ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
捨てる神あれば拾う神あり。
見捨てられた貧困街に救いの手が差し伸べられる。【アスクレピオス・ファミリア】の出張所として完全に認識されてしまったプルシュカとニーナ。
家々を修理するニーナの傍らで、プルシュカが
他にも、怪我人の治療にも対応するプルシュカは、患者からモンスターの情報を集める。そして、それらを統合して彼らの居場所と思われる数箇所を選別した。
その様子をコソコソ監視する者にプルシュカも気がついている。【ロキ・ファミリア】に泳がされていることは知っている。プルシュカは手帳を広げて、【ロキ・ファミリア】の構成員情報から誰かを特定する。追跡者の名前は、アリシア・フォレストライト。
「Lv.4。あたしたちも甘く見られたね。アリシア・フォレストライトさん……なんだか、ダンジョン深層で寄生型モンスターに襲われて、緑のお姉ちゃんの前で盛大に粗相しそうな顔をしてるわ」
「えぇ~そうかな。どちらかといえば、緑のお姉ちゃんに憧れて脳を焼かれたよくあるエルフの王族信仰の変態さんじゃない」
当然、彼女に子供達の会話は聞こえていた。
エルフの王族信仰は、有名な話だ。そして、リヴェリア・リヨス・アールヴは、オラリオにいる唯一の王族であり、彼女の名を知らないエルフはいない。その信仰の高さは、敵対するファミリアであっても、リヴェリアの為なら少しの間だけ目をつぶって協力することだってする。
その崇高な思いは子供には理解できないと、色々言いたいことを堪えた彼女は、エルフの中でも良識がある方だ。狂信者が今の発言を聞いたら、後先考えずにプルシュカとニーナに攻撃を仕掛けることもある。
子供たちは何かを見つけたのか、ダイダロスの地下水路へ潜っていく。ダイダロスの地上ですら治安が良いとは言えない。むしろ、悪い。人相の悪い冒険者や後ろ暗い連中が沢山いる。だがそれでも、地下よりマシだった。地下はさらに人の目が届かない。違法取引が日常茶飯事で行われている。
この地の治安維持とモンスター討伐を依頼された【ロキ・ファミリア】ですら、ギルドから「地下は無視していい」と言われるほどだ。モンスターと犯罪者が潰し合うなら、どちらに転んでも旨味しかないというギルド長の発言であった。
「……団長命令だし。これって追わないとだめだよね。損な役回りよね」
暗く汚い地下水路を進むプルシュカたちが灯す明かりを、アリシアは追い続けた。入り組んだ構造になっている地下水路は、ダンジョン下層や深層にも踏み込める彼女であっても見当がつかない。
そして、地下数階分を下った先にある鋼鉄の扉を開けて中に入るプルシュカとニーナ。その扉の先に何があるのか、冒険者としての好奇心が勝ってしまう。ゆっくり扉を開けて覗き込もうとした瞬間、重厚な扉が勢いよく開けられ、子供の手によって部屋の中に引き込まれていった。
叫びそうになったが、プルシュカがその手で口を塞ぐ。身動き一つできないほどの力で押さえつけられ、声も出せない。
「プルシュカたちから離れたらダメだよ。そうじゃないと、アリシアさん死んじゃうんだから。アステリメスさん、大丈夫よ。プルシュカたちの仲間じゃないけど、悪い人じゃないから」
「動かないで、腕を治しているんだから」
ダイダロス通りで大暴れしていた黒いミノタウロス。
『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインの手によって片腕を失った状態で、【ロキ・ファミリア】から逃げ切ったモンスターだ。アリシア一人ではとても手に負える相手ではない。目の前にある圧倒的な威圧感だけで、失禁しそうになっていた。
『グルル』
重低音の唸り声がアリシアの心臓を鷲掴みにする。
このモンスターを前に堂々としていられるプルシュカとニーナの異常さを、アリシアは実感した。普通の子供ではない。分かっていたつもりだったが、理解が足りていなかった。プルシュカが、アリシアに向き合う。
「分かったら、頷いてね。大声で叫ばない……よし。助けを呼ばない……よし。ここでのことは誰にも報告しない、勿論神様にも……よし。約束だよ。代わりに、聞きたいことがあるなら教えてあげる。それで納得してね」
「プルシュカちゃん。アステリメスさんの防具……お胸が丸見えで可哀そうだよ。何かいい物ない?」
解放されたアリシアだったが、その場から一歩も動くことができなかった。アステリメスが彼女の動きをしっかりと見張っている。下手に動けば、大斧で真っ二つにされる未来が見える。
しかし、これは夢なのではないかとアリシアは少しだけ希望を抱いた。
そもそも、目の前の出来事が現実であると受け入れる方が難しかった。子供二人に治療されるミノタウロスなどどこにいるだろうか。切断された腕は、”賢者の石”の力で再生されていく。プルシュカが荷物から取り出したのは、どこか身に覚えのある極彩色の魔石の数々。
魔石を貪りさらにパワーアップを遂げてしまいそうなモンスター。
そして、何より信じられないのがモンスターが着てしまった防具だ。
「戦争遊戯のあまりの
「大切なことを忘れているよ、プルシュカちゃん。女の子なんだから口紅のひとつでもつけておかないと。昔、ママが言ってたよ。恋は女を強くするって」
『オオオオオ……』
恋する乙女は無敵だった。傷は癒え、足りなかった胸部防具も揃った。そして、魔石による戦闘力強化も終わる。
「違うよ、ニーナちゃん。愛、愛ですよ……ってね」
「違うよ、恋だって」
一体何を見せられているのだろうかと、アリシアは理解が追いつかなかった。
愛とか恋とかそんなのはどうでもいい。目の前の文字通り化け物がさらに化け物になったこの状況。命を捨ててでも団長にこれを報告すべきではないかと、彼女は真剣に悩んだ。
『この感情は、『愛』。プルシュカ、ニーナ。ありがとう』
どこぞの女たらしの冒険者に前世で焼かれ、それを来世まで引き継いで生まれてきた
種族を超えた友情。種族を超えた愛。
………
……
…
アリシアは、プルシュカに手を引かれて来た道を戻っていた。そこで、今さら気がついたことがあった。
「さっき、モンスターが喋ってなかった?『愛』とか『恋』とか……いや、本当に私も何を言っているか分からないんだけど、聞こえた気がして」
「喋るモンスター?そんなの沢山いるわよ。ほら、あぁいう人たちのことでしょう?パパたちは、アレをモンスターだってよく言ってるわ」
プルシュカとニーナ。
貧困街で彼女たちは、見せすぎていた。誰が見ても分かる程の高級な装備。売れば人生を何回も遊んで暮らせるだろう。家屋を修理された恩など、直ぐに忘れる連中もいる。
「いや、まあ、そうかもしれないわ。目の前のアレを倒したら、私って帰してもらえる? 全部見なかった事にして、帰りたい」
「ニーナちゃん。【ロキ・ファミリア】のアリシアさんは、ダイダロスの地下水路に子供二人を置き去りにして逃げ帰るような人なんだって。酷いよ、プルシュカたちが何も悪くないのに、こんなところに置き去りにするなんて……」
「アリシアお姉ちゃん。ニーナとプルシュカちゃんのお友達に会えるまで、一緒にいてよ。こんなところに置き去りにされたら、怖いよ。攫われちゃうよ」
オラリオ最年少の冒険者二人組の図太さは伊達ではなかった。
すべてを諦めたかのようにアリシアは、団長であるフィンを恨む。絶対に後で文句を言ってやろうと。
原作側は、ボンドルド、ショウ・タッカー。
外伝(ソード・オラトリオ)側は、涅マユリ、フェイスレス。
という担当分けだと思ってください。
汚れた精霊の研究や、ダンジョンの神秘を解き明かす組です。