ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

42 / 46
42:深層2号店

 ダンジョン深層の情報は、ギルドが意図的に封鎖している。それは、冒険者の心が折れてしまうことを懸念しているからだ。ギルドは三大クエストの残る一つである黒竜討伐を成し遂げたい。だからこそ、冒険者はどれだけいてもよいし、数ある冒険者から英雄を見出したいと考えている。

 

 冒険を始める前に心が折れたら、そこで冒険が終わってしまうからだ。

 

 深層は真の死線(トゥルー・デッドライン)と呼ばれるに相応しい場所だった。まずもって、モンスターの出現速度が異常に早く、遠距離攻撃だけでなく毒といった絡め手も当たり前。そして、広大な階層が広がっている。

 

 探索済みの正確な地図などは、一部のファミリアくらいしか知らない。未開拓の場所も多く、深層のほとんどは手つかずとなっている。だが、リスクを冒して探索したからといって特別なものがあるわけでもない。せいぜい見つかるのは、地上に帰れなかった冒険者の死体くらいだ。

 

 遺物である”星の羅針盤”を使い、下層への入口を目指して進みゆく。道中の敵は全て経験値に変え、魔石を食らうアステリメスとウィーネ。アリーゼ達も死にたくないから必死に食らいつき、ボンドルド達も念入りに敵を磨り潰していった。

 

 現在、白兎(ベル・クラネル)被害者の会の一員として、深層へ逃亡中のボンドルド達。彼等の目の前に広がるのは、大荒野(モイトラ)と呼ばれる場所だ。草木一本ないこの階層は、深層における第二の階層主バロールがいる場所である。遮蔽物もないただ広大な場所で、バロールと無数のモンスターを同時に相手にする必要があった。

 

 遠征に来る【ロキ・ファミリア】ですら総力戦となる程の難所だ。かつて『オラリオ最強の冒険者』であるオッタルは単独でバロールに挑み、雑魚処理をしながら階層主を半殺しにまで追い詰めたことがある。

 

「階層主以外は、予定通り我々の糧にさせてもらいます。それで、よろしいですか? アステリメスさん」

 

『問題ない。友であるプルシュカとニーナにバロールの手札の全てを見せよう。将来、友がここに来た時、この戦いが役に立つように』

 

 ここに来るまでの間に、武人肌であるアステリメスとボンドルド達の仲は非常に良くなっていた。特にアリーゼ達とは同性ということもあり、女子グループとして共に行動する。ウィーネも愛らしい姿のおかげで、マスコットとして彼女たちに癒やしを与えていた。

 

 たしかに普通のモンスターは脅威だ。だが、異端児(ゼノス)は違うと理解する。

 

「カッコいい!! アステリメスさん。プルシュカが男だったら惚れちゃいそう。もう、白兎(ベル・クラネル)を食ってもいいわよ。親戚のプルシュカが許可してあげる」

 

『だーーめーーー!! ベルは、ウィーネが食べるの。……?プルシュカって、ベルと家族なの?』

 

 ボンドルドは既に伝えていたと思っていたが、そうではなかったようだ。

 

「そうよ。母方の血筋から言えば、白兎(ベル・クラネル)の叔母さんにあたるの。会ったことが無いママもお姉ちゃんたちも、あたしの事は知らないけどね。確か、ママの名前は知らないけど…」

 

「プルシュカの母親は、白兎(ベル・クラネル)の祖母に当たる人物です。過去、その女性を治療した際に遺伝子を提供していただきました。その女性の娘の一人である『才能の権化』は勘が良すぎて、検体の採取を諦めましたがね」

 

 子供の作り方なんて、簡単だった。精子と卵子が出会い、祈手(アンブラハンズ)の胎盤で育てればいい。体外で子供を育てる事など院長達には朝飯前だ。

 

 だが、これでは、白兎(ベル・クラネル)も同じ血筋とはいい難い。

 

 そして、ボンドルドの血を引く祈手(アンブラハンズ)の一人が白兎(ベル・クラネル)の父親方の祖父に該当する。

 

『……ぷ、プルシュカ叔母様。ベルを頂戴!!』

 

「おばさん……ウィーネちゃん、今日のご飯はお肉あげないから。後、白兎(ベル・クラネル)を食い散らかしていいわ。既成事実を作った者が勝者よ」

 

 白兎(ベル・クラネル)が知らない場所で売られる最中、階層主やモンスター達もボンドルド達に気が付いた。

 

 一斉にこちらに駆けてくる。こういう大群を相手にするのは、錬金術の出番だった。それが分かっているのかショウ・タッカーとニーナの本領が発揮される。今まで、ダンジョン崩落も考えて威力をセーブしていた二人だが、今は違う。

 

「いや~悪いね。こんな広くて何もないと、思いっきりやれる。漏れたモンスターは皆さん、お願いしますよ」

 

「お父さん。ニーナとどっちが多く倒せるか勝負だよ」

 

 休日の公園に居そうな父と娘。そう見えるが、人間を殺した数では、【アスクレピオス・ファミリア】でも頭二つ抜けている。数万の軍勢であろうとも、”賢者の石”に錬成できる程の広域殲滅力を持っているのだから。

 

「おぃ、ボンドルド。本当に大丈夫なのか、ここまで来る道中で二人の実力は分かっているが、流石に数が数だ。私達が先陣で魔法を使った方が」

 

「アリーゼさん。タッカーさんが出来ると言えば、出来ます。オラリオどころか世界中の魔導士が欲しがる”賢者の石”の真価を特等席でご覧ください」

 

 パチンと指を弾くショウ・タッカーとニーナ・タッカー。

 

 地面に錬成反応を示す、青白い光がモンスターの後方にまで一瞬で伸び……大爆炎と大爆発が起こった。まるで戦闘機でナパーム弾を投下したようだ。熱を含んだ爆風がその威力を物語っている。

 

 魔導士の超長文詠唱にも引けを取らない威力。都市最高の魔導士の一撃にも匹敵する破壊力だ。通常の錬金術ですら異常な火力だったのに、それがここまで底上げされる。確かに、戦略物資として、ギルドも大手ファミリアも欲しがるのは納得だ。今まで、彼らの身柄が無事だったのは、院長達だからこそだとアリーゼ達は理解する。

 

「さぁ、露払いはしました。上空は私とニーナで。地上は頼みましたよ」

 

「アステリメスさんの戦いの邪魔にならないように、頑張りましょう。……プルシュカ、私から離れないようにしてくださいね」

 

 ボンドルドとプルシュカの白笛が鳴る。

 

 父親という心強い存在が、プルシュカの成長を加速させる。深層での戦いで俯瞰的な視点で物事を観察し、動ける力を徐々に身に着けている。遺物武装の使い方も十分理解が進んでおり、性能をほぼ100%発揮できており、将来が楽しみだといえる。

 

 地上では、神アスクレピオスが帰りを待っていた。だが、深層の階層主バロールと戦っているなど流石の神でも思いもしない。

 

 医療系ファミリアにして、等級Hという下から二番目の弱小ファミリア。Lv.1(レベルワン)の到達階層のレコードを塗り替える。この事がギルドの正式記録に公開されれば、一攫千金を考えた冒険者が続々と深層に踏み入るだろう。

 

 数十分の激闘の末、バロールの消失が確認される。バロールの単独撃破によるレアドロップ……”バロールの魔眼”を手に入れた。これで階層主のドロップは二つ目。一つ目は、アイズ・ヴァレンシュタインが一度は手にした”ウダイオスの黒剣”。

 

 これらを証拠にギルドに到達階層の報告を行えば、彼等も隠蔽不可能だろう。それこそ、周囲の冒険者や神も許さない。

 

 ボンドルドは、ここで気が付いてしまう。もしかして、ココで神威を発動したら、無限に階層主からレアドロップを狙えるのではという事だ。今の戦力ならおかわりでもいけるだろうと一瞬迷ってしまう。

 

 「まだいける」は危険信号だ。

 

 ボンドルド達は素直に、次の安全階層(セーフティポイント)に進む。そこが、現在確認されている最後の安全階層(セーフティポイント)。【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】くらいしか来られない場所だった。今の今までは。

 

 この50階層には木々があり、そこに彼女たちは文字を刻む。深層2号店と刻まれた看板だった。流石に、誰もいない階層でありお客様がいない事は彼女たちも理解している。だから、無人露店を作って、集金箱まで用意する。

 

 そこに並べられるのは、肉や魚の保存食。プルシュカとニーナが手作りでここに来るまでの間に用意していた。

 

「これで、ココで困った人がいても助けが来るまで生き延びられる。水はあるみたいだから、食料よね。一応、地中にも少し埋めておくか」

 

「そうだね。じゃあ、沢山捕まえてきてよプルシュカちゃん。私が、乾燥させて長持ちするようにするから」

 

 次この場所を訪れるのが、何処の誰かは知らないが……子供店長プルシュカとニーナのサインと無人露店をみてどう思うか、遠くから眺めたいと思うのは親心だった。

 

 束の間の休憩をするボンドルド達と異端児(ゼノス)。流石にここから帰るのは、異端児(ゼノス)達でも一苦労だろう。アステリメスだけならまだしも、ウィーネもいるから下層くらいまで送らねば危険だ。

 

 しかし、行きの行程は良いが帰路は億劫だとボンドルドや他の院長達も思っている。その理由の一つが…来た道を単純に帰るなどつまらないからだ。しかも、今いる場所から50階層も上がるのは面白味もない。

 

 ボンドルドがどうしようか、悩んでいると……涅マユリとフェイスレスが笑っている。彼等は、今までも深層へ何度も踏み込んでいた。だからこそ、知っている。階層を跨ぐショートカット方法を。

 

「帰りは面倒だネ。だから、便利な移動手段を用意してやったヨ!! 闇派閥の連中もたまには役に立つ。さて、問題だ。一体、どうやって手早く地上に帰ると思う?…受講生のニーナ君、答えたまえ」

 

「お父さんと私で天井に穴をあけて皆で帰る!!」

 

「なかなか、良いアイディアだネ。”錬金術”なら確かにできるだろう…だが、ダンジョンの階層は砂漠だったり、毒沼だったり、マグマがあったり、多種多様だ。下手に穴をあけると最悪死ぬ。だが、70点。次、プルシュカ君」

 

 錬金術で再構築をせずに分解で止める。下から上に登るのは確かに危険だが、上から下に降りる方法としてはこれはアリではないだろうかと、皆が思ってしまう。最速で降りてこられる方法の一つだろう。

 

「わかった!! 人工迷宮クノッソスと同じくダンジョンの外に穴をあけて登ればいいのよ。錬金術ならできるわ」

 

「人の発想に手を入れて改良する。40点だネ」

 

 ここで正解のマジックアイテムが出される。それは、先日白兎(ベル・クラネル)を下層から深層送りにしたモンスターを操っていたマジックアイテム。モンスターを強制テイムできるアイテムだ。限界こそあれど、深層のモンスターにも有効である。

 

 つまり、ワーム・ウェールを使って深層から上に駆けあがるエレベーター方式だ。

 

「37階層のワーム・ウェールですね。詳しくはありませんが、どのあたりまで上下に移動可能なのですか?」

 

「27~47階層の移動が限界だネ。モンスターも無限の体力はない。来る途中で、私とフェイスレスでテイムしておいた。今は、47階層で待機させているヨ」

 

 帰りのことまでしっかりと考えている頼りになる大人が沢山いる。

 

 帰りのルートが決まったところで、階層主との戦いの疲れをいやすため、飯を食べ、風呂に入り、眠りにつく。ここに来るまでの数日間、色々あったと誰もが思った。

 

………

……

 

 ボンドルド達が50階層で眠っている頃。

 

 ギルドでは、安眠すらできない者達が徐々に増えてきた。彼らに共通して言える事は、呼吸困難ともいえる「ぜひ ぜひ」という呼吸音だけだ。

 

 最初の発症者は、ギルド長ノイマン。彼は、即座に都市最高のヒーラーとして名高いアミッド・テアサナーレの診察を受ける。魔法や回復剤で治らないならば、呪いの類だとノイマンは思っていた。だからこそ、状態異常回復や解呪もできるアミッドを頼った。

 

 アミッドがディア・フラーテルを何度使っても、ノイマンの容態は一向に回復しない。確かに回復魔法は発動している。ノイマン自身も体力の回復を認識したが、容態は治らない。

 

「ノイマンさん……こうなった原因に心当たりは?」

 

「な、ない。ぜひ   ぜひ    ぜひ」

 

 ギルド長として、権力者として言えば地位を失いかねない。変身魔法が使える者を使って、【アスクレピオス・ファミリア】の神の執務室にあった品をギルドが盗ませたなど、言えるはずもない。

 

 神薬”ゾナハ病”の瓶を、ギルド内部で足を滑らせて割ってしまったのだ。

 

「では、同様の症状の者達は、他におりますか?」

 

「ギルド職員で数名確認された。恐らく他にもいるだろう」

 

 アミッドの専門外であり、原因は分からない。だが、身体にある異物を排出すれば、助けられると判断した。その直感は実に正しい。

 

 歴史上見ても、彼女ほど優れたヒーラーはいないだろう。Lv.2(レベルツー)にして都市最高のヒーラーと名高いのもそれが理由だ。

 

「故に開け。天よりの落涙、地への聖泉 ティアードウェール」

 

 魔法陣が現れ聖水で満たされる。ノイマンをそこに沈めた。体内にある異物を吐き出させる。その異物がなんであれ、鼻血、尿、糞、ゲロといった形で排泄された。ノイマンは、長い人生で人前でここまで恥をかかされたことはなく、尊厳すら失ってしまう。

 

 しかも、ココは病院であり、目撃者も多かった。

 

 だが、ノイマン一人を消毒したところで発生源であるギルドを消毒しなければ意味がない。アミッドはすぐにギルドに足を運んだ。そして、症状がある者達を男女問わず、ティアードウェールに沈めて尊厳崩壊をさせていった。

 

 アミッドは自分の実力をよく把握しており、ギルド職員も抵抗するだろうから伝手で【フレイヤ・ファミリア】に手伝いを要請。ギルドにて、非常に悪質な伝染病が発生しており、複数の職員が感染している。

 

 治療できるが、代償で人としての尊厳が破壊されるので、逃げる連中を捕まえて沈めるのを手伝って欲しいと。

 

 これに対して、フレイヤは即座に了承した。伝染病という事ならば多少手荒に扱って、尊厳を崩壊させても文句は言われない。プルシュカとニーナの一件でのイラつきを少しでも解消できると思い、喜んで手を貸していた。

 

 ギルドを中心にオラリオでは、アミッドが尊厳破壊をして回り、ゾナハ病の鎮静化に貢献をしていた。ウラノスも事態を重く見て、神威の使用を許可して、女神祭に来訪した全ての人に対して、アミッドの尊厳破壊治療を受けるように伝える。

 

 最初の患者がノイマンである事から何処からか病気を貰って来て、ギルドを危険にさらしたと職員からも猛批判を食らう事になる。人としての尊厳を人前で破壊された中にはエイナさんなどの女性職員も含まれており、ギルド長と職員の間に致命的な溝が出来てしまった。

 

 こうして、世界規模のパンデミックになるはずが、彼女の活躍で収束に向かう。この偉業により、彼女はランクアップ可能な域にまで達する。きっと、アミッドが覚える次の魔法は、効果抜群だが、人としての尊厳を破壊して人生終わりレベルになる魔法となるだろう。命が助かればすべてよしではないと誰か彼女に教えるべきだ。

 

 これが女神祭の初日の正午過ぎの出来事であった。

 

 ギルド長ノイマンが原因で、歴史上最悪な幕開けとなった事は間違いなかった。

 




〇ベルクラネルの家系図 ※養父であるゼウスは除外しました。

【挿絵表示】


死んだはずだと思っていたボンドルド達が無事に生還。
時期は、フレイヤ様の魅了発動直後当たりを想定しています。


アニメの第六期まだかな。
ネタに困る。

"バロールの魔眼"とかは、原作ではないのでたぶんこんなのドロップするよねとオリジナルです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。