ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
【ロキ・ファミリア】の幹部たちは、戦争遊戯(ウォーゲーム)を揃って観戦していた。彼らから見れば、【ヘスティア・ファミリア】も【アポロン・ファミリア】も大差ない。その気になれば、今すぐにでも潰せる弱小ファミリアだ。
だが、ここ数日の【アポロン・ファミリア】の奮闘には目を見張るものがあり、かなりの人数がレベルアップしたとの報告もあったことから、軍配は【アポロン・ファミリア】に傾くと予想されていた。
開幕からの戦況を見て、フィンが口を開く。
「【アポロン・ファミリア】の団員の質は決して悪くない。だが、僕としてもあれはどうかなと思う。クロッゾの魔剣、賢者の石、エリクサー、そして僕らと同等の装備一式。おまけに外部からの助っ人である『豊穣の女主人』の店員までいる。彼女の身のこなしから只者ではないと思っていたが、レベル4といったところか。彼女が“賢者の石”を魔剣と
だからこそ、【ソーマ・ファミリア】の事件ではギルドが強権を使ってでも“賢者の石”を回収させたのだ。魔導士なら誰でも切り札として一つは確保しておきたい至高の一品。かつてエルフの王族であるリヴェリア・リヨス・アールヴが、一欠けらでも売ってほしいとショウ・タッカーに頭を下げたが、断られた過去がある品でもある。
「けっ、そんなの雑魚共がアイテムや武器の性能だけで戦っているようなものだろう。くだらねぇ」
悪態をつくベート。彼の評価は的を射ている。だが、それ以外の手段で【ヘスティア・ファミリア】が活路を見出すのは至難の業だ。代案を提示し、外部戦力や装備頼りでなくても勝てる方法と作戦を提示できれば、彼の評価もうなぎ登りだろう。
そう……レベル2のベル・クラネルと、レベル1のリリルカ・アーデの二人だけで勝つ方法があればの話だが。
「ワシは、最初から【ヘスティア・ファミリア】が勝つと信じとったからな。なんせ、オリハルコンの提供や鍛冶師の紹介はワシが担当したからの~……さて、そろそろ、『豊穣の女主人』でただ酒を飲みに行ってくるわい。ワシのペンフレンドのニーナからお誘いだ。断るわけにはいかんだろう」
「まてや、ガレス。うちは、お前さんがあの子らのペンフレンドになったなんて話は初めて聞いたぞ。どういうことや?パパ活ならぬ、ジジ活なら出るとこ出るで。どうせ、ソーマを子供ルートから仕入れる為やろう。あんな年端もいかない子供相手になにやってんねん」
だが、そのジジ活の成果は証明されている。
僅かにできた縁を切れぬように、太くするためガレスは努力をしていた。ソーマという酒のためなのは間違い。だが、迷宮で頑張る子供を応援したい気持ちという物もある。ソーマへの欲望が100だとすれば、プルシュカとニーナへの応援は10程度ではあるが確かにある。
それに、プルシュカ達の露店もガレスのような有名冒険者が常連顧客となれば、無体を働く者達は減る。
だが、事はそれだけでは終わらなかった。アイズ・ヴァレンシュタインの手にも、同様の招待状が届いていた。
「偶然。私もプルシュカから招待されてる。ベル・クラネルに特訓を付けてくれたお礼だって。こういうお世話になった人への配慮が出来ないヘスティア様に変わって、プルシュカとニーナが企画したみたい。【ソーマ・コンティ】もたくさん用意してるって。あれ美味しいから好き。ご飯も珍しいのを沢山用意してるみたい」
「まってくれや、アイズたん。あれに特訓をつけていたとか初耳やで。この際、ガレスのジジ活については諦めたけど、アイズたんは諦めんで。絶対に、参加はダメやで。旨い飯やソーマなら、【ヘスティア・ファミリア】の祝賀会でも出るって話や。アイズたんの同伴ならうちが無理やりにでも認めさせたる。だから、思いとどまってーな」
アイズは、主神ロキには少し申し訳ないが……旨い飯と酒において、どちらに軍配が傾くかは分かっていた。だから、アイズは首を横に振る。プルシュカがダンジョンで頑張って集めてきた、市場に出回ることがない珍味の数々が提供される。見た目がグロい程、美味しいという謎の法則がそこにはある。
ちなみに、今回の【ソーマ・コンティ】の製造者は、青い髪の処女神だ。魂はなくとも肉体はある。自動人形の技術を使えば、足ふみさせる事など天才には造作もない事だ。【ソーマ・コンティ】のラベル裏には、製造者の似顔絵が描かれている。個人情報の観点から眼の所に黒い横線が引かれており、顔出しの方が幾分かマシな出来栄えだった。アイズ・ヴァレンシュタインが踏んだお酒にも当然ラベル裏に隠された製造者情報があった。
そして、その場で凄く言い出しにくい顔をしている”緑のお姉さん”。彼女の手元にも同様の招待状がしっかり届いている。
「すまんな、ロキ。実は、私も招待されているんだ。【ヘスティア・ファミリア】の者達に魔法の使い方を少し手ほどきしてやった。あの重力魔法について、使い方のアドバイスをしていた。さて、少し早いが行きがけに何か買っていくか。あの子たちが喜ぶ物がよいな」
「リヴェリア・ママ!? なんでや、なんでママまで!? そんなに、若くて、可愛くて、純真で、綺麗な心を持つ子供がいいんか。うちを見捨てるんか。この薄情者」
団員の心を奪われたと暴れ始める主神ロキ。
まぁ、こうなる事は既に予定調和に等しい。まるでこの事態が分かっていたかのように……招待状の最後にはこう書かれていた。みんなは無理だけど、ロキ様や幹部の人達くらいなら連れてきてもいいわよと。お世話になったファミリアの人に恩返しをしたいのと、可愛らしい字で書かれている。
だが、当然、食べ物や飲み物の分配は減る。つまり、彼らを連れてくるかは、本当に手紙を受け取った人の心意気次第だった。
ちなみに、ガレスはそのことを絶対に口にする気はなかった。うまい酒の取り分が減ってしまう。知らなければ、最初から無かったも同然。リヴェリアは、ガレスの目力により、その事を察した。酒が絡むと人が変わるとはこのことだ。
しかし、アイズ・ヴァレンシュタインに眼で以心伝心する事ができるなら、コミュ障とは言われない。
「プルシュカから、幹部の人達くらいなら誘ってきていいよだって。【ロキ・ファミリア】の人達には、今回お世話になったし、迷宮の楽園からの帰りに同行を許してくれたお礼だって」
「いい子供達やないか。下界の子供達はこれだから、大好きなんや。おっしゃーー!! タダで、各種ソーマ飲み放題とか、明日が二日酔い地獄になろうともウチは止まらんで」
世の中、タダより高い物は存在しない。
団員だけなら個人的なつながりだったともいえる。だが主神も参加してしまえば話は違う。アスクレピオス主催の戦争遊戯祝賀会(裏)が、【ヘスティア・ファミリア】主催の祝賀会とは別の場所でひっそりと行われることになっている。
今回の戦争遊戯は、色々と問題になる事も多くある。だが、【ロキ・ファミリア】も一枚絡んでいるならば、文句を言えるファミリアは激減する。これが、アスクレピオス・ファミリアを担う時代の子供達の政治力だった。
………
……
…
戦争遊戯が集結した夜。
当然、【ヘスティア・ファミリア】は頑張った団員達と応援してくれた神々に対して慰労の意味もかねて晩餐会を催す。その会場となったのが、元【アポロン・ファミリア】のホームだ。
ヘスティアがこの度の勝利で【アポロン・ファミリア】に要求したのは、『全財産没収』。皆殺しにされ、誰もいなくなってしまったが念押しの『ファミリアの再興禁止』。そして、ボンドルドからの強い要望で『神ソーマと同様にアスクレピオスでの無期限・無制限の奉仕活動』となった。
これに反論する者は誰もおらず、事務処理は滞りなく進められる。
会場設営も大詰めであり、【ビアー・ソーマ】という最高級の酒目当てに神々達も集まり始める。ヘスティアと親交がある神々達もお祝いの品をもってくる。
そんなうれしい晩餐会の前にボンドルドは、ヘスティア及び団員達と大事な話を行っていた。
「みなさん、短い間でしたが【ヘスティア・ファミリア】として活動できたことをうれしく思います。一時的な改宗でしたので、私はそろそろ娘が待つアスクレピオスに戻ろうと思います。許可いただけますか、ヘスティア様。そして、お約束通りの報酬につきましては、後日アスクレピオス医療院までお越しください。この場で私だけ抜け駆けしては、今回お手伝い頂いた仲間達に顔向けできません」
「ボ、ボンドルド君!! 早いって、早すぎるよ。それに、改宗は一年を待たなきゃできないんだ。キミだって知っているだろう」
改宗とは、ステイタスや経験値をそのままにして崇める主神を変更することだ。よって、冒険者にとっては大きなデメリットはない。だが、あえてデメリットを上げるならば、主神が変わる事と再改宗のインターバルは1年だという事だ。
「ヘスティア様。いいえ、一つだけあるではありませんか。私の主神をアスクレピオス様に変える方法が」
「まさか!? だけど、それだとボンドルド君が今まで溜めてきた経験値が全て失われる事になるんだぞ。恩恵を消すという事は、ボンドルド君が考える程軽い物じゃないんだ。一年待つんだ。それで、再度、改宗ができる」
改宗ができないならば、恩恵を一度消して0からのスタートを切る。本来この選択肢を選ぶ事はあり得ない為、神々ですら考えから抜けていたやり方だ。冒険者にとっては、死活問題だ。この方法を実行すると、例え最強のオッタルでさえLv1から鍛え直しになる。
「それはできません、ヘスティア様。娘に帰ると約束しました。さぁ、既に準備は終えております。恩恵を消してください。幸いな事にこの晩餐会にはアスクレピオス様も参加されますので、再度恩恵を刻んでもらう事もできます」
「ボンドルド君が本気なのは、神のボクにはよく分かる。本当にいいのかい。今までの頑張りが全て失われても」
ボンドルドが積み重ねてきた偉業。それは、レベルアップに昇華させれば凄まじい物だろうとヘスティアも思っていた。
「えぇ、私には帰らねばならない家があります。そこに私を待つ家族がいます。どうぞ、躊躇わないでください。そして、私の新しい門出を祝ってください」
「分かったよ、ボンドルド君。恩恵を消そう。……ベル君、多分、祝賀会の会場にアスクレピオスが来ているはずだ。ココに呼んできてくれ。それと、恩恵を消すから君達もこの場から出て行ってくれ。それがエチケットさ」
これぞ大人の見せる余裕であり、包容力だとその場に居合わせたベルたちも思わず目元を抑える。胡散臭いと思っていた男であったが、全てを捨ててまでヘスティアを助けに来た事に敬意を表するばかりだ。
ボンドルドに刻まれた恩恵が消える。そして、保有していた経験値も全て無に帰す。背中の刺青が消え去った事を確認したヘスティアは、その場から静かに離れる。入れ替わるかのようにして入室してきたアスクレピオス。
「すまない、アスクレピオス。キミの眷属を無理に借りてしまったようだ」
「気にするな、ヘスティア。ヒトは我々が考えるより遥かに強かで強いぞ。あぁ、本当に気にしないでからな」
アスクレピオスとボンドルドが二人だけになる。
アスクレピオスは、せっかく減った眷属が再度舞い戻る事になるとしり、今から胃が痛かった。しかも、実際失う物がないくせに、全てを失ったかのような物言い。これでは、ヘスティアに罪悪感が残るという物だ。
アスクレピオスは、恩恵を刻む前に確認する。
「最低一年は、帰ってこないと思っていた。恩恵を刻むが、その肉体を使い続けるのか?」
「えぇ、この肉体は新調したばかりです。恩恵を刻んでいただき次第、
恩恵が消える前にすべてを自分に引き継ぎ、更に引き継ぎなおせばいい。ボンドルドにとっては、そこまで難しい話でもなかった。こうして、アスクレピオス・ファミリアに復帰したボンドルドは以前と変わらぬどころか、戦争遊戯での経験値を貯める事に成功していた。
ベル君が一部でも関わった事
・ソーマ・ファミリアの壊滅 ※元凶のリリルカ・アーデがヘスティア・ファミリアに移籍
・ダンジョン18階層の地上の楽園を半壊 ※神をダンジョンに連れ込む原因を作った
・アポロン・ファミリアの壊滅 ※戦争遊戯による殲滅
そして、次はイシュタル・ファミリアか。
流石、半年でLv5にまで上り詰める男は偉業の達成度が違う。
次は、イシュタル・ファミリア編の前に少し一呼吸。
オッタル氏の悩み相談をプルシュカ達が受けるというのもありかなと。