩、恵まれた恩、食事や安全を提供してもらった恩……今こそ全力で倍返しする時なのだ。
情けは人のためならず、とはまさにこの事であった。
そんな男ばかりの行列の中に、少なからず女性の姿もあった。その一人がリュー・リオンだ。
「アリーゼ……なんですか、この『アリーゼが搾ったミルク』というのは。とりあえず50万ヴァリスほど置いておきますね」
「ありがとうね、リオン! 搾ったのは嘘じゃないわよ、みんな自分で注いでるんだから。看板に偽りなし! 男たちの脳内で勝手に誤変換されてるだけよ。でも、なんでリオンがここにいるの? 言ってくれれば定価で分けてあげたのに」
リヴェリアの列に比べれば静かなものだが、それでも美女揃いの【アストレア・ファミリア】の前は凄まじい盛況ぶりだ。現在、会場にはオラリオの全男性が集結しているのではないかと思われるほどの熱気であった。ギルド職員の男性までもが職務を放り投げて並んでいるが、誰一人咎めない。それどころか、たとえ首になろうともこの歴史的イベントに参加しない選択肢などなかった。
「いいんです。アリーゼたちにも院長たちにもお世話になっていますし、将来の職場のためにも貢献しなければいけませんから」
「職場?どういう事かしら」
建設予定の学術機関。当然、講師や設備維持に必要な人材は多数求められる。そこでボンドルドが声をかけた一人が、『疾風』リュー・リオンであった。Lv.7の実力者であり、長寿のエルフで回復魔法も使えることから、彼女は保険医としての雇用が決定していたのだ。
ファミリアの子供たちが通う学術機関の保険医に内定済み。これでアリーゼたちも安心して子供を通わせられると胸を撫で下ろしていた。
なお、オラリオの3大ヒーラーたちも立候補していたが、流石に彼女たちをそのポジションに就かせるのは勿体なさすぎる。「そんな暇があるならファミリアでダンジョンに潜って貢献してほしい」と不採用通知が出されていたのだった。
他にも【学区】出身者たちに声をかけており、レオンやエリート生徒たちが教員となってくれる予定だ。【学区】の知識や教育ノウハウを継承するためにもこうした組織は不可欠であると、惜しみない協力が得られていた。ギルドに勤務していた優秀な人材たちも多数名乗りを上げている。エイナ・チュールとミィシャ・フロットが転職確定していた。
ギルドからの引き抜きのような形になってしまい申し訳なさはあったものの、ボンドルドたちは彼らの厚意を有難く受け入れることにした。
「生徒たちを怪我から守るため、保険医に内定したのです。だから自分の職場のために寄付をしようかと。お金は余っていますから」
「へぇ~、いいじゃない! 長い人生なんだし楽しまなきゃね。アルケイデスも通わせるつもりだから、よろしく頼むわね」
「へぇ~、あんさんが保険医かいな。暴力保険医ですぐ首にされる未来が見えますわ。うちの悟も通わせるさかい、面倒頼みましたで」
「なんや、リューが保険医か。ブリジットのことも頼むで」
アリーゼの一人息子、アルケイデス。
輝夜の一人息子、悟。
ライラの一人息子、ブリジット。
素晴らしい才能を持った子供たちだと親バカたちは口を揃える。実際、血統的にも十分すぎるほどの才能を秘めていた。
本来なら3年以上かかるはずだった学術機関設立の資金を、プルシュカたちはたった1日で集めきってしまった。この日、オラリオ全土で動いた経済効果は100億ヴァリスを超えていたという。
次は、リューさんの話を。
淫乱保険医「私は、手なんて出してません。手もアレも出したのは、あの子たちです」