ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
【ヘスティア・ファミリア】の不利と思われた状況は、サポーターであるリリルカ・アーデの手腕によって劇的に改善していた。特に、オラリオ最大派閥の一つであり、街の治安を守る【ガネーシャ・ファミリア】の協力を取り付けたことが非常に大きかった。
その他大勢の派閥の一つとして密かに参戦したかったものの、ここぞとばかりにリリルカ・アーデは、【ガネーシャ・ファミリア】がLv.5の第一級冒険者5名とヒーラーを送り込むと確約したと大々的に宣伝する。第一級冒険者一人の戦力は、100人分の冒険者にも匹敵するものだった。
これなら勝ち目がある。勝てば、【フレイヤ・ファミリア】の莫大な財産を山分けできる――そう人々に思わせるだけの熱気が、オラリオ全体を包み込んでいた。
「リリの作戦は完璧です。
「サポーター君!! 本当に、本当にこれでよかったんだよね……? 僕はなんだか不安になってきたよ」
【アスクレピオス・ファミリア】から得た7億ヴァリスもの資金も、相次ぐ手配や準備によって目減りし、残りは1億ヴァリス程度となっていた。しかし、その巨額の資金を惜しみなく投じたおかげで、確かに明確な勝ち筋が見え始めていたのだった。
【フレイヤ・ファミリア】は強大だ。だが、数の暴力で突破することは十分に可能である。何しろ、今回の
敵ファミリアの対応力を圧倒的な人数で上回り、先に相手の神を見つけ出して胸の花を落とせば勝利となる。肉壁となって突撃してくれる冒険者など、今の「リリルカ財閥」の資金力をもってすれば幾らでもかき集められるのだ。
「当然です、神様。リリだからこそ、ここまでの戦力を集められたのですよ。リュー様も第一級冒険者へのランクアップは確実でしょう。それに、ご存じですか? 【アストレア・ファミリア】には、まだLv.5が二人と
「おい、リリすけ。流石にそれは無理だろ。この間の魅了の一件だって、助太刀を断られたって言ってたじゃないか」
リュー・リオンは、すでにリリルカ・アーデへ真相を伝えていたのだった。
かつての仲間たちが生存しており、現在は【アスクレピオス・ファミリア】に身を寄せていること。そして、彼女たちも着実にランクアップを果たしているということなどを。彼女たちは深層50階層への遠征から無事に帰還したばかりでもあった。
つまり、膨大な経験値を稼いできており、ステイタス更新によってLv.5の中堅クラスに達している可能性が高い。
「甘いですね、ヴェルフ様は。彼女たちは【ヘスティア・ファミリア】を助けるわけではありません。元仲間のリュー・リオンさんを助けるのです。彼女が生きていた以上、賞金首の件はまだ有効ですが、ギルド長へ賞金と同額を献金すれば取り消せます。【ヘスティア・ファミリア】の資金なら全額支払えますから、その見返りとして一日だけ協力してもらうのですよ。他のメンバーだって、アストレア様ご本人が頼めば無下にはできません。なんと言っても自分たちの主神のお願いなのですから」
「お前な……いつか後ろから刺されるぞ」
リリルカは一人で外出する際は必ず変身魔法を使用しており、相応の警戒は怠っていない。赤の他人になりすまして情報収集を行ったり、意図的に噂を流したりと、周到に立ち回っていたのだった。
………
……
…
オラリオ街内にある喫茶店で、プルシュカとニーナはお茶をご馳走になっていた。
二人の対面に座っているのは、
「お前達は、どこまで理解している? 特に、プルシュカ。お前は、気が付いているな」
「主語のない会話は良くないわ。皆がヘディンさんみたいに頭が良いわけじゃないんだから、人は言葉で伝えないと。……フレイヤ様はね、皆が思っているような高嶺の花の女神様になりたいんじゃないの。一人の女の子として、好きになった男の人と恋をして、ささやかな家庭を築きたいだけなのよ」
「えぇ~、そうなの!? てっきり、過激な衣装が大好きな神様なんだと思ってた! プルシュカちゃん、すごいね」
眼鏡をクイクイと持ち上げるヘディン。彼にとって満足な回答だったようだ。
「それだけ本質を理解しているなら十分だ。で、【ヘスティア・ファミリア】側の戦力は現在どうなっている?」
「そっか。【フレイヤ・ファミリア】の人たちは、孤立して情報収集が難しいのね。パパから聞いた話だと、敵陣営に参加するファミリアは今や38に達しているわ。【ガネーシャ・ファミリア】から第一級冒険者5名とヒーラーを引き入れたのをきっかけに、一気に参加派閥が増えたみたい」
「それだけじゃないよ。アストレア様という神様がオラリオに来て、リューさんのステイタス更新を行ったみたい。一気に2ランクアップして、なんとLv.6になったんだって。あと、アストレア様からのお願いで、アリーゼさんたちも恩義を返すために【ヘスティア・ファミリア】側として参加することになっちゃったの。凄く嫌そうな顔をしてた」
ヘディンのメモには、相手の戦力が細かく記載されていく。
つまり連合軍側は、Lv.6が1名、Lv.5には
「まだ、ギリギリだが何とかなる」
「あ、それたぶん甘いわよ。この間
リリルカ・アーデは残されたヴァリスを注ぎ込み、都市最高の治療師を雇い入れたのだ。これにより、第一級冒険者たちを幾度でも戦線復帰させる「ゾンビ作戦」が実現可能となってしまった。
ヘディンが頭の中で何度計算を繰り返し、作戦を修正しようとも、手元の戦力は圧倒的に不足していた。今回の
「……チラ」
「あと五日間で【フレイヤ・ファミリア】全体を強化して、連合軍に対抗できるだけの戦力を揃えないといけないのか。ニーナちゃんとダンジョンへ潜って友達を探してくるけれど、会えなかったら諦めてね」
「今なら中層あたりにいるかも。武器の調子が悪くなったから手入れが必要だって言ってたし」
二人が誰を連れてくるつもりなのか、ヘディンには確信が持てなかった。しかし、どこぞの愚者や自分の弟子よりは遥かに信頼できると感じていた。彼女たちは他派閥ながら【フレイヤ・ファミリア】内でも人望が厚く、いずれ幹部として迎え入れたいという声すら上がっていたほどだ。
「では、そちらは任せた。期待しているぞ、未来の幹部候補」
「プルシュカとニーナちゃんは【アスクレピオス・ファミリア】の幹部だもん。でもね、うちのファミリアの教えは『困っている人は助けなさい』なの。フレイヤ様もヘディンさんもしっかり助けてあげるからね」
「じゃあ行こうか、プルシュカちゃん。あ、ヘディンさん……【フレイヤ・ファミリア】にテイマーの人っていましたっけ?」
武闘派の最大派閥とはいえ、根が脳筋揃いのファミリアだ。そんな特殊な技能を持つ冒険者など【フレイヤ・ファミリア】には存在するはずもない。だが、いないのであれば作れば良いだけのこと。
「テイマーがいないなら、適当な魔導士をテイマーへ転向させるまでだ。幸いにも、私の次に思慮深い者がいる。奴なら、にわか仕込みのテイマーであっても完璧にやり遂げるだろう」
「……メルーナさんか。パンツの替えを準備しておくように言っておいてね。いこう、ニーナちゃん」
「うん。ご馳走様でした、ヘディンさん」
去り際の助言を受け、ヘディンは女性団員へ「替えの下着を用意しておけ」とどう伝えるべきかという深刻な難題に直面していた。智謀に長け、オラリオ屈指の頭脳を持つ英知の男であっても、この繊細すぎる問題の解決は今後の人生を左右しかねないものだった。
◇◆◇◆
翌朝。
【フレイヤ・ファミリア】が
「運が良かったわ。ダンジョンの22階層で……プルシュカとニーナちゃんでテイムしてきたの。ミノタウロスよ」
「うんうん、本当に大変だったよね」
『さぁ、強者との戦いを。身体は闘争を求める』
ザワザワ。
ざわめく【フレイヤ・ファミリア】の団員たち。「今、あいつ喋ったよな……?」と誰もが耳を疑う。そもそも、あれをただのミノタウロスだと誰が信じられるというのか。本気で頭に血が上った時のオッタルと同等の威圧感を放つ怪物が、そこに鎮座しているのだから。
「……テイムされたモンスターって喋るようになるのね。プルシュカも知らなかったな。ねぇ、ニーナちゃん」
「びっくりだよね。じゃあヘディンさん、あとは本職のテイマーさんに任せるね。……あ、でもその前に『力試しがしたいから全員でかかってこい』だって!」
そのミノタウロスの名は、アステリメス。
最強の異端児であり、
再戦で確実に愛を伝える為、徹底的に己を追い込んでいた。
【ヘスティア・ファミリア】だってあらゆる手を使って戦力を集めているのだ。【フレイヤ・ファミリア】がテイムしたモンスターを一頭連れて行ったところで、誰にも文句は言わせない。
後は、ヘディンさんが何とかしてくれるでしょう。