ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
ダンジョン地下28階層にある
その階層に到達したボンドルド達。迷宮にある数少ないモンスターが湧かない
ここまで到達できる冒険者の数が少ないため、商売にならないのだ。18階層まで直通の人工迷宮クノッソスをギルドが解放すれば話は別だろう。18階層からならここまで10階層下るだけとなり、一気に人口が増えるはずだ。しかしその代わりに、誰でも往来できるようになれば18階層にある冒険者の街は消えることになる。
人通りも少なく、パラパラと冒険者の集団がいる程度だ。その中で【アスクレピオス・ファミリア】のメンバーを見つけるのは……意外と簡単だった。涅マユリの存在が非常に目立っているのだ。どの程度目立つかといえば、”輝く聖人”の異名を持つ者にも負けないほど眩しい光を発しているかのようだった。
そして涅マユリの隣には、彼の娘である涅ネムがいた。趣味が人体実験という変わった子である。既に成人しており、プルシュカやニーナの姉貴分の一人。その実力は、実戦経験が長い分、プルシュカやニーナより上だと言える。母親が存在しないことから普通の生まれではない。そして、彼女もまた
彼の近くには、ジェントルマンと言っても過言ではない立ち振る舞いのフェイスレスもいる。彼の横には、フランシーヌという美しい銀髪の女性が佇んでいた。殺伐としたダンジョンの雰囲気には場違いであり、どこかの華やかなパーティー会場から迷い込んだかのようだ。かつて愛した人を模した自動人形として再現し、娘にしている天才である。ある意味で死者蘇生ともいえる業を技術だけでやってのけている。当然、彼らも恩恵を刻まれて
【アスクレピオス・ファミリア】では、表の活動をボンドルドとショウ・タッカーが担当し、裏の活動を涅マユリとフェイスレスが担当することで、ファミリアの絶妙な均衡が保たれている。
「おやおや、お待たせしてしまいましたか。28階層までは、初めてでしたので」
「情けないネ。では、闇派閥の連中が面白いものを見せてくれるらしいから、今から取引に行こうか。……ネム、子供達に疲労回復用の飴を渡しておけ。いいな、私からじゃなくお前から渡すんだヨ」
奇怪な顔に似合わず、実に細かいところに気が利く男だ。
その奇抜な面構えや風貌を恐れずに近づいてくるプルシュカやニーナのことを、涅マユリも内心気に入っている。あのボンドルドやショウ・タッカーからどうしてこんな素直な子供が生まれるのかという謎をいつか解き明かしたいと思っていることは、誰にも言えずにいた。
一方、ショウ・タッカーはフェイスレスと優雅に対話をしていた。危険なダンジョン内でわざわざ紅茶を飲み始めており、「ここがどこだと思っているのだろう」と、その様子を見ていた近くの冒険者たちはあきれ果てていた。
【ルドラ・ファミリア】という闇派閥に納品される”火炎石”。手に入れようと思えば地上でいくらでも手に入るものだが、潜伏中の闇派閥にとってはこういった物資を手に入れるのも一苦労だ。代わりに受け取るのは、
「半日程度は時間があるだろう。それにしても、”火炎石”と【ルドラ・ファミリア】か。もし私が予想しているような下らないことだったら許さないがネ」
「涅さんは、何か心当たりがおありなようで」
オラリオの暗黒期にも活動していた【アスクレピオス・ファミリア】。涅マユリとフェイスレスは、5年前にも彼ら闇派閥と取引をしていた。相手が闇派閥だろうと治療するというスタンスを貫いていたため、様々な裏の付き合いがあったのだ。
「あるネ。だが、我々が現場に到着した時は冒険者の死体しかなかった。レベルの高い冒険者の遺体は使い道が多いから得るものはある。だというのに、フェイスレスが半分持っていったのは、酷いと思わないかネ? 私が先に見つけたんだぞ」
「確かに高レベルの冒険者の遺体は貴重ですからね。貴重な魔法やスキルの知識もあるかもしれません。まだ手元にあったら貰えますか? お礼に、秘蔵の特級遺物をお見せします」
「なになに、面白そうな話をしてるね。僕も一枚噛むよ。5年前の冒険者の死体ね。ちゃ~んと綺麗に修理して保存してるよ。いいよね、人間の神秘って。血が通っていなくてもポーションに漬け込んでいれば腐らないし鮮度が保たれる。僕も提供するよ。ボンドルドが秘蔵と言う程の特級遺物には興味がある」
図らずも常軌を逸した研究者同士が集まる【アスクレピオス・ファミリア】。
彼らは仲間であり、技術を高め競い合うライバルでもある。これもファミリアの一つの形であった。ボンドルド秘蔵の特級遺物――呪い除けの籠。既に動物実験も終えているが、上級冒険者を使った実験はまだやったことがなかった。
………
……
…
そして、半日が経過してついに始まった。ダンジョンの神秘の見学会。
【ルドラ・ファミリア】のジュラ・ハルマーが主導する、下層を地獄に変える悲劇。この日のために、彼は5年前の惨劇を再現しようとしていた。かつて、【アストレイヤ・ファミリア】を壊滅に追い込んだ未知のモンスターを呼び出す破壊の儀式。
ギルドもその存在を恐れて闇に葬った――ジャガーノート。
その儀式の詳細を聞いたボンドルド達が抱いた感想は、極めて冷ややかなものだった。それをやるくらいなら、
だが、この方法は、間違いなくダンジョンにいる大半の冒険者を巻き込んで殺せるお手軽な殺害方法だ。
【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】であっても、ジャガーノートを単独で相手にできる冒険者は限られる。それゆえに勿体ない。闇派閥に属するジュラ・ハルマーは、このお手軽確殺方法を闇派閥のメンバーに報告しなかった。今まで物資支援や色々な便宜を図ってもらっていたにもかかわらず、この大きな発見を共有しないという愚かな独占欲を見せていた。
ここから、【アスクレピオス・ファミリア】による品評会が開始される。
ボンドルドの評価(5点中3点)。
「おやおや、これでは涅さんが下らないと評価するのも納得です。誰もやろうと思わなかった事を試そうと思う志は、研究者として一定の評価はできます。しかし、たった一人を殺すのにこれほどまでの準備期間と予算をつぎ込むのは非効率的ですね。再現性の高さだけは評価します」
ショウ・タッカーの評価(5点中4点)。
「僕は評価するね。兵器とは、誰にでも扱える汎用性こそが求められるものだ。事実、冒険者が刀剣類を好むのもそれに類する。弓矢などは高度な技量がいるからね。それを考えると、あのモンスターを呼び出す手順と必要な火炎石のコスト、費用対効果は決して悪くない。気になるとすれば、あのモンスターの耐久性と稼働時間がどの程度かということだね」
涅マユリの評価(5点中2点)。
「あの程度の物が神秘だと!? 所詮、階層主と大差ないじゃないか。場所やインターバルを問わず生み出せるというだけで、根底は何も変わらないネ。あえて評価するとすれば、移動速度と攻撃力に特化した殺戮用の構造だ。そして、魔法を跳ね返す反射装甲だネ」
フェイスレスの評価(5点中1点)。
「つまらないね。あれなら、
プルシュカ達もどんな素晴らしい未知の見学会になるかと思ったが、現れたのはただ凶暴で強いモンスター。それ以上でもそれ以下でもない。言葉を解するマーメイドの
これならば、まだ発生のインターバルを無視して同時に出現してきた下層の階層主アンフィス・バエナの方が、生物としての面白味があるとすら思ってしまう。
「じゃあ、パパたちって……あのモンスターとアンフィス・バエナ、どっちを狙うの?」
「「「「新種」」」」
生きたまま地上に持ち出すには苦労するだろうが、不可能ではない。18階層にある人工迷宮クノッソスの鍵は、ボンドルド達の手元にもある。そこを経由して極秘裏に地上へ移送し、【アスクレピオス・ファミリア】の地下保管庫で管理・研究する。上手に解剖・利用すれば、幾らでも魔法を反射する貴重な装甲素材が手に入る。
殺戮の新種モンスターであるジャガーノートに対して、マッドサイエンティスト達による容赦なき「回診」が始まろうとしていた。
リューさん、可愛いよね。※中の人があの人だし。
だから、作者は彼女を救いたい……感動の再会をプレゼントです。
皆が望むハッピーエンド。