ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

27 / 28
27:下層遠征2

 アスクレピオス医療院に掲げられた無期限の臨時休業案内。院長達や彼等の子供達が揃っていない事態。かつても、同じような事があったが、その時のオラリオの惨状は酷い物だった。

 

 今、医療院に残っているのは神アスクレピオス、労働者の異端児(ゼノス)、院長達の個人的な助手たち。神は見守る事しかしない。そして、他の者達は、院長の指示にしか従わない。よって、休業となる。

 

 医療院の閉ざされた門の前には、治療を求める患者がいるが彼等の顔は絶望に染まる。神がいるオラリオに救いはないのかと。タダで高度な医療を受けさせてくれる医療系ファミリアは居ないのかと。冒険者達は慣れ過ぎてしまった……無料の医療に。

 

 そのような悲痛の叫びは、ダンジョンにいる院長達に届く事は無い。

 

 24時間営業のギルドに休む暇などない。冒険者がいつ出かけて、いつ戻ってくるかもわからない。偶然にも夜勤担当となったエイナ・チュールは、ダンジョンに向かう二組の男性を見つけてしまう。

 

 ボンドルドとショウ・タッカーの二人組だった。オラリオの医療を支えてくれている院長だ……だが、エイナ・チュールが知る限り、既に後二人の院長達もダンジョンに潜っているとの情報がある。

 

 冒険者の医療を支える重要なファミリアの幹部が、揃ってダンジョンに向かうなどギルドの立場からすれば、「止めろ馬鹿野郎」と言いたいところだ。特に、ショウ・タッカーは”賢者の石”を産み出せる人物。その価値は、一山いくらの冒険者とは訳が違う。そんな人物がダンジョンに潜って死んでしまえば、損失は計り知れない。この事態を知れば、ギルドの豚と呼ばれるギルド長ロイマン・マルディールが筋の通らない無茶苦茶な事を言い出して、身柄を拘束するだろう。

 

 故に仕事ができるギルド職員エイナ・チュールとして、見なかった事にするのだった。

 

………

……

 

 いい歳の男二人でダンジョンに潜るボンドルドとショウ・タッカー。娘達が迷宮で頑張る姿を見に行くという崇高な目的がある。子供の運動会を見に行く親の様な気持ちだ。そして、これは男性としての本能ともいえる……男はいつだって子供心を忘れない。未知への探究は、研究者の本分だ。

 

 だが、その気持ちは、【ヘスティア・ファミリア】の遠征と被るというならば一瞬で消え去る。

 

「そういえば、聞いていますかボンドルドさん。涅さんやフェイスレスさんも丁度ダンジョンに来ているみたいですよ。下層で闇派閥の人たちが面白い事をやらかすみたいだから見学だそうです。ダンジョンの怪物がどうとか。”火炎石”程度のマジックアイテムで見られるなら、安い物です」

 

「おやおや、それは素晴らしい。是非、この目で怪物を確認したいものです。ちょうど、プルシュカやニーナさんにも色々と教えていく年頃ですから良い勉強になるでしょう。となれば、記録更新もかねて目指す場所は、28階層の迷宮の花園(アンダーガーデン)ですね」

 

 現在、14階層の中層に足を踏み入れたところだった。

 

 ショウ・タッカーが指をパチンと弾くと、錬成反応の青白い雷光のようなものが迸る。周辺の酸素を消費して、業火でモンスターの集団を焼き尽くす。”賢者の石”を使わずとも、中層程度のモンスターなら消し飛んでしまう。”賢者の石”を使えば、まさに必殺の一撃となるだろう。

 

「”錬金術”。理不尽なスキルです。等価交換と仰いますが、変換するエネルギーが何処にもない。研究者泣かせのものです。その最たるものが”賢者の石”です。一体、何度殺せば死ぬのですかねタッカーさんは」

 

「私のスキルなんて、ボンドルドさんの”メイドインアビス”より普通ですよ。ダンジョンには存在しない謎の遺物やアビスの原生生命が現れる。しかも、遺物が使えるのはこのスキルがある貴方達だけなんて、ずるいじゃないですか。同じ、残機組として仲良くしましょう」

 

 Lv.1(レベルワン)の身体能力を優に超える事ができる遺物も沢山ある。そして中でも、ボンドルドが所有している特級遺物と呼ばれる物達は、錬金術では到底到達できない事象が発生する。そして、今回試運転もかねてボンドルドが持ち込んでいるのが時を止める鐘(アンハードベル)。それが鳴った瞬間、ショウ・タッカーが気が付いた時には周辺のモンスターが全て消滅している。

 

 そんなたわいない話をしながら、二人はダンジョンを進み続ける。

 

 ダンジョンに出るモンスター。ダンジョンのモンスターを滅ぼして進むこの二人……果たしてどちらがモンスターなのだろうか。殺しても殺しつくすのが難しい冒険者より、殺せば死んでくれるモンスターの方が幾分か可愛く見えるだろう。

 

………

……

 

 迷宮の楽園にあるリヴィラの街にまで、難なく到達した異質な二人組。

 

 黒装束に紫色の光るラインが入った鉄仮面を被った男と何処にでもいそうな中年男性。このペアがリヴィラの街を歩いていた。この二人は観光に来ているわけではない。現状確認の一環だ。リヴィラの街が無事であり目立った騒ぎが無いと言う事は、下層ではまだ(・・)問題が発生していない可能性が高い。

 

 台風の目である【ヘスティア・ファミリア】が動けば、大小何かしらの問題が発生するのは統計学的にみて正しい。用心するのは冒険者の鉄則だった。

 

 【アスクレピオス・ファミリア】の院長回診でもしてくれるのかと、街の住人が集まり始める。オラリオに戻らずともここで医療院を開業して欲しいとまで要望がある。集まった人だかりを抜けて更に進む彼等を見送る住民。

 

 リヴィラの街にいる冒険者たちは、見送った後に気が付いた。あの二人がLv.1(レベルワン)であり、オラリオの医療を支えていたファミリアの重要人物であると。皆大丈夫かと思うが、自ら志願して護衛しようとは誰も思わなかった。なぜか、あの二人が死ぬというイメージが湧かないからだ。

 

 だが、異様に目立つことだけは確実だった。

 

 彼等の世話になった冒険者も多く、何でこんな場所にいるんだという視線が後を絶たない。何より、ショウ・タッカーが指をパチンと鳴らすと”火炎石”に火をつけたかのような業火と爆発が起きてモンスターが次々に消し飛んでいっていた。

 

 それを見ていた者達は、誰もが一度は指をパチンと鳴らしてみる…だが、何も起こらない。仲間から生易しい目で見られるだけで済む。

 

 他にもボンドルドが指で紫のラインをなぞり「明星へ登る(ギャングウェイ)」というと紫の光が周囲に乱反射してターゲットになったモンスターを貫く様子。これも、男なら真似したくなり、やってしまっていた。そして、冒険者仲間から生易しい目で見られる。

 

 この年頃の冒険者達の心をわしづかみにする力で中層を圧倒する院長達の人気は爆上がりしていた。

 

 夜明け前にボンドルドとショウ・タッカーは、何とか子供達が待つ24層の下層入口前に到達した。そこには、【ヘスティア・ファミリア】の遠征部隊もおり、一緒に野営している。ボンドルドは、地雷原の横で寝るなんて危ない事をするのだろうかと思ったが、今無事であるなら、彼等が事件に巻き込まれるのは下層であろうと確信を得ていた。

 

「あんたは!?」

 

「これは、お久しぶり…と言う程ではありませんね、ヴェルフさん。娘達も無事のようで安心しました」

 

 交代でモンスターを警戒している【ヘスティア・ファミリア】の遠征部隊。彼が飲んでいるのは、ウインナーが入ったコーヒー。オラリオには色々な地方の出身者がいるから、その地方独自のコーヒーの淹れ方なのだろうとボンドルドは納得する。東方では、腐った豆をたべたりする習慣もあるのだから、この程度普通のことだと。

 

 そして、プルシュカがボンドルドを見つけて駆け寄る。

 

「パパ!! どうしたの!? 到着はお昼ごろって聞いてたのに、すごく早かったね。コーヒーを用意するわね。このウインナーコーヒーは、皆に大人気なんだから」

 

「えぇ、貴方達の元気な姿を見たくて少し出発を早めました」

 

「愛からず元気だね、プルシュカちゃんは。ウインナーコーヒーか……あんな顔で出されたら、誰も教えられないよね」

 

 娘が居れたコーヒーをダンジョンで飲む贅沢。

 

 ボンドルドもショウ・タッカーも、この場に異端児(ゼノス)が居る事は、知らず見た時は少し驚いた。いつの間にか異端児(ゼノス)まで誘って子供連合を結成。遠征の様な事をしているとは子供は好奇心旺盛だ。戦力のバランス的にもウィーネの参加は喜ばしい事だ。中層での安全マージンを確実なものにできる。

 

 まだ、人との距離感があるウィーネだったが、プルシュカとニーナの父親という事で彼等には一定の信頼を抱いていた。

 

「ウィーネさん。プルシュカは、好奇心旺盛で猪突猛進なところがあります。ですが、友達である貴方を裏切る事はありません。どうか、仲良くして下さい」

 

『うん!! ウィーネは、絶対にみんなを守る』

 

「私からも挨拶をさせてください。ウィーネさんだったかな。ニーナを君が守る役目になったんだって、ニーナは臆病な所あるが、優しい子だ。仲良くしてね」

 

『任せて』

 

 よくできた子供だと、頭を撫でまわされて困惑するウィーネ。父親がウィーネを可愛がるから拗ねた娘達が可愛くて仕方がないのは親ばかの証拠だった。

 

 こうして、五体満足の娘達と合流できたボンドルド達は、【ヘスティア・ファミリア】の

遠征部隊を見送った。当初、ボンドルド達に一緒に行きませんかと誘いはあった。だが、既に複数ファミリア合同の遠征部隊だ。縁も深くないボンドルド達がそれに参加する理由はない。

 

「ねぇ~パパ。いつ下層に連れてってくれるの?」

 

「【ヘスティア・ファミリア】が遠征から帰ってきてからと言いたいところではありますが、28階層の迷宮の花園(アンダーガーデン)まで進みましょう。確か、たぶんあの二人もそこにいるでしょう」

 

 ダンジョン下層では、Lv.1(レベルワン)が踏み込めば即死する事もあり得る。だが、その対策は十分に行われていた。

 

「見て見て、プルシュカちゃん。パパに教わって、炭素の結合度を変えて皮膚を最強の盾にしてみた」

 

「これでよほどの攻撃じゃ無い限り、問題はないさ。幾ら防具で固めても顔や露出した部分を狙われると、痛いからね」

 

『うわ、すごい。ニーナちゃんのお肌がとっても固い』

 

 こうして下層でのダンジョン探索が開始される。

 

 ダンジョンで生き残るすべを学び、子供達は成長していく。知識を学び実践、地形を利用し実践、1の実践は100の見分に勝る。中層よりモンスターの出現速度も数も質も高くなるが、不安要素は何処にもなかった。

 

 モンスターが落とす魔石を食べ過ぎたウィーネが一番頑張っていた。

 

 その一行を見つめていた強化種は、あれは無理だと足早に逃げていく。もう少し顔を出していれば、ショウ・タッカーが指をパチンと鳴らしていた。

 

珍しい強化種(モス・ヒュージ)がいたようだけど逃げたね。勘のいいモンスターは嫌いだよ」

 

「捨ておきましょう、タッカーさん。逃げるモンスターは色々と面倒です。殺す時は、射程に入った時、一撃で」

 

 下層のモンスターと正面から戦うだけなら、プルシュカ、ニーナ、ウィーネで十分お釣りがくる。だが、下層にはたまにこのような強化種が現れる。それに対処する事で子供達に安全に実戦経験を積ませる。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 魔石を食べる存在がいるお陰で、ボンドルド達を無理に襲ってもうま味がないと判断した強化種は狙いを白兎(ベル・クラネル)たちに定めた。

 

 この遠征に参加するLv.4(レベルフォー)白兎(ベル・クラネル)とアイシャ・ベルカ。それに無数の魔剣に加え、レベルブーストまで揃っている。他にもヘスティアの顔の広さが功を成して集まった、彼等に縁のあるファミリアメンバーが揃っており、ギルドからのミッションは十分こなせるはずだった。

 

 それが、たった一匹の強化種によって翻弄された。まるで冒険者をあざ笑うかのように、モンスターがとる行動とは逸脱した動きであり、対応に四苦八苦していた。結果的に、遠征において団長を務めていた白兎(ベル・クラネル)とその他メンバーが分断される事態に陥る。

 

 二つに分断されたという事は……エンカウント率が二倍になったという事だ。ボンドルドは、彼等に出会わない事を切に願う。困った時の神頼みというが、神はこの状況をあざ笑う事が大好きだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。