ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
オラリオにおいて、喋るモンスターについて聞き込みをしている存在がいる。つい先日、ボンドルドが購入した
それもあって、【アスクレピオス・ファミリア】では普段以上の警戒網を敷いている。
「誰かが探りを入れているようですが、何処の誰でしょうかね。歓迎しますよ、冒険者のかた」
犬人の冒険者が謎多き【アスクレピオス・ファミリア】の敷地に飛び込む。その冒険者の名は、ルルネ・ルーイ。【ヘルメス・ファミリア】のレベル3冒険者だ。獣人の彼女ならば何かしらの闇派閥によって売りさばかれた
ダイダロス通りから不審な荷物が【アスクレピオス・ファミリア】に運ばれた情報を手に入れた上での行動であった。だが、侵入は大事な眷属の命を危険に晒す行為だ。盗みに入る者とて命を賭けている以上、こちらも相応の覚悟で応えるのが礼儀であった。
「もしかして、またベル・クラネル君絡みでは……。無いと信じたいですね。先日の【イシュタル・ファミリア】崩壊から一週間も経過していないのです。これ以上、彼らが原因で何かが起これば、彼らのホームが吹き飛びますよ」
そのためボンドルド達の計画では、まずは
当然、これだけでは受け入れられないのも明白だ。問題の一つが、魔石で無限に強くなれるという特性。
そこで登場するのが、【アスクレピオス・ファミリア】が製造した人造
古来より、敵の兵器を鹵獲・模倣して利用するのは当然の理。
そして、
………
……
…
翌朝、ボンドルドが所用でダンジョンに向かう途中、神ヘルメスとその眷属であり【ヘルメス・ファミリア】団長のアスフィ・アル・アンドロメダに声をかけられた。彼女は『稀代の
「やぁ、ボンドルド院長。悪いが、少し時間を貰えるかな」
「急に失礼します、ボンドルド院長。ヘルメス様がどうしてもお話ししたいことがあると聞かなくて」
「おやおや、ヘルメス様とアスフィさん……それとも、海国ディザーラの王女アスフィ様とお呼びした方が良いですか? お時間でしたら勿論構いません。ですが、ダンジョンに用事がございますので手短にお願いいたします」
ボンドルドは、【イケロス・ファミリア】から「喋るヴィーヴルを19階層で取り逃がした」という報告を受けていた。捕獲に失敗したため捜索の手伝いが欲しいということ、そして発見に協力すれば報酬の5,000万ヴァリスから4,000万ヴァリスまで減額交渉に応じるという話がついていたのだ。
一人でも多くの
「へぇ、ボンドルド院長はアスフィの事も詳しいんだ。あんまり知っている人はいないはずだけど」
「これでも冒険者歴だけは長いと自負しております。医療院をやっていると、患者から思わぬ話を聞かされることも多いのですよ、ヘルメス様。それで、どういったご用件でしょうか」
偽りのない事実であった。神相手の対話において最も重要なのは「嘘をつかないこと」だ。神が見抜けるのは言動の真偽だけであり、相手の心を完全に読み取れるわけではない。
「そうだったね。じゃあ、ルルネ・ルーイって冒険者に心当たりは?」
「いいえ、存じません。冒険者歴が長いと言っても、全ての冒険者を把握するような事はありません。そういう質問でしたら、ギルドに確認してください」
納得のいく答えが得られなかったのか、神ヘルメスは引き下がらなかった。彼は昨晩、眷属に指示を出して【アスクレピオス・ファミリア】の調査を命じていた。しかし、それを最後に一切の連絡が途絶え、忽然と姿を消してしまっていたのだ。
他の院長達に同じ質問をしても無駄である。
確かに昨晩、不法侵入者は存在した。だが、素性や名前を確認する前に涅マユリの手によって処分され、尊厳を奪われていた。彼は自身の研究時間が奪われることを何よりも嫌う。同じ眷属ならいざ知らず、自ら死に飛び込んでくる愚か者に与える猶予など存在しなかった。
「じゃあ、昨晩遅くに【アスクレピオス・ファミリア】で何か気になる事は、起こらなかったかい?」
「具体性に欠ける質問ですね。お伺いしたい内容の見当がつきません。ですが、アスクレピオス医療院は平穏そのものでしたよ。つまり、いつもの日常です。しかしそのお聞きぶりですと、まるで【アスクレピオス・ファミリア】に対して何か仕掛けられたということですか?」
素性の分からない冒険者が忍び込んでくること自体は、日常茶飯事だ。”賢者の石”や”ソーマ”を製造・管理している以上、それらを求めて命を捨てる愚者は後を絶たない。
「ははは、そんなわけないだろう。”オラリオの最後の砦”であるアスクレピオス医療院に手を出すなど、オラリオ中から袋叩きにされてしまうよ。行こうか、アスフィ。限りなく黒に近いグレーだ……そうだ、最後に教えてくれ。
「無論、
ボンドルドの返答に、神ヘルメスもアスフィも一瞬理解が追いつかなかった。彼らが想定していたのは「知らない」という否定だったからだ。それどころか、雇用契約、ダンジョンでの保護、果てはフェルズという固有名詞まで出されては、白か黒かという次元の話ではなくなってしまう。
足早に進むボンドルドの後ろを、神ヘルメスとアスフィは焦りを滲ませながら追いかける形となった。
だが、ボンドルドが足早にダンジョンに潜るが、神ヘルメスは流石に足を止めた。先日の「漆黒のゴライアス」発生の件もあり、神が不用意にダンジョンへ入る危険性は周知の事実だ。以前の騒動は何とか有耶無耶にできたものの、次にもう一度同じことを引き起こせば、ヘルメス自身が天界へ送還されかねない。
ダンジョン入り口では、神がダンジョンに入らないか冒険者たちの監視の目がある。
「アスフィ。ボンドルド院長はレベル1で初期ステイタスだ。キミならすぐに追いつけるし、何だったら捕まえてきてもいい。どんな方法でも構わないから、ボンドルド院長を地上へ連れ戻してくれ」
神ヘルメスに肩を叩かれ、迷宮へと送り込まれるアスフィ。相手がレベル1であるなら上層で簡単に捕まえられるだろうと高を括っていたが、まさか十分な準備も整わないまま、18階層の「迷宮の楽園」のさらに先まで走らされることになろうとは、思いもしなかった。
………
……
…
ダンジョンとは構造上、地下に潜る為、進む方が楽である。
ボンドルドは、移動に
18階層の「迷宮の楽園」まで半日もかけずに到達した彼は、そのまま19階層へ踏み込もうとする。その時、息を切らし汗まみれになったアスフィが背後から追いつき、ボンドルドの服を必死に掴んだ。
「ど、どういう運動神経をしているんですか……! はぁ、はぁ……ヘ、ヘルメス様がお話をお望みです、地上まで一緒に戻って――」
「調査が終われば地上に帰ります。では、貴方もご一緒に探しますか?行方不明の
「……ご一緒させてもらいますよ。貴方に死なれては困ります」
アスフィは
19階層は、冒険者の死亡率が極めて高い有名な場所。中層にある迷宮の楽園まで到達した冒険者が次なるステージに進む登竜門。それゆえに、単独探索においてはレベル3と言われている。レベル2の場合は、複数人でなければ死ぬと。
ボンドルドの後ろに付いて行く、アスフィ。レベルを考慮するならば、前衛に立つべきはアスフィの方だが、なぜかボンドルドの死ぬ姿は想像できないと彼女は思った。明らかにステイタスを超えた動きをしている。だが、ギルドの情報でも神からの詰問においても、レベル1でありステイタス未更新である事実は変わらなかった。
「飛行可能なマジックアイテムは、良い発想です。ですが、実戦経験はあまりなさそうですね。ダンジョンと言う閉塞空間においては、小回りが求められます。私見ですが、ミスリルを基本素材にイグアスの羽根と階層主クラスの魔石がベース素材と見受けます。イグアスの羽根を35%減らして、セイレーンやハーピィのドロップを混ぜ、軽量化したミスリル合金をベースにする事で軽く小回りも良くなるかと」
「……そ、それはありね。確かに、重量が軽くなる事で体力減少も抑えられる。ボンドルド院長は『神秘』のアビリティを持っているのですか」
ボンドルドは首を振った。そして、19階層で迫りくるモンスターを一方的に虐殺しながら、ボンドルドは言った。
「自分の身は、ご自身で守ってください」
ボンドルドの仮面から放たれた紫色の閃光が周辺で乱反射し、モンスターを葬り去っていた。その姿にアスフィは、彼の事前情報を思い出した。神ヘルメスより告げられた情報……レベル1のボンドルド。到達階層は26層。27層の階層主アンフィスバエナを前に倒し切れないと判断し、戦略的撤退をしていたという……。
ボ卿ですら、ベル・ベルクラネルの行動は読めなかった。