ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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19:異端児(ゼノス)

 第19階層では、他にもモンスター討伐を行う冒険者一行の気配が濃い。あのような者達が徘徊する場所に、ヴィーヴルの異端児(ゼノス)が隠れているはずがない――ボンドルドはそう推察し、人の気配が希薄な区域を中心に捜索を開始した。

 

 善意の同行者として付いてきているアスフィは、この状況をどうすべきか苦悩していた。

 

 主神であるヘルメスの依頼でボンドルドを連れ戻したいが、実力行使には危険が伴う。それに、もし彼の目的が異端児(ゼノス)の保護ならば、手伝うこともやぶさかではないという思いもある。

 

異端児(ゼノス)について、何処まで知っているのですか?」

 

 問いかけるアスフィを無視し、ボンドルドは周囲を見渡す。

 

 ヴィーヴルというレアモンスターともなれば、ドロップアイテム目当てで狙う冒険者も多い。既に狩られている可能性が高い。だが、異端児(ゼノス)達の情報では、第20階層には彼らの言う「隠れ里」への入り口がある。

 

 一定以上の信頼関係が築けた彼らから得た情報を頼りに、このまま探索を続けるべきか、ボンドルドは思考を巡らせる。既に保護されているならば、これ以上の捜索は無駄だ。そうでないならば、彼らにもヴィーヴルの異端児(ゼノス)について連絡し、協力を仰ぐのもよいだろう。

 

 となれば、今のボンドルドにとって、後ろをついてくるアスフィは障害でしかない。信頼関係があるからこそ教えてもらった隠れ里の入り口。そんな場所に、部外者を連れて行くことはできない。

 

 しかし、帰れと言って従うような相手ではないことも理解していた。ボンドルドはアスフィを撒くことを決断する。この階層より深い第22層くらいまで一気に移動し、途中物陰でやり過ごして第20階層に戻ってくる算段だ。

 

 ボンドルドに引き剥がされまいと食らいついてくるアスフィ。彼女はダンジョンの奥へと連れていかれる。そして、いつの間にか追いかけていた紫のラインが消え、ボンドルドを見失うことになる。

 

 こういうタイミングでモンスターが沸き出すのが、ダンジョンの定石だ。突如としてモンスターに囲まれたアスフィは、悔しげに唇をかみしめた。

 

………

……

 

 引き返してきたボンドルドは、第20階層にある大きなクリスタルの前にやってきた。その裏には、未開拓エリアと呼ばれる隠し通路が存在している。事前情報の通りだ。ボンドルドはその通路を静かに進む。

 

 コツコツと意図的に足音を立て、相手に自分の存在を示した。

 

 感じる視線を前に、ボンドルドは両手を広げて敵意がないことをアピールする。

 

「どうしたんですか、そんなところに隠れて。どうぞ顔を見せて下さい」

 

 ぞろぞろと現れ始めるモンスターたち。その中で一際強い雰囲気が漂うのは、赤緋色の鱗と雄黄の瞳が特徴的な蜥蜴人(リザードマン)。そして、毛先が青みがかったくすんだ金髪と青い瞳が特徴的な、美しい相貌の歌人鳥(セイレーン)

 

 蜥蜴人(リザードマン)は、この場所を突き止めたボンドルドの処遇を思案していた。殺さずフェルズに引き渡すことも想定したが、ボンドルドから「仲間の匂い」がすることを察し、引き渡す前に情報を聞き出そうと鋭く睨みつける。

 

『グォォォォォーーー』

 

「そういう咆哮は不要ですよ、蜥蜴人(リザードマン)のリドさん。そして、貴方が歌人鳥(セイレーン)のレイさんですね。皆様のお話は、ハーピィのフィアさんより伺っております。私達は知性ある生命体です。対話が可能です。共生について、語り合いましょう」

 

 名前を呼ばれた異端児(ゼノス)達は、先ほどまでの威圧的な雰囲気を消して困惑した表情を浮かべた。この展開は彼らの中では想定外だったらしく、目の前でひそひそと作戦会議が始まる。

 

 見た目とは裏腹に会話が通じるリド。

 

 彼は警戒しながらも、ボンドルドとの対話に応じることにした。挨拶こそ、コミュニケーションの基本。未知の相手を既知に変えるための、素晴らしい手法だ。

 

「私は、ボンドルド。【アスクレピオス・ファミリア】に所属する冒険者です。そして、貴方達の仲間である異端児(ゼノス)の皆様を保護しております」

 

『オレっちは、リド。仲間が無事ってのは本当なんだろうな! アイツらは冒険者の連中に捕まった。どうやって保護した?』

 

 それについては、この場にいる異端児(ゼノス)全員が疑問に思っていた。冒険者に捕まった者達は誰一人として帰ってこなかったからだ。それなのに、その者達が無事だと伝える男は、不審者そのものと言っていい。

 

 異端児(ゼノス)達を一網打尽にする罠かもしれないと考えるほうが、彼らにとっては健全なほどである。

 

「勿論、お答えします。ですが、その前に貴方達のフィクサーであるフェルズさんにも会話に混ざっていただきたい。私の言葉より、彼の存在があった方がよいでしょう。それまでの間、私が答えられる質問には全てお答えします」

 

 ボンドルドはその場から一切動かず、異端児(ゼノス)達からの監視を受け入れた。リドが眼晶(オクルス)というマジックアイテムを使い、フェルズに連絡を取る。フェルズとしても、異端児(ゼノス)の里にボンドルドが来るとは予想しておらず、驚きを隠せない様子で直接やってくることになった。

 

 その間、ボンドルドは彼らの仲間が地上で何不自由なく生活していることを語る。

 

 地上にいる仲間の信じられないような状況を疑う異端児(ゼノス)達。だが、そこまで断言するならばと、ボンドルドも証明を試みる。

 

「では、後ほど我々が保護している異端児(ゼノス)を一人連れてきましょう。フィアさんを連れてくることをお約束します」

 

『嘘じゃねーだろうな。本当なんだろうな』

 

 仲間思いのリドは、彼女の無事な姿を確認するまでボンドルドを信用しないだろう。それが正しい。彼らの境遇を考えれば、まずは疑うのが正解だ。

 

 そして、しばらくして黒いローブを着たフェルズが現れた。この時、フェルズもまたボンドルドと並んで「怪しすぎる」と内心で評価するリド。黒装束には胡散臭い奴しかいない、とは口が裂けても言わなかった。

 

「フェルズだ。異端児(ゼノス)が言っていた情報は本当なんだろうな、【アスクレピオス・ファミリア】のボンドルド」

 

「えぇ、我々は何人もの異端児(ゼノス)を保護しております。そして、ヴィーヴルの異端児(ゼノス)が現れたという情報を聞きつけ、保護するために足を運びました。皆様に保護されていればよかったのですが、今までの話を聞く限り、行方不明であることに変わりはないようですね」

 

 ヴィーヴルの異端児(ゼノス)の情報は、本当に一部の者しか知らない。だからこそ、フェルズも気になっていた。フェルズはボンドルドですら知らない情報を、現時点では【ヘスティア・ファミリア】で匿われているという、耳を疑うような事実を掴んでいる。

 

「ヴィーヴルの異端児(ゼノス)。 何処からの情報だ?」

 

「私達の取引相手で、闇派閥の関係者です。彼等が捕まえた異端児(ゼノス)を我々が購入し、保護しているんです。他に売り飛ばされては、見つけきれませんから。ですから、この場にいる皆様も、捕まったとしても無駄な抵抗をしないでください。彼等は、貴方達を高値で私達に売るために生かします。生きていれば、我々が保護することもできます」

 

 フェルズは、これならば最悪命は落とさず保護されると理解を示した。だが、ここまで堂々と「闇派閥と繋がっています」と言われると、フェルズとしても困惑を隠せない。【アスクレピオス・ファミリア】は、闇派閥の者であっても駆け込んでくれば治療すると明言している。医療において、患者の出自や立場で治療を差別するべきではないという理念の元に。

 

「一体、保護して何が目的だ?」

 

異端児(ゼノス)との共生。ヒトとモンスターが手を取り合うなんて、実に素晴らしいですね。異端児(ゼノス)の身体は、モンスターです。生まれながらにして強者であり、魔石で無限に強化できる。ダンジョン攻略において彼らほど素晴らしい存在はいないでしょう。それに、下手な人間より信頼できる労働力です。我々は、保護した異端児(ゼノス)と雇用契約を結んでおります。彼等の働きは、評価に値するものです」

 

 フェルズが構想している共生計画の何段階も先を行く【アスクレピオス・ファミリア】。モンスターと正式な雇用契約を結んでいるなど、あまりに進み過ぎた考えだった。

 

「では、異端児(ゼノス)達の地上進出については、どう思う?」

 

「賛同ですが、時期尚早です。まずは、異端児(ゼノス)への忌避感を減らす事が必要でしょう。その為、我々には計画があります。徐々に顔出しをする事でオラリオにも受け入れられるようにします。【アスクレピオス・ファミリア】が全面バックアップするつもりです」

 

 フェルズのなかで、【アスクレピオス・ファミリア】の協力があれば、本当に数年後には異端児(ゼノス)が地上で暮らすことも夢ではないのでは――いや、成し遂げられるだろう、という確信が芽生え始めていた。

 

 【アスクレピオス・ファミリア】以外にも、異端児(ゼノス)の地上進出の支援を表明している組織がある。オラリオの治安を支える【ガネーシャ・ファミリア】。

 

 つまり、オラリオの経済と司法を牛耳るギルド。そこに、医療と治安を支えるファミリアが結託するのだ。これに文句を言えるとするならば武力で抜きに出ている【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】位しか存在しない。他は、権力で黙らせる事が出来る。

 

「わかった、上と相談して直ぐに回答を持っていく」

 

「えぇ、貴方の上司であるウラノス様(・・・・)によろしくお伝えください」

 

 フェルズの手からボンドルドに眼晶(オクルス)が渡される。これで地上にいる異端児(ゼノス)達の安否確認と今後の計画を相談するためだ。だが、こんな興味深い魔道具は、涅マユリの手によっていずれ映像まで映るように改造されてしまうのだろう。

 

………

……

 

 それから、ボンドルドは約束通り地上に戻り、異端児(ゼノス)を連れて戻ろうとしたところをプルシュカに見られてしまう。当然、ダンジョンにいる異端児(ゼノス)達に会うべく、父親の背中から離れなかった。

 

 中層で戦っていけるように、プルシュカも成長している。その体には、ボンドルドと同じく『千人楔』の遺物が埋め込まれていた。ここ数日間は遺物に適応するため苦労していたが、身体も適合済みだ。

 

「パパ。プルシュカも一緒にいく」

 

「えぇ、構いませんよ。それと、痛いのを我慢したプルシュカには、これを差し上げましょう。貴方が使いやすいようにサイズも合わせました。遺物兵装の無尽鎚(ブレイズリープ)尽きない火薬(ピースフォビア)です。今の武装は貴方の力に合わなくなったでしょう。頑張って使いこなしてください」

 

「パパ!! パパ!! だいすきーーー」

 

 プルシュカの頭をなでるボンドルド。その様子を見て、フィアは自らも頭を差し出した。その頭にそっと手を置いて撫でられる感触に、彼女はかつて誰かに同じような事をしてもらった記憶を、何かを思い出しそうになった。

 

 ハーピィのフィアには、ダンジョン内で人目を避ける為、大き目のローブに身を包ませ、下層へ向かった。だが、ギルドの神ウラノスは、ほぼ同じタイミングで【ヘスティア・ファミリア】にミッションを出していた。ヴィーヴルの異端児(ゼノス)を連れて、20階層に来いと。

 

 まさか、異端児(ゼノス)を巡ってベル・クラネル一行と鉢合わせする事になるとは、ボンドルド親子も予想外の事態だった。

 

 そのころ、ダンジョンの中層では、ボンドルドが撒いたアスフィが諦めず彷徨っていた。

 

 神ヘルメスは、神ウラノスがフェルズ経由でボンドルドから情報を得ているなど知らず、ホームで彼女の帰りを待ち続けていた。明日までに帰らなければ、団員全員でアスフィを探しに行くと決めていた。

 

 




アステリオスは、雌です。いいですか、雌です。
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