ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
ギルドには、様々な依頼がある。採取系、討伐系、探索系、人探し系など、各種ある。特にダンジョンでの人探しなど既に死んでいる可能性が高く遺留品を持ち帰れれば御の字というやつだ。
だが、頼む側としては、生きていて欲しいと切に願っている。
ここ最近、ダンジョン下層で発生している行方不明事件。それなりに下層の経験のある冒険者も消息を絶っており、依頼書が目立つレベルになってきた。ギルドの受付で何やら冒険者とギルド職員が揉めているから手助けに行けと言われたエイナ・チュールは、対応をしている同僚のミィシャ・フロットが困った顔をしているのを目にした。
だが、揉めていると言われる相手はカウンター越しには見えない。誰もいないが、声だけはしっかりと聞こえている。
「どうして駄目なのよ。今までは、許してくれていたじゃない」
「せっかく、プルシュカちゃんと準備してきたのに…」
女の子の声がする。ギルドのカウンターより背が低く、姿が見えないのは当然だった。ダンジョンでも名物となっている子供店長と言われるプルシュカとニーナ。彼女たちがダンジョン内でタダみたいな値段で食事などを提供する変わった存在だ。
良い子に分類される事は間違いない。トラブルだって、殆ど起こした事がなく優秀な冒険者であることは間違いない。
問題にするならダンジョン内部に違法建築して暴利を取っているリヴィラの街の方だ。
「その~ですね、プルシュカ氏とニーナ氏のレベルは
「レベルやステイタスは、飾りよ。プルシュカとニーナちゃんの到達階層は20層なんだから。パパからも一人前だって許可がもらえたから、記録更新をするんだから」
「楽しみだね、プルシュカちゃん。ミィシャさん、ちゃんと到達階層でお店も開いて冒険者の皆にご馳走するから」
中層で子供二人で露店を開かせるほどギルドも鬼ではない。だが、そんな酷い事をギルドが強要しているように聞こえてしまう。
ダンジョンは冒険者全員に解放されている。緊急時でもない限りギルドは、冒険者の権利を奪う事は出来ない。今がその時かと言えば絶対に違う。プルシュカとニーナ以外の冒険者は普通にダンジョンへ潜っているのだ。
その様子に、同僚がここまで冒険者の相手が下手なのかとエイナ・チュールは頭を抱えた。手助けを申し出た。
「どうしたの、ミィシャ。二人とも実績ある冒険者なんだから、無理にダンジョン入りを止めなくても。プルシュカ氏、ニーナ氏。いつもありがとうございます。貴方達の活動で救われた冒険者も多くいます。今日も元気にいってらっしゃい」
「さっすが、話が分かる。
「やったね、プルシュカちゃん。行こう」
手を振って見送るエイナ・チュール。一人の冒険者に時間を掛ける程、ギルド職員は暇ではない。ましては、理不尽な理由で足止めするなどトラブルの元である。
プルシュカとニーナの担当アドバイザーも務めているミィシャは、なんてことをやってくれたんだと言わんばかりの顔をしている。
「エイナ!! どうして、あの子たちに許可をだしたのよ」
「あの子たちなら7~10階層くらいでもやっていけるでしょう。すでに、上層での営業経験はあるでしょうから、いいじゃない。他の冒険者もいるんだから、早く仕事に…」
カウンターに散らばる下層の人探し依頼。
「今回、あの子たちが向かうのは24層よ。医療系ファミリアとして、下層に向かう人に片手間でいいから人探しのお願いをするんだって。お代は、特製のコーヒーだそうよ」
「……ちょっと、何を言っているか分からないわ。子供だけで24層って、行けるような場所だったかしら」
エイナとミィシャは、これから中層に向かう冒険者にそれとなくプルシュカとニーナの安否の確認を依頼する。
………
……
…
プルシュカとニーナと10階層の道中で合流を果たした、ウィーネ。これで子供連合が完成する。一人より二人、二人より三人と安定した立ち回りで各階層を攻略していった。モンスターのドロップの魔石は全てウィーネが食べつくす。
何匹のモンスターが出現しようとも鉄壁の布陣を前にモンスターたちは、魔石へと姿を変えていく。不安であったニーナの守りは、ウィーネという守り手が加わる。プルシュカが前衛で敵に集中したとしても、ウィーネの突破できるモンスターは中層では皆無だ。
すれ違う冒険者たちにも子供達が元気な声で挨拶すれば、素通りする何の疑いもなく通してくれる。
「「「こんにちは」」」
ダンジョンで顔を売っていたプルシュカとニーナが中層に進出。そして、顔が隠れているが同じくらいの背丈の子供も加わるとなれば、良識ある冒険者なら暖かく見守るだろう。
冒険者には良い思い出がないウィーネは、身構える。また、襲われるのではないかと。だが、彼女が懸念しているような事は起こらない。
爪が長いくらいなら、獣人がいる。
青色の髪の色など珍しくもない。
青い肌など、服で隠せばいい。
ウィーネの額の宝石など横にいるニーナの杖の方が万倍価値がある。
「へぇ、可愛い新入りが加わったんだね。頑張りなよ」
「帰りがけじゃなかったら、一番客になってやるんだが……今日は何処で露店を開くんだ?」
プルシュカ達が24階層だと告げる。下層で困っているヒトを助ける為、露店を開いてお願いするという。そして、本日のコーヒーとして、ウインナーコーヒーが提供されると知る。
プルシュカ達からの荷物からはみ出る程のソーセージのウインナーが見えている。本来は生クリームをコーヒーに乗せるのが正しいが、それを教えるべきか彼等は悩んだ。
◆◇◆◇
迷宮の楽園を通過して、ウィーネにとっては嫌な思い出がある階層だ。だが、その階層がモンスター達が数の暴力で攻めてきても、ニーナの異次元の爆破の錬金術で消し飛ばされていった。
「プルシュカも負けないんだから~。消し飛べ―――」
プルシュカが扱う遺物兵装も、ニーナの爆破に負けず劣らずだった。消えない火薬により、何度も爆発する。中層ともなれば、数度の爆発に耐えるモンスターもいるが大型であっても三回の爆発で消滅する。
『強いんだね。ウィーネも頑張るね。ニーナの事を絶対に守るから』
その体こそが攻守一体の武器であるウィーネが今強くなろうと頑張っている。倒したモンスターの魔石を食らい戦い続けた。
………
……
…
そして、下層入口の前で、子供店長たちによる露店がオープンした。鉄板でアツアツのウインナーを焼き上げ、コーヒーにポチャンといれて提供されるウインナーコーヒー。それを飲む冒険者たちは、誰か教えてやれとお互いが目で通じ合っている。
ボードに行方不明となっている冒険者たちの情報を貼りつけていた。それを見る人に限って、無料提供されるコーヒー。彼等は、どうせなら焼きたてウインナーとコーヒーを別々にだしてくれないかな~と思いつつ、行方不明者情報を確認する。
そこを拠点にして、プルシュカ達は24階層のモンスターを相手に実践を積み、ウィーネを強化していく。冒険者業を終えると、そこにはニーナが錬金術で作った鋼鉄のキャンプがあり、プルシュカのスキルで集められたアビス産の食糧が並べられる。誰も市場で見る事が出来ない食材たちで一癖も二癖もある味だ。
「今日は、ネリタンタンが沢山捕まえられたから、焼肉パーティーね」
ネリタンタン。扁平な形をしている小動物であり、温厚な生物だ。そして、何より肉が旨く食用として適している。
プルシュカがその気になれば草木を掻き分ければ、このような食糧が見つかる。魚を釣れば、奇怪な魚類も沢山釣れるという。彼女がいれば、ダンジョンで食料に困る事がない。遠征に連れていけば、彼女一人が食料調達係で大規模遠征でも養えるだろう。
美味しく捌かれて、新鮮なお肉とされたネリタンタン。
ダンジョン24階層で焼肉の匂いがすると、それに釣られて現れる一組の複数ファミリアによる遠征部隊がいた。それを率いるのが【ヘスティア・ファミリア】だ。
『べる!! べる、べる!!』
「ウィーネ」
目の前でいちゃつかれて、口の中が甘くなりそうな光景だ。気が利くプルシュカは、他の冒険者にも振舞っているウインナーコーヒーを彼等にも配る。
それを受け取る一人に、嘗て【イシュタル・ファミリア】に所属しており、改宗で【ヘルメス・ファミリア】となったアイシャ・ベルカ。どうしてこんな場所で会うのかなと彼女も思ってしまう。
「こんな場所で、まさかプルシュカに会うなんてね」
「あぁ、エッチなファミリアに居たお姉さん。無事でよかった。今は、【ヘスティア・ファミリア】に居るの? お姉さんも
脳を焼かれる。いいえて妙な表現だ。だが、言葉の意味も理解できる。
「焼かれちゃいないよ。焼かれたのは、妹分の春姫だけさ。後、私の方は【ヘルメス・ファミリア】。春姫は、【ヘスティア・ファミリア】さ」
「プルシュカちゃん、【ヘルメス・ファミリア】って確か……
否定できる要素が何処にもない。だが、現場に居合わせた生きた証人が言っているのだから間違いない。
「あの神はそんなことしていたのかい。でさ、プルシュカ。これは何だい?ウインナーが入ったコーヒーは」
「ウインナーコーヒーよ。ウインナーは自家製なんだから。お代は、あそこに張られた行方不明の冒険者を気持ち探してくれれば無料よ。勿論、本業の片手間でいいの。困っているヒトは助けてあげなきゃ」
アマゾネスの女傑。言いたいことは色々あるが、黙ってコーヒーを飲む彼女は、良い女である。
ちなみに、この場で一番気まずいのがリリルカ・アーデであった。嘗ての【ソーマ・ファミリア】の大事件。今だけは、目立たないようにヴェルフの陰に身を隠していた。しかし、プルシュカとニーナから提供された焼肉はしっかりと食べていた。
【ヘスティア・ファミリア】の合同遠征。しかも、率いるのは
「階層主アンフィスバエナ討伐に向けての下見」と「到達階層の更新」が彼女たちの両親の目的だった。そんなことを思いつつ、子供達は、交代で見張りをしながら就寝する。
ボンドルドとショウ・タッカーは【ヘスティア・ファミリア】の合同遠征の話を聞きつけて、出発を早める事にしていた。これまで、数々の問題に巻き込まれているベル・クラネルを筆頭にした遠征など、問題が起きない方が奇跡だからだ。
本来、インターバル的にあり得ない筈の階層主が出るかもしれない。突如未知のモンスターが出現するかもしれない。この「かもしれない」という事を想定した武装を持ち、ボンドルドとショウ・タッカーはダンジョンへと踏み込んだ。
お陰で【アスクレピオス・ファミリア】の院長全員が各々の都合で不在となり、オラリオの街の医療が崩壊しつつあった。最後の砦が事実上、機能不全となる。他の医療系ファミリアは、駆け出し冒険者にはあまりに高すぎた。
アニメで下層の話を見ていますが、地獄な環境です。