ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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68:遠征6

 “汚れた精霊”の討伐の為、【ロキ・ファミリア】の遠征部隊は、安全階層(セーフティポイント)を後にして51階層へと踏み込んだ。彼等を見送る子供達の声援を受け、遠征部隊は誰もが「また会う気がするな」と思った。

 

「みんな、頑張ってきてね。あたし達も追いかけるからね~」

 

 だが、これより先は、安全階層(セーフティポイント)は見つかっていない。それに加え、”汚れた精霊”という特級にヤバい存在がいる。ボンドルド達が安全階層(セーフティポイント)に居るだけで、遠征部隊としては御の字でもあった。最悪の場合は、彼等の戦力が助けになると。

 

 50層以降は、本当に地獄であり子供が来て良い場所ではない。

 

 ダンジョンの入口でオラリオの住民から応援の言葉を投げかけられたが、ダンジョン内部でここまで応援してくれるファンがいるとは、遠征部隊も少しやる気が出るというもの。今の彼等は過去の遠征とは比べ物にならない程、英気が養われている。

 

 ボンドルド達は、遠征部隊の後方300m程の間隔をあけてしっかりと付いて行っていた。道中の経路などはしっかりとメモに起こし、出てくるモンスターの特徴や倒し方などを遠征部隊から学ぶ。

 

「ねぇ、パパ。遠征部隊の人って実はすごいんだね。さっきから後ろから見ていたら、モンスターの対処とかが凄く早く上手なのがよくわかるもん」

 

「彼等は、オラリオでも随一の統率力がある方が率いています。ですから、しっかりと記録に残しておきましょう。この映像は、いつの日か役に立つ事もあるはずです」

 

 プルシュカがボンドルドに肩車され、この遠征の記録を遺物である回想器(ミサグラファ)におさめている。後で、参加できなかった【フレイヤ・ファミリア】のメンバーに「これを見て勉強しなさい」と見せるつもりでいた。

 

 ダンジョンにおいて、パーティー同士は一定の距離を保つという暗黙のルールがある。深層ではどの程度なのかと、経験者オッタル曰く300mもあればいいと回答があった。これにはボンドルドも納得する。

 

 遠征部隊を炭鉱のカナリアとして活用しており、モンスターを掃除してくれた後、一定の距離を保ちながら付いて行く。時々、遠征部隊の最後尾にいるアイズ・ヴァレンシュタインがチラチラと後方確認をする。

 

 その度にプルシュカとニーナが手をフリフリしていた。

 

「我々部隊の指揮は、アリーゼさんに任せましたよ。【アストレア・ファミリア】では、嘗て10人を束ねていた団長です。期待してます」

 

「私、この階層について何も知らないんだけど。Lv.8(レベルエイト)のオッタルがいるのに? 本当に、この私が?」

 

 

 オッタルの指揮官適正は、お世辞にも高くない。彼の力は、戦場でこそ活用できる。

 

「えぇ、何事も経験です。大丈夫です、我々も貴方の指示には従います。私達は、医療系ファミリアでありヒーラーですから、戦いは不向きです」

 

「私より、ボンドルドの方が得意じゃないの?別にやってもいいけど、指示に従う?」

 

 ボンドルドが、「仲間でいるうちは勿論」と回答する。

 

 ダンジョンにおいて、指揮官の命令は絶対だ。特に深層では、一秒の判断ミスで死ぬ事もある。経験値が高い人物が指揮官をすべきだ。まぁ、アリーゼも脳筋よりではあるが、オッタルよりはマシであった。

 

………

……

 

 遠征部隊は、後方から付いてくるボンドルド達が気になって仕方がなかった。今までは、安全階層(セーフティポイント)で別れたら、次の安全階層(セーフティポイント)で出会うというパターンの繰り返しだった。だが、今回は違う。

 

 数百メートル離れていても、あの輝く紫のラインは目立つ。

 

 遠征組で唯一の【アストレア・ファミリア】であるリュー・リオン。どうして、遠征は断ったのに、他の仲間が全員ここにいるんだと頭を抱えている。そこにいるなら、こっちにきて手伝ってくれてもいいのではないかと。

 

 同じファミリアが誰もいないだけで、寂しいという物だ。

 

「ボンドルド、右から敵が来たわ。4体くらい楽勝でしょう? 一人で頑張って。私は全体を見てるから。娘の前でカッコいい所をちゃんと見せるのよ」

 

 ……といった風に、アリーゼの良く通る声が丸聞こえであった。

 

 ボンドルドの紫のレーザー、2メートルを超えるトカゲを吹き飛ばす腕力、鋭利な尻尾で切り裂いたり串刺しにしたりと、深層モンスターを瞬く間に殺していっていた。

 

「アリーゼ。ここは深層です。なんで、貴方が指示をだしているんですか。適正が低いって前にも言ったじゃないですか」

 

 遠征部隊でフィンの指示の下で動くリュー・リオンからしてみれば、仲間がお世辞にも褒められない指揮を真後ろでしていれば顔も覆いたくなる。見るに見かねたフィンが、フォローする。

 

「人には向き不向きがあるからさ。でも凄いと思うよ……アリーゼ・ローヴェル。筋力だけで深層のモンスターをねじ切っているんだから。同じレベルになればガレスといい勝負ができそうだよ」

 

 

「すみません。後で、ちゃんと言っておきますから。指揮には向いてないって」

 

 フィンの鋭い視線は、後方もしっかりと捕えている。いっそ、不審な動きでもしてくれればありがたいが、彼等の行動は自衛の範囲を出ない。遠征部隊を炭鉱のカナリア扱いにしている事はフィンもわかっていたが、後方の安全に彼等が寄与しているのも事実。

 

 それに、適切な距離感も守られている以上、何も言う事は無い。

 

 そのおかげもあって、順調に52層まで辿り着いた。ここから先は、経験者でも気合を入れなおす必要があった。52階層から58階層までの層域は、別名「竜の壺」と呼ばれており、この階層から深層の危険度が一気に激変する。

 

 何度も足を踏み入れた【ロキ・ファミリア】の者達は、初めてここに来る者達に注意点を説明する。彼等が得た今までの万金にも匹敵する情報が開示された。

 

 58階層に生息する階層主級のモンスターである砲竜『ヴァルガング・ドラゴン』による「階層無視」の大火球砲撃。これが一番危険だ。居場所を察知され的確に打ち抜いてくる。止まれば、死んでしまう。

 

 その58階層までが【フレイヤ・ファミリア】の到達階層だった。

 

 フィンは、後ろをついてくるボンドルド達にはオッタルがいるから、きっと情報連携がされるだろうと思っていた。だから、そう信じて彼等は、階層無視の大火球砲撃を突破しようと進み始めた。

 

 52階層を進み始めた時、後ろからプルシュカが大急ぎで走って、遠征部隊に重大な情報を伝える。

 

「みんな~!! 引き返してーーーー!! 白兎(ベル・クラネル)がダンジョンに入ったって神様から連絡があったの。もう、いつもの深層じゃないわ」

 

 だから何だと思った者もいた。

 

 しかし、フィンは親指の疼きでその重要性をハッキリと理解した。いつもと違う。具体的に何が起きるかとは言えないが、一手間違えば全滅しかねない。その勘は正しかった。58階層では、”汚れた精霊”により9頭のヴァルガング・ドラゴンが融合した多頭竜(ヒュドラ)型の『精霊の分身』が用意されていた。

 

 どこぞの院長達がエネルギーを略奪したおかげで、”汚れた精霊”も出せる戦力に限りがあり、待ち伏せによる超長距離火球で相手を殺すつもりでいた。

 

 通常の数倍はある床からの攻撃。火球の中央に居たメンバーは逃げるのが間に合わない。リュー・リオンが咄嗟にアストレア・レコードを詠唱する。詠唱中は、結界魔法が発動し、僅かだが、火球を防ぐ。だが、圧倒的な威力を誇る火球を受け止める事はできなかった。

 

 僅かな時間。されど、その時間は、反応が遅れた遠征部隊を救った。

 だが、リュー・リオンは、火球で開けられた穴に落ちる。このまま下まで落ちれば58階層まで直通だ。Lv.6(レベルシックス)であるから死ぬことはないだろう。だが、落ちた先で生き残れるかは別の話だ。

 

 遠征部隊を率いている都合上、全員で飛び込むわけにもいかない。かといって、白兎(ベル・クラネル)という特級呪物がダンジョンに入ったのだ。戦力を分散する事の方がリスクが高い。”汚れた精霊”を討伐する為、最善の選択肢は、リュー・リオンが58階層で部隊が到着するまで生き残る事だ。出来る事なら、その間も砲撃を引き付けておけばなお良し。

 

 迷っている時間は、遠征部隊にはなかった。

 

「【ロキ・ファミリア】!! アンタたちは、進みなさい。リオンは、私達が助けに行く。こっちの指揮官は私なのよ。道中も罠とか仕掛けがあるはずよ。全部踏みつぶして、私達を助けに来なさいよ」

 

「わかった、一族の名誉に懸けて約束する」

 

 【ロキ・ファミリア】を見送るプルシュカが、ぼそっという。

 

小人族(パルゥム)の名誉って、戦争遊戯(ウォーゲーム)で消えたんじゃなかった、パパ」

 

「止めて差し上げなさい。こういう時は、黙っているのがレディーですよ」

 

 聞こえていても振り返る事がないフィン。彼の目元には、僅かに涙があった。

 

 

………

……

 

 アリーゼがボンドルド達に振り返り、何かを言おうとする。だが、輝夜が腹パンで止めた。

 

「いややわ、手がすべってもうしました。アリーゼ、流石に三度もそのセリフはあかんで。そのお家芸は、もう聞き飽きましたわ」

 

「そうだぜ、今言おうとしたこと当ててやろうか。【皆の命を頂戴】とかだろう」

 

 付き合いの長いライラに、いとも簡単にこれからの名台詞を当てられた。

 

 すでに、何度リュー・リオンを助けるために命を使い捨てられた事かと。もちろん、彼女たちも理解しているし、分かってやっている。だが、今度は死ぬ気などない。

 

「遊んでいる暇があったら、早く飛び込むことをお勧めします。幸い、火球は【ロキ・ファミリア】を狙っているようですから、今なら比較的安全に58階層まで進めます。アリーゼさんの魔法は、空は飛べないでしょうが火力で滑空くらいはできるでしょう。みなさん、彼女にしっかりと捕まってください」

 

 ボンドルドは、ファミリアの仲間を助けたいというアリーゼの言葉に強く心を打たれた。だから、彼女たちを58階層に直通する穴に落とす。みるみる小さくなる彼女たちを見届けて、ボンドルド達は、歩いて遠征部隊の後を追う。

 

 さすがにオッタルも彼女たちを不憫に思ったのか、声を掛ける。

 

「追わないでいいのか?」

 

Lv.1(レベルワン)の我々がここから飛び降りたら死んでしまいます。確かに、彼女を指揮官に任命しましたが、我々の安全を無視した行動をするならば解任です。心配には及びません。第一級冒険者が6名もいれば生き残れるでしょう。オッタルさんは、プルシュカとニーナさんの護衛でもあるんです。さぁ、急ぎましょう」

 

 確かに筋が通っていた。

 

 オッタルは、プルシュカの依頼を受けてここにいる。アリーゼ達の安否より優先すべき対象が誰なのかは明白だ。

 

 計測を取り出した涅マユリが「こっちネ」と言いながら先導する。待ち伏せしている事が分かったのならば、第二第三の罠がある可能性が高く潰して回る事にする。

 

 本来は、火力役にアリーゼ達も期待していたのだが、一緒に深層まできた仲間より大事な者があるなら好きにしろというやつだ。指揮官適正が低いというリュー・リオンの話は真実であった。

 

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