ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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44:三大処女神

 はたから見ても異常な速度で再建が進んでいく【アスクレピオス・ファミリア】のホーム。

 

 手元資金さえ手に入り材料を揃えれば、錬金術で元通りにするまで大して時間はかからない。ただ、意匠を凝らした家具などの調度品は専門の職人から再購入する必要があった。

 

 既に数日が経過しているが、未だにプルシュカとニーナは、【フレイヤ・ファミリア】のホームから帰ってこない。毎日伝令で来る伝令の格が、日に日に高くなってきていた。

 

 そして今では、折り菓子を持った『女神の黄金(ヴァナ・マルデル)』ヘイズが毎朝やってきては、プルシュカとニーナの【フレイヤ・ファミリア】での様子をしっかりと報告してくれていた。

 

「おやおや、そうですか。二人とも【フレイヤ・ファミリア】の皆さんと仲良く過ごせているようで安心しました。外の世界を知ることで娘たちがよりよく成長してくれるならば、親として嬉しい限りです。ご迷惑をおかけしておりませんか? できれば、もう少し様子を教えていただけませんか」

 

「勿論です。本当に優秀で強靭な勇士(エインヘリヤル)に混じって、『洗礼』に耐え抜いているんです。それに、なんといっても二人の知識が凄まじくて。対人戦では経験不足が目立ちますが、ダンジョン探索の知識に関しては幹部並みだと思ってしまうほどです。……あ、それとこれはプルシュカさんからパパにと預かってきた手紙です」

 

 一通の手紙だった。

 

 そこには、「プルシュカたちは負けてないもん、装備が悪いんだもん」と書かれていた。そして無尽鎚(ブレイズリーブ)とアラカブキ、それからニーナの杖を持ってきてほしいと依頼が添えられていた。

 

「どうやら、負け越しはプルシュカのお気に召さないようです。自分の武器が必要だと……配送をお願いしてもよろしいですか?」

 

「えぇ、それくらいでしたら構いませんよ。ところで……ものは相談なのですが、プルシュカさんとニーナさん、改宗のご予定とかはありませんか? それが無理なら外部顧問としてでもどうでしょうか? 本当に、本当に助かっているんです。もう、あの頃には戻れないほどに……あんな激務は人がやっていい生活ではありませんでした」

 

 ヘイズの言葉通り、二人が来てからというもの業務量は劇的に減り、自由時間まで取れ、睡眠時間もバッチリ確保できていた。ファミリアの雰囲気も良い方向に向かい、書類仕事は効率化され、施設の修繕費用はゼロになり、ダンジョン探索における現場の貴重な知識まで手に入り、まさに申し分ない状況だった。

 

 ただ一つの問題は、プルシュカとニーナが【アスクレピオス・ファミリア】の眷属だという事だ。

 

 更にはあと数日で彼女たちがいなくなってしまう可能性があることを団員たちに伝えなければならないと思うと、ヘイズは今から頭が痛かった。

 

「お世辞がお上手ですね。二人ともLv.1(レベルワン)だというのに、オラリオの二大派閥の一つである【フレイヤ・ファミリア】からそこまで買われるとは名誉なことです。プルシュカたちがそれを望むのでしたら、私としては構いません。あぁ、それと一つお伝えしておきたい情報がございました。先ほどこちらのホームにリュー・リオンさんが何故か現れました。どなたかをお探しのようでした」

 

「……どうして、ここに『疾風』が来るのですか? なぜそれを我々に伝えるのですか?」

 

 このオラリオの状況を何とかしたいと、藁にも縋る思いで『疾風』ことリュー・リオンは、同じ【アストレア・ファミリア】の眷属であるアリーゼ達を訪ねてきていた。ひと昔前のアリーゼ達ならば、彼女の頼みを二つ返事で引き受けていただろう。

 

 だが、【ヘスティア・ファミリア】の白兎(ベル・クラネル)を助けたいと言われても、簡単に頷くわけにはいかなかった。手助けはできないと断られたリュー・リオンは、うつむいたまま街の方へと消えていったのだった。あそこまでの騒動を引き起こした【ヘスティア・ファミリア】に力を貸すなど、現在のアリーゼたちにはどうしてもできなかったのだ。

 

「彼女に力を貸す可能性がある戦力がここにいるからです。ヘイズさんはお若いからご存じないかもしれませんが、あそこにいる彼女たち、昔は有名人だったんですよ。折角ですから、あの二人に娘たちの様子を確認させに行かせたいのですが、よろしいですか?」

 

「分かりました。その要望は受け入れます。こちらも、プルシュカさんとニーナさんの安全を証明する必要がありますから」

 

 向かわせる付き添いとして、Lv.5(レベルファイブ)であるアリーゼと輝夜の二名が選ばれた。大工作業から解放されるだけでなく、美味しい食事とお風呂、そして運が良ければ【フレイヤ・ファミリア】との模擬戦ができるとなれば、この人選以外にはあり得なかった。

 

 道中、初対面同士で会話に困ることもあるかと思われたが、お互いに常識人である。うまく打ち解け合えるだろうとボンドルドは信じていた。共通の知り合いであるプルシュカやニーナの話題で盛り上がるかと思いきや、実際には胡散臭い院長たちの噂話で盛り上がっていたことを、ボンドルドは知る由もない。

 

………

……

 

 【フレイヤ・ファミリア】の『黒妖の魔剣』ヘグニ・ラグナールは、ヘイズと並んで歩く人物を見て驚愕のあまり目を見開いた。かつて自分が憧れた正義の象徴――五年前に死亡したはずの【アストレア・ファミリア】の団長、アリーゼ・ローヴェルが目の前に立っていたからだ。

 

「待て、ヘイズ!! その者は何者だ!?」

 

「ヘグニさん、落ち着いてください。侵入者ではありませんよ。フレイヤ様からの許可は既に得ています。こちら、【アスクレピオス・ファミリア】からプルシュカさんとニーナさんの無事を確認しに来られたアリーゼさんと輝夜さんです。失礼のないようにしてくださいね」

 

「お邪魔してるわ。それにしても【フレイヤ・ファミリア】の拠点って本当に大きいのね! ねぇねぇ、お風呂って広かったりする? 期待していいかしら」

 

「お邪魔しております。アリーゼ、私達の仕事はプルシュカとニーナに荷物を届けることや。目的を忘れんようにな」

 

 女三人集まれば賑やかになる。ファミリアは違えど、打ち解けるのに時間はかからなかった。

 

 話しかけたくてウズウズしていたヘグニであったが、重度のコミュ障である彼には、あの華やかな輪の中に割って入ることなど到底不可能な芸当だった。

 

 

◇◆◇◆

 

 プルシュカの企画により『洗礼の場』にて、急遽ファミリア対抗の模擬戦が特別開催されることとなった。

 

 完全武装を整えたプルシュカたち四名 vs 強靭な勇士(エインヘリヤル)。主であるフレイヤの威信を背負う強靭な勇士(エインヘリヤル)たちの気合の入りようは凄まじかった。だが、プルシュカたちも負けるつもりなど毛頭ない。

 

「アリーゼお姉ちゃんたちも加わったんだから、プルシュカたちは絶対負けない! 勝ったら、デザートのプリンは全部いただくからね!」

 

「プルシュカちゃん、あんまり甘い物ばかり食べてたらお父さんに怒られちゃうよ?」

 

「対人戦か~久しぶりだね、輝夜。腕は落ちてないでしょうね?」

 

「誰に向かってもの言うてますのん?」

 

 現場監督兼治療班を務めるヘイズが、合図とともに戦いの火蓋を切って落とした。

 

 アリーゼが開幕から大人げない攻撃を仕掛ける。炎属性の付与魔法(エンチャント)――かつて彼女の二つ名の由来にもなった強力な魔法だ。

 

花開け(アルガ)――アガリス・アルヴェシンス!」

 

 この鮮烈な魔法を目にした瞬間、観戦していたヘグニ・ラグナールが絶叫した!

 

 ヘグニは対人でのコミュニケーション能力に難があるため、最前線で観戦するために魔法で自己暗示をかけていた。だが、それが裏目に出る。口の悪さが抑えられなくなり、心で思ったことがそのまま口から漏れ出てしまったのだ。

 

「炎のエンチャント……!! やはりお前だったのか、アリーゼ・ローヴェル! 五年前に死んだと思っていたが生きていたとはな! 姿も当時と変わらぬとは驚きだ。ヒューマンは五年も経てばBBAだというのに、若作りにしてもやり過ぎではないか!?」

 

「死ねぇぇぇぇぇ! 『黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)』ぅぅぅ!」

 

 観客席にいるはずのヘグニへと問答無用で斬りかかったアリーゼだったが、こればかりは誰も彼女を非難できなかった。

 

「おい、そこの和服のBBA! 早くアリーゼを止めろ! 間に合わなくなっても知らんぞ! 聞こえているのか、性格の悪そうな女!」

 

 

「プルシュカはん、ニーナはん……ちょっとあのダークエルフをアリーゼと一緒にボコボコにしてくるさかい、こっちは二人で何とかしてくれやす」

 

 目の前の惨状に、プルシュカは深々とため息をついた。

 

 白笛を吹き鳴らし、遺物の性能を十二分に発揮させる。開幕一発目のアリーゼの魔法のお披露目は終わった。ならば自分たちも必殺の技を見せるべきだと、プルシュカは強靭な勇士(エインヘリヤル)たちが群がる足元に向けてアラカブキを一発ぶち込んだ。地中で爆発が弾け、地面が見事に崩壊する。

 

「プルシュカとニーナちゃんはね……装備の性能で相手をねじ伏せるのよ! 何人でもかかってきなさい! 殺さない程度に表面だけこんがり焼いちゃって、ニーナちゃん!」

 

「うん!!」

 

 それは速攻魔法などという次元すら超越していた。ニーナが指を弾くたびに、強靭な勇士(エインヘリヤル)たちが次々と吹き飛ばされていく。錬成反応に気づいた一部の練達者だけがギリギリで回避行動を間に合わせ間合いを詰めてくるが、今のプルシュカの動きは普段よりも遥かに速く、そして力強かった。

 

 ここまでの戦闘力を見せつけられると、人材収集が趣味の神フレイヤでなくとも、ぜひ自分の派閥に欲しいと誰もが思い始めるだろう。

 

 強靭な勇士(エインヘリヤル)は間違いなく強者だ。Lv.1(レベルワン)相手であっても容赦なく攻撃を繰り出せる覚悟と苛烈さを持っている。しかし、今回ばかりは相手が悪すぎた。近づくことすら叶わない。

 

 何でもありの無制限ルールだからこそ、彼女たちの真の恐ろしさが存分に発揮されていた。

 

 強靭な勇士(エインヘリヤル)たちが全滅するまで、10分もかからなかった。Lv.1(レベルワン)相手に無残な敗北を喫するという情けない結果に終わったが、それもそのはず、プルシュカとニーナに「対人戦における嫌がらせ」を徹底的に叩き込んだ張本人たちが仕掛けているのだから、こうなるのは必然だった。

 

 呆然とするヘイズの横で、眼鏡をかけたヘディンが二人の実力を試すべく動いた。

 

「永争せよ、不滅の雷兵――カウルス・ヒルド!!」

 

 無数の雷槍が、逃げ場を塞ぐようにプルシュカとニーナへ降り注ぐ。凄まじい衝撃にヘイズが慌てて駆け寄り治療魔法を唱えようとしたが、煙の向こうではニーナもプルシュカも、しっかりと自らの足で立っていた。

 

「ちょっと! 痛いじゃない、眼鏡の人!」

 

 回復薬を豪快に飲み干し、一瞬で傷を癒やしたプルシュカがヘディンへ向けてアラカブキの照準を合わせた。

 

「う~ん、最強の盾も雷属性の魔法にはちょっと効果が薄いかも……」

 

 賢者の石による自己治癒を済ませ、破損した衣服の再構築まで終えたニーナ。彼女も既に指を弾く準備を完了させている。

 

「ふん……やはりただの子供ではないな。合格だ。お前たちは『洗礼』に参加する必要はない。むしろ邪魔だ。それと……あの大馬鹿どもを止めろ」

 

 ヘディンがバカと吐き捨てた視線の先では……アリーゼ、輝夜、そしてヘグニによる大乱闘が繰り広げられていた。レベル自体はヘグニの方が一つ上だが、アリーゼと輝夜もLv.5(レベルファイブ)の実力者。二人係となれば十分すぎるほど渡り合えていた。

 

「くたばれ、女の敵!! 全開炎力(アルヴァーナ)!」

 

 激しい爆炎が城壁を穿ち、まるで【フレイヤ・ファミリア】が外部から大規模な襲撃でも受けたかのような酷い有様と化していた。

 

「アリーゼお姉ちゃん、輝夜お姉ちゃん! それ以上はダメ! パパたちに言いつけちゃうよ!? 今ならニーナちゃんが直してくれるけど、弁償できるの? ヘグニさんも女の子に向かってBBAなんて言ったらダメだよ! 二人ともまだ10代なんだからね!」

 

 プルシュカの必死の説得により、ようやく不毛な戦いは終結したのだった。

 

 その後、ニーナの錬金術によって破壊された拠点の復旧作業が行われた。【フレイヤ・ファミリア】内部では、今後は修繕作業をニーナに外注しようと本格的に予算化が進められつつあった。

 

………

……

 

 プルシュカたちがみんなでお風呂に入り戦いの疲れを癒やしていた頃……突如としてホーム全体が騒がしくなった。

 

 何事かと思うものの、ここはあの【フレイヤ・ファミリア】の本拠地だ。多少の爆音が響こうとも、どうせすぐに収まるだろうと誰もがたかをくくっていた。

 

「何かあったのかな、プルシュカちゃん?」

 

「たぶん、昼間に捕まったって言ってたエルフのお姉ちゃんがあばれているんじゃないかな。あと、白兎(ベル・クラネル)もね」

 

 アリーゼと輝夜も一緒にお風呂に浸かっており、リューが捕まっているなど初耳だと言いたげな表情を浮かべていた。もちろん、余計な心配をかけまいと教えていなかったのだから当然であった。

 

「この後どうなるのかな? プルシュカちゃんの占いではどう出ているの?」

 

「フレイヤ様がもっと幸せになる未来が待っているから大丈夫よ。だから、プルシュカは攻撃してきたヘディンさんを許してあげることにする。たぶん、あの人はプルシュカよりもフレイヤ様の幸せを心から祈っている人だから、悪いようにはならないわ」

 

 今回の件に関しては、神フレイヤも詰めが甘かったと言わざるを得ない。

 

 そこまで白兎(ベル・クラネル)の手を欲するならば、もっと冷酷に徹するべきだったのだ。しかしそれができなかったからこそ、『魅了』は解除されてしまう。下界において神フレイヤの本気の魅了を破ることができる数少ない存在――三大処女神の一柱であるボン…ではなく、ヘスティア。

 

 彼女の監視を怠った時点で、このような事態に陥るのは時間の問題だったのだ。

 

 女神フレイヤの魅了が解けた者たちは、魅了されていた間の記憶も明確に残っており、誰がこの元凶であるかをはっきりと理解していた。

 

 だが、これはあくまで【フレイヤ・ファミリア】内部の問題だ。部外者が口を挟むのはお門違いというもの。お風呂でさっぱりと汗を洗い流した【アスクレピオス・ファミリア】の面々は、用意された客室へと戻り、静かに眠りにつくのだった。

 

 




魅了を解いたことでヘスティア・ファミリアの評判が上がっております。
これで、沢山のファミリアがたすけてくれるよね!

紐「え?君のファミリアは助けてくれないのかい?」
弱小ファミリア「……手伝わさせていただきます」

と言う感じになると予想。
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