ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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31:ジャガーノート2

 闇派閥の一つである【ルドラ・ファミリア】のジュラ・ハルマーの作戦は、巷を騒がす白兎(ベル・クラネル)という存在を巻き込まなければ目標を完遂できただろう。

 

オラリオの2大派閥の主要メンバーが不在の隙を狙うことにも成功した。

闇派閥の秘密ルートから手に入れた深層のモンスターを、特殊なマジックアイテムでテイムすることにも成功していた。

 

裏の取引先から大量の”火炎石”を仕入れることにも成功していた。

迷宮の楽園(アンダー・リゾート)であるリヴィラの街の冒険者を巧みに扇動し、『疾風』の討伐隊を結成させることにも成功していた。

 

ここまでの準備を整えておきながら、最終的に追い込まれ、窮地に陥った原因は白兎(ベル・クラネル)だった。狙う時期を間違えたとジュラは後悔しながら、この世から退場することになる。ジュラ・ハルマーが残せた傷跡は、リヴィラの街の冒険者を巻き込んだ壮絶な自爆劇という結果だけであった。

 

 その命がけの暴走によって呼び出された厄災ジャガーノートは、白兎(ベル・クラネル)と『疾風』リュー・リオンを凄まじい絶望へと追い込んだ。ふたりの優れたステイタスをもってしても、ジャガーノートの異常なまでの速度と攻撃力に対処するのは極めて困難であった。

 

不幸中の幸いか、死の直前で白兎(ベル・クラネル)とリュー・リオンは、ジュラがテイムしていた深層モンスターであるラムトンに呑み込まれ、そのまま地下深くへと連れ去られた。ダンジョンは下層、深層へと下るほどに過酷さを増す。深層モンスターに飲み込まれ過酷な階層へ落ちた彼らの行き着く先は、間違いなく地獄であった。

 

 下層に甚大な被害を与えた標的が姿を消し、ジャガーノートが原因排除のためラムトンの開けた大穴へ潜ろうとした瞬間、その穴が一瞬で塞がれた。それはダンジョンの自動修復ではなく、”錬金術”による壁の生成であった。

 

「おやおや、どちらへ行かれるのですか、新種のモンスター。どうですか、もし知性がお有りなら我々に同行願えませんか? 自主的に来ていただけるのでしたら、待遇は保証しますよ」

 

 ボンドルドはすでに遺物兵装(銃器アラカブキ)を構えていた。捕獲用の弾丸『骨肉弾頭・ハドゥーザ』――生きた肉片が対象を拘束する兵器であり、その拘束力はLv.3(レベルスリー)相当のモンスターを取り押さえるほどだ。しかし、その射出速度はジャガーノートの素早さとほぼ同等に過ぎない。

 

 放たれた数発の弾丸を、ジャガーノートは容易く見てから回避してみせる。

 

 その身こなしを確認したボンドルドは、即座に弾頭を交換する。速度重視の特殊弾だ。階層主レベルの耐久力があると想定するならば、一、二発直撃させたところで死ぬことはないと判断したのだった。

 

「速いねぇ。それに穴を塞いだ時の錬成反応を察知して回避する知恵もあるか。だがこれで逃げ場は塞いだ……この密室全体を焼き尽くしたら、どう動くのかな?」

 

 ショウ・タッカーがジャガーノートの逃走ルートとなる脇道や通路を練成で封鎖した。そして指を鳴らし、広間全体を激しい炎で包み込む。人間であれば肺の中まで灼き尽くされるほどの超高熱。第一級冒険者であっても、この熱量の中に長くとどまることはできない。

 

 なにより、これは魔法ではなく”錬金術”による化学反応の炎だ。ジャガーノートが誇る魔法反射装甲に反応することはない。

 

「ふむ、やはり知性はあるようだね。逃げ場を失って焼かれれば、唯一の出口である我々の方向へ突撃してくると。まあ獣並みの知性だがネ。刀で直にやりあってもいいのだが、折角だ。出血大サービスと行こう……卍解『金色疋殺地蔵 魔胎伏印症体』」

 

 涅マユリの斬魄刀の先端から巨大な胎児のような異形が産み落とされ、ブクブクと急速に膨れ上がった。大型モンスターをも上回る巨体となり、不気味に光る胎児を排出し始める。生命としての本能で異様な危険を察知したのか、ジャガーノートは大きく後方へ跳躍して警戒を強めた。

 

 自身の能力を常に改造し続ける涅マユリにとって、この卍解は最新の試作型であった。以前ボンドルド達がこれの使用を目撃したのは、かつてアンタレスというモンスターから女神アルテミスを保護した時だった。

 

 この改良型卍解は、本来寄生系モンスターに対処すべく開発されたものだった。しかし、男の性として新しい研究成果を誇示したい欲望には抗えない。ド派手な演出効果はもちろん、ジャガーノートがいくら切り刻もうとも崩れない肉の盾として、これ以上ない性能を誇っていた。

 

 肉壁となった卍解が注意を引いている隙に、ボンドルドはジャガーノートの下腹部へ特殊弾を直撃させた。階層主ゴライアスすら3発で沈める威力。それは他の階層主クラスにも十分通用する。速度と攻撃力に特化し、耐久力に劣るジャガーノートにとっては致命的な一撃であった。

 

 

「だ~めじゃないか。耐久力がなさそうな新種にそんな大技を使ったら。後は僕に任せておきなさい。こういうモンスターを分解するのは得意でね。動きが鈍っているなら十分対処できるさ」

 

 分解・溶解・理解の能力を持ち、神の領域に足を踏み入れている男。モンスター、ダンジョン、さらには冒険者すらも誰より”分解”してきた彼は、これまでの交戦データからジャガーノートの性質を素早く紐解いていた。

 

 ”分解”…あらゆる物を一瞬でバラバラに「分解」する能力

 “溶解”…超強力な酸性液体を自在に操り、眼前の物体や敵をドロドロに溶かし去る能力

 ”理解”…自動人形たちに対し、「私が(お前たちを作った)創造主である」と告げ、それを一瞬で「理解」させ従わせる 能力

 

 一体、これまでにオラリオの中で彼の施術を受けた者がどれほど存在するのだろうか。

 

 これらも魔法による攻撃ではないため、ジャガーノートの反撃装甲は機能しない。身体は容赦なく分解され、不要な部位は溶解させられていく。そして、彼等のホームで時間をかけて自動人形へと再構築されていくのだった。

 

 瞬く間に最小限の大きさにまで削ぎ落とされたジャガーノート。生存可能な最小部位だけを残すことで消滅を防ぎ、サンプルとして持ち出すことが可能となった。ショウ・タッカーが錬金術で作成したアダマンタイト製の保管容器に封入し、一行の中で最も腕力のあるボンドルドが背負って持ち帰ることになる。

 

 この連係プレイを見ていた子供達は、あの新種を一方的に処理する父親たちの実力を改めて実感する。

 

 誰もが満足気な笑顔で収穫を携えて帰路に就こうとする。だが、何か重大なことを忘れているような違和感も拭えずにいた。たとえば、地下深くに連れ去られた白兎(ベル・クラネル)やリュー・リオンの安否であり、あるいはインターバルを無視して出現した階層主アンフィス・バエナの存在であったかもしれない。

 

 しかし彼らは、冒険者としていち早くこの危険な新種モンスターを回収・排出することこそが、下層の安全に繋がると信じて疑っていなかった。

 

 もし白兎(ベル・クラネル)がラムトンに呑み込まれ連れ去られた瞬間をウィーネが目撃していたならば、助けを求めて声を上げていただろう。だが知る由もなければそれもない。それどころか、退路となる穴はすでに頑丈に塞がれてしまっていた。

 

「パパたち凄かったね。ニーナちゃん、ウィーネちゃん」

 

「うんうん、勉強になった。……どうしたの、ウィーネちゃん早く来ないとパパたち行っちゃうよ」

 

『ベルの匂いがする気が……したけど気のせいかも』

 

 広間全体をショウ・タッカーが全力で焼き尽くしたため、血痕どころか匂いすら一切残っていない。だが、ウィーネの直感が何かの異変を感じ取っていた。

 

 

◇◆◇◆

 

その頃、ギルドの深部にある祭壇では、神ウラノスが困惑していた。

 

「ジャガーノートの反応がダンジョンから消失した。原因の排除が終わったのか、それとも撃破されたのか。いずれにせよ壊滅的な事態は回避できたと言えよう。アンフィス・バエナの討伐経験がある者たちに急遽ミッションを発令する。フェルズ、お前は『異端児(ゼノス)』に連絡を取り、白兎(ベル・クラネル)の捜索に向かわせてくれ」

 

「分かった、ウラノス。この程度の被害で済んだのは不幸中の幸いだった」

 

 ボンドルド達が人工迷宮クノッソスを経由して地上へ帰還しようとする頃、正規ルートからは階層主アンフィス・バエナの討伐部隊と、未だ帰還しない白兎(ベル・クラネル)やリュー・リオンを心配する有志連合がダンジョンへと突入していった。

 

 しかし、アンフィス・バエナは【ヘスティア・ファミリア】と、彼らの巻き起こす騒動にいつも巻き込まれてしまう『影追う者(シャドウ・ストーカー)』アーロン・グラディウス一行の協力により、無事に討伐されることとなる。

 

 神ウラノスは、白兎(ベル・クラネル)に対する警戒度を最大限に引き上げる決意をした。本来であれば、下層での簡易なミッションに過ぎなかったはずだ。Lv.4(レベルフォー)へのランクアップを果たした彼に、下層での実践経験を積ませようという親心のような配慮であった。

 

 神々の思惑に翻弄され英雄に仕立て上げられようとしている彼らへの配慮が、まさかここまでの大惨事を引き起こすとは誰も予想できなかった。強化種の出現だけであればまだ理解の範疇だ。だが、それに加えてジャガーノートの召喚と階層主の同時出現となれば話は全く別である。

 

 リュー・リオンにしても、【ヘスティア・ファミリア】が遠征に向かっている最中にダンジョンに入るという無謀な行動に出ていた。これからは【ヘスティア・ファミリア】がダンジョンに入る際、白兎(ベル・クラネル)と浅からぬ関係にある女性冒険者の入場を制限すべきではないかと、ウラノスは本気で検討し始めていた。

 

 いっそのこと、ギルドの職員の誰かと結婚させて複雑な女性関係に終止符を打たせようかとすら考えていた。幸いにも、白兎(ベル・クラネル)の好みが『金髪』『長髪』『エルフ』であることは一部の界隈で有名な話だ。世間にありふれた嗜好であり、ギルドの職員で揃えることなど造作もないことであった。

 




さて、感動の再会を用意しましょう。
フレイヤ様のお気に入りでもあるから、何も問題はない。

ボ「親戚を救ってくれた、ささやかな恩返しです」
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