ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
ダイダロス通りに日が沈み、夜が訪れる。地上に隠れ潜んでいた
一方、プルシュカ達は土壇場になってもウィーネ達と合流できずにいた。入り組んだ地下水路はまるで迷路のようであり、要所には犯罪者達が潜んでいる。裏取引の現場に出くわすなど、地上でありながら大冒険を強いられていた。
水路を歩くプルシュカとニーナ、そして疲弊した表情を浮かべるアリシア。【ロキ・ファミリア】に連絡を取ることもできず、数時間も音沙汰がない彼女を心配して捜索隊が発足されていた。その影響で警備の監視網に穴が生じ、幸いにもそこを抜けて移動できていたのだ。
「べるぅ」と、幼い子供が泣くような声が水路に響き渡る。誰かに助けを求める、悲痛で誰にも届かないはずのその声。
プルシュカ達は声の聞こえる方へ走り、ついに
向かってくるのは敵である冒険者ではなく、友達であると伝えるために。
「ウィーネちゃん!! ウィーネちゃん!! プルシュカが助けに来たから、もう安心よ!」
『ぷ、プルシュカちゃん? お願い、ベルが大変なの、助けて!』
泣いて助けを求めるウィーネ。
泣いている子供。泣いている友。泣いている親友。
そんな親友からの涙ながらの頼みを、プルシュカは二つ返事で引き受ける。
「任せて! こっちにはニーナちゃんとアリシアお姉ちゃんがいるんだから。あ、ニーナちゃんは私の大親友。後で紹介するね。で、ウィーネちゃんの脳を焼いた馬鹿は、どこで何してるの?」
『『金髪』で『長髪』の女の人が、ベルと戦ってるの!』
その言葉だけで、アリシアは相手が誰なのかを悟ってしまう。相手は『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン。
アイズに合流できればこの困難な状況から解放されるとアリシアは期待したが、プルシュカやニーナが簡単に戦力を手放すはずもなかった。ここまで行動を共にし、アステリメスから命を救ってあげた経緯もあるため、しっかりと労働で対価を支払ってもらうつもりなのだ。
「はいはい、アイズ・ヴァレンシュタインね。そうなると、私達二人じゃちょっと厳しいわね。ニーナちゃん、指輪の”賢者の石”を一つ頂戴」
「ウィーネちゃん。後でいっぱいお話しようね。……はい、プルシュカちゃん」
プルシュカは、ニーナから受け取った”賢者の石”の指輪をアリシアに手渡す。
それは魔導士が喉から手が出るほど欲しがる至宝。彼女が崇拝するリヴェリアすら持ち得ない品であった。これ一つの盗難で【ソーマ・ファミリア】がギルドによって壊滅させられたほどだ。
「……私に何をしろっていうの?」
「
「私も後衛だから頑張ろうね」
エルフとしての長い人生における大きな分岐路に立たされるアリシア。
ここで二人に手を貸す行為は【ファミリア】に対する裏切りではないのか。崇拝するリヴェリアへの背信行為ではないか。しかし、提示された対価は【ファミリア】の掟を揺るがすほどの品だった。
「【ファミリア】への言い訳も、報酬も用意したわ。アステリメスさんから命も助けてあげたでしょう? ……仕方ないわね、プルシュカの仮面も貸してあげる。これで素顔がバレないから大丈夫よ。で、やるの? やらないの?」
「手伝ってくれなかったら、プルシュカちゃんと二人で頑張ろうね」
アリシアは既に知ってはならない情報を知りすぎていた。
ここに来る道中で、
これは子供を守るためであり、【ファミリア】への背信ではない。フィン団長からは二人の監視を命じられているが、手を貸すなとは言われていない――様々な言い訳を検討した結果、アリシアは祈手《アンブラハンズ》の仮面を受け取り、ボロ布で身を隠した。
◇◆◇◆
一方的にアイズ・ヴァレンシュタインに押し込まれる
互いに魔法を使わない打ち合いが続く中、その均衡を破る者が現れる。
ツルハシのような見慣れぬ形状の武器を持った小柄な影が、放たれた矢のごとき速度でアイズの懐へ飛び込んだ。遺物兵装の性能を限界まで発揮した状態で殴りかかる。スピードこそ速いが子供の腕力だと判断したアイズは、怪我をさせない程度にいなそうと試みる。
愛剣『デスペレート』が敵の柄に触れた瞬間、激しい爆発が巻き起こった。その衝撃はアイズの握力を凌駕し、彼女の武器は遥か遠くへ吹き飛ばされる。間髪入れずに連鎖的な爆発が襲いかかる。不壊属性の武器でなければ、原型をとどめていなかったはずだ。
「聞いてた通り!! って……はやーーい。もう、距離を取られちゃった」
「……すごいね、プルシュカ。こんなに簡単に武器を飛ばされたのは初めてだよ。でも邪魔をしないで。地上にモンスターが溢れていて危ないから」
プルシュカは、モンスターの話が出て状況を理解できていない様子の
「そうね。だからアイズお姉ちゃんも早く帰った方がいいよ。ウィーネちゃんみたいに脳を焼かれたら大変だから。でも、ここより先に進むというなら相手になるわ。
「少し痛いけど、ごめんね。後で治すから」
不意打ちで先手を取ることで一時的な優位に立ったものの、頂点を目指す第一級冒険者の強さは本物だ。一度刃を交えたことで相手の超絶的な実力を察し、容易には勝てないことを理解させられる。
だが、それはタイマンならの話だ。一人で勝てないなら二人。二人で勝てないなら三人。戦いにおいて常に後ろにも気を配る事は難しい。
アイズが立っていた地面に、青白い雷光のようなものが走る。直感を働かせたアイズは咄嗟に大きく跳躍した。直後、大爆発が発生し、周囲の全てもろとも破砕される。魔法とは異なる未知の攻撃。直撃すれば第一級冒険者のアイズであっても深刻なダメージは免れない。しかし発動までに僅かなタイムラグがあるため、高い敏捷性を誇る彼女ならば目視からの回避が可能だった。
アイズの着地点を狙い、連続して爆破が巻き起こる。執拗な追撃であったが、攻撃の軌跡からアイズは術者の位置を割り出した。そこにいたのは、プルシュカと同じく『子供店長』として名高いニーナ・タッカーだ。後衛職であることは知っていたが、これほどの威力の攻撃を無詠唱で連発できるなど、アイズの想定を超えていた。
二人一組の子供。アイズの中ではそう認識していた。
どちらか一人を取り押さえて降伏を促そうと考えたアイズだったが――その耳に長文の詠唱が届く。爆炎と轟音にかき消されていたが、極めて強力な魔法の発動が直前に迫っていた。
「凍る空、天上の蒼雨(あめ)。森を彩る白氷(はくひょう)よ、浅ましき蛮族を撃ち払え。凍てつけ、冬の縛鎖――ヘイル・ダスト!」
”賢者の石”の魔力増幅を全開にした【ロキ・ファミリア】の魔導士アリシアが放つ超広域氷結魔法。頭上に生成された巨大な光球から、全方位に向けて無数の雹弾が放たれる。無限に近い精神力に支えられた連続攻撃が、アイズ・ヴァレンシュタインを苛烈に追い詰める。
上空からは雹弾の嵐、足元からは怒涛の爆発。その圧倒的な火力の渦中において、|無尽鎚を振り回して肉弾戦を挑むプルシュカ。攻めこそ最大の防御と言わんばかりの猛攻であった。
アイズは武器がなく徒手でプルシュカと力強く殴り合ったが、感触が完全に
「っ!!
防戦一方のジリ貧だと悟ったアイズは、切り札である風の魔法を発動する。攻防一体にして、全能力を飛躍的に高める強化魔法だ。
………
……
…
「強い。あの子たちこんなに強かったんだ」
数ヶ月前、死の危険を感じた恐怖の記憶が蘇る。年幼い少女たちが、強力な援護があるとはいえ、あのアイズ・ヴァレンシュタインを相手に一歩も引かず足を止めていた。
しかし、その苛烈な死闘にも唐突な終わりが訪れる。【フレイヤ・ファミリア】所属にしてオラリオ最強の冒険者、『猛者』オッタルの乱入によって。圧倒的な存在感を放つ巨漢は、静かに言い放った。
「女神フレイヤ様からのお言葉だ。好敵手を用意した功績により、見逃すと言っておられる。手を引け、プルシュカ、ニーナ」
「む~、じゃあ仕方ないわね。ニーナちゃん、帰りましょう。いい経験になったし、ばっちり経験値も稼げたわ。アリシアお姉ちゃんも手伝ってくれてありがとうね。残った指輪と仮面は約束通りあげるわ。大事に使ってね」
肩で激しく息を吐くアイズ・ヴァレンシュタインも、プルシュカとニーナが地下水路へと撤退していくのを静かに見送る。そして、建物の屋根から顔を隠して広域魔法を降らせていた人物――自ファミリアの団員であるアリシアの方へと視線を向けた。
仮面をつけて、ぼろ布まで纏っているのに本名を堂々と伝えてから退場されては、アリシアも針の筵(むしろ)だ。
地下水路の奥から子供たちの賑やかな声が遠ざかっていく中、その場に取り残された者たちは、あまりの状況の変化に戸惑い、誰もが動けずにいた。
………
……
…
プルシュカ達は無事に他の
痴情に蔓延るモンスター……彼は、最強の
ウィーネと同じ男を愛する恋のライバルの登場だ。力なき愛は愛にあらず。
釣った魚に餌をやらないとどうなるのか、未来の英雄はまだ知らない。自然界及びダンジョン界では、食うか食われるか。その二つしかない。生まれながらにしてモンスターである