ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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36:パパ ~愛が~

 【アスクレピオス・ファミリア】のホームが、いつにも増して騒がしかった。葬儀が終わって以来、部屋に閉じこもっていたプルシュカが姿を消していたのだ。朝になり、彼女の部屋を確認しても気配はない。代わりに、ダンジョン探索用の装備一式が綺麗になくなっていた。

 

 机に残された書き置きには、『神様がパパを生き返らせてくれるって。連れて帰ってくるから待ってて』と記されていた。

 

 ボンドルドが信頼を置いていた『祈手』の一人、ビドゥーがそのメモを発見した。どこの神かは判明していないが、父親を失った幼い娘の傷心につけ込む神が存在することが明らかになる。そして、彼女をダンジョンへと呼び出したのだ。

 

 墓場ならまだ理解もできただろう。

 

 プルシュカの自室からなくなっていたのは、彼女の装備一式とボンドルドの鉄仮面だけだった。机の上に置かれた、父親から託された魔導書には手も触れられていない。ビドゥーはその魔導書を開き、全てを引き継ぐ(・・・・・・・)

 

………

……

 

 【アスクレピオス・ファミリア】としては、穏便に済ませられるならそれに越したことはなかった。だが、一線を越えられたとなれば話は別だ。一連の騒動を聞きつけたアリーゼたちも、手伝えることはないかと申し出る。しかし、ビドゥーは淡々と言い放った。

 

『ファミリアの問題だ。卿の娘を連れて帰ってくる。…神アストレアがいる街行きの馬車を手配した。好きに生きろ。面倒ごとに関わる必要はない』

 

「ふざけるな!! なにが此方の問題だ。私達は、ボンドルドからあの子の面倒を頼まれた。だから、私達も連れていけ」

 

「落ち着きなされ、アリーゼ。えーと、ビドゥーさんでしたか。あんたさんたち、Lv.1(レベルワン)でっしゃろ。こっちは、アスクレピオス様に無理を言って更新薬(ステイタス・スニッチ)を使ってもらい、全員ランクアップ済み。言いたいこと、わかります?」

 

 断ったところで付いてくる気配しかない。ならば、押し問答で時間を取られるより、手駒として同行させる方が幾分かマシなのは事実だった。実際、蘇生された【アストレア・ファミリア】が全員ランクアップを果たしているのなら、第一級冒険者が2名、第二級冒険者が3名という極めて強力な戦力となる。

 

 死んでも痛くないというのが素晴らしい駒だ。だが、運用面に問題を抱える。

 

『正義などない。邪魔になる可能性があるかぎり、不要だ』

 

Lv.5(レベルファイブ)の第一級冒険者、アリーゼ・ローヴェル。今はそれだけよ。それに、臨時とはいえ【アスクレピオス・ファミリア】の一員だからね。私達は、強いわよ」

 

『好きにしろ。保管庫から装備を持ってこさせる。好きな物を使え。他の院長には話を通しておく。5分で準備しろ』

 

 神アスクレピオスの名において、眷属を取り戻す為ならあらゆる手段・行動が許されると宣言する。ホームから完全武装した3名の院長と『祈手』達に加え、地獄から蘇ってきた5人組の女性陣がバベルに向かって進軍を開始する。

 

 その集団を見た誰もがそう思った。

 

【ヘスティア・ファミリア】と【アスクレピオス・ファミリア】の全面戦争の幕開けだと。それはルールに守られた戦争遊戯(ウォーゲーム)などではない。血を血で洗う本物の戦争の始まりだ。

 

 名誉闇派閥と実質闇派閥の戦いと言われても、納得できるファミリア。両者とも、表の面は穏やかなファミリアであることに定評がある。だが、一皮むけばどうなるかは明らかだ。

 

 普段は穏やかな【アスクレピオス・ファミリア】の様子は、一変していた。隠そうともしない苛烈な殺気。戦場に一度でも身を置いた経験のある者なら一目で理解できる。命を奪う覚悟を固めた冒険者たちの顔つきだった。

 

 行軍の途中、一行は偶然にも『豊穣の女主人』の前を通過する。店先で落ち葉を掃除していたリュー・リオンは、その異常な殺気に即座に反応した。『豊穣の女主人』の従業員たちは軒並みLv.4(レベルフォー)以上であり、店長に至っては【フレイヤ・ファミリア】の団長を務めた人物だ。

 

 リュー・リオンは、その集団に混ざる覚えのある者達に気が付かないわけがなかった。髪型を変えて一応の変装はしているものの、その集団の中に並んでいるのは先日バベルで再会を果たしたアリーゼたちだった。なぜ、【アストレア・ファミリア】の同胞が【アスクレピオス・ファミリア】と一緒に行動していると、リュー・リオンは混乱を隠せない。

 

「ど、どうしてあなたがたが!? まさか、【ヘスティア・ファミリア】との抗争に参加するつもりなのですか!?」

 

「リオン!! なにその制服、すごく可愛いじゃない! 一仕事終わったらみんなで飲みに来るから、待っててね。私、すぐに終わらせてくるから」

 

 アリーゼから発する怒気のような感情。魔力が反応してから一瞬、火花のような物がパチパチと音を鳴らした。

 

 店員の立場であるリュー・リオンはそれ以上何も言えなかった。

 

 一店員の立場にすぎないリュー・リオンは、それ以上言葉を重ねることができなかった。彼女とて街の噂は耳にしている。酒場という場所柄、そうした情報は否応なしに飛び込んでくるものだ。【ヘスティア・ファミリア】による【アスクレピオス・ファミリア】への恫喝事件。最初は質の悪い噂だと思っていたが、真実だったのだ。

 

 店員のシルも騒ぎを察知して店から出てきた。そしてアリーゼを直視するが、アリーゼの方が先に口元へ人差し指を添えて見せた。お互い深くは追及しないでおこうという合図だ。死んだはずの冒険者が目の前に存在する――その異様な事態に対し、シルは何も言わずに黙り込んだ。

 

 しかし、アリーゼ以外の人物に尋ねるのは問題ない。同じく列を歩くニーナを見つけると、シルはそっと歩み寄った。

 

「ねぇ、ニーナちゃん。皆でどこに行くの?」

 

「パパを蘇らせるという悪い神様に唆されたって、お父さんから聞いた。だからね、プルシュカちゃんを助けに行くの」

 

 どこまでも柔らかい笑みを崩さないシルの顔。だがその内側には、冷酷なまでの冷たさが潜んでいた。自身のお気に入りに手を出す愚者が、まだこの街にいるらしい。詳細な経緯までは分からないものの、先日父親を失ったばかりの幼い子供に手を出す神など、送還すら生ぬるい。

 

「ニーナちゃん。手助けは必要かな?」

 

「大丈夫よ、シルお姉ちゃん。だって、お父さん達もいるんだから」

 

 そんな彼等を見送るシル。あの子が無事に帰ってきますようにと。そして、これを仕組んだ愚かな者達に壮絶な死を望んだ。

 

………

……

 

 その頃、【ヘスティア・ファミリア】のホームにも街の騒動が聞こえ始めていた。プルシュカが失踪した件もあり、ついに【アスクレピオス・ファミリア】の堪忍袋の緒が切れたと、オラリオ全体が騒然となる。

 

【ヘスティア・ファミリア】のホーム周辺からは、近隣住民たちが我先にと避難を開始していた。ファミリア同士の全面抗争となれば、血で血を洗う惨劇となる。戦争遊戯(ウォーゲーム)のような生ぬるいものでは済まない。

 

 ギルドも即座に異変を察知し、急遽【ロキ・ファミリア】へ仲裁の要請に向かった。都市の二大派閥として治安維持にも寄与してきた実績がある。それに、神ロキは天界でも名をはせた神だ。第三者の立場で、双方の神に話を通し、落としどころを探れそうな数少ない神だ。だからこそ、ギルドはミッションを発令してでも事態を収束させようと考えた。

 

 三大クエストであり、残っている黒竜討伐において、【ヘスティア・ファミリア】が保有するチート魔法の数々は失うには惜しい。そして、【アスクレピオス・ファミリア】の理解不能な技術力でなんでもやれる連中も同じだった。

 

 そして、その伝令役に抜擢されたのが、【ヘスティア・ファミリア】の団長である白兎(ベル・クラネル)と懇意にしているエイナ・チュールだ。ギルド長のご指名で拒否はできなかった。それに、彼女以外にこの交渉役を引き受ける職員はいないという事実がある。

 

 

 この話を聞いたロキは、冷たく言う。

 

「アホ言え。なんでうちがヘスティアのところの尻拭いをしなきゃならんのや。一文の得にもならんわ。原因は、アスクレピオスの眷属の子供が失踪したことやろう。仮に、ヘスティアの所の連中がやったってんなら、自業自得やろ」

 

「そこをなんとかお願いいたします。それに、プルシュカ氏が本当に連れ去られたかも定かではありませんし……」

 

 絶対に嫌だと思うロキ。

 

「あんまりふざけたこと言うなよ。ギルドだからって強権をちらつかせりゃ、言うこと聞くと思うとるんか。街に出回っとる【ヘスティア・ファミリア】と【アスクレピオス・ファミリア】の一件、うちが知らんとでも思っとるん? 裏付けも取っとるんやぞ」

 

「わかり・・・ました」

 

 何の成果も得られず、ギルドに戻る事になるエイナ。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 歴史ある派閥。

 

 昨今の輝かしい活躍として、ついに全会一致で【ヘスティア・ファミリア】の加入が決まった。この名誉は、得ようとして得られるものではない。確固たる実績が評価された結果だ。

 

 僅か数か月でオラリオを混乱に落とした手腕は、素晴らしい。

 

 更には、恩人たちを後ろから刺す姿勢も評価される。その上で、これらを合法的に行っている事から、表の身分はまだ白い。神ヘスティアと親しい神々は、まだ彼女が綺麗なままだと思っている。

 

 その姿が滑稽で仕方がないと集まった派閥の者達が笑っている。

 

【モンスターを街に放ち、自ら戦う事で出た被害をなかったことにするマッチポンプには俺は痺れた。今度俺らも、やろうぜ。自分でモンスターを討伐するだけで英雄になれるんだぜ、最高だぜ】

 

【しかし、あの【アスクレピオス・ファミリア】を潰したとは……どうやったら、あれだけの賠償金を取れるのか教えて欲しいな。これで、もう、あいつ等にいい顔をする必要もなくなったな。【ヘスティア・ファミリア】がいれば、金には困らねーからな】

 

【その通りだ。だが、治療面で不安があるが……都市最高のヒーラーが欲しいとは思わないか?【ヘスティア・ファミリア】に一つ頼んでみるのはどうだろうか。やつらなら、道で前を横切ったとかで戦争を吹っ掛けられるだろう。死にたくなければ、分かっているなってやつ】

 

【金の切れ目が縁の切れ目。【アスクレピオス・ファミリア】は、我々との接点も多い。そろそろ、彼等に退場してもらおう。ギルドに彼等が持つ情報が渡れば、少なからず困る事になる】

 

【なにか面白い案でもあるのか?エニュオ】

 

【簡単だ。子供の傷心につけ込み、ダンジョンに誘い込む。あそこの院長たちの性格ならば間違いなく誘い出せるだろう。罠であろうともな。エインを使って、確実に皆殺しにする】

 

 何度調べても本人に確認してもLv.1(レベルワン)しか所属していないファミリア相手に、彼が持つ最高の手札をぶつけるのは彼なりの警戒心の表れだ。それに、エイン改めフィルヴィス・シャリアは見方を変えれば、死者蘇生したともいえる。

 

 父親を生き返らせるという証拠の提示には十分な存在だ。

 

 




アリーゼさんって、FGOのヒッポリュテーにどことなく似ている気がします。
変装はそんな感じと思ってください。



早く日常編をやりたい。
女神祭……アスクレピオス・ファミリア主催の女性限定乗馬レースが開催される。
なんと、優勝者には"賢者の石"が送られます。
乗馬する馬は、なんとユニコーン。さぁ、女性冒険者の皆様頑張ってください。
※貞淑を求められるため、ポンコツ無自覚ドスケベエルフは乗馬拒否されるかもしれない。
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