ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
「いってらっしゃい!! みんな~、頑張ってきてね」
子供達の熱い声援を受けて、深層への遠征を開始した者達。なぜだろうか、自分たちより先に次の安全階層に到着するのは不可能なはずなのに、先回りされて歓迎の準備がある気がしてしまっていた。
そんな裏道があるなら、遠征部隊としても教えてもらいたいほどだ。だが、よそのファミリアの企業秘密を奪うような事は、オラリオを代表する【ロキ・ファミリア】には出来ない相談だ。これが敵対ファミリアならまだしも、恩しか売られていない状況でそんな無礼はできなかった。
それこそ、遠征の士気にかかわる。
次の安全階層は、現在確認されている最後の場所だ。深層50階層にある。そこに着くまで油断大敵だ。その為、アイズが最後尾の殿で遠征部隊全体を見張る。彼女の勘ならば、もし後ろからこっそり付いてくるボンドルド達がいても察知できるだろうという判断だ。
「この際だから、一緒に付いてきてくれた方が安心感すらあるんだけどね。リヴェリア、ガレスはどう思う?やはり、裏道が存在していると思うかい?」
「あるかないかで言えば、あるだろうな。そうでなければ、説明がつかない。それと、アリーゼ達についても、5年前と変わらない姿だ。エルフのような長寿でもなければ、説明ができないだろう。蘇生魔法の存在は、今や公になっているが、彼女たちが再度目撃された時期から考えるに…」
「三人目の蘇生魔法持ちがいる【アスクレピオス・ファミリア】がいるというワケだな。儂としては、正直どうでもよい事だ。オラリオの暗黒期から、良くない噂はあったが、実際どれもこれも噂どまり……街の医療にここまで貢献していたファミリアはまずなかったぞ」
見た目だけ胡散臭いが、やっている事は至極真っ当だというファミリアだ。
妥当な判断だとフィンも納得する。実害はないどころか有益だ。裏道については、悪用している雰囲気もないし、一端は主神にその件は預けて目の前の事に集中するのが彼等の第一だった。
当然、遠征の快進撃は止まる事はない。
しかし、次の安全階層までは道中で1日過ごす必要がある為、ある意味ここでの士気が不安視されている。今までの落差に絶望するのではないかと。【ロキ・ファミリア】の遠征において、物資を運んでいる部隊や調理する者達は今から戦々恐々だった。
………
……
…
ボンドルド達は、遠征部隊を見送り、清掃やここに来た人が安心して使えるように部屋の宿を施錠した。その鍵のある場所も明記して、次に訪れた人が自由に使えるようにする。無人販売所もあるし、ココで命を繋ぐこともできるだろう。
地上への連絡用
「プルシュカ、そろそろ出発しますよ。次は、何がしたいですか?」
「美味しいご飯、美味しいお酒、温泉、安全な寝床……娯楽がないわ!! やっぱり、ラストダイブになるかもしれないのに、思い残す事が無いようにしないと」
ボンドルド達は、一理あると考えた。
読書と言う娯楽はあるが、それも人それぞれだ。人は仕事だけに生きてはならない。娯楽あってこその人生だ。だが、そうなると何が良いかだ。そうなると、全員が共感できる話題であるべきだ。
「次の安全階層で色々考えましょう。47階層からは歩きです。深層ですから油断しないでください。アリーゼ達もですよ」
「分かってるわよ。それにしても、47階層まで直通できるって本当に教えてないでよかったの? 裏道があるって絶対にばれているわよ。隠している気もないでしょうけど」
些細な問題でしかない。
どのみち、ギルドが近い将来同じような事をするのだから、それに先駆けて裏道があるだけだ。しかも、テイムモンスターがいないと実行できないし、闇派閥から専用の魔道具を仕入れないと難しい事だ。
ワーム・ウェールに乗り込み、47階層までスキップするボンドルド達。モンスターの胃袋の中は、心地よいとは言えないが安全ルートを通り素早く到達できるという事で生臭いのは我慢。移動先で洗えばいいだけの事だ。
深層の二体目の階層主となるバロールは、この間、アステリメスが討伐している。だが、世の中そんなに甘くはない。先日、このダンジョンでベル・クラネルがトラブルを起こしている。
謎の崩落、下層でのモンスターの異常発生、数えればきりがない。この深層においても当然同じだ。事実、ウダイオスがインターバルを無視して復活しているのだから。ボンドルド達は、遠征組からウダイオス討伐の報告を聞いており、バロールも復活していると考えている。
そして、その読みは最悪の結果で当たってしまう。
深層49階層…階層主バロールが出現する階層であり、最後の安全階層の一つ手前。そこには、前回見た時の倍以上のモンスターがうごめき、バロールもしっかりと再出現していた。やはり、ベル・クラネルのトラブル体質は深層にもしっかりと影響が及んでいたことが証明される。
この軍勢を前に佇む最強が一人いた。
「おやおや、オッタルさんではありませんか。ここまでお一人で来られるとはさすがです」
「オッタルさん!! いいところにいるわね。そんな困っているオッタルさんに、プルシュカから提案があります。雑魚処理は、パパ達とプルシュカ達で引き受けるから、バロールと1対1のチャレンジをやってみない?アステリメスさんも同じ条件よ」
碌な食糧も持たずにここまで一人で下ってきていたオッタル。彼だからこそできる離れ業だ。だが、彼も自殺がしたいわけじゃない。確認されている最強の階層主バロールとの死闘……是が非でも達成したかった。これが達成できた時、オッタルは次のステージに初めて進める。
オッタルとしても願ってもない申し出ではあった。
通常の倍以上いる雑魚モンスター。だが、数がいればオッタルにとっても十分脅威となる。それこそ、階層主を相手にしている時に来られては命取りにもなる。
「ここでの戦闘経験は、確か有ったな。報酬は?」
「”困っているヒトを助けなさい”。それが、教えなのよ。困っているオッタルさんをアタシ達が助けてあげよう……と言えたらよかったんだけどね。この先に行くのに、バロールが邪魔だから一緒に頑張ろう!! こう見えて、私達も強いんだから」
オッタルの視線がボンドルド達を捕らえる。十分だと判断が下される。アリーゼ達もLv.5以上であり、十分使い物になる。
「だが、無償で働くのは止めろ。これは、俺からの雑魚処理の依頼だ」
「そっか~、じゃあ、プルシュカ達の遠征を手伝って!! それでチャラにしてあげる。代わりに、美味しい食事や必要物資はこっちで用意するから」
オッタルがプルシュカの手を握る。これで交渉成立だった。
雑魚処理を気にしないでよいのならば、オッタルに迷いなどなかった。決死の覚悟も考えていたが、今では心強い仲間もいる。
覇黒の剣を構えて、バロールを目がけて一直線に進む。
「パパ!! オッタルさんがもう突っ込んじゃった。早く早く!! みんなも出撃しないと」
作戦など何もなしに、まさかの突撃。今交渉を終えたのだから、作戦会議があっていいものだと考えていたが甘かった。脳まで筋肉で出来ているファミリアを侮っていた。アリーゼ達もお世話になっている【フレイヤ・ファミリア】の団長がここまでだとは予想外だった。
【ロキ・ファミリア】の団長フィンと比べるのは酷だと理解する。
しかし、統率力の代わりに筋肉に全振りしているオッタルの実力は、アリーゼ達の度肝を抜く。階層主バロールと真っ向から打ち合いながらも優勢に事を進める。Lv.8に最も近いLv.7と称されるが、魔法とスキルの両方を併用する事で実質Lv.8の最上位みたいなほどステイタスを高められる。
暴力は全てを解決するということを体現したかのような男だった。
1時間に渡る激闘の末、オッタルの輝く剣がバロールの首を跳ね飛ばす。床に転がるドロップアイテム”バロールの魔眼”がその証拠だ。この時、オッタルのステイタスは当然魔力を除きオールSでステイタスもカンスト済み。もう、ランクアップを残すのみだった。
そこでボンドルドが提案する。
「ランクアップをいたしましょうか。勿論、フレイヤ様にお伺いを立てる場も用意しましょう」
不測の事態が発生する可能性がある遠征において、戦力は強い方がよいに決まっている。それにプルシュカとの約束で【アスクレピオス・ファミリア】の遠征に付いてきてくれるのならば、オッタルと言う戦力を遊ばしておくのはもったいない。
それに、ランクアップ後の慣らしの場も提供できる。お互いにメリットのある相談だ。
◇◆◇◆
【アスクレピオス・ファミリア】のホームに呼ばれた神フレイヤは、神アスクレピオスの執務室に通されていた。
「いつか、色々な事でお礼にこようと思っていたけど、遅くなっちゃって。感謝しているわ、アスクレピオス。貴方の眷属には本当に助けられたし、リューの事だって感謝しているの。それで、遠征中の中継を諦めてでも来たんだけど、何の用かしら?」
「次の安全階層までの映像だろう。別にフレイヤが見守らなくても何も起こらないさ。そんなところで躓く遠征部隊じゃないだろう。用件は、オッタルが単独でバロールを討伐成功した件だ」
30分ほど前に終わった事であり、神フレイヤにはその情報は届いていない。遠征部隊が持つ
では、神アスクレピオスが知っているという事は、オッタルと既に接触どころかバロール討伐をその目で確認している。
「遠征部隊とプルシュカ達が分かれて半日程度。随分と裏道に詳しいようね。是非教えてもらいたいわ」
「人は楽を覚えると堕落するぞフレイヤ。まぁ、そんなことはいい。今、現場と通信が繋がっているから、用件は直接確認してくれ。私はただのメッセンジャーにすぎないからな」
『おやおや、そんなに睨まれても困ります。美しいお顔が台無しです。実は、ご相談があって、失礼ながらアスクレピオス様経由でお話する場を用意させていただきました。この度オッタルさんが偉業を達成し、ステイタスも事実上カンスト状態です。ランクアップをお願いできないかというご相談です』
『それこそ、意味が分からないわ。偉業やステイタス的にもランクアップは可能な域にいるわ。勿論、オッタルも今回の一件で納得してランクアップするでしょう。でも、それを貴方が言うのはなぜかしら?』
オッタルが地上に戻ってきたら、ランクアップを考えていた神フレイヤ。
そうして、現オラリオで最強のLv8誕生となる。
『それは、今この場で私がステイタス更新をしてランクアップをしたいからです。遠征部隊の戦力は十分でしょう。ですが、不測の事態は何時なんとき発生するか分かりません。そんな時に、あの時ランクアップしていたらなんて事になるのは最悪の事態です』
『……ねぇ、ボンドルド。貴方、本当にまだ人間なの?会話していても、神としての権能が機能しないのよね。貴方の言葉の真偽が分からない。その仮面を取ってくれるのなら、考えてあげるわ。どうせ、プルシュカやニーナもそこにいるのだから、彼女たちの安全を考えれば答えは決まっているけどね』
勘の良い神フレイヤ。
ボンドルドの仮面の下を予想はしていた。ボンドルドがそっと仮面を外す。その下からは、青色の髪をした見覚えのある処女神の顔があった。
『これでよろしいですか?フレイヤ様。ご安心ください。この肉体は、魂の抜け殻を使っており、神を殺めるなど禁忌などは犯しておりません。後ほどオッタルさんに変わりますので、貴方の口からご説得をお願いします。それと、バロール討伐時にご助力させていただいた結果、オッタルさんは我々の遠征にご協力いただけることになりましたので、フレイヤ様からも口添えお願いします。オッタルさんも一緒ならプルシュカもニーナも喜びます』
『予想通りだけど、仮面を取ると声までアルテミスに代わるのは予想外ね。脳が拒絶するからはもういいわ。後、子供を出汁に使うのは関心しないわね。碌な死に方をしないわよ。…私がこの件を他の神に報告するとは思わないの』
ボンドルドは、全く思っていないと神フレイヤに即答する。
………
……
…
こうして、【フレイヤ・ファミリア】からの最後の要望だった”強敵”の準備が終わる。次の安全階層では、娯楽も兼ね備えた”『頂点』チャレンジ”が開催される事となる。