ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
ダンジョン下層。冒険者の中でも上澄みとなる
命を賭けても来る価値は、あると言える場所だ。
このアダマンタイトを地上に持ち帰れば一攫千金だ。だが、重い荷物になる。これが目的の冒険者ならば喜ぶだろう。そこで、ショウ・タッカーは鉱石を使った戦い方を娘に教える。
「いいかい、ニーナ。ここ、ダンジョンにおいては全てが武器になる。特に、鉱石は硬度が高いほど威力が増すのさ。まず、アダマンタイトをモンスターが居る場所に投げ込む。そして、それ目がけて錬成をする」
鉱石の状態だったアダマンタイトが、ダンジョンの袋小路であるルームに投げ込まれた。そして、”錬金術”によりワイヤーほどの細さまで引き延ばされ、ルーム全体を貫いた。貫かれて消えるモンスターもいれば、致命傷を避けたモンスターも貫かれた身体を無理に動かして切断され、消えてゆく。
「ちょっと、タッカーさん。あんまり派手な”錬金術”を教えられるとプルシュカの立場がなくなるわ」
「ごめんごめん。でも、使える手札の多さが生き残る秘訣にもなる。それに、敵の殲滅だけに使える技じゃないさ。後衛のニーナが自分の周りを守るのにも使える。その間に、プルシュカが敵を殲滅する。それがチームだよ」
「おやおや、私のセリフを取られてしまいました。さぁ、進みましょう。この遠征の主役は貴方達ですよ。プルシュカ、ニーナさん、ウィーネさん。ダンジョンの下層に踏み入った貴方達は立派な一人前です」
プルシュカが先頭に立ち、下層を進んでいく。道中迷わないようにマッピングや地図の確認も怠らない。これまでの経験が活きている。そして、後衛であるニーナが襲われても対処できるように歩く速度もあわせていた。『千人楔』の遺物兵装を体内に撃ち込んでいるプルシュカの体力は大人顔負けだ。自分基準で考えるのは良くない。
そして、27層にある階層主アンフィス・バエナが出現する滝つぼの所までボンドルド達は辿り着いた。そこで昼食を取るため、キャンプが行われる。ここに来る道中に倒した水中系モンスターは食料にはならない。よって、ボンドルドとプルシュカが本領を発揮する。彼らが釣り竿を垂らせば、どんな池だろうと奇怪な獲物が釣れる。
ガンキマスという鮭に似た感じの食用の魚が釣れ始める。
「パパ。あたし、蟹が食べたい。ここに来るまで沢山倒したけど、みんな消えちゃうんだもん」
「そうですね。プルシュカが望めばきっと応えてくれます。それが、私達のスキルですから」
ダンジョンに食用の蟹はいない。だが、アビスなら存在している。プルシュカの釣り竿がへし折れるほど引っ張られる。これは間違いなく大物だと確信を得たプルシュカが全力で釣り上げた。
それは魚ではなく、巨大なザリガニのような謎の生物タチカナタ。鋏があるから一応蟹に見えなくもない。
『プルシュカ、凄い。本当に蟹がつれた』
「すごーーい。プルシュカちゃん、食べきれるかな、こんな大きいの」
タチカナタの動きより早く反応するプルシュカ。背負っている
「このくらいでいいかな。ニーナちゃん。焼き蟹にしよう」
「逞しくなりましたね、プルシュカ。ダンジョンの大滝を眺めながら、ランチという贅沢を楽しみましょう」
ダンジョンとは思えない品々が並べられていた。どれも獲れたての新鮮そのものだ。生き残るためには十分な栄養と休息が大事。「食わねば戦えぬ」と昔の冒険者も言っている。
◆◇◆◇
広い下層の一角では、強化種に嵌められた【ヘスティア・ファミリア】の遠征部隊が一時撤退を余儀なくされていた。強化種の狡猾な罠により、遠征部隊の一人であった【タケミカヅチ・ファミリア】所属の千草が宿り木の苗床にされてしまっていた。
その彼女を連れて、一時撤退をしている最中、【ヘスティア・ファミリア】は他の被害者とも合流する。同じく宿り木に寄生されており、生きるため地上に戻ろうとしていた。だが、狡猾な強化種は目撃者を生かして返したくない。
地上に事の詳細が連絡されれば、間違いなく討伐部隊が用意される。それも第一級冒険者がやってくるだろう。そうなる事は避けたいと思うだけの知識はあった。
「今は生き残ることだけを考えな。
「アイシャ様。……その気のせいではなければ、何か美味しい匂いがしませんか」
度重なるモンスターの襲撃により、体力も精神力も低下していた。どこかで休憩したいが、苗床にされている仲間がいる以上、一刻を争う。
そんなはずあるかと思う。彼女は
下層には確かに他の冒険者もいる。今の状況で彼らの方向に行ってしまえば、
「春姫。お前の鼻でも匂いはするか、方角は」
「あっちの方です。でも、この匂いは…」
だが、アイシャ・ベルカも人が悪い。指揮官を務めるリリルカ・アーデの覚悟を確認する。全ては救えないのならば、何を切り捨てるかという問題だ。指揮官適正が問われる。
「リリルカ・アーデ、アンタが決めな。【ヘスティア・ファミリア】の遠征だ。
団員の疲労状態、使える魔法、アイテムの残量、魔剣の本数。
今の問題を解決した後に、団長である
そして、
「みなさん、春姫様が指さした方に走ってください。リリの予想が正しければ、多分あの方たちがいます。いいですか、皆さん。相手に会ったら、こう言うんです。「困っています。助けてください」と」
困っているヒトを助けるためにいるのなら、助けて貰いましょうという事だ。
………
……
…
蟹を食べる時は、誰もが黙々と身をほじくり出し無言となる。集中力がいる作業となる。その集中力を妨げるような地響きが迫ってくるのをボンドルド達は感じていた。
「パパ達は手出し無用よ。こっちに向かっているから、匂いにでも誘われたのかな。でも、それだったら向こうからだけ来るのはおかしいよね。……
「なんか、最近よくあるよね。
『いつでも大丈夫』
そして、見えてくる走ってくる【ヘスティア・ファミリア】の遠征部隊。彼ら以外にも、身体に植物を巻きつけている冒険者達だ。彼等はいずれも、こう口にしていた。
「「「助けてください。困っています」」」
そう、困っているヒトなのだ。プルシュカもウインナーコーヒーを美味しく飲んでくれた彼等の顔を覚えていた。そして、任せておけと口にして下層に向かった者達。
子供の善意を利用する。生き残る為ならば、なんでもやるのが指揮官だった。
「困っているヒトは助けるべし!! それが【アスクレピオス・ファミリア】なんだから。ニーナちゃん、火力こそ正義。まずは数を減らしてから殲滅よ。モンスターがたくさん来てくれるならボーナスタイムなんだから」
「うん!! 【ヘスティア・ファミリア】のみなさん、伏せてください」
ニーナが”賢者の石”の力を利用した”錬金術”を行使した。赤い雷光がモンスターの大群が居る位置にまで伸び……大爆発を引き起こす。連鎖的に起こった爆発は、【ヘスティア・ファミリア】が連れてきたモンスター達を遥か後ろの方まで消滅させていた。
爆風で転んだり、服が一部焼けたり、髪が焦げたりした冒険者はいるが命が無事なら御の字だ。
アイシャ・ベルカは、自分たちを追いかけてきていたモンスターが消し飛ばされているのを確認した。ダンジョンの壁にも被害がでており、暫くは修復が優先され安全になる。爆発を運よく回避したモンスターがまだ湧き出てくるが、今の数なら十分対処できると彼女は踏んだ。
そこに真っ先に向かっていくのが子供連合だ。
「これが
「いいえ。プルシュカ達への加勢は不要です、アイシャさん。あの子たちが自ら助けると言ったのです……それよりも、貴方達【ヘスティア・ファミリア】の合同遠征部隊にはお話があります。色々と我々に言いたいこともあるのでしょう? 指揮官役のリリルカ・アーデさん。こうして、お会いするのは何ヶ月ぶりでしょうかね」
問題を引き連れてくるとは、ボンドルドも困ったものだと思ってしまう。巻き込まれないようにと動いていたが、相手が巻き込みに来る。これは想定外だった。