ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
派閥連合の部隊と【フレイヤ・ファミリア】との交戦が始まる。回復魔法という命綱が切れた【フレイヤ・ファミリア】は、背水の陣。彼らの心を支えるのは、主神フレイヤへの愛だけだった。
だからこそ、主力部隊である【アストレア・ファミリア】が矢面に立たされる。彼女たちは春姫の魔法――レベル・ブーストで底上げされ、【フレイヤ・ファミリア】の幹部と正面から戦闘を行っていた。
疑似的な
だが、それでも食らいついているガリバー兄弟の奮闘は凄まじい。4人の連携で相手に狙いを定めさせない戦い。これが4対1ならば、彼らにも数パーセントの勝率はあっただろう。しかし、戦争においてそんな甘い話はない。
魔剣の攻撃に加え、アイシャ・ベルカといった
仲間が磨り潰される最中、ヘグニも苦戦を強いられていた。
「殺していいのは殺される覚悟のある奴だけだ!! 貴様らの正義は何処にある。これが正義だというのか。この人殺し共が!! 俺は絶対に貴様らを許さんぞ!!」
ヘグニは、【ヘファイストス・ファミリア】の団長椿・コルブランドを相手に時間を取られてしまっていた。だが、今ようやく片付いた。椿・コルブランドの胴体を真っ二つにして、確実に殺し終えていた。
アリーゼ達もどうしてこうなったと言わんばかりの表情だ。殺さずに相手を無力化しても、後続に続く者たちが確実に息の根を止める。こちらが殺せば相手も殺し返す。もはや手出しのしようがない泥沼と化していた。
アストレア様への恩義のためとはいえ、これは酷い。だが、止まらない。勝たねば殺される。ただそれだけの戦いとなっていた。正義とか悪とかそんな次元ではない。死にたくないから戦う状況にされつつある。策士に完全にはめ込まれたパターンだ。
『さぁ、みなさん前進してください。フレイヤ様がいる場所までもう少しです。ここを突破すれば我々の勝利は目前です。そして、早く片付けて自称テイム・モンスター討伐に協力しないと……神様たちも危ないですよ。頑張ってください』
そして、はるか後方の派閥連合拠点付近では、【ガネーシャ・ファミリア】が決死の討伐作戦を行っていた。対モンスター戦のスペシャリストとして、片腕を失おうが、目を潰されようが、内臓が飛び出そうが戦い続けている。
「永争せよ、不滅の雷兵――カウルス・ヒルド!!」
雷の魔法が派閥連合に降り注ぐ。当然、手加減など一切ない攻撃だ。人間の神経をずたずたにする威力であり、一人、また一人と派閥連合の冒険者たちが死に絶えていく。横やりを入れてくる魔剣使いを狩り取っていく。一つの魔法で十人以上を一掃できる強力な広範囲魔法だった。
「随分と、遅かったな」
「空飛ぶハエを落とすのに時間がかかった。まだやれるな馬鹿」
ヘディンの手には、血塗られたハデス・ヘッドがある。持ち前の聴力と直感、敵の行動予測、砲撃魔法、そして都市最大のマインドを余すことなく使い、ステルス爆撃を仕掛けてくるアスティを撃ち落とした。雷で脳を焼き切り、アイテムだけをしっかりと回収していた。
この透明化できるアイテムさえ手に入れれば、相手がレベル・ブーストでワンランク上の力を得ていようが関係ない。
ヘグニとヘディン。二人がオラリオで何と呼ばれているかを知ることになるだろう。『白黒の騎士』……それが彼らの二つ名だ。長い付き合いの二人が本気を出せば、レベル以上の働きを見せる。相手が同数以上であろうと関係なかった。
これから【フレイヤ・ファミリア】の逆転劇が始まる。この二人と戦わされる【アストレア・ファミリア】と、アイシャ・ベルカを含む各派閥から選りすぐられた
その逆転劇の幕開けは、大爆発とともに始まる。
『いいですか。命は効率よく消費しなければいけません。相手が勝利を確信した時こそ、最大の油断が生じます。
というありがたいお言葉を聞かされている自爆兵たち。この時が来なければどれほどよかっただろうか。
「こんな作戦を考えた指揮官なんてくたばっちまえぇぇぇぇーーーっ!!」
潜伏していた数人の自爆兵が一斉にヘグニとヘディン目掛けて飛びかかる。その数は6名。
だが、眼鏡をクイっと上げたヘディンが冷たい視線で彼らを見下ろした。
◆◇◆◇
開いた口が塞がらないロキ。
神として長く生きているが、一体何を見せられているのだろうかと思うほどだ。
「もう、引くに引けへん状況になっとるやないか。フレイヤもドちびも。何か手に入れなきゃ、ここまで出した被害は清算不可能や。ギルドの連中は、一体
フィンもどう対応すべきか考え込む。三大クエストが十年単位で遠のいた。今失った戦力を補填するだけでも最低10年は掛かる。それまで世界は平和だろうか。
「関わらなくて幸いだと対岸の火事だと思うべきか、それとも僕たちがいればここまでにならなかったと悔やむべきか。火炎石を使った自爆兵……やり方が闇派閥のそれじゃないか。
「ねぇ、団長。私があの
完全に終わりだ。しかも、これがオラリオ中に放送されている。歴史に悪い意味で名を残すだろう。
「アイズたん。もう、あいつらには関わるな。【ヘスティア・ファミリア】は勝とうが負けようが長くはもたん。たった半年で関わって潰れたファミリアが両手で足りんとか、闇派閥よりたちが悪いで」
「そう・・・だね」
アイズもこれを見せられたら、仕方がないかと思う。
………
……
…
重苦しい空気漂う【ロキ・ファミリア】に、顔面真っ青なギルド長ロイマンが脂汗をかきながら訪問してきた。そして開口一番、頭を深く下げて頼み込む。
「
「え、嫌やで。だって、参加禁止にしたのはお前らやろう。それなのに、都合が悪くなったら損な役回りをさせようってのが気に食わん。このまま不完全燃焼になったら、次の標的がウチらになりかねん」
ロキは、拒絶するがギルドも引き下がれない。
既に100名を超える死者。貴重な第一級冒険者も命を落とし、第二級冒険者の死者はもう誰が死んだか分からない惨状だ。双方殺され過ぎて、報復の連鎖となっている。
こんなくだらない
「わかった。【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が手に入れた階層の情報を開示する。全てだ」
「それでも嫌や。だって、お前さんはこの間のやらかしでギルド長の地位も危ないんやろう。後任に変わった時に、新しい長が確固たる地位を得るために、ウチらに情報開示を進んでするはずや。だったら、わざわざ恨み買ってまで仲裁なんぞしない」
今の【ロキ・ファミリア】は、間違いなくオラリオで最強の地位にいる。二大派閥の一角は今の戦争で落ちぶれ、三位だった【ガネーシャ・ファミリア】も第一級冒険者を失いすぎて、派閥大戦後は見る影もなくなるだろう。
つまり、現状世界最強派閥を動かすには、ギルド側が出すチップが不足している。
「ぜ、税金の生涯免除」
「……」
ロキは、黙ってギルドの豚を見つめる。
「加えて、ギルドが保有する物資や施設を最優先で使用できる権利も付ける」
「……まだ、いけるやろう?」
ヒトの嘘が分かる神だからこそ、限界をよくわかっている。
「非公開にしている情報の閲覧許可を出す。深層以外の情報もだ」
「こんなところか。あと最後に一つ……この間、ギルドで発生したパンデミックの真相は?」
絶対に明かしたくないギルド長ロイマン。だが、言わねばオラリオの危機だ。せめてロキだけに、と頼み込んだが却下される。ロキ・ファミリアの幹部たちの前で、赤裸々に真実が告げられた。
「地位と名誉のため、リリルカ・アーデと取引した。【ヘスティア・ファミリア】への過大な配慮をする代わり、アスクレピオスの院長たちの研究成果を持ち出して来いと。密葬を強要させ、その隙に盗ませた……神の執務室にな。盗み終えたら焼き払えと。……これでいいか」
「アスクレピオスのイカレた院長たちの研究を持ち出すとか、馬鹿野郎。素人が触るもんじゃない。碌な死に方せんぞ」
ロキ・ファミリアの幹部から、ロイマンを見る目は害虫以下だった。
こんな屑からの頼みは突っぱねたいところだが、提示された報酬はそれなりの物だ。探索系ファミリアとして未開拓領域に挑むには必要なものばかりだった。
都市の危機だからこそ仲裁に名乗りを上げるが、問題は実際に損失を被っているファミリアをどう納得させるかだ。特に【フレイヤ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の被害は甚大であり、既に幹部級が何人も殺されている。
当然、ギルドの依頼で落とし前を付けるのだから、ギルドが何処まで補填できるかだ。そのあたりもはっきりさせておこうと、リヴェリアが確認する。
「で、彼らへの仲裁を成すための補填は、当然ギルドが支払うんだな。止めるのはできるだろうが、何もなしに止まれと言って止まる連中ではないぞ」
「ない。それも含めて、【ロキ・ファミリア】に依頼をしたい」
つまり、武力で押さえつけて「これ以上
神ロキが考える仲裁とギルド長ロイマンが考える仲裁では、中身のレベルに天と地ほどの差があった。当然、神ロキは最低限の介入を想定していたが、ギルド長ロイマンは最大限の解決を求めている。
「よし、分かった。やっぱりギルドはクソや。おい、ロイマン。あまり神を舐めるな。口約束なんて無しや。全部書面に書き起こせや。当然、ウチらは書面に書いてあることだけをやってやる。フィンとリヴェリアが確認して、ウチが一言一句お前に確認すっぞ」
「それだと、間に合わない。戦争遊戯の被害が」
【ロキ・ファミリア】の仲裁を遅らせるギルド長。闇派閥の者がこれを見ていたら、ギルド長に勲章を送ったことだろう。これで、オラリオの平和な時間は完全に終わりを迎えるのだから。
これで、だいぶいい感じ・・・の均衡が保たれるはず。
後は、ベル君がオッタルを撃破できれば、平和解決。