ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

35 / 35
35:パパ ~貴方の~

 迷宮都市オラリオに数ある葬儀場の一つで、粛々と行われた身内葬。

 

 冷たい雨が降り頻る中、喪服に身を包む【アスクレピオス・ファミリア】の者達。本来ならば雨の日の葬儀など最悪だと顔を顰めるはずの参列者達だったが、この日に限っては、誰も傘を差そうとせず静かに雨に打たれていた。

 

「パパ……ねぇ、起きてよ。もうお昼だよ。いつものパパの声を聞かせてよ……っ」

 

 亡き父を想い泣き激しく悲しむ娘の声が激しい雨音にかき消され、どれだけ目元が濡れようとも雨のせいにできたからだ。子が成長する姿をもう二度と見る事は敵わない。そして娘もまた、父親に晴れ姿を見せたかったはずだ。だが、その願いが叶うことは二度とない。

 

 アリーゼ達も【アスクレピオス・ファミリア】の関係者として葬儀に参列していた。5年前に死亡したことになっている身であるため、素顔を隠すよう黒いベールを深く被っている。仮にも父親であり冒険者ならば、幼い娘を遺して死ぬなと殴りかかりたい衝動を、彼女達は固く拳を握りしめて堪えていた。

 

 彼女たちは神アスクレピオスから謝罪の経緯や現場での凄惨な出来事を聞いていた。流石に話を盛り過ぎではないかと素性を隠して現場を目撃していた住民達への聞き込みも行ったが、返ってくる答えは全て同じであった。

 

 それどころか調査を進めるうちに、主神ヘスティア率いる【ヘスティア・ファミリア】と【アスクレピオス・ファミリア】の間には、浅からぬ関係があることまで見えてきていた。

 

・神ヘスティアは下界に降臨した後、一時期アスクレピオス医療院に居候していた。

・独立してからは屋台のバイトで生計を立てていたが、プルシュカとニーナがその隣で露店を開き、手伝いを行っていた。

・ダンジョン18階層の迷宮の楽園(アンダー・リゾート)で瀕死の重傷を負っていた白兎(ベル・クラネル)達を治療した。

・【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)では、改宗までして大量の支援物資と共に助っ人として駆けつけた。

・地上にモンスターが出現した騒動の際、白兎(ベル・クラネル)に味方して『剣姫』と対立・交戦した。

 

 十分すぎるほどの深い縁と言えた。これほどの出来事がわずか半年足らずの間に起きているのだから、毎月のように命を救っているようなものだ。そして、【ヘスティア・ファミリア】がこれまでに残してきた凄まじい実績は以下の通りだった。

 

・敵対した【ソーマ・ファミリア】が全滅

・敵対した【アポロン・ファミリア】が戦争遊戯(ウォーゲーム)にて全滅

・敵対した【イシュタル・ファミリア】が壊滅(※オラリオTOP5に入る大派閥)

・敵対した【イケロス・ファミリア】が全滅

・敵対した【ルドラ・ファミリア】が全滅

 

 他にもダンジョン内で怪物進呈(パス・パレード)を行った【タケミカヅチ・ファミリア】は、オラリオで唯一ともいえる希少な重力魔法の使い手である団員を奪われる形となった。天界時代の縁もあった事からファミリア消滅を免れた。

 

 ファミリアを守るための代償が一人の命で済むなら安いとすら思えてしまうのは、無理もないことだった。全盛期の【アストレア・ファミリア】であっても、わずか半年でこれほどの大派閥をことごとく潰すことなど不可能なのだから。

 

 【ヘスティア・ファミリア】の団長である白兎(ベル・クラネル)は、彼女たちの大切な仲間であるリュー・リオンの思い人でもある。一度その顔を確認してはいたが、あの純朴そうな面構えでとんでもない大業をやってのけるものだと呆れるしかなかった。

 

 ギルドも彼らの破天荒な行動に対して厳罰を下すどころか、むしろ裏で後押ししているような空気すら漂っていた。

 

「私達がいなくなってから5年……単純な善悪だけでは割り切れない世の中になったのかしらね。輝夜はボンドルドの事をどう思う?」

 

「知れん御仁ではありましたが、世話になった恩だけはありますな」

 

 本来ならばあり得ない、与えられた二度目の人生。これを恩と言えば恩になるのだろうか。

 

 この命をどのように使うべきか熟考はしていた。再び主神アストレア様の元で過ごすのも自由であり、何一つ束縛はされていなかった。

 

「恩ね……私達が蘇った時、ボンドルドは言ったのよ。『実験は成功でしたね』って。限りなく闇派閥に近いグレーな奴よ。でも恩人であり、あの子の父親だわ。折角の貴重な時間をボンドルドの残した子供の面倒(深層探索の指導)に費やすことになるなんて……もし行き遅れたらどう責任を取ってくれるのかしら」

 

「ほな、本人に責任でも取ってもらえばええでしょう。どうせ、まともに嫁に行けるような身体でもないんですから」

 

 この時、二人の会話を横で聞いていたライラは密かに思っていた。自分たちが二度目の人生を得て蘇っている以上、あいつ自身が蘇ってくるという発想はないのかと。だが、もし生き返るのだとしたら遅すぎる気もしていた。幼い子供をあそこまで泣かせるような男には見えなかったからだ。本当にもう蘇らないのではないかと、彼女の心にも焦りが生じ始めていた。

 

 棺から離れないプルシュカをアンブラハンズが抱きかかえた。

 

 もう涙も出ないほど泣き叫んだのか、しゃくりあげる嗚咽が止まらず、それでも「パパ」と必死に呼び続けていた。

 

 そして、最後の別れと共に火葬された。

 

………

……

 

 この日、アスクレピオス医療院の無期限閉鎖が正式に決定した。

 

 娯楽を好む神々が運営するファミリアの発行する情報誌には、今回の一件が様々な角度から検証されて大々的に掲載されていた。そしてアスクレピオス医療院が無期限閉鎖されるということは、オラリオに出回っていた高品質なソーマが二度と出荷されないことを意味していた。

 

 ここに再び、市場に残されたソーマを巡る激しい争奪戦の火蓋が切って落とされたのだった。

 

 だが、閉鎖には明白な理由があった。アスクレピオス医療院は運営資金が底をつき、ソーマの原材料すら購入できない状況に陥っていたのだ。現在残っている取引を完了し、諸々の支払いを終えれば完全に資金が枯渇する。

 

 資金がなければ材料が買えず、材料がなければソーマも作れない。ソーマが作れなければ収入も入らないという悪循環である。そこへ追い打ちをかけたのがボンドルド院長の死であった。これにより、二度と市場に出回ることのないボンドルド謹製の【眠遁薬・ソーマ(スレマ・ソーマ)】は幻の逸品となった。

 

 非営利団体である医療系ファミリアの【アスクレピオス・ファミリア】は、外部からの資金援助や無償提供を一切受け入れない方針を貫いていた。それこそ【ロキ・ファミリア】のガレスが、ソーマのためなら個人の財産を寄付すると申し出ても、頑なに断り続けていたほどだ。

 

 その情報誌が神フレイヤの手元にもあった。

 

「そう……本当に死んでしまったのね。神の心にここまで深く響くなんて……あの子の泣き叫ぶ声を聞いていると、心が痛むわ。オッタル、私名義でプルシュカに紫丁香花(ライラック)を一輪届けて頂戴」

 

「承知しました」

 

 それは美神フレイヤなりの深い配慮であった。かつてプルシュカからの助言に耳を傾けたオッタルの行動によって、【フレイヤ・ファミリア】の組織改革が進み、多少なりとも風通しが良くなっていた経緯がある。もし主神フレイヤの護衛任務がなければ、オッタル自身も密かに葬儀の近くを通りかかっていたことだろう。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 とある処女神は、行きつけの酒場の片隅で神友と密かに会話を交わしていた。

 

 神ヘスティアの本質が善神であることを知る数少ない神友たちは、彼女の境遇に深く同情していた。だからこそ、こうして陰ながら酒に付き合っていたのだ。

 

「ミアハ……世間じゃ、僕のファミリアの評判って今どうなっているんだい?」

 

「そんなこと、わざわざ聞くまでもないんじゃないかな。どうしても知りたいというなら、いくらでも教えてあげるけれど」

 

 聞きたくないから耳を塞ぐしかなかった神ヘスティア。

 

 先日の異端児(ゼノス)事件からまだ日が浅いというのに、この有様では笑うに笑えない。異端児(ゼノス)たちは都市の治安を司る【ロキ・ファミリア】と一触即発の危機に陥った。しかし結果として、白兎(ベル・クラネル)がアステリメスとの死闘を繰り広げたことで、目撃した民衆からは「あれ? 【ヘスティア・ファミリア】ってやっぱり街の味方なんじゃないか?」という風向きに変わりつつあったのだ。

 

 一緒に飲んでいるヘファイストスが一応確認する。

 

「今日、ボンドルド院長の葬儀らしいよ。行かないの?」

 

「ボクが行けるわけないだろう!! 針のむしろなんてレベルじゃないんだぞ。あのプルシュカの悲痛な泣き声は……もう見ていられないよ」

 

 神達は手元にある情報誌を見る。

 

『ソーマ供給完全停止』『アスクレピオス医療院無期限閉鎖』『ダンジョン名物・子供店長引退』『ボンドルド院長死去』『【アスクレピオス・ファミリア】オラリオから撤退か!? 税金が払えず他都市へ移住!?』

 

 紙面にはセンセーショナルな見出しが並んでいた。しかし、これらのゴシップ誌の裏には特定の圧力がかかっているのか、【ヘスティア・ファミリア】に対してはギリギリ擁護できる範囲の記述にとどめられていた。今まさに凄まじい勢いで躍進する英雄をこんなところで潰すわけにはいかないという、神ウラノスの強力な政治力が働いていたのだった。

 

………

……

 

 プルシュカが失踪したのは、翌日の事だった。

 

 

 




35:パパ ~貴方の~
36:パパ ~愛があれば~

と言う感じで数話続きます。

(|)「愛と正義……素晴らしい響きです。私は好きですよ、愛も正義も」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

デメテル・ファミリアの団長(作者:Mr.♟️)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

▼地雷だと思った方はブラウザバックしてください。▼オリ主ハーレム?モノです。▼タグは随時更新します。▼原作の30年前から始まります。▼挿絵は全てAI絵になります。▼オリ主:ライ・フェンネル▼物語スタート時、年齢:10歳。▼狐人とハイエルフのハーフ、妖精狐(エル・ルナール)。


総合評価:1500/評価:7.49/連載:11話/更新日時:2026年08月17日(月) 00:00 小説情報

白兎の兄が規格外なのは間違っているだろうか(作者:ディーノpc35)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

作者の自己満足のための作品です。▼作者がただこんなのを見たいだけの作品ですのでそれでもいい方がいれば見てください。▼規格外の強さを持ったオリ主がベルの双子の兄としてオラリオで様々なバランスブレイカーを起こしていく作品です。


総合評価:987/評価:7.83/連載:41話/更新日時:2026年08月22日(土) 18:30 小説情報

(仮)購買意欲が勝った転生者(作者:Celtmyth)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

 死んで、転生する事になった彼が望んだ能力は戦うものではなかった。


総合評価:4347/評価:7.96/連載:17話/更新日時:2026年08月21日(金) 18:00 小説情報

大総統がオラリオにいるのは間違っているだろうか(作者:みずぎの)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

傷の男との戦いのあと、気がつくと森の中でした。


総合評価:4085/評価:8.04/連載:3話/更新日時:2026年08月07日(金) 19:54 小説情報

催眠でエッチなことはしない「よう実」(作者:樹神法正)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

生まれ持った催眠能力でエッチなことはしない転生オリ主がDクラススタートから実力至上主義の学校で頑張るお話。▼すぐにAクラスに昇格する。(※なおクラスメイトの思想・良心の自由は考えないものとする)▼エロいことはしないけど、催眠は悪気なくガンガン使っていく模様。▼※注意:AI使ってますので信条的に無理な方は閲覧を推奨しません。▼自分でプロット組んで、それを基にA…


総合評価:4896/評価:8.67/連載:14話/更新日時:2026年07月25日(土) 21:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>