ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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33:再会2

「おやおや、皆さんも疑り深いですね。私はこう見えてハッピーエンドが好きなのですよ。ハッピーエンドはお嫌いなのですか? 一度命を落としたアリーゼさん達が、生きてリュー・リオンさんと再会できるなんて素晴らしい事ではありませんか」

 

「そう思うわ。で……調べさせてもらったわ。リオンの相手に相応しいか、白兎(ベル・クラネル)って少年の事をね。色々と言いたい事がありすぎるのよ。一体、貴方達は彼を何に仕立て上げるつもりなの? やり過ぎよ」

 

 リュー・リオンの伴侶として相応しい男なのか、【アストレア・ファミリア】として入念な下調べが行われた。当然と言えば当然だ。

 

 だが、調べれば調べるほど、信じられないような情報ばかりが浮き彫りになってしまう。

 

 わずか半年でLv.4(レベルフォー)になった少年だ。オラリオで少し聞き込みをすれば、すぐに情報は集まる。その手の情報屋でさえ、タダ同然で詳細情報を教えてくれるほどだ。有名過ぎて、隠せる情報が存在しないと言っても過言ではなかった。

 

「オラリオに来て僅か数日で強化種ミノタウロスと戦わせるなんて、闇派閥みたいなことをするなんて許せないわ。貴方達に人の心はないの?」

 

「誤解です。その一件は【フレイヤ・ファミリア】が仕組んだ事ですよ。神ですから人の心はないでしょうね、アリーゼさん。貴方達は我々をなんだと思っているんですか? 人命を尊ぶ医療系ファミリア、【アスクレピオス・ファミリア】ですよ」

 

 アリーゼが後方にいる仲間たちをちらりと見る。だが、正義のファミリアの元団長は諦めなかった。空回りしつつも懸命な団長の姿は、どこか痛々しくも美しかった。

 

「じゃあ、これはどうなの? 18階層の迷宮の楽園(アンダー・リゾート)で出現した黒いゴライアス事件。どう考えても、私達の死因となった化物の親戚みたいな奴じゃない。情報屋の話じゃ、神威を感じた後に出現したって聞いたわ」

 

「その神は、白兎(ベル・クラネル)が所属するファミリアの主神ヘスティア様です。帰らぬ眷属が心配だからとダンジョンに無断で潜ったと聞いています。ヘルメス様にそそのかされた雰囲気はありましたね。我々は何もしておりません」

 

 正義の団長としての立場が、どんどん危うくなっていく。

 

 確かに現場にはボンドルドもいたが、一切関与はしていなかった。白兎(ベル_クラネル)は血筋的に親戚ではあるが、英雄になることなど強要はしていない。

 

「じゃ、じゃあ……この戦争遊戯(ウォーゲーム)は!?」

 

「【アポロン・ファミリア】の主神アポロン様が白兎(ベル・クラネル)君を 性的に狙っていたことが原因で発生した案件ですね。私はヘスティア様に依頼され、改宗までして手伝いに行っただけです」

 

 その戦争遊戯(ウォーゲーム)で相手ファミリアを無力化したのは、ボンドルドだけではない。勝利を確実にするため全力を尽くした結果であり、当然リュー・リオンも魔剣で大活躍していた。

 

「どうなっているのよ、オラリオの治安と正義は!! どうして一番胡散臭いアンタたちが無実なのよ! こういうのは裏で手引きしているものでしょう。下らない理由で死者蘇生なんてするんだから、もっと悪い事しなさいよ!」

 

「正義が悪を強要しないでください。暇でしたら、プルシュカ達に対人戦の稽古でもつけてあげてください」

 

 叩けば埃が出るだろうと思われている【アスクレピオス・ファミリア】だが、叩けば埃が出るファミリアは他にいくらでもある。身近で世話になっているファミリアを疑うより、追求すべき対象は他にいるだろうとボンドルドは呆れていた。

 

「歓楽街を取り仕切っていた【イシュタル・ファミリア】を崩壊させたのは……?」

 

「ベル・クラネル君が娼婦欲しさに壊滅させたと聞いています。なんでも【フレイヤ・ファミリア】を焚きつけて、神イシュタルを送還させたとか」

 

 それも彼女の手元にある情報と一致していた。

 

 まだ見ぬベル・クラネルという規格外のスペックを持つ少年。本当にこの子でいいのだろうかと心配になるのは当然だ。誰だって——ボンドルドでさえ、プルシュカを彼には近づけたくないと思っている。

 

「じゃあ、このベル・クラネルがモンスターを街に引き入れたって話は? 流石にそれは【アスクレピオス・ファミリア】が裏で糸を引いていたんじゃないの?」

 

「違いますね。それは【ウラヌス・ファミリア】の眷属であった子孫が、人工迷宮クノッソスをつくったことが原因です。ギルドも把握していないダンジョンの裏口からモンスターが逃げ出したのです」

 

 最も悪に近いと思われていた男が、実は事態から遠い存在であったことを思い知らされる。

 

 人を見かけで判断してはいけないと、彼女たちは教わらなかったのだろうか。ボンドルド、ショウ・タッカー、涅マユリ、フェイスレスと確かに面構えは他とは違う。だが、残した功績にも目を当てるべきだ。

 

「じゃあ、じゃあ……【ルドラ・ファミリア】の残党がダンジョンで暴れて、大量の冒険者が死んだのは!? お願いだから関わったと言って! 言いなさいよ!」

 

「【アストレア・ファミリア】が殺し切れなかった残党が原因です。それに、冒険者の死因は、貴方達を殺したのと同じモンスターが出現した事です。それが原因でリュー・リオンとベル・クラネルも死にかけて深層へ滑落しました。貴方達は後始末もできないのですか? 正義なら正義の仕事をしてください。それと、再出現したあのモンスターですが、我々がしっかりと捕獲しているので安心してください」

 

 命の恩人が悪であってほしかったというアリーゼの願望は打ち砕かれた。正義を拗らせすぎた末の惨状と言えるだろう。

 

「えっ、まって? アレを捕獲……!?」

 

「その通りです。研究材料としては非常に優秀ですからね。魔法を反射する装甲を今調べているところです。どうしました? 危険なモンスターだからこそ調べるのですよ」

 

 一理あった。

 

 常識で【アスクレピオス・ファミリア】を推し量ろうとすること自体、凡人の考えなのだ。

 

 ボンドルドはアンブラハンズたちを呼び、彼女たちに着替えを用意させた。渡されたのはアンブラハンズの衣装だった。

 

「これに着替えろと?」

 

「ええ。実は先ほどギルドより、深層からベル・クラネルとリュー・リオンを救出したと報告がありました。疲弊しきってはいるものの、命に別状はないとのことです。現在はバベルの医療施設に収容されています。こういう時、医療系ファミリアとして名を売っていると都合が良いのですよ。旧友に会いに行かれますよね?」

 

 アリーゼは完全に脱帽した。

 

 当面の資金を与えられ、住処を与えられ、仮初の身分も用意され、冒険者としての装備も貸し与えられ、その上、旧友との再会の機会までお膳立てされる。

 

 これでは、【アスクレピオス・ファミリア】がどこからどう見ても善良なファミリアではないか。

 

 さらに決定的なのはプルシュカの存在だ。なんだ、この愛らしくて餅のように愛くるしい生き物は。可愛いものに目がない女性陣をイチコロにする最終兵器として、プルシュカは大いに貢献していた。

 

………

……

 

 バベルの内部を歩くプルシュカ。彼女を先頭に、アンブラハンズの衣装を纏ったアリーゼ達が後に続く。あの日から5年が経過しており、彼女たちにとって現在の世界情勢は詳しくないことばかりだった。目にするもの全てが新鮮ではあったが、今は感情を抑える時だ。

 

 リュー・リオンを驚く顔を見るため、今からわくわくが止まらない。

 

「ねぇ、輝夜。なんか、勢いでここまで来たけど、今さらリオンにどんな顔して会えばいい?」

 

「今さら、来る前に覚悟を決めておきなさい」

 

 そうこうしているうちに、リュー・リオンが入院している病室に到着する。まだ眠っているため、容体を悪化させるような真似は厳禁との言いつけであった。

 

 静かに扉を開けて中へ入ると、そこには安らかに眠るリュー・リオンの姿があった。5年前と比べて髪は短くなり、色も染められてはいるが、間違いなく彼女だった。感極まった彼女たちはアンブラハンズの仮面を外し、ベッドの傍らで静かに涙を流した。

 

 二度と会えないと思っていた。

 

 無事に逃げられたか心配だった。

 

 色々な思いが彼女たちを駆け巡る。

 

 アリーゼがそっとリュー・リオンの手に触れる。エルフは他者との肌の接触を嫌う傾向があり、心を許した相手でなければ決して許さないことも多い。触れ合った手の温もりからか、リューの瞼が僅かに開いた。そして、手を握る者の方へとゆっくり顔を向けた。

 

「あぁ……私は、やっぱり死んだのですね。アリーゼ達が迎えに来てくれるなんて」

 

「あんたが寝ぼけているなんて珍しいわね。起きなさい、リオン」

 

 リュー・リオンは再び静かに目を閉じた。

 

 そう、これは死に際に見る走馬灯なのかもしれない。あるいは天国なのだろうか。手から伝わる温もりもただの幻想かもしれない。少し間を置いてから、リュー・リオンは再びゆっくりと目を開けた。

 

「おやおや、高潔なエルフ様はいつから寝ぼすけさんになったのでございましょう。しかも、一度目を閉じで現実を確認するなんて」

 

「輝夜……私は寝ぼけてなど……すみません、少し混乱していて」

 

 そして、固く目を閉じるリュー・リオン。

 

 あり得るはずがない。あってはならない。これは夢だ。深層で見せた幻覚が、現実の形をとって目の前に現れているに過ぎない。彼女たちは5年前に死んだのだと言い聞かせ、意を決してもう一度目を開いた。

 

「そう虐めてるなって輝夜。で、リオンが惚れたっていうか、深層の濡れ場で抱き合ったって男はどこにいるんだ」

 

「なっ……!? 別に、クラネルさんとは……ただ、暖を取るために効率を考えただけで……っ!ライラ、貴方はいつも下世話にすぎる」

 

 顔を真っ赤にして、目を閉じるリュー・リオン。

 

 何かがおかしい。高潔なエルフとして決して口にしてはならない言動をしてしまった気がした。だが、どうせ死後の世界なのだと思い込もうとする。しかし、本当にここは死後の世界なのだろうか……という疑問が、次第に大きくなっていったのだった。

 

「情報は正しかったね。プルシュカの占いって本当に凄い精度。今度、私達のことも占ってよ。……リオン、無事でよかった。ただいま」

 

「まったく、いつまで寝ぼけた顔をしているのですか。あの短刀をまだ使っていたとは驚きですね。形見のつもりはないと言ったのに」

 

「全員が無事ってわけじゃねえが……また会えたな、リオン」

 

 こうして、高潔なエルフであり、男の免疫がなかった仲間をいじるのは実に楽しい。これが女の友情の形だ。このいつまでも覚めない夢に、リュー・リオンも流石に起き上がる。

 

「あの~、これって夢ですよね。もしくは、死後の世界とか。だって、深層の夢の続きだったり」

 

「そんなことないわ。だって、足だってあるし、恩恵だってあるわ。生きているのよ私達も、リオンも」

 

 この日、リュー・リオンは一生分の涙を流した。

 

 死んだと思っていた仲間が無事だった。そして、会いに来てくれた。それだけで彼女の心は満たされる。

 

 いい話だと横で聞いていたプルシュカも目元を抑えていた。

 

 そのあと、ベル・クラネルの事を思い出したリュー・リオンは、入院着のまま男の部屋に駆け込むという偉業を成し遂げた。そして、偶然にも部屋に入った瞬間に服がはだけるなどの事態に発展する。これを破廉恥エルフと呼ばずして何と呼ぶべきか。

 

 そして、アリーゼ達は噂のベル・クラネルの顔をしっかりと確認する。年下好きだとは業が深いと、リオンは、【アストレア・ファミリア】でも一目置かれる事になるのだった。

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