ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
闇派閥(イヴィルス)と呼ばれる者たちがいる。彼らはオラリオの崩壊を望んでいるが、彼らにも生活がある。生きるために必要な衣食住などはオラリオで調達することも多い。オラリオ崩壊を望むのに生活基盤はオラリオに依存しているなど、どういうことかと思う人も多いだろう。
だが、これが現実というやつだ。
そして、彼らも何も食料などの必要物資を強奪しているわけではない。金を払ったうえで購入する。その金の出所の一つとなっているのが、【アスクレピオス・ファミリア】だ。
表ルートでは手に入らない貴重な物資を闇派閥は持っている。彼らが一番困るのは、その売却先だ。下手な場所に売りさばいては足がつく。足がつけば、そこから芋づる式で捕まるかもしれない。
闇派閥の治療すら行う【アスクレピオス・ファミリア】が、本日も表ルートではさばけない商品を買い付けに、人造迷宮クノッソスに足を運んでいた。人造迷宮クノッソスは、かつて神ウラヌスの眷属として名声を欲しいままにしていたダイダロスが作り上げた物だ。
ダンジョンという超常を人の手で再現するため、心血を注いだ成れの果て。
しかし、1000年という時間を人造迷宮クノッソス開発に心血を注いだ彼の子孫のおかげで、ダンジョンの18階層にある地上の楽園にまでその深さは届いていた。
そんな場所を歩くボンドルドとプルシュカ。道案内の男に連れられて奥へ奥へと進む。広間に抜けるとそこには、大量の檻と傷を負ったモンスターたちがいた。これらは、【ガネーシャ・ファミリア】のように怪物祭用のモンスターではない。だが、それらのモンスターを閉じ込める際に使われているものと同じであり、並のモンスターでは逃亡すらできない。
つまり、【ガネーシャ・ファミリア】の取引先のどこかが、闇派閥とも仲良くしているという証拠だ。
その場に着くと、待ち構えていた神イケロスがいた。この密売において、神自ら全面協力していることもあり、取引相手の確認をする際に便利に使われている。
「今回の取引は、お前さんか。タッカー親子はどうした?」
「ラキアの進軍が確認されたので、出張に行かれています。二度と同じようなことが起きないように、色々と我々もやっているんです。だから、忙しいタッカーさんに代わり、私が来たというだけです。で、今回は、あの子たちが喋るモンスターということですか? イケロス様」
オラリオに無謀に進軍するラキア王国。オラリオの第一級冒険者によって、片手間で進軍が防がれるが、無駄に数だけは多い。早期終結させるため、多くの怪我人を生み出して帰らざるを得ない状況を作り上げていた。
だが、彼らの帰り道……その休憩ポイントの地下に巨大な錬成陣が描かれている。数日後には、オラリオに向けて出立した大軍のほぼすべてが未帰還となる。その事実はオラリオの周辺国に伝わり、ついにオラリオが本気になったと思われてしまった。
同僚の活躍を祈るボンドルドが視線を向ける先には、3体(ハーピィ、コボルト、オーク)のモンスターが檻の中にいた。どれも怪我をしており、碌な治療も行われていないまま放置されている。
「あぁ、そうさ。苦労して捕まえたんだからな。そうだな、この位でどうだ?」
「合計で2,000万ヴァリスですか……昨今、人件費や物価上昇も考えると妥当ですね。よいでしょう。あと、ポーションをいくつか譲渡しておくので、次からは引き渡す前に怪我の治療くらいは頼みましたよ。彼らの商品価値は、貴方たちが一番理解しているはず。高価な商品が傷ついていては、買い手も値下げ交渉をするかもしれません」
ダンジョンで稀に生まれる喋るモンスター。その商品価値は、理解できる者たちにとっては計り知れない。なんせ、自分の状態や気持ちを正確に人の言葉で伝えられる。これほど研究に役に立つ存在はいない。
未知なるダンジョンを解明するのに、彼らの存在なくして実現は不可能だろう。
「おーい、ディックス。お得意様が全てお買い上げだ。それと、あんまり痛めつけるなよというご達しだぜ」
「はぁ!? 俺に指図するな。俺は、こいつらを痛めつけることが生きがいなんだ。こいつらはモンスターだぜ。人類の敵なんだぜ。だが、喋る。命乞いだってする。わからねーか。この矛盾した存在を痛めつける時だけが俺が俺でいられるんだ」
ディックス・ペルディクスが放つ言葉は、言い方は何にせよ冒険者としては別に間違っていない。モンスター相手に慈悲などかけずに殺すのは、誰でもやっていることだ。殺すモンスターに心がある方が問題だともいえる。
「別に、そのようなつもりで言ったわけではありませんよ、ディックスさん。ただ、お互い商売で成り立つ関係です。売り物を大事にして欲しいというだけではありませんか。で、例の件、少しは考えていただけましたか?」
「あぁ、クノッソスの拡張に全力を出すってアレのことか。お断りだね。俺は、ダイダロスのこの血の呪いが大嫌いなんだ。俺は俺が生きたいようにやるだけだ。文句があるなら二度と取引はなしだ」
この人造迷宮クノッソスに心血を注ぐというのならば、【アスクレピオス・ファミリア】がギルドとの仲介をしてでも彼らの無罪を勝ち取ると算段だった。そして、オラリオ中のファミリアから余剰人材を動員して、【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】ですら到達していない領域に裏口を作るという計画も用意できている。
余りある冒険者の力と金を注げば、2年あれば地下50階層まで到達できると考えられる。仮に、ギルド側にディックスが全面協力するとなれば惜しみない支援と彼の名声は不変のものとなるだろう。どの階層にも安全に行ける裏道ができるならば、オラリオの歴史において、誰も覆すことができない偉業であることは間違いない。
「そうですか、気が変わりましたらいつでもご連絡ください。貴方は、それほどまでに価値がある冒険者です。だからこそ、命を大事にしてください。貴方の命は、千の冒険者の命を超える価値がある」
「パパ。みんなの治療を終えたから、早く帰ろう。ここだと、この子たちなんだか怯えたままで可哀想だよ。えへへ、大丈夫だよ。仲間がいっぱいいる安全な場所に連れてってあげるから」
プルシュカが怯え震える喋るモンスターである
ディックスたちのような冒険者とは違う何かを、彼らも感じ取ったのだ。
檻に入れられた彼らは、人目に付かないようにダイダロスの隠し通路からオラリオに運び出される。そして、【アスクレピオス・ファミリア】に引き渡される。
………
……
…
人語を理解して話す
「ご安心ください。我々は、貴方たちをモンスターとして扱っておりません。確かに、貴方たちは見た目はモンスターです。そして、死ねば魔石になる。それは代えられない事実でしょう。ですが、ヒトの心を確かに持っている。それは、確かであるといえましょう。疑問があるのでしたら、どうぞハーピィの貴方」
『ここは、どこなの? 一体、どうして私達を買ったの? 仲間がいるって聞いたけど、本当なの?』
人間不信になりかけている
「ここは、オラリオにある【アスクレピオス・ファミリア】よ。そこの地下にあるみんなが使う保管庫に向かっているの。でね、
「よく説明できました、プルシュカ。今、この子が説明した通りです。不安に思われるかもしれませんがご安心ください。労働条件はしっかりとしております。喋るモンスターとは、正直に言えば貴方たちより……貴方達を捕まえた冒険者達の事を言うんですよ」
保管庫の扉が明け放たれる。そこには、迷宮を連想させるような空間が広がっていた。天井にはクリスタルが無数にあり照明の役割を果たしている。そう、ここは小さな迷宮の楽園そのものだ。
『ここは、ダンジョン!? 』
「ここは、私が地下に見つけた切り離されたダンジョンの一部と言うべき場所です。便宜上、”不屈の花園”と呼んでおります。ほら、あそこで冒険者の世話をしているのが、貴方の仲間ですよ」
ここに運び込まれる冒険者。アスクレピオス・ファミリアの秘密を探ろうとした者や闇派閥からの献上品などだ。そして、献上品を使い、本物の
モンスターと人間のハイブリットを産み出すため錬成により、人造
人間とモンスターの魂を入れ替え、人造
人間を生命の水に溶かして、それをモンスターに与えて、人造
その他にもここで遺物兵装、賢者の石、神薬”ゾナハ病”などもここで産み出されている。人類の英知が集まる場所だ。
それらの助手を務めるのが口が堅い本家本元の
マジックアイテムで変装することを条件に、いつでもオラリオに普通に出かけることも許可されており、ダンジョンと比べて天国のような場所だ。
『うそ!? カール!!』
「カーバンクルの子ですね。三か月前に密猟者から購入させていただきました。積もる話もあるでしょうから、彼らとじっくり話を終えてから雇用契約に入りましょう。プルシュカ、彼らの案内と付き添いをお願いしますね」
生き別れの仲間と生きて再会できるなど、心温まる場面であり、プルシュカは目元に感動の涙を浮かべていた。
ベル君の次なるターゲットは、イケロス・ファミリアか……。
神イケロスとディックスだけは生かしておいてくれないかな。
特に、ディックスは使い道が多いよ。彼は種馬になるべきだよ。
ボ「安心してください。我々は、