ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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29:下層遠征4

 リリルカ・アーデ。彼女の適切な指示により、【ヘスティア・ファミリア】の合同遠征部隊は、窮地を間違いなく回避できた。今も爆発音が通路奥から絶え間なく聞こえる。強化種(モス・ヒュージ)による怪物進呈(パス・パレード)に加え、道中偶発的に引き当てたモンスター・パーティー分まで押し付けてしまったが、プルシュカ達はそれらを全て倒しつくす。

 

 【ヘスティア・ファミリア】の致命的な弱点は、魔導士による広域殲滅力の不足だ。広域殲滅が可能な魔導士がいれば、これと同じことが容易に実現できただろう。集めるだけ集めて、一気に掃除。それができる優れた魔導士は、どの【ファミリア】も決して手放さない。一から育てるか、『戦争遊戯』で奪うほかないのだ。

 

 倫理観や良心の呵責など失う物もある。だが、得る物も彼等には確実にあった。それでいい。これが、指揮官としての彼女の不退転の判断だ。

 

 食料の温存、魔剣の温存、回復薬の温存、体力の温存、そして…宿り木からの解放だ。これで、行方不明になった彼等の団長である白兎(ベル・クラネル)を探しに行くだけの十分な余力ができた。

 

 だが、その前に、ボンドルドとショウ・タッカーに対してリリルカ・アーデは、苦しい弁明をせねばならない。

 

「こほん。この度は、私達が困っている所を助けていただきありがとうございます。我々はですね、プルシュカさんとニーナさんの『お願い(・・・)』を聞いて、下層で行方不明者を探していたんです。そう、お二人の『お願い(・・・)』で……」

 

「おやおや、そうだとするならば大変申し訳ありません。娘達が『お願い(・・・)』したばかりに、【ヘスティア・ファミリア】の皆様に甚大な被害を出してしまいました。子供達がやった事は、親の責任です。ご迷惑をおかけしました」

 

「いやはや、そうだったんだね。それは悪い事をした、ニーナの父のショウ・タッカーです。娘に代わり謝ります。申し訳ありませんでした」

 

 【アスクレピオス・ファミリア】の院長達が頭を下げて深々と謝罪する。

 

 もはや、ここまで相手に謝罪させてしまったら、後には引けないリリルカ・アーデ。今回の不運は、あくまで相手の子供が原因という主張でやり過ごすしか道はない。今を生きねば、次がないのだから。

 

「そう、そうなんですよ。じゃあ、お二人の『お願い(・・・)』で行方不明者を捜索していた時にモンスターに強襲されて、怪我を負った仲間を治療してもらえませんか?ポーションなどでは、治せなくて……寄生系なのは分かりますが」

 

 リリルカ・アーデの申し出は当然だ。『お願い(・・・)』が原因であるならば、責任を取る。それが大人だ。

 

 ボンドルドとショウ・タッカーは、憔悴する冒険者を診察する。肉体に根が伸びており、無理に引っこ抜けば後遺症が残る。この手の寄生は、通常の回復魔法やポーションでは治せない。宿主が回復すればその分、宿り木が育ってしまうタイプだ。

 

「予想通り、先ほど見かけた強化種(モス・ヒュージ)の攻撃ですね。体内の根まで焼き払いか、外科手術で取り除くか、戦場の聖女(デア・セイント)の回復魔法のいずれかで治ります」

 

「僕もそう思う。まぁ、時間がもったいないし、手早く終わらせよう。ちょっと、宿り木が植えつけられた人は近くに寄って。ツタに手が届かないから。体内が焼けるように痛むけど、後で治すから我慢してね」

 

 宿主の体力を使って再生もするだろう。だが、根元から全てを一瞬で焼き尽くされては、宿り木も消滅する。“錬金術”とは、こういう応用力がずば抜けていた。

 

「「「あ゛があぁぁぁぁぁぁ!?」」」

 

「これで、根から焼き切った。後は、人数分のポーションを渡しておこう」

 

 診察から宿り木の排除、回復まで1分と掛からず終えてしまう。当初、リリルカ・アーデは地上まで戻る事すら想定していたが、それだけの時間と費用も浮いたと計算する。

 

 プルシュカ達も残存していたモンスターの処理を終えて戻ってきた。全員が爆風の影響なのか、衣服や顔の汚れが目立つ。

 

「もうこれで安心よ。あたし達が、全部倒してきたんだから。それより、お腹減ってない?食べ物なら沢山あるから食べていきなよ」

 

「蟹、蟹がいいよ。沢山あってあまりそうだから」

 

『春姫も蟹食べよう。蟹、蟹』

 

 生き残った冒険者達もようやく落ち着いた場所で暖かい飯を口にできる。傷はいえたが体力までは戻らない。だが、この暖かい飯は彼等の胃袋を満たす。それだけで生の実感が感じられた。

 

 皆が満足そうにプルシュカ達が提供した食事を食べる最中、ボンドルドは大事な事を伝える。

 

「そうそう、リリルカ・アーデさん。遠征後、アスクレピオス様もお連れして正式に【ヘスティア・ファミリア】に謝罪に向かわせていただきます。それと、合同遠征に参加された【タケミカヅチ・ファミリア】にも同様に」

 

「それがいいね。後、子供達にも注意しておくよ。無理なお願いはしないようにと。今回が初めての事だったみたいだけど、出鼻をくじかれる思いをしただろう。こういう経験が子供達にもいい方向に働くだろうね」

 

「いえいえいえ、そんなのは全く不要です!ヘスティア様も笑ってお許しになられますので、本当に神様を連れて謝罪はいりませんから!」

 

 これは社交辞令の一環だと大人は理解する。

 

 リリルカ・アーデの立場的に「神に謝罪に来い」とは言いづらい。だから、あえて「来るな」と言う。そこを理解してこそ、立派な大人であり冒険者だ。良識ある大人は、そこらへんはしっかりと読み取れる。社会人としての経験が段違いだから。

 

(これは、院長達が雁首揃えて土下座しに来いと言っているに違いない……。命を失いかけたのだから、医療系ファミリアとしてどう責任を取ってくれるんだ、となるはずだ。親なんだから、子供の責任は取るべきだろう、と)

 

 リリルカ・アーデの指揮官としての配慮で、この場ではあえて言わず泥を被っているに違いない。本来ならば「死んで詫びろ」とでも言いたいはずだ。その証拠に、先ほどから遠征組の者達が口ごもっている。

 

 ボンドルドは、表向きにはリリルカ・アーデの配慮を甘んじて受ける事にする。そして、地上に帰った際には、神と4院長とその子供達も含めて全員で土下座しに行こうと。

 

「ご配慮いただきありがとうございます。リリルカ・アーデさん……さぁ、どうぞ好きなだけ飲み食いをして英気を養っていってください」

 

「子供達の前だからといって、僕らの立場を配慮してくれるなんて。小さいのにすごいな君」

 

 こうして、訳もわからぬまま窮地を乗り切る事に成功したリリルカ・アーデ。

 

 未来より今を大事にする……リリルカ・アーデは、確実に白兎(ベル・クラネル)からそのことを学んでいた。未来の事は未来の自分が解決してくれる。今を生き延びることこそが大事なのだ。

 

………

……

 

 ボンドルド達は、【ヘスティア・ファミリア】の遠征部隊と別れて、更に下層に向かい始める。その道中で、マーメイドの唄声が響き渡る。

 

『これ、マリーの歌声だよ。ウィーネと同じ異端児(ゼノス)

 

「ウィーネちゃんのお友達なら、プルシュカともお友達だね。でも……マリーちゃんか。なんか、とっても卑しい感じがする名前。最近、よく当たると評判のプルシュカが占ってあげる。……どれどれ、マリーちゃん。白兎(ベル・クラネル)に脳を焼かれ、裸で抱き合い、体液を飲ませ合った仲とでたよ」

 

「プルシュカちゃんの占いって妙に具体的だよね。でも、無いんじゃないかな。行方不明のはずなのに、流石に」

 

 と、常識人の子供達は誰もが思っていた。

 

 そのあまりにひどい内容の占いに、同じ異端児(ゼノス)であり性別も同じで年齢もちかいウィーネが頬を膨らます。

 

『マリーは、そんな子じゃない。ベルは、ウィーネの物なんだから。そんなこという、プルシュカちゃんなんて嫌い』

 

 だが、その発言がマリーに出会って、僅か数秒後に180度変わる事になる。友達から恋敵(ライバル)に早変わりする。しかも、相手は全裸で抱きついた上に体液交換済だ。面構えが違う。

 

『マリーなんて大嫌い!! ベルはウィーネの物だから。負けないんだからね……プルシュカちゃん、さっきはゴメンね。ベルを押し倒して既成事実を作るんだから。強くなる。アステリメスにも負けないくらいに』

 

 こうして、地上の風紀だけではなくダンジョンの風紀や異端児(ゼノス)の風紀まで乱す男である白兎(ベル・クラネル)の生存がある意味ここで判明した。

 

女の子の父親は誰もが思うだろう……白兎(ベル・クラネル)に娘を近づけたくないと。

 

 

 




今回は短めです。

子供のやったことは、親の責任。
ケジメは大事です。本当に。

そろそろ、闇派閥の力を見せてもらいましょう。
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