ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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59:学区

  学区の到来の知らせがオラリオに届く。

 

 オラリオのファミリア運営において、この機会を逃さないように入念な準備をしていた。そのファミリアに漏れず、プルシュカは自分のアドバイザー担当であるミィシャ・フロットに会いに来ていた。

 

 その理由は、彼女が学区出身であることだ。つまり、優秀な後輩を紹介して欲しい…とまでは言わないが、眷族募集(リクルート)の為に用意したチラシを見込みがある生徒に配ってそれとなくファミリアの宣伝をして欲しいという物だ。

 

 ミィシャは、担当アドバイザーとして、こういうのを求めていた。そのチラシには、”困っているヒトを助けませんか”と非営利の医療系ファミリア【アスクレピオス・ファミリア】。

 

「へぇ~、いいんじゃないかな。医療系ファミリアって、戦いが得意じゃない人には人気あるしね。プルシュカちゃんは、最近見かけなかったけど、これを作っていたのね。ボンドルドさんも何故か無事だったみたいだし、良かったわね」

 

「でしょう~。この日に備えて、パパたちとダンジョンに潜って来たのよ。学区の生徒は、実習でダンジョンに潜るんでしょ。だから、迷宮の花園(アンダーガーデン)に沢山新商品用意してきたから」

 

 迷宮の花園(アンダーガーデン)と聞いて、ミィシャは最近耳が遠くなったかなと思い始めた。迷宮の楽園(アンダー・リゾート)なら、まだ少しは分かる。あそこは、暴利だから学生の財布じゃ支払えないだろう。

 

 だからこそ、慈善活動をしている子供達の露店で英気を養ってダンジョンでの実習を乗り切ってほしいと思っていたが……あの名前を言ってはいけないファミリアが原因で名物が一つ消えてしまった。

 

「そ、そうなの。一応確認だけど、下層の迷宮の楽園(アンダー・リゾート)よね?」

 

「もちろんよ。深層まではちょっと時間がなかったから今度補充に行く予定よ。でも、新人が入ったら、パパたちと一緒にアイテム補充に連れていく予定なの。うちのファミリアは、レベルは問わないわ。レベルなんて飾りだもの……でも、高レベルは歓迎よ」

 

 彼女は仲の良い【ロキ・ファミリア】のエルフィ・コレットから深層の安全階層に無人販売店があると、証言を受けていた。誰がそんな場所に無人販売店を作るのかなど……聞けば、店舗にはプルシュカとニーナの名前があり、いらっしゃいませという手作りの看板と集金箱があるとの事だ。

 

 何がどうやったら、そこまで辿り着けるのだろう。ギルドが情報封鎖している深層の情報をミィシャは読んだ事がある。あれは、冒険者の心を折るには十分な場所だ。

 

 Lv.1(レベルワン)が大半で深層50階層から帰還してきたレコード・ホルダーとして、【アスクレピオス・ファミリア】の遠征が記録されている。同行者として、5年前に死んだとされていた【アストレア・ファミリア】のメンバーがいたにせよ快挙であった。

 

 Lv.1(レベルワン)のガキどもに負けられるかと言う謎の対抗心を燃やした冒険者が幾人も帰ってこない事件も裏では起きていた。

 

「私は、飾りじゃないと思うんだけどな~」

 

「レベルなんて上げたい人は上げればいいのよ。プルシュカ達には関係ないから。あぁ、今日はこれをミィシャさんに持ってきたんだ。下層からギルド直通に連絡ができるように通知用魔道具を置いてきたから」

 

 ミィシャは、この眼晶(オクルス)がどれだけヤバイ物かを理解している。腐っても学区出身だ。悪用すれば、それこそオラリオが再び未曽有の危機になる。ギルドの専売特許だと思われている魔道具を平然と出してくる。

 

「もしかして、救援要請があればギルドに動いてほしいと」

 

「そうよ。だって、高い税金とっているんだから、働かないとダメだぞ。じゃあ、プルシュカはそろそろパパと学区を見に行くから、後はお願いねミィシャさん。…本当はダメなんだけど、ニーナちゃんが作ったお酒の新作だって。皆に内緒だからね」

 

 キンキンに冷えたストロング・ソーマ・ゼロの500ml缶という賄賂を送る。翌日二日酔いのまま学区の生徒対応をさせられることになる。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 オラリオより少し離れた場所にある港町メレン。

 

 そこには、フリングホルニの大点検大修理の為に寄港しており、見晴らしがよい場所ならば遠目でもその姿が確認できる。船の上に街がある。その巨大さもさることながら、この船がかつて三大クエストと言われる海覇王(リヴァイアサン)討伐に使われた物だ。

 

 ボンドルドは、これを見るためにオラリオから足を運んでいた。そして、彼の肩にはプルシュカが乗っており、大きな船に大興奮していた。オラリオの外の世界を知らない子供にとっては、未知が詰まっている。

 

「気に入っていただけましたか、プルシュカ。これが、海覇王(リヴァイアサン)討伐の足場に使われたフリングホルニです。そして、あの羽根のようにみえる物がドロップアイテムの一つである海覇王(リヴァイアサン)蒼鰭(そうき)です」

 

「すごい、すごい。パパ、もっと近くでみたい。中に入れないのかな?」

 

 フリングホルニは、寄港に伴い一部を一般公開していた。本来、部外者立ち入り禁止なのだが、ギルドからの資金援助が途絶えた事もあり、一定額の寄付金と手続きをする事で入船可能だ。

 

 この研究材料の宝庫である為、決して安くない寄付金を支払いボンドルドも当然その気でいた。だが、保安上の問題が発生する。

 

 入船時の確認において、ボンドルドは鉄仮面を被っていることから乗船が認められない。顔を見せるなどアイデンティティの消失である。

 

「パパ。プルシュカがパパの分までしっかり勉強してくるからね~」

 

「お願いしますね、プルシュカ。それと、知らない人に付いて行ってはいけませんよ。迷ったら、大人の人を頼る事。分かりましたね」

 

 かわいい子には旅をさせろという言葉があるように、ボンドルドはプルシュカをフリングホルニに送り出す。

 

 本日は、【アスクレピオス・ファミリア】も久しぶりの休暇で4院長全員がそれぞれ子供を連れて、現在、フリングホルニに乗船する予定。親子水入らずの時間となるはずが、ボンドルドは近くのカフェで一休みしていた。

 

 だが、偶然にも隣の席に座る男性に見覚えがあった。太陽のように眩しい輝く服をきた涅マユリだった。かれも、不審者すぎて乗船拒否された口だ。

 

「なんだネ。席なら他にも空いているだろう。ここにいるという事は、乗船できなかったのか。これだから猿どもは、困るネ。人を見た目でしか判断できないのだから」

 

「それには同感です。我々のようにルールを守る大人もいれば、ルールを守らない神や子供もいるというわけです。あれらは、どうすべきでしょうか」

 

 ボンドルドの視線の先には、神ヘルメスとオラリオの”白い悪魔”とまで揶揄され始めた白兎(ベル・クラネル)がいた。正直、ボンドルドも涅マユリも目を疑いたくなる光景だ。

 

 次なる標的は、まさか学区なのかと思うばかりだ。

 

 実際その想像は間違っていなかった。神ヘルメスは、学区の生徒獲得とある神に白兎(ベル・クラネル)を会わせる為にここまで来ていた。だが、大事な事だが、学区の生徒がオラリオに来る前に勧誘するのはマナー違反だ。

 

 それこそ、不法侵入。

 

 この無茶苦茶な提案……本来なら白兎(ベル・クラネル)も拒否しただろう。自身のファミリアがそれどころではない状態だ。だが、【ヘルメス・ファミリア】に恩義もあり、蘇生を待たせている事もあるので、嫌とは言えなかった。

 

 Lv.5の身体能力を余すことなく使い、透明化の魔道具を使い神ヘルメスと共に学区に不法潜入していった。彼等が乗船するには、これ以外に方法がないのも事実だ。

 

「おぃ、あれは何だネ!! 神が他ファミリアの団長を使って犯罪しているじゃ~ないか」

 

「おやおや、我々より不審者はすぐそこにいるというのに、何故誰止めないのでしょうか」

 

 神ヘルメスと白兎(ベル・クラネル)がいる現場を目撃した住民は確かにいる。だが、君子危うきに近寄らず……関わるとどうなるか、オラリオだけでなく港町メレンの住民も理解していた。

 

 それから、暫くして警報音がけたたましくなり始めた。

 

 昨今のオラリオの事情から考えて、学区側の警戒レベルは最高峰だ。侵入者がいる事が分かると、停船していたフリングホルニがエンジンを再始動して、陸地から離れようと準備を始める。この手の巨大船舶は、一度止まってから再度起動するまで約1時間。

 

 それまでの間に問題が解決しなければ、学区はオラリオから離れる。

 

 当然、学区側にもリスクはある。だが、フリングホルニは別の港でも大点検大修理が出来るように準備を進めていた。オラリオの次に学区で大問題が起きて生徒が大量死するのは、学区側としても許容できる問題ではなかった。

 

『全生徒に連絡します。学区に侵入者を確認しました。Lv.2(レベルツー)以下の生徒は、観光客の方を連れて第一シェルターに避難してください。Lv.3(レベルスリー)以上の生徒は、教員の指示に従い武装待機。街中での武器使用、魔法使用を無制限許可します』

 

 侵入者が想定以上の身体能力であることから第一級冒険者と仮定される。オラリオでも40人程度しかいない、化け物の一人だ。その謎の侵入者の目的が分からない以上、逃すわけにはいかない。

 

 学区には、様々な先端技術や珍しい物がある。これが闇派閥にでも渡ったら大変なことになる。だからこそ、殺せるならば殺しておくべきだと結論付ける。

 

 そもそも、良識あるファミリア、まともな第一級冒険者なら正規以外の方法で潜入などしない。学区の対応の早さは、既にこうなることを予見していたかのようだ。

 

 この大事件の報告は、間もなくオラリオのギルドにも伝わるだろう。学区が離れてしまえば、ギルドの豚の壮大な計画が崩れる。そして、各ファミリアの人員確保が遠のく。

 

 そして、闇派閥は喜ぶ。

 




既にニイナさんとコンタクトしているベル君だった。
この世界線ではこれが現実…。
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