ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
ボンドルド親子が
「フェルズさんは、【イケロス・ファミリア】の重要性を理解していたはずなのに何故でしょう。彼等は、金の亡者ではありますが、
物事は多方面から見るべきだった。
【イケロス・ファミリア】の手によって九死に一生を得た
もちろん、ディックス次第で殺されることもあるかもしれない。だが、それでもダンジョンを彷徨うより生存率は高い。
現在、オラリオは厳戒態勢が敷かれている。
モンスターがダイダロス通りのどこかに潜んでおり、討伐が確認されるまで不用意に出歩かないようにと、【ロキ・ファミリア】が事態の鎮圧に全力を尽くすとギルドより告知された。
【アスクレピオス・ファミリア】としては、数年かけて
また忙しくなりそうだと、運び込まれてくる患者の対応を考えるボンドルド。家屋が倒壊し、死者まで出ていた。瓦礫に巻き込まれた子供、逃げる大人に踏みつけられ内臓に甚大な損傷を負った者など、酷い事態となっている。モンスターに慣れていない住民たちがいる場所で暴走したモンスターが出たのなら当然だ。
「ベル・クラネル君。『英雄』とは無数の屍の上に立つ存在なのです。キミにその覚悟はあるのでしょうか」
これから運び込まれてくる患者に対応すべく、準備にとりかかろうとしていたボンドルド。ダンジョンに向かう予定だったプルシュカにも声をかけようかと思った矢先に、プルシュカがニーナと一緒に院長室までやってきた。
プルシュカの姿は完全武装。新たな遺物兵装に加え、それらの力を解放する”命を響く石”を加工した彼女の白笛が首にかかっている。背に携えた
そして、対するニーナも同じく完全武装をしていた。ラキア王国軍と神アレスを錬成して作り上げた”賢者の石”が散りばめられた、神アスクレピオスの象徴とも言える蛇が巻き付いた杖を手にしていた。それを握る両掌には、それぞれ月と太陽の錬成陣が刻まれていた。触れる者を全て爆弾に変えて吹き飛ばす、どこに出しても恥ずかしくない一人前の冒険者だ。
「パパ。ニーナちゃんと友達を助けに行ってきます」
「おやおや、タッカーさんの許可もちゃんと取りましたか?」
ボンドルドの確認に、二人は笑顔で「もちろん」と元気に頷いた。子供たちの成長は早いものだと見送る親がここにいた。
「それならば問題ありません。しかし、今は色々と複雑な情勢です。素顔をさらすと問題ですから……ギャリケー、リメイヨ、仮面を貸してあげてください。正義の味方とは素顔を隠すものです。それと忘れてはいけません。我々【アスクレピオス・ファミリア】は医療系ファミリアです」
「勿論よ、パパ。困っているヒトは助けるべし!! そしてーーー、プルシュカたちが困ったときは~~」
【アスクレピオス・ファミリア】には、大事な掟がある。それは全てにおいて優先される。そのセリフは、ファミリアの団員なら全員が言える。プルシュカに合わせて、ボンドルドとニーナも声をそろえる。
「「「全てはアスクレピオス様の御心のままに 」」」
この魔法の言葉がある。
アンブラハンズの仮面を被った謎の子供たちが、友達を救うためにオラリオへと飛び出す。困っているヒト……ヒトの定義はどこにあるのか。プルシュカはそれが分かっていた。『愛』する心を持つ者こそがヒトである、と。
………
……
…
ダイダロス通りの被害は酷いものだった。元々、ダイダロス通りはオラリオの貧民街であり、お世辞にも綺麗な場所ではない。だからこそ、違法建築や違法改築は当たり前であり、一箇所が崩壊すると連鎖的に潰れることも多い。
すでに地域の住人たちにより瓦礫の撤去などが行われており、事態は鎮静化しつつある。だが、肝心のモンスターたちの討伐報告がなく、いつどこから襲われるか市民の不安は計り知れない。
生活を立て直すのにどれほどかかるだろうか、想像もできない。一からの再建には金も時間もかかり、貧民街の彼らにはとてもじゃないが不可能だ。身寄りもない人が多く、この世の終わりみたいな顔をしていた。
「ニーナちゃん、”錬金術”で何とかなる?」
「うん。危ないから、ちょっと離れててね」
ニーナ・タッカーが持つレアスキル”錬金術”。物質の理解・分解・再構築を可能にする。そして、再構築する物質は元の材料に依存する。だが、その法則を無視するのが”賢者の石”だ。その気になれば、石ころから金を錬成することもできてしまう。
その力を使うことで崩壊した家屋を元の形に復元させる。その神のごとき偉業は、貧民街の人々の生活基盤を再生させていった。その錬金術は人体の傷すら治癒させることも可能で、手足の再生はもちろん、失った視力まで回復させられる。
「みんな~、後で食べ物もいっぱい持ってくるからね。ニーナちゃん、次に行くよ。多分このあたりには居ないから」
「うん!! 早く会いたいね」
謎の仮面を被った子供二人ーー。
彼らの行いは、ダイダロス通りで語り継がれるだろう……一ヶ月程度は。人は痛みを忘れないが、恩はすぐに忘れる存在だ。日頃から「オラリオの厄介者たち」と言われるダイダロスの住人。どこの誰が何故助けてくれたのかと問うた。
「「全てはアスクレピオス様の御心のままに 」」
主神アスクレピオスの名声を高めることを忘れない眷属。
その様子は、街の警戒にあたっていた【ロキ・ファミリア】によって不自然な人だかりとして確認されていた。不審な二人組の片割れが床に手をついて何かを発動すると、謎の青白い輝きが現れ、崩壊していた建屋が元の姿へと復元される。
これが神威だというのなら、これを監視していたティオナ・ヒリュテも納得しただろう。本当なら彼女も無視したかった。だが、今のオラリオの情勢だ。不審者である二人を見逃せるほど彼女も馬鹿ではなかった。
オラリオの治安維持のため、冒険者が自発的にモンスター討伐を行うのには目をつぶっていた。戦力は多いにこしたことがないし、広いダイダロス通りを【ロキ・ファミリア】だけではカバーできないからだ。
発見者であるティオナは、「さすがに今はだめでしょう」と思いながら対応を始める。屋根の上から飛び降りて、不審者二人組の行く手を塞いだ。
「ちょっと待ってね~。駄目でしょう、ダンジョンはあっちだよ、子供店長の二人」
「……プルシュカちゃん。正体がバレてない? 本当に顔隠れているんだよね」
「パパが貸してくれたんだから見えているわけないわ。ここは知らないふりをして通り過ぎるの。ニーナちゃん、知らないふり、知らないふり」
人違いです、と素通りしようとする二人だった。
がっつり本名を名乗っている二人だった。今の情勢でなければ、見逃して何をするか見守りたい感が半端なく、「これが母性か」と彼女の中で何かが芽生える。
素通りしようとするプルシュカの手を掴んだ瞬間、まるで大木でも掴んだかのような錯覚を起こした。そのままティオナはプルシュカに引きずられそうになり、咄嗟に力を込める。
プルシュカは、まさか遺物を埋め込んだのにこんなに簡単に止められるのかと驚いたが、ティオナのほうは更に仰天していた。ステイタス的には決して負けることはない。だが、レベル1の初期状態で出せる力ではない。どのようなスキルや魔法で超高補正があったとしても、Lv.6であるティオナのパワーは絶対的だからだ。
「ぐぬぬぬ、は~な~し~て、ティオナお姉ちゃん」
「はいはい、ファミリアのホームに送ってあげたいけど、今は忙しいから連れて行くね。ニーナちゃんもね」
出鼻をくじかれたプルシュカたちは、【ロキ・ファミリア】の拠点へと連行されることになる。友達を助けに行くはずが、その友達を狙う組織に捕まるとはなんという不甲斐なさ。連れていかれた先では、【ロキ・ファミリア】の冒険者たちが不審者を椅子に座らせて、おやつまで提供し始めていた。
ポリポリと仮面を外して、ハムスターのごとくほっぺたを膨らませる二人は非常に可愛がられていた。
◇◆◇◆
珍客を招くことになった【ロキ・ファミリア】。可愛いお客様であり、平時なら歓迎されるだろう。だが、この場所はダイダロス通りが見渡せる高所。団長であるフィンは、プルシュカとニーナに対して説明する責任がある。
仮にも冒険者の二人を【ロキ・ファミリア】が拉致しているのだから、彼女たちの保護者や院長がこの場に乗り込んできたら非常に面倒なことになる。それゆえに、それなりの待遇でもてなしていたのだった。
「それで、君たちはどうしてあんな場所にいたのかな。今はモンスターが出没しているから、不用意な外出は控えるようにギルドからも通達が出ているはずだ」
「もぐもぐ。プルシュカたちは冒険者だから問題ないわ。それに、困っているヒトを助けるのが医療系ファミリアよ。……あと、ニーナちゃんの杖、ちゃんと返してね、緑のお姉ちゃん」
高純度で巨大な”賢者の石”が無数に散りばめられた至宝の杖ーー。
お値段が付かないレベルの品であり、例え【ロキ・ファミリア】の全財産を使っても購入はできないほどだ。
「………あぁ、分かっている。だが、もう少しだけ、触らせてもらってもいいだろうか」
「うん!!」
ニーナが、屈託のない笑みで許可を出す。
医療系ファミリアとしてダイダロス通りの人々を助けるという崇高な目的を妨げることは、オラリオの二大派閥であってもできなかった。しかし、フィンは仲間たちに二人を尾行するよう指示を出す。男性冒険者が幼い女の子二人の後をつけるのは世間体が悪いため、その役目には【ロキ・ファミリア】のお姉さん的ポジションであるアリシア・フォレストライトが指名された。
先日の【イシュタル・ファミリア】崩壊事件では、【アスクレピオス・ファミリア】に大量の負傷者が流れ込んだ。そして今回も同様に、相当な人数の怪我人が救いを求めて押し寄せている。当時、プルシュカもニーナも現場にいたことを、フィンは既に調べ上げていた。
よって、ホームでの医療を放棄してでも、ここにいるという事は絶対に目的があるとフィンの勘が告げていた。