ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
ダンジョンとは、弱った相手には容容赦しないものだ。
プルシュカの予想の4割増しでモンスターの強さも湧く速度も上がっていた。だが、逃げない。人の嫌がることを率先してやるのが基本のダンジョンだ。逃げた先が無事だとは限らない。
それに逃げていれば、時間に間に合わない。
「逃げれば一つ、進めば二つ、奪えば全部!!」
遠距離の敵は、
近づく敵は、パワーでねじ伏せるが、数が多くプルシュカの身体にも切り傷が目立つ。致命傷にはなっていない。だが、殲滅力が足りない今の状況で下層に長居するのは危険だった。
手数がないため、父親の鉄仮面を掲げて声を上げる。「
身体に
現在、下層25階層の中腹。残りの回復薬も既に40%を切っていた。食料に至っては、土の味がすると評判の行動食4号が三つ。普段どれだけ恵まれていたかを、彼女は実感していた。
だが、決して折れる事のない固い意志で進み続けた。
父親との再会を夢見た彼女を止められる者はいない。その原動力となる心こそ、ダンジョンにおける生存能力だ。
「それにしても、多いな。ダンジョンに何か異変が起こっているのか。ダンジョンで異変が起こる時、それ即ち……【ヘスティア・ファミリア】の影あり。嘘だろ、まさか、このタイミングで」
ダンジョンは、最悪のタイミングで最悪を起こす……前門の『都市の破壊者』、後門の【ヘスティア・ファミリア】。相手の手のひらの上で踊らされていなければいけないのに、イレギュラーは駄目だった。難易度がベリーハードからルナティックに格上げされる。
難易度がルナティックになるとどうなるのかを、プルシュカは身をもって知る。通路を曲がった先で、ご対面してしまった。明らかに場違いなレベルのモンスター。
それも、
一度は
突発的な遭遇戦において、体勢を立て直すため逃げる冒険者も多い。だが、逃走に活路はない。どんなに強いモンスターであっても、強力な魔法やスキルがあっても……やられる前にやる。プルシュカは迷わず切り札を使う。相手が動くより早く、鐘の音が鳴る。特級遺物――
世の中、切り札を使わずしてそのまま死ぬ冒険者もいる。ラストエリクサー症候群と名付けられており、魔剣を使わず死んでいった冒険者たちがこれに該当する。実に馬鹿な話だ。
鐘の音が届く範囲の時間を止めるという、時を司る神の神威でなければ不可能な所業。それを道具一つで行える遺物の異常さが際立つ。遺物が誰もが使えるものであったなら、これ一つで国家間の戦争をしてでも奪い合いになる。
プルシュカが
そして、時は動き出す。
停止が終わると、モンスターは何が起こったかすら分からず、即死級のダメージで消滅する。
「使っちゃった。エネルギー溜まるまで、待ちたいけど無理だな」
ブルークラブの大進行に巻き込まれ、マーマンの集団にも襲われ、ライト・クオーツに狙い撃たれ……
ここまで苦労するのにも一つ大きな理由があった。バカでかい荷物があったことだ。
目的地がよく見える絶好の位置取りをして、荷物を取り出す。部品単位にバラされたアラカブキ。ボンドルドがかつて17階層の階層主ゴライアスを三発で沈めた物物しい遺物兵装だ。それをカチャカチャと組み立てていた。
「レフィーヤお姉ちゃんから教えてもらった絶好のポイント。相手からは見えづらく、こちらからは狙いやすい……後衛の魔導士のお姉ちゃんはよくわかってるわ」
かつて18階層で【ロキ・ファミリア】と会合した時、プルシュカは彼らから色々と学んだ。そして今、それが活きる時だった。今できることを全てやってきたプルシュカ。これで無理なら、恐らく自分では何をやっても無理だろうというレベルだ。
スコープ越しに27階層の約束の場所を確認する。そこには、確かに人影があった。現場には二人……どちらも【アスクレピオス・ファミリア】の中庭で誘いをかけてきた者たちだった。
初手でどちらを狙うかなど、決まっている。
神の恩恵は、神が死に送還されれば失われる。そうなれば、
弾丸を装填し、狙いを定めるプルシュカ。
距離にして約800m。今まで練習してきた距離より遠かった。
「パパ、見ててね。プルシュカが絶対に生き返らせるんだから」
プルシュカの首にかかった白笛が吹かれた。遺物同士の共鳴が発生し、余すことなく性能を発揮させ始めた。
「……『砲身凝縮開始』」
エニュオを狙い引き金を引いた。
音より早く、第一級冒険者でも目視できない速度の弾丸。それが、『都市の破壊者』と自称するエニュオを完全に捕らえた。
◇◆◇◆
アンブラハンズたちは視覚を共有できる。
ヒドゥーは地上での見張りをしていた。そして、ダンジョンに入ってくる武装した集団を確認した。冒険者だから武装しているのは当たり前だ。だが、その武装している集団が問題だった。
『【ヘスティア・ファミリア】が完全武装でダンジョンに入ってきた。挟撃されると面倒だ……近道をする。恐らく、彼女もここを通っただろう。これからの事は他言無用で頼もう』
「私たちに言っているのか? 言っただろう。今は【アスクレピオス・ファミリア】の一員だ。清濁併せ呑むことくらいは覚悟している」
アリーゼは、今のセリフを後々後悔することになるだろう。
黒い部分があることは予想している。せいぜい、脱税や違法薬物や禁制品の取引くらいだと思っている。悪ではあるが、許容できる悪だ。
【アスクレピオス・ファミリア】も時間短縮のため、
中層を抜ける頃、幾名かの
『地上にいる者たちより知性を感じられたはずだ。
「どうなってる、今の世界は……善悪だけでなく、モンスターも常識が崩れている。だが、
『【アスクレピオス・ファミリア】では、幾名もの
「……今だけだ。今だけは私たちも【アスクレピオス・ファミリア】の一員。だから、ダンジョンから出るまでに見聞きしたことは全てを心の内に留める。後からあれもこれもは無しだ。【アストレア・ファミリア】の主神アストレアに誓おう」
こういう墓穴を掘るスタイルの団長を持つと、ファミリアの団員は苦労する。
『女に二言は?』
「ない」
彼女は知らない……ボンドルドが医療行為と同時に魔法を抜き取っていることを。
彼女は知らない……ショウ・タッカーが作る”賢者の石”の材料が人間だということを。
彼女は知らない……【ルドラ・ファミリア】の連中に火炎石を売っていたのがこいつ等だと。
彼女は知らない……神などこいつ等の前では材料でしかないことを。
彼女は知らない……死んでいた5年間、どのような実験に使われていたかを。
彼女は知らない……これらのことなんて氷山の一角でしかないことを。
彼女は知らない……闇派閥なんて正義側の派閥に比べれば分かりやすい悪であることを。
正義を掲げる女の懐の深さはどの程度であろうか。
そうこうしているうちに、一行はダンジョン下層へと足を踏み入れた。壮観な滝を前に……聞き覚えのある銃声が吹き抜けの階層に響く。
『間に合ったようだ。ショートカットだ』
臨時団員であるアリーゼ、輝夜、ライラ、リャーナ、セルティは、嫌な予感がした。勿論、プルシュカが危機的状況での嫌な予感も正しいが、今この状況でのショートカットという発言にだ。
目の前は崖。
彼女たちがその答えを聞く前に、無理やり分からせられた。
……次で、パパ編は終わりです!
終わらせないといけないんです。
そうそう、派閥大戦。なんでもありだよね。
「ぜひ ぜひ ぜひ
ぜひ
ぜひ ぜひ ぜひ ぜひ」