ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
まだ、
「『神威』による観測を妨害します。あぁ、素晴らしい。これが、神の力」
一足先に次のステージに進んだボンドルドを院長達は祝う。彼らも各々の手段で、次のステージに駆け上がる準備を整えていたからだ。同じ手法でステージを上がるなど、彼ら院長のやる事ではない。
「じゃあ、パパとプルシュカは、フレイヤ様の所に行ってくるわ。ニーナちゃん達は、アステリメスさんの事をお願い。全く、
「全くこれでは、骨折り損のくたびれ儲けネ」
「そうだね、僕ちゃんとしてもちょーっと勿体ない気がするな。折角、色々準備して招待準備もしていたのに、いいんだね。勿論、一番被害を被った君がいいというなら構わないさ」
涅院長とフェイスレス院長は、この作戦には賛成している。だが本当に良いのかという最終確認だ。
「あたし……あたしね……神様達に仲直りしてほしいんだ……喧嘩はだめだよ……一緒に冒険行くんだから。一緒に冒険に」
子供の切実な願い。その言葉が今、オラリオ中に中継で流れてしまった。『神威』の制御が不完全で、ジャミングどころか中継を乗っ取る痛恨のミス。ほんの数秒だけとはいえ、謎の『神威』が割り込む事で勘の良い神々はどうかしたのだろうかと思うだろう。
「おやおや、いけませんね。まだ、制御が不完全のようです。幸い、我々の姿は映っていません。先を急ぎましょう」
【アスクレピオス・ファミリア】の参戦。
医療系ファミリアとして、見境ない医師団が投入された。プルシュカの姿が映った以上、神もこの場に出向かなければルール違反となる。神アスクレピオスは、胸に花を添えて
神たちが待機する場所では、この状況下でよく参加したなと理解に苦しむ。だが、先ほどの放送で映ったプルシュカの姿。アスクレピオスの『神威』によるジャミングだろうと皆が結論付ける。眷族の尻拭いは神の役目だ。
………
……
…
これが戦争の跡。生きている人間が誰もいない場所に残っているのは、おびただしい血痕と肉片だけだった。その中から、【フレイヤ・ファミリア】だった者だけを集める。手、足、顔、胴体といった部品単位が多く、原型をとどめている事は珍しかった。
その中でプルシュカが拾い上げたヘイズの頭部。
「ヘイズお姉ちゃんも油断大敵だ。待っててね、プルシュカが蘇らせてあげるから。こっちの手は・・・だれのだろう。足も」
「おやおや、これは大量です。アリーゼさんに輝夜さんたちまでいるではありませんか。情けない、死んでしまうとは」
親子二人で死体拾いする絵面は最悪だった。だが、これが人助けと言われて信じられる者はほぼいないだろう。どう見ても死体漁りだ。テキパキと籠に遺体を回収する。【フレイヤ・ファミリア】は団員服が規格化されているおかげで、一部を除いて見分けやすくて大変助かるとボンドルドは思っていた。
【ヘスティア・ファミリア】の仕事を取るわけにはいかないから、しっかりと分別回収が大事だ。
「パパ、足りない部分って”賢者の石”で再生できるかな?」
「大丈夫だと思います。ニーナさんは分かりませんが、タッカーさんならいけます。彼ほど、”賢者の石”の使い方に優れた方はいません」
ボンドルドはそれから、白黒のエルフ二人の肉片を回収する。あのレベル6でも上位に位置するこの二人をよくぞ倒したと内心褒めていた。相当の犠牲を払った事はこの場を見ればわかる。
「パパ、こっちの籠はいっぱいだよ。一度戻って、遺物を使おう」
「一度戻って、また来ましょう」
ボンドルド達の場所は平和そのものだった。既に戦場跡となっているため、戦っている現場ではない。だが、ニーナたちの現場は違う。
今もなお、アステリメスは討伐されず暴れていた。だが、アステリメスも角は折られ、片目は潰され、手足にはオリハルコン製の鎖が巻き付けられており動きを押さえつけられつつあった。【ガネーシャ・ファミリア】の残存勢力は第一級冒険者2名と第二級冒険者以下30名ほどにまで落ち込む。
パチンという指を弾く音と共に錬成反応が発生した。アステリメスを抑え込む鎖が分解され、地面に大穴を開けた。
手負いを負ったアステリメスと上半身だけとなったメルーナの遺体が地下洞窟に落ちてくる。
『ニーナか。さぁ、回復を』
「とりあえず、今は撤収しよう。
万全な状態での再戦。
確かに望ましい展開だった。この状態では万全にはほど遠く、好敵手である
納得したアステリメスは、荷物を抱えて次の戦いに備える。
【ガネーシャ・ファミリア】が追いかけようにも既に穴は塞がれ、地下洞窟は各所で崩壊を始めていた。
◇◆◇◆
ヘイズ・ベルベットは、夢を見ていた。
【フレイヤ・ファミリア】での過重労働から解放され、神フレイヤからの寵愛を受け、充実した毎日を送る日々だ。朝起きれば、洗濯された衣服が用意されており、身だしなみを整え食堂に集合する。そこでは、同じようなファミリアの仲間が談話しながら美味しい食事を堪能している。
その食堂にはフレイヤ様の席も順番でその席に座れる栄誉が与えられる。傍らにいるオッタルが視界に入る事が邪魔だが我慢できる範疇。人の話を聞き、団長としての仕事も板についてきて、団員達の心も少し理解してきた頼りがいのある団長。
週休二日制で三日はダンジョンで経験を積み、二日は洗礼の回復に従事するという非常に良い日常だ。
本当に夢みたいな日常。
「パパ、多分この手はこっちの子のじゃない?女の子の手だよ、これ」
「私自身、パズルが苦手だとは今まで知りませんでした」
そう、今までのは夢だった。
ヘイズは目を見開いた。そこには、自分の真横で団員の遺体をパズルのように繋ぎ合わせているプルシュカと謎の男がいるからだ。黒い鉄仮面に紫のライン……と思ったら、身に覚えのある人だった。
「って、起きるのが早いよヘイズお姉ちゃん。
「ヘイズ・ベルベット。【フレイヤ・ファミリア】所属……ここはどこなの?一体どうしてプルシュカちゃんがここに」
最後にある記憶は間違いなく爆散した時。
ヒーラーだからこそわかる。あれは即死だった。回復魔法を使うまでもなく、あっけない死。だからこそ、意味が分からない。
「意識は〇、記憶も〇ね。そんなの決まっているじゃない。助けに来たのよ、皆を。そして、ここは戦争遊戯の会場……北西の海岸沖の洞窟」
「ありえないわ。だって、私はあの時確かに死んだのよ」
「おやおや、暴れると身体に悪いですよ。落ち着いてください、ヘイズさん。世の中、あなたが思っているより希望も奇跡もあります。あなたは確かに一度死んだかもしれません。ですが、それがどうしたというのです。これは、神が与えたチャンスかもしれません。こんなところで死んでいる暇はありません。フレイヤ様のお心を救えるのは、団員である皆様しかありえない」
組み立てられていく【フレイヤ・ファミリア】の者達。どれだけの人数が死んだというのか、最初期で退場したヘイズには分からなかった。
「プルシュカちゃん、ヘグニさんとヘディンさんも組みあがったから…」
「今行くわ。ヘイズお姉ちゃん、ココでのことは内緒だからね」
思考するヘイズ。
この状況での正解なんてあるのだろうか。判断する情報が明らかに不足している。今ここでヘイズ一人が暴れた所で何の解決にもならない。
不幸中の幸いは、話せる相手がいる。
「ボンドルドさん、現状を教えてください。そして、私は何をすればいいですか」
「不思議です。何故、みなさん私に蘇生させられると、何をすればいいと言うのでしょうか。善意です。プルシュカがあなた達を助けたいという思いに応えただけです」
見た目、闇派閥のマッドサイエンティストだ。
それに加え、蘇生なんて神でもできるかわからない事をやってのけているのだから、対価が求められるのではと思うのは当然だ。それなのに、善意とかそっちの方が怖いに決まっている。むしろ、対価を求められた方が幾分か安心すらできる。
それからボンドルドは、
まだ、
「分かりました。とりあえず、
「そこまでおっしゃるのでしたら、こうしましょう。あなたは、実は蘇生魔法に目覚めた。【フレイヤ・ファミリア】の団員達を蘇生した。我々、【アスクレピオス・ファミリア】は、医療系ファミリアとしてあなたの指示の下で医療活動に従事しただけです。ここで見聞きした事は、墓場まで持って行ってください。フレイヤ様にも内密に」
先ほどから謎の白い物体に組み立てられた団員が放り込まれて、取り出される。床に並び置かれていた。状況から考えるに、アレが蘇生の鍵となる何かであることは分かる。
「フレイヤ様にもですか……約束します。この場に居ない者達の生死は」
「残念ながら、判別できませんでした。救えたのは半数。されど半数です」
割り切るにしては大きな損耗だ。不幸中の幸いなのは、幹部と準幹部たちが無事である事。立て直すのに時間はかかるだろうが、【フレイヤ・ファミリア】の威光があれば……あって難しい。
それほどまでに、この
………
……
…
この
思案していた神フレイヤの元に珍客が現れた。
その者達ですら、珍客に対して敵対行動をとらない。
珍客の正体は【アスクレピオス・ファミリア】のプルシュカとニーナの二人だ。幼いながら、神フレイヤの客人であり、ファミリアに多大な貢献をした未来の幹部候補と言われる二人。
「フレイヤ様。プルシュカとニーナちゃんは、やっぱりご褒美をもらいに来ました」
「あの夜、何でもくれるって言いましたよね?」
「何でもとは言ってないわ。大抵の物ならば用意してあげると言ったのよ」
あの夜とは、どの夜の事だと、常識人であるレミリアとラスクは、聞き返したかった。男女問わず幅広く愛を振りまくフレイヤ様だが、他ファミリア所属の子供に手を出すのは、流石にまずい。
しかも、恩義あるファミリアの子供だ。
「
「無理ね。もう、止まれないわ。だって、失いすぎたもの。何もかも。
予想通りの回答だとプルシュカは頷く。
「【フレイヤ・ファミリア】の皆は、強い。フレイヤ様を残して死ぬような人は少ないわ。それと、プルシュカがフレイヤ様に格言を教えてあげる。初恋は実らないのよ……それでもだめ?
「…何をしたの。いいえ、違うわね。少しだけ。少しだけ譲歩してあげる」
神フレイヤは、失ったはずの恩恵の息吹を感じ取った。それも一人や二人ではない。相当数の者達が息を吹き返している。何をどうやったかは分からない。だが、生きている事だけは間違いがない。
「1年ごとに
「ふふ、面白い提案ね。でも、改宗には相手の主神の許可がいるのよ。ヘスティアがベルの改宗を認めるとは思えないわ」
美の女神が1年の期間で男を堕とせるかのチャレンジ。
「じゃあ、ヘスティア様も1年ごとの改宗という提案を飲んだら、お互い仲直りする?」
「えぇ、それが実現できたなら
そんな未来が訪れる事はないだろうと神フレイヤは思っている。
「パ…じゃなかった、神様ヘスティア様に中継を繋いで!!」
『神威』によるフレイヤ陣営とヘスティア陣営の双方に通信が開く。
『ヘスティア様!! あたしの事、見えてる?』
『プルシュカ君!? そこはフレイヤの所じゃないか、どうしてそんなところに』
そんな場所にいたら死んでしまうと言いたいが、それを神が子供に言う言葉として適切なのだろうか。と考え直す。
『パパが【アポロン・ファミリア】との
『今はそんなことを言っている場合じゃ……はい、言いました』
オラリオ全土に放送されているこの状況で、嘘など出来ない。
『
『そんな条件を飲めるわけないだろう。ベルは、僕の……』
ヘスティアが言葉に詰まる。
これは、別にヘスティアを貶めたいわけではない。戦争の落としどころを第三者が提供している場だ。しかも、医療系ファミリアとして”オラリオ最後の砦”と言われる【アスクレピオス・ファミリア】からの申し出だ。
ここの世話になった冒険者も多いし、交渉役が例の子供店長だ。
あれほどの仕打ちをされた今も手を差し伸べているのだから、ここで差し出された手を取らねば、色々と終る。さらに言えば、これ以上の案を神ヘスティアは提示できると思ってない。
『嘘つき。”なんでもする”って約束だったじゃない。自分に都合が悪くなった時だけ知らないって神様の言う事じゃない。永続的な改宗じゃなく1年ごとでフレイヤ様に妥協してもらったんだから、子供みたいに駄々こねないの。このままじゃ、みんな死んじゃうよ。そんなの嫌だよ』
『……ごめん、ベル君。くっそーーー、分かったよ。1年ごとだからな。後、細かいところは、別途取り決めるからね』
そう、これで丸く収まるのならば、苦労はない。
双方のトップ同士が引き分けで合意。だが、利益を見込んでついてきた者達はどうなるだろうか。【フレイヤ・ファミリア】を潰して得られるはずだった利益が1円も回ってこない。
風前の灯となった【フレイヤ・ファミリア】の戦力ならば、直接ホームに乗り込んで奪えばいいと思うバカ達が現れるのも時間の問題だ。裏で半数近くが蘇生されている事など彼等は知らない。
派閥連合側が暴れ出す直前に更に映像に割り込む神がいた。
『【ロキ・ファミリア】は、引き分けに賛成するで。文句がある奴は名乗りでろや。それとな、どのファミリアも結構な損害を被ったやろう、ギルドが特別予算を組んで補填してくれるで。感謝せ~や、ギルドの豚を引っぱたいて予算もぎ取ったさかいな』
神フレイヤと神ヘスティアが妥協はあればど、引き分けで合意したのならば【ロキ・ファミリア】としては仕事の大半が終わった状態で美味しい所だけ持っていける。そう判断して出方をうかがって正解だったと神ロキは思っていた。
まだ継続して戦闘を続けている場所や冒険者が多い所には【ロキ・ファミリア】の主力が完全武装で鎮圧に向かう。現最強ファミリアとなってしまった相手に面と向かってはもう逆らえる体力は何処にもなかった。
◆◇◆◇
引き分け交渉が締結する少し前。
オッタルは、集団の強さがどれほど強大か身をもって体感していた。圧倒的な個としての武力を有してしても、殺し切れないでいた。決して手加減をしているわけではない。だが、相手は何度も立ち上がってきていた。
「ディア・フラーテル」
都市最強のヒーラーが【ヘスティア・ファミリア】の者達を全員回復させ、何度も立ち向かってくる。
「なるほど。気が進まないが、お前から倒すべきか」
後衛支援として、ヴェルフの魔剣、命の重力魔法、春姫のレベル・ブースト。これらに加え、都市最強のヒーラーの回復魔法。
前衛では、死んだ目をしているリュー・リオンとベル・クラネルの二人がオッタルを抑え込んでいる。
基本戦術は、重力魔法で足止めした瞬間、全火力を叩き込み少しずつでもオッタルを削り落とす作戦だ。
この作戦は、時間がかかるがオッタルを倒すのには最適だ。相手が一人であり、近接特化である事と武人気質であることからベル・クラネルたちの戦略に付き合ってくれる。その上で打破しようと奮起する。
しかし、それもここまでだったようだ。
戦争遊戯の状況がそれを許さないと、オッタルの勘が告げている。ココにこれだけの戦力がいる以上、他の戦線は壊滅的な被害が出ている。つまるところ、ココを突破されれば、神フレイヤの下にベル・クラネルたちが到達して敗北が確定する。
だが、今聞こえてくる長文詠唱にオッタルは、後衛の始末は副団長アレンに任せる事にする。【フレイヤ・ファミリア】団長と副団長が揃えば、火力で十分押し切れる。アレンの魔法は、オッタルですら防御しなければ死ぬと予感できる威力だ。
「グラリネーゼ・フローメル!!」
アレンの全力が、オッタル目がけて放たれる。
野生の勘と言うべきか、身体が覇黒の剣を盾にしてアレンの攻撃を防ぐ。オッタルも意味が分からなかった。遠征時に挑んできたのは、この際許せる。だが、
「ぐっ…アレン。そういう事なのか」
「あぁ、そうだ。何時もの事だ。遠征の時と同じだ」
団長として、成長してきたオッタル。
全員とは言わないが、団員たちの経歴や性格などは多少なりとも覚えてきていた。『オッタルさんは、団長さんなんだから。皆の事をもう少し知らないと駄目だぞ。プルシュカとニーナちゃんで纏めた”団員の秘密手帳”。これだけ覚えれば、大丈夫』という、彼女たちの言葉を思い出す。
アレンのページ書かれていた内容は、”シスコン”。つまりそういう事だ
「この状況で、襲ってくる可能性は一つだ……人質はアーニャか。助けは必要か」
「何時から、そんな理解力が高くなったんだよ!! いらねーよ、家族の問題だ。こっちで解決する。だから、死んど…」
『アレン様、状況が変わりました。大変、よくやりました。これで用済みです。最後の仕事です。これでアーニャ様は解放しますので、自害してください』
今、どこぞの余計な連中が引き分け交渉に入っている事をこの場で唯一知る、リリルカ・アーデは焦る。もう少しで勝てるというのに、どうしてここで引くんだと。だが、流れを考えれば、引き分け交渉は成立する。
ならば、最後に一人でも多くの敵兵を終戦前に排除する。
「クソったれな
アレンは、手に持った槍で心臓を貫いて自殺をする。
これで妹が助かる保証はない。だが、それでも助かる可能性が僅かに上がるのならばそれで十分だ。
アレンが死に間もなく、
派閥大戦もこれでひと段落。
さて、戦後処理のターンだ。
リオンさん……このままヘスティア・ファミリアにはどうだろうか。
1年後ベル君が抜けたヘルメス・ファミリアって戻ってくるまでファミリアは持つのだろうか。
でも、最速でもあと半年あるから大丈夫だ。
その半年があれば、黒竜チャレンジまで行ける可能性もある。
ベル君のトラブル体質だ、半年あればオラリオどころか世界半壊もあり得る。