ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
戦争とは、戦っている最中も過酷だが、終わった後の処理もまた地獄だ。
清算処理をする必要がある。特に派閥連合側は、かき集めた戦力に対して約束していた報酬の支払処理が発生する。金銭の問題は最悪ギルド側の特別予算からの補填で何とかなる。だが、人的・物的損耗はどうするのか。
生きてさえいれば、アミッド・テアサナーレによる治癒魔法で何とでもなる。この異常なレベルの回復魔法は、欠損部位すら修復できるほどだ。だが、流石の彼女でも死んだ人間を蘇生させることはできない。
それが可能なのが、神ウラノスの懐刀であるフェルズだ。
極めて成功率が低い蘇生魔法を延々と詠唱し、生き返るまで続ける機械的な作業に従事するフェルズ。彼はこれから何年詠唱を続けなければいけないのだろうか。その確率の低さを聞いた神々の反応は、当然……これだ。
神ヘスティアの親友である神ヘファイストスですら、額に青筋を浮かべている。神を除けば地上最高峰の鍛冶師である【ヘファイストス・ファミリア】団長、椿・コルブランド。他にも参加していた団員たちの蘇生を早期に行ってほしいと神ヘスティアに詰め寄る。
だが、神ヘルメスとてそれは同じことだった。
金だけでは済まない問題がここで発生する。当然分かっていたことだ。だが、問題を先送りにしていた。勿論、団員を殺したのは【フレイヤ・ファミリア】だ。だが、あちらの団員も相当数殺し尽くした。無傷の生き残りなんていないほど、壊滅的な被害を与えた。
幹部はオッタル以外全滅。ヒーラー部隊も全滅。
当初の約束通り、死んでも大丈夫という蘇生魔法を早々に使って、団員を元通りにさせろという真っ当な要求だ。
「今、フェルズ君が頑張って蘇生魔法を使っているから待ってくれ。大丈夫だよ、ウィーネ君の時は一発成功したんだ。だから、ドンドン復活するはずさ」
「ねぇ、ヘスティア。椿はうちの団長なのよ。彼女がいないと色々と纏まらないの。それに他の子供たちもよ。三日、三日だけ待ってあげるわ。それまでに全員蘇生できなかったら、縁を切るからね」
「わ、わかってるさ。ベル君のレアアビリティ”幸運”に期待してくれ。フェルズ君と抱き合って魔法を使えば、たぶん効果は出るはずだ」
500年ぶりに蘇生魔法が成功した状況。それは
この冗談みたいなレアアビリティ……その効果は凄まじいものだった。実際、
「おいおい、ヘファイストス。僕の大事なアスフィだって、早々に蘇生魔法を使ってもらわないと困るんだぜ」
「俺が、ガネーシャだぁぁぁ。ならば、街の治安維持や今回の貢献度と被害を考えれば、ウチが最初だ」
我先にと皆が口々に要求を突きつける。鮮度を保つために死体をポーションに漬け込んでいるが、これだって莫大な費用が掛かる。死体すら残っていない冒険者も多く、ヘスティアの処理能力を大きく超え始めていた。
そもそも、誰を優先するかという選択は、命に優劣をつけることになる。
誰を選んでも遺恨が残るのは間違いなかった。
地獄の
「わかった、わかったから……フレイヤ。君の所は、その~……蘇生魔法は必要じゃないのかい。僕が言えた義理じゃないけれど、ファミリアのほとんどが死んでしまったじゃないか。フレイヤが望むのならば」
「本当に言えた義理じゃないわね。帰らなかった者たちも多くいたわ。だけどね、得るものもあったのよ……言ってなかったかしら。アレン、ヘグニ、ヘディンを含めた幹部たちは生きているわ。ヘイズが蘇生魔法を覚えたのよ」
今この場にいる神々が喉から手が出るほど欲しい魔法。
既に幾名も復活させているとなれば、その確実性は極めて高い。今まで殺し殺されで
【ヘスティア・ファミリア】の優位性は、今や蘇生魔法の手配ができるという点にのみあった。
「嘘だぁ~、蘇生魔法なんてレア魔法が簡単に発現するわけないだろう」
「失礼ね、ヘスティア。仲直りしたばかりだというのに、そんなことを言うのね。疑うなら証拠を見せてあげてもいいのよ。ヘイズを呼んで、試しに蘇生してあげましょうか」
神フレイヤの自信満々の様子に神々は戸惑う。蘇生という魅惑の言葉に、誘惑すらされてしまう。
この自信の裏付けには理由があった。
………
……
…
しかし、ここで問題なのは、どうやって蘇生したかだ。
その明確な理由を知る者は……ヘイズを置いて他にいなかった。他の者たちが目覚める前にボンドルド達は撤収しており、現場で息を吹き返した者たちに説明を求められたヘイズは言うしかなかった。
蘇生魔法による復活だと。
そんな見え見えの嘘を神フレイヤが騙し通せるはずもない。
「ヘイズ……私にも言えないということなのね」
「フレイヤ様、こればかりはお許しください。命の恩人であり、ファミリアの恩人を裏切れというのは酷です。ですが、決してフレイヤ様を裏切るつもりなどはありません」
蘇生魔法の秘密は言えない。
だが、関連している連中は、間違いなく【アスクレピオス・ファミリア】が関与している。ギルドの専売特許だと思っていた蘇生魔法を既に手に入れているのだろうかと神フレイヤも思う。
「そう、なら聞かないわ。恩人であることには変わりがないもの。じゃあ……嘘を真実に変えましょう。ヘイズ、あなたならやれるわ。いいえ、あなたにしかできないことがあるの。頼めるかしら」
「はい、喜んで!!」
魔法の発現とは、その者の境遇や精神に依存する。一度死に戻った彼女ならば、蘇生魔法に目覚めてもおかしくはない。だが、並の経験では駄目だ。彼女は初期で
故に、渇望が足りない。魂の叫びが足りない。
誰かが蘇生してくれるのではなく、自らが蘇生して仲間を助けるという気合が足りない。
ヘイズは【アスクレピオス・ファミリア】の門を叩いた。全ては、彼女の主神であるフレイヤ様のため、嘘を真実に変えるため、蘇生魔法を必ず覚えて帰ってくると。
それに比べて、ファミリアの生命線を預かるはずだったヒーラー部隊はどうだ。彼女を除いた他のメンバーで蘇生できたものは少ない。ファミリアの立て直しのためにも、神フレイヤのためにも、彼女の戦場は今から始まる。
他ファミリアで五体満足で生きて”不屈の花園”に招待された最初の一人となるヘイズ・ベルベット。彼女は神フレイヤに聞かれても、何も答えなかった。信頼がおけるものであり、彼女の神フレイヤへの愛を感じ、招待された。
そこで働く
花畑でクオンガタリによって生かされ続ける冒険者。
そして、【フレイヤ・ファミリア】の団員たちを蘇生させた特級遺物”呪い除けの籠”。
ヘイズ・ベルベットの回復魔法に関する才能は、歴代の冒険者を見てもトップクラスである。現代最高のヒーラーが頭一つ抜けているだけで、彼女の才能は極めて高い。そんな彼女が蘇生魔法を求め、血の滲むような努力をして手に入らないわけがない。
「素晴らしい場所でしょう。我々はここを”不屈の花園”と呼んでいます。そして、これからあなたが蘇生魔法を覚えるため、生き残る場所です。他のファミリアで無事にここまで来たのは、あなたが初めてです。覚悟はよろしいのですか?」
「勿論です。フレイヤ様より、必ず蘇生魔法を覚えてくるように言われています。私ならできると。フレイヤ様の愛に私は応えたい。その為なら、何度だって死んで、何度だって生き返ってみせます」
生き返らせるのはボンドルド達の仕事ではあるが、その意気込みには共感できるところがボンドルドにもあった。男より女の方がこういった覚悟が決まる。
忙しい院長達に代わり、現場監督に名乗りをあげるプルシュカとニーナ。この二人がいれば、死んでも蘇生できるし、生きていれば治療もできる。
「よく言ったわ、ヘイズお姉ちゃん。経験値もたくさん持って帰りたいと聞いて、特別な子を用意してきたから、頑張ってね。この子は、タマちゃん」
「この子はテイムモンスターじゃないから手加減できないからね。倒せるまで何度も回復と蘇生させてあげるから、頑張ってください」
プルシュカが、首輪をつけた四足歩行の謎生物を連れ出してきた。ダンジョンでは見たこともないような生物だ。
その生物の名は、タマウガチ。
「上等よ。これでも、『
ダンジョンのモンスターが可愛く見える化け物を相手にさせられるヘイズ。手も足も出ず殺されること数度、自己治癒をかけながら生存時間を延ばすが死ぬこと数度、力場を読めずにダメージを与えられずに死ぬこと数度……彼女は死ぬ度に経験を積み、学び、力場を知り、強くなっていった。
そして、丸二日寝ずにタマウガチと戦い続け、タマウガチの脳天にその杖をぶち込むことに成功する。
これを観戦していた
この”不屈の花園”の門番であるタマウガチをヒーラーが撃破するとは、個として最強と言われる【フレイヤ・ファミリア】ならではだ。
度重なる死の経験、そして蘇る経験。これほど生と死の狭間を行き来した者はいない。それゆえに、神フレイヤの下でステイタス更新をした際にランクアップ可能と合わせて、新しい魔法が発現した。
さて、リリルカさんとリューさんあたりもご紹介したいところです。
そして、学区編……ボンドルド先生と生徒プルシュカの登場か。
優等生クラスにプルシュカ体験入学でもさせようかな。
そして、医療系ファミリアとしてボンドルド保険医。