ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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02:洗礼

弱小ファミリアにとって、組織の維持費は常に重い負担となる。

 

オラリオでは、主神が自ら働いてファミリアの経費を稼ぐことは珍しくない。神々は総じて容姿端麗であり、雇う側にとっても“客寄せ”という明確な利点があった。

 

さらに、神が店に立つことで防犯効果も期待できる。

 

不思議なことに、神のいる店で悪事を働く愚か者はほとんど存在しない。あれほど美しい神をナンパしようとする無謀な者もいない。神の前では、人は本能的に襟を正すのだ。

 

そのオラリオで、ヘスティア・ファミリアの主神ヘスティアは今日も“じゃが丸くん”の販売に精を出していた。

 

彼女が売るじゃが丸くんは、いつにも増してバカ売れしている。

 

理由は単純だった。

 

店の横で、孤児院の子供たちがレモネードを売っていたからだ。最初は「露店の横で商売されては困る」と思ったヘスティアだったが、子供好きの彼女が完落ちするまで数分とかからなかった。

 

「ヘスティア様、今日もありがとうございます。孤児院の子供たちを連れてくるなら、やっぱり神様がいる場所じゃないと安心できなくて……」

 

孤児院の子供が頭を下げると、ヘスティアは胸を張って笑った。

 

「いいんだよ。それにしてもプルシュカとニーナは本当にいい子だね。今からでもうちの子にならない? 今ならボクの特権で副団長に任命してあげるよ。団長はベル君だから譲れないけどね」

 

プルシュカとニーナは、ヘスティアの言葉にくすりと笑った。

 

二人はどこからどう見ても可愛らしく、嘘を見抜く神でなくとも、その純真さと善性は一目で分かるほどだった。

 

ヘスティアは思わず二人を抱きしめた。

 

炉の女神として豊満な体躯は、子供たちにとって母親のような安心感を与える。

 

「ヘスティア様。プルシュカはパパと一緒じゃなきゃダメ。だから副団長にはなれないよ。それにしても……ヘスティア様の眷属って変わり者だね。貧乏ファミリアなのに」

 

「び、貧乏って……最近の子供はハッキリ言うなぁ。ボクだってその気になれば眷属の一人や二人……はい、嘘です。ごめんなさい。巡り合わせが良かっただけだよ。よく見ると……ベル君はどことなくプルシュカに似てるよ。髪の色とか、真っすぐでひたむきなところとか。頑張る男の子っていいものだぞ」

 

プルシュカとニーナは互いに目を合わせた。

 

ヘスティアは女神らしく極上の美貌を持ち、しかも犯罪的なほど露出の多い服装をしている。そんな女神の眷属に男の子が入ったら――性癖が捻じ曲がる。

 

処女神と言われているが、いつか“処”が外れてしまうのではと子供たちは本気で心配していた。

 

理由は簡単だった。

 

ヘスティアは無自覚で無防備。今まで幾人もの性癖を破壊してきた女神だ。間違いが起こってはいけない。女神の友達として見定める必要がある。

 

プルシュカが立ち上がり、胸を張った。

 

「ヘスティア様。プルシュカが冒険者の先輩として、そのベル君って男の子を見定めてあげるわ。男は狼なのよ。どうせヘスティア様のことだから風呂場に誘って背中を流そうとか、色々やらかしそうだからね。本当にいやらしいんだから」

 

「いくらプルシュカでもベル君の悪口は許さないぞ。ベル君とは一緒にお風呂なんて入らないよ。君たちの中でボクはどんな女神なんだよ。これでも処女神なんだぞ。せいぜい、一緒のベッドで寝たくらいしかしてないよ」

 

周囲の空気が凍りついた。

 

完全にアウトだった。

 

神と同衾など、その手のお店でやるべき行為だ。

 

孤児院の子供たちは「これは取り調べが必要だ」と気合を入れる。事情聴取が始まり、ヘスティアは廃教会の間取りの問題で同衾せざるを得なかったと苦しい言い訳をする。子供たちは白い目で見つめた。

 

その様子を見物する客が集まり、じゃが丸くんの売上は過去最高を記録した。

 

心優しい子供たちは、親の許可を取り、ヘスティア・ファミリアのホームにお泊まりすることになった。

 

 

………

……

 

 冒険者になりたての存在は、どこかで手痛い洗礼を受ける事が多い。格上冒険者にボコボコにされたり、ダンジョンで強敵と遭遇したり、裏切りで窮地になったりと様々だ。そして、その時がベル・クラネルにも訪れた。ダンジョンから無事に帰ってきたら、見知らぬ子供達と犬がホームにいる。

 

 両腕を組み仁王立ちする子供は、圧力より可愛いが勝ってしまう。

 

「待ってたわ、ベル・クラネル!! 何処の田舎者かしらないけど、良い年した男が女神と同衾するなんて恥を知りなさい。ヘスティア様と同衾したければ、プルシュカとニーナを倒してからだからね」

 

「・・・あ、あの~、神様。この子達は一体どなたですか?」

 

 ベル・クラネルは、自身の理解力が不足して現状が把握できないのかヘスティアに確認する。だが、ヘスティアとしても子供に倫理観を悟らせられた結果、確かに同衾はまずいよなと考えを改める。本人から言い出しづらい事もあるので、ここはプルシュカ達に期待をしている。

 

「僕のアルバイト先に良く来る子供達でいいのかな? こんな子供だけど、ベル君より冒険者歴が長い先輩だよ」

 

「その通りよ。今日は、先輩冒険者として後輩冒険者に指導に来てあげたのよ。完全武装しているプルシュカとニーナちゃんは強いわ」

 

「プルシュカちゃん、アレキサンダーも一緒だから三人だよ」

 

 完全武装。確かに、その通りだった。

 

 親馬鹿も度を通り越しており、二人が身につけている装備は一級冒険者に引けを取らない。装備の性能でごり押しでダンジョンで活動している二人はある意味有名だ。特に、ニーナの装備なんて、全魔法使いが喉から手が出る程欲しいと思っている”賢者の石”が惜しみなく使われている。

 

 この世でショウ・タッカーしか製造できないと言われている”賢者の石”。それは、魔法の威力を1段階以上強化できるだけでなく、精神力の消費及び詠唱無で発動させる事を可能にした文字通り人族の叡知の結晶だ。消耗品ではあるが、小指の先ほどの賢者の石であっても1億ヴァリスを越える。

 

 対するプルシュカは、ダンジョンで見た事も聞いたこともないようなモンスターからドロップ品をボンドルドが自ら手を掛けて製造したオンリーワンの遺物兵装を使う。その戦い方は、猛毒武器を扱う重量級タンクでスリップダメージで相手を潰す。

 

 この二人の基本戦術は、プルシュカがモンスターを引き連れて、ニーナの魔法で纏めて焼き払う。圧倒的な魔法防御力を誇る装備だからできる芸当だ。

 

 そして、人語を100%理解し、人並みの知性があると言われるアレキサンダー。本来、人にしか刻めない神の恩恵を動物にも宿す事に成功した初の事例。その製法もショウ・タッカーのみしか知らない。そのおかげで、ペットを飼っている冒険者から是非ペットにもその秘術を授けて欲しいと大金を山積みした事もある程だ。だが、アレキサンダーが人語を理解した頃に、ショウ・タッカーの妻が行方不明となっており闇派閥が関係しているとかしていないとか…。

 

「ちょっと、まてぇーーーい!! 何で君達は、完全武装なんだよ。僕のベル君は先日冒険者になったばかりの素人なんだぞ。その装備差は、流石に酷すぎるだろう。どうやったら、ベル君の鉄製の武器で君たちにダメージが与えられるんだよ」

 

「ヘスティア様。冒険者に理不尽はつきものなのよ。命の保証がされている試練なんだから、安全よ。もしもの時は、パパたちが治療してくれるんだから。それに、ステイタス的には多分ベル・クラネルの方が高いわよ。だって、私達は一度もステイタス更新をしてないわ。パパ達も言ってたわ、人間の可能性は無限大。レベルアップやステイタスはその可能性を引き出すきっかけに過ぎないって」

 

「お父さんにお願いして、キメラ棟のベッドを一つ用意してもらいました。好きなタイプの亜人がいれば、先に教えてくださいって」

 

 ニーナの本当に心配している気持ちが痛い程分かるヘスティアだが、彼女は実はニーナが少し苦手だった。ヘスティアの神友であるへファイストスとニーナ親子がヘスティア相手に起こした事件……『キミのような勘のいい神様は嫌いだよ』事件だ。そのおかげで、人間不信になったヘスティアは本気で神界に帰ろうかと思ったほどだ。

 

「ベル君。キミならできる!!勝てなくても、キミのスピードで翻弄して、一撃でも与えるんだ!! それが、勝利条件でいいんだよね?」

 

「勿論よ。それに、一撃でも入れられたら、パパから預かったこれを魔導書をあげるわ。こっちが一方的に仕掛けるんだから当然報酬も用意しているんだから。勝てば、魔導書。負けても治療して更に強くしてあげる」

 

 市場でも滅多に出回らない超レアアイテムだ。

 

 読むだけで魔法を習得できるという末端価格1億ヴァリスと言われる物だ。それが景品なら冒険者に夢憧れるベル少年を釣るには十分な餌だ。なにより、彼の思い人に少しでも近づくチャンスが今そこに転がっている。

 

 これでやる気が出なければ男ではない。

 

「神様。僕、本気で挑みます!!」

 

 気合をいれるベル。だが、冒険者一週間程度の存在が、親の権力と金と装備とコネと才能を持つ先輩冒険者から熱い洗礼を受ける事は火を見るより明らかだった。

 

 宙を舞うように一瞬の隙を狙って攻撃するヒット&ウェイで攻めるベル。だが、圧倒的な装備性能の壁が立ちはだかる。山売りされているような武器程度では、傷一つ付かない。素肌が露出している個所を狙えばいいが、相手もそれが分かっており、守りが固められる。

 

 ベルクラネルは、毒でジリジリとスリップダメージ与えられ、魔法でこんがり焼かれる。だが、怪我をする度にニーナが賢者の石を使って治療する。痛くなければ覚えないという事を実践され、ベルのステータスは飛躍的に伸びていく。

 

「まだまだ~!! ニーナちゃん。プルシュカが抱きかかえたから、私ごとやっちゃって!! 一応、死なないようにベルにはポーションを流し込んだから。回復魔法もかけ続けるから、本気でやっていいわよ」

 

 冒険者なら喉から手が出る程欲しい賢者の石の無駄遣い極まる。教会の天上に届くほどの業火の渦がプルシュカとベルクラネルを焼き尽くす。対炎装備に加え対炎ジェルで身を守っているプルシュカと比べ、ベルクラネルは生きたまま焼かれ、回復され、経験値を稼ぎ続ける。

 

「ギャ――――――!!」

 

 控え目に言って拷問である。炎で焼かれながら回復させられ意識を失う事も出来ない。だが、その最中、ベルクラネルは爪でプルシュカの頬に僅かな傷をつける事に成功する。

 

「ベ、ベルくーーーーん!! 」

 

 ヘスティアが眷属のベルが心配で炎に飛び込もうとした瞬間、魔法が止まる。眷属の為、文字通り火の中、水の中の覚悟が彼女にはあった。

 

 こうして、炎にトラウマを抱える事になったベルクラネルだが、ステイタス更新において耐久が極めて伸びてた。彼は、相手の強さは見た目では判断できない事を身を待って学ぶ。

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