ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
大人組のボンドルド達は、一足早くオラリオへと戻ることにした。既に学区での調べ物はほぼ終わっている。名残惜しくないかと言えば嘘になるだろう。だが、それ以上に面白いことが分かり、早々に帰路に就いた。
「間違いないネ。私が仕掛けたダンジョンの計測器に異常が生じた。深層60階層にいる研究対象が何かをするつもりさ。実に愉快だヨ。無い知恵を絞って考えた作戦が、事前に察知されているんだからネ」
興奮気味に話す涅マユリ。彼の研究は、主に精霊や魂といった非科学的な事象を扱うものが多い。
「それは、素晴らしい予感がします。私に手伝えることがありましたら、何でも言ってください。日頃お世話になっているのですから、惜しみない協力を約束します。私が持っている遺物リストからお好きな物を選んでください」
「私も協力するよ。『賢者の石』が必要なら、いくつでも持って行ってくれていいから。どうせ幾らでも作れるしね」
「僕も協力するよ~ん。多分、僕の力もいるでしょう?だって、『理解』の力も必要だよね」
四院長が力を合わせれば、不可能はない。一人では駄目だ。二人でも駄目だ。三人でも駄目だ。四人そろってこそ叶う願いだってある。下界の子供達が手と手を取り合い、不可能への挑戦をする。
普通に考えれば、神としても喜ばしいことだ。下界の子供達が、試行錯誤し工夫を凝らす姿は微笑ましい光景だろう。だが、四院長が集まって一つの事をやりだすことは、神アスクレピオスの胃に甚大なダメージを与えることは間違いなかった。
………
……
…
ダンジョンでの僅かな異変。それは、ダンジョン30階層で起きていた。
【アスクレピオス・ファミリア】が作った裏口のおかげで院長達は、28階層までは最速で来られる。そこから僅か2層下がれば目的地だった。そこは一見、何の変化もない。ただ生い茂る密林があるだけだ。
モンスターも普通に徘徊しており、強化種が大量湧きしている事もない。ジャガーノートがいるわけでもない。いつもの30階層だ。だが、涅マユリが「異変がある」と言うのだから、そこに異変は絶対に存在する。
そのまま、涅マユリが少し歩き、大木の根っこのあたりで足を止めた。
「ここだネ。力仕事は任せたヨ。このあたりに、気味の悪い根っこが伸びているはずだ。それをゆっくりと取り出すんだ。それが、60階層にいるデミ・スピリットが何かのためにここまで引き延ばしてきたパイプラインだ」
「持ち物からある程度察していましたが、壮大な計画です。……『精霊の六円環』。これを見越して、
ボンドルド達は、地中に延ばされているデミ・スピリットのパイプラインを見つけるため、あたりを掘り始める。邪魔なモンスターもいるが、そんなものは院長達には全く関係なかった。
ショウ・タッカーが指を鳴らすと、モンスターが地形ごと消し飛ばされる。ただ、下層以降において破壊しすぎると、イレギュラー対応としてジャガーノートが現れるため、ダンジョンの修復力を考慮しつつ対応する。
このダンジョンの修復力のおかげで、ボンドルドも採掘には苦労していた。地中パイプラインを傷つけてしまえば、相手に気づかれる可能性がある。そんなミスなどしたら院長失格だ。
一時間ほど採掘したところで、ボンドルドがようやく気味の悪い木の根を発見する。
「いやはや、助かったヨ。力仕事は私の領分じゃないからネ。後は任せたまえ。私が作った偽造ラインを接続すれば、デミ・スピリットのエネルギーがこちらに流れ込む計算さ」
自動人形に改造され安全装置が埋め込まれている『宝玉の胎児』。
それとエネルギーパイプラインが今、接続された。目に見える変化はまだないが、数日も経てば間違いなく胎児は成長する。本体であるデミ・スピリットがこの流れに気が付いた時には、既に院長達の仕事は終わっているだろう。
エネルギーを十分に吸い上げた『宝玉の胎児』は、数日もすればデミ・スピリットに成長を果たす。デミ・スピリットにまで成長すれば、兵器転用可能になる。院長達が研究してきた成果がここで生きる。人造の
ボンドルドとしては、プルシュカが先輩冒険者として学区の生徒を導く姿を見たいと思ったが、優先度はこちらが上だった。後でご機嫌取りが必要になるだろうから、お土産が必要となる。
………
……
…
ダンジョンで一日が経過する。
既に小学生くらいのサイズにまで成長したデミ・スピリット。6体も並ぶと気持ち悪いことこの上ない。稀に深層まで足を延ばしてくる冒険者達も、涅マユリの輝く衣服や紫のライン鉄仮面を被ったボンドルドが見えたら自然と遠のく。
これが自然の「人避けの結界魔法」だ。
深層ともなれば、冒険者の数は本当に激減する。メリットもあるが、死亡する確率が高くデメリットが跳ね上がる。下層でも十分金になる資源は採取できるし、ここまで来るのは酔狂ともいえる。
だが、ここまで来れる冒険者なだけあって、有象無象の上層中層の連中とは決定的に違う事がある。
「無人販売所!! ありがとう。お金はいれておいたから」
と、遠くから声だけは掛けてくれる冒険者もいるという事だ。
ダンジョンで二日目が経過する。
豚くらいのサイズにまで成長したデミ・スピリット。目を開け始めて意識があるようだ。人語らしきものを発声するが……詠唱だと気が付いたフェイスレスによって、一言だけ言葉を発して『理解』させた。
「僕は君達の創造主だよ~ん!!」
完全に決定づけられた『理解』から逃れる術などない。神とて、彼の手によって自動人形にされていれば逃げられない。『理解』とは、自分が自動人形の造物主であることを分からせ、精神を破壊させる。人だろうが、モンスターだろうが、神だろうが、これには抗い得ない。実験が証明している。不変の神の特性を上回る。
ダンジョンで三日が経過する。
本日から学区の生徒によるダンジョン実習が始まる。だが、この日を境に深層では異変が生じた。なぜか通常の三倍の速さでモンスターが湧き始め、強化種までウロウロし始めた。深層でここまで異常事態になるなど、まるで『
「まさか、気が付かれた!? この私が!? あり得ないネ。後三日はここで死守するんだヨ」
「おやおや、まるで
「三日も寝ずに戦いは、年だから骨を折るんだけどね。……別に、強化種を殺してしまってもいいんですよね」
ボンドルドも確実性を増すために、全力を出す。
手や足から白い毛が生え、手足の爪はジャガーノートのようだった。全身が一回り大きくなったかのようで、人間からモンスター側に一歩近づいた形態へと姿を変貌させる。
「あぁ、素晴らしい。これが『祝福』なのですね」
こうして、誰も知らない場所で長い戦いが始まった。
◆◇◆◇
その頃、学区生徒のダンジョン実習は、想定外のトラブルに見舞われていた。
ダンジョン上層で謎の大崩落により、幾人もの生徒が行方不明となる。ダンジョンでのトラブルに慣れていない生徒達は動揺し、普段ならば失敗しないようなミスを犯す。だが、そんなミスを犯したタイミングでこそ、ダンジョンは牙をむく。
この大崩落に巻き込まれながらも、学区の生徒として正体を隠し『
崩落の下敷きになって死んだ者。突然背後に湧いたモンスターに殺された者。パーティー人数が減り、不安で本来の力が発揮できずに死んだ者。そういった者達が出始めてきた。
当然、『エリート小隊』と言われる第七班は、この危機を乗り切った。
指導する立場のレフィーヤは、彼等が乗り切ったことで何も言わず、次の行動を待つ。プルシュカも同じだ。だが、プルシュカはレフィーヤに小声で言う。
「……レフィーヤお姉ちゃん。もしかして、『
「やっぱり、討伐されたのって嘘よね。【ヘスティア・ファミリア】が何の動きも見せないし。プルシュカちゃんが想定する最悪は?」
常に最悪の一歩上となる事を想定することで、未知のトラブルを回避できるように努める先輩冒険者達。
「階層主ね。インターバル的に問題なかったはずだけど、この崩落でいつもの道は使えないわ。それにね、こういう場合は入り口に向かうと碌な事にならない。目指すなら、当初の予定通り、
「あり得ないと言えないのが怖いのよ。仮に、階層主と対峙したら?」
プルシュカが背負っている荷物を指さす。備えあれば憂いなし。ダンジョンにおいて絶対など存在しない。
レフィーヤは彼女が背負っている物が何かは知らないが、女の勘が告げている。絶対に碌でもない武器だと。学区の学生が勘違いするから、そういうのは出さないようにと言いたいが、階層主相手ならば仕方ないと思うばかりだった。
だが、その碌でもない武器に助けられ……まさか、一安心するはずの
そして、こんな場所で一緒に居られるかと、第七小隊は下層へと連れていかれる。
全てを偶然で片づけるのには、あまりにも被害が大きかった。人が死んでいる。学区の教師陣営が一部は救ったがダンジョンでも不測の事態に完璧な対応は無理だ。
しかし、ここで想定外の事が発生する。下層への退避をした第七班。なぜか、
この量の敵に腰が引ける第七班の生徒達。最初は良かった、この程度のモンスターなど容易いと。
「まったく、だらしないわね。プルシュカとレフィーヤお姉ちゃんが対応するから、少し休んでていいわ。プルシュカが前衛、レフィーヤお姉ちゃんが後衛ね。よっと……
プルシュカが跳ね上がり、モンスターの頭上からクモの糸のような物資を放出し、モンスターを拘束する。だが、拘束力の方がモンスターの耐久度より強くそのまま殺してしまった。
だが、プルシュカがインチキだというのならば、レフィーヤはチートである。
「誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ。帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢。 雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え ヒュゼレイド・ファラーリカ!!」
大量のモンスターと戦っていたプルシュカごと薙ぎ払う。その行動に、第七班は、思わず目を疑った。まさか、誤射で当ててしまったのかと。
だが、燃え盛る炎のなか、少し衣服が黒く焦げただけのプルシュカが元気に火の海から戻ってきた。
「ちょっと、プルシュカの大事な服が焦げちゃったじゃない。作戦と違う!! 威力は、抑えてって言ったでしょ。『暁に至る天蓋』を焦がすって、どんなバカ火力してるのよ。ニーナちゃんはもっと上手に火力を調整してくれるわよ」
「なんか、直撃させなければ、なんか大丈夫かな~って思っちゃって。でも、プルシュカちゃんだって、火耐性を積んでるから、なんでも来いって言ってたじゃない。でも、なんで無事なの?」
第七班小隊の率直な感想。
狂ってやがる。どっちも狂ってやがる。あの威力の魔法を打てと言われたからと言って、仲間が目がけて撃つのか?火耐性をがん積みしているからといって、『
「でも、モンスターは全滅させたから、良し!! 結果良ければ全て良し。もう少しで、お待ちかねの
元気に先導するプルシュカを見た第七小隊。もう、舐めた口がきけないと心から思った。
もう、これ以上驚く事なんてないだろうと思っていた第七小隊。だが、現実は甘い。彼等はダンジョンを甘く見積もり過ぎていた。常識で推し量ろうなど、愚かだと実感させられる。
レフィーヤも無人販売所の存在は、ファミリアで聞きおよんでいたが、商品ラインナップがここまで充実しているとは予想外だ。
それどころか、女神フレイヤ像と礼拝施設まである。そこに並べられている情報誌は、先週発刊されたばかりの比較的新しい物ばかりだ。
「正直驚いたわ。よくわかっているラインナップじゃない。プルシュカちゃんが用意したの?」
「その通りよ!! 学区のみんなが来ると聞いて、宣伝も兼ねてね。【アスクレピオス・ファミリア】の
そのチラシの一枚を手に取るルーク・ファウル。そこに書かれている『
そんな最中、レフィーヤが無人販売所からダイヤモンドサンドペーパーを手に取り、集金箱にお金をいれてイソイソと立ち去る。鍛えられた冒険者であっても生理的欲求には勝てない。
第七小隊の者達も同じだった。今まで緊張の連続で色々耐えていたが、彼等も生理的限界は近い。ダイヤモンドサンドペーパーを手に取り、茂みへと隠れる。第七小隊の悲痛の叫びが
そして、何事も無かったかのように替えの下着を更に購入する。
学生が死んだ・・・大丈夫だ、蘇生魔法がある!
さて、ロキ・ファミリアの遠征が始まる。
医療系ファミリアとして及ばする可能性もわずかにあるのだろうか。
アミッドさんいるからまぁないか。