ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
『竜の谷』の周辺には、地上にありながらダンジョンの深層にも匹敵するモンスター達が生息する異常地帯だ。ここでは、モンスターが交配する事でその数が増えている。ココが地上とダンジョンとの大きな違いだ。
だからこそ、確かなことが一つだけある。一度殺せば、ダンジョンのように湧いて出てくることはない。つまり、ボンドルド達が最初にやるべきことは、邪魔されないようにこれらの掃除だった。
無限ではなく有限。敵が強くても、ボンドルド達もそれなりの準備をしていた。第一級装備で武装した
そもそも、この地にいるモンスターの数は多くはない。地上で暮らすモンスターは食糧問題もあり、共食いなどで数を減らしている。ダンジョンと違って次々と湧いてこないから、いずれ腹を空かせて死ぬか、遠くへ食糧を求めて移動する。これが『訪竜問題』だ。
一定数の生命を維持するには、ある数を境に狩猟生活では限界が来る。農耕などで食糧を自給自足できなければ弱って死ぬ。まさに、弱肉強食の世界だ。
「質は良いです。それこそ、深層でも50層以降レベルがゴロゴロと言った感じでしょう……ですが、栄養不足です。プルシュカ、モンスターの魔石は
「はーい。怪我した
既に、『竜の谷』周辺で戦い始めて3時間以上が経過していた。ご馳走にありつけると喜んで襲ってきたモンスター達も相当数がひき肉にされ、地面を真っ赤に染め上げていた。返り血で院長達の衣服もべっとりしている。
ボンドルド達の第一段階が終わるまであと2時間以上ある。それまでは出来るだけ注意を集めながら、モンスターが潰えるまで戦い続けるしかなかった。途中、院長達も交代で休息を取りながら
その間、『竜の谷』を取り囲むかのように国土錬成陣の完成が迫っている。長い年月をかけて、【アスクレピオス・ファミリア】が取り組んできた計画の一環だ。今までは人間しか対象にできなかったが、院長達が力を合わせて研究成果をつぎ込み、遂に人間だけでなく、モンスターや
既に、ラキア王国の国軍相手に実験は済ませており、これが実現できれば『竜の谷』問題の多くは解決できる。しかし、解決できない数少ない問題――それが黒竜だ。
作戦の工程表を片手に涅マユリが、【ロキ・ファミリア】の遠征部隊救助で利用されている
「凄いじゃないか、彼は。ダンジョンに入っただけで、階層主がインターバルを無視して再出現したそうだ。他にも、強化種や寄生型モンスターに加え、デミ・スピリットもどきも発見されているそうだ。信じられない程のトラブルメーカーだネ。ボンドルドの血族とは恐ろしいな」
「お褒めいただき何よりです。今、彼がダンジョンにいるおかげでこちらのスケジュールも予定通り順調。そう考えれば決して悪い話ではありません。要は、彼も使いようというわけです。世の中に不要な人間などおりません。それを正しく運用することこそが重要なのです」
ボンドルドは腕に装着した瘴気の計測器を確認する。そろそろ、一度下がって洗浄が必要なタイミングだった。学区の研究資料が非常に役に立ち、瘴気の汚染を除去する装置が涅マユリによって開発された。そこに10分ほど入れば体内の汚染が除去される。
「じゃあ、私は少し瘴気を除去してくるネ。終わる頃には第二ステップだヨ。この装置は命を賭けても守るんだヨ。今は替えがないからネ」
「勿論です」
かつて、大精霊アリアが黒竜を封印するために施した“風印”を分析する装置だ。
………
……
…
処女神となったボンドルドの加護と『神威』により、ボンドルド達は“竜の鼾”にもひるまず影響を最小限に抑えられる。やはり、神の不変の肉体こそ、三大クエストである最後の黒竜討伐には必須のものだとボンドルドは考えていた。
ボンドルドは空を確認する。昼間だからこそ観測しにくいが、そこには確かに二つ目の月が存在していた。
「『天界最強の矢』を早く試したいものです。しかし、チャージ時間が長いのがいただけませんね」
「パパ~、プルシュカも戻ったから、何すればいい?」
ボンドルドはプルシュカの頭をなでる。
『竜の谷』という死地にいるにもかかわらず、彼女は怯えることなく精神を安定させている。やはり、先日の深層での経験が活きていた。子供の成長とは早いものだ。父親になってそれを実感するばかりで、この子が平和に暮らせる世の中のために惜しまぬ努力をするのが親というものだった。
「いい子ですね、プルシュカ。第四段階に向けてデミ・スピリット達の状態確認と、皆の昼食の準備をお願いできますか」
「わかった。とっても美味しいご飯を準備しておくからね。お昼は、お魚だよ」
深層にも勝るとも劣らないこの地は、トラブルメーカーがいないため至極平和だった。十分な火力と準備があれば、『竜の谷』周辺を間引くくらいは可能だ。唯一の問題は瘴気というダンジョンには存在しないデバフだが、それも学区の研究によって除去方法が確立されている。
世の中には、そんな無法とも言える瘴気を取り払える回復魔法を持つ存在もいる。それが、ニイナ・チュール……ベル・クラネルに脳を焼かれた【ヘスティア・ファミリア】の新メンバーにして回復役を担う存在だ。彼女がこの場にいればさらに効率化できただろうが、セットでベル・クラネルが付いてくるというのならばお断りだ。
深層モンスター相手に連携プレイで磨り潰していく
その視線を察してか、
彼女は上空から敵の動きを見て仲間に指示を出す役目だ。そして、周囲の異変にも敏感に反応し、仲間の支援や離脱も手伝う優れた飛行ユニットだ。
『何か御用ですか?』
「いいえ、よく働いていただきとても感謝しています。ありがとうございます、フィアさん。今回の仕事が終われば、皆で世界旅行にでも行きましょう。ダンジョンより広い世界をあなた達に見せることを約束します」
頭を差し出してくるフィアを撫でるボンドルド。
この程度のことでやる気が出るのなら、お安い御用だった。
『楽しみにしています』
「ええ。そうそう、今回の一件でウィーネさんやアステリメスさん、リドさんもお誘いしたかったのですが、連絡がつかず……どうされているかご存知ですか?」
『それでしたら、あの二人は「そろそろ食べ頃、狩るか」とダンジョンで待ち伏せすると言っていました。リドさんは、フェルズさん達に言われて遠征組の救出支援に行くらしいです』
「そうですか。ヒトとモンスターの間に子供が産まれる事例は……ないこともありませんが、ハードルが高いそうです。おや、ご興味がおありですか? 以前より文通をしている方で、極東にお住まいの呪い師みたいな方です。世界旅行時、ファミリアに勧誘する予定です。あちらも好感触ですのでご期待ください。確か、呪胎九相図という方法らしいです」
いずれ増えるだろう第五の院長。世界を巡り仲間を集めてダンジョンを攻略する。今から未来を語るのは死亡フラグだ。あまり語り過ぎるのは良くないと、ボンドルドは口を閉じた。
そして、数時間が経過し、計画の第一段階が完成する。
『竜の谷』を囲むように作られた巨大な国土錬成陣。タッカー親子による錬成が始まり、地面に錬成反応が走る。中央にある風印を残し、周辺の全てのモンスターや生命を分解して“賢者の石”へと作り変える。
パチパチと院長達がタッカー親子の対応を褒めたたえる。やはり、大軍相手において無類の強さを誇る錬金術。敵を潰して“賢者の石”にすることで自己強化にもつながる。
「相変わらず、錬金術とは素晴らしいです。風印内部に閉じ込められたモンスターは、錬金術で排除可能でしょうか?タッカーさん」
「恐らくだけど、無理かな。風印がなければできるだろうけど、解除すると出てきちゃうからね」
それもそうだと、院長達は次なる準備を始める。想定通り、風印内部のモンスターは除外できなかった。ボンドルドは風印に近づく。このサイズは大きすぎであり、目的のためにはもっと風印のサイズを小さくする必要がある。この内部では、深層級のモンスターが日夜殺し合いをしている。蟲毒となった風印内部では、より強いモンスターが少数生存している状態だった。
しかし、そんな個体であっても黒竜を襲って目を覚まさせるようなことはない。
大精霊が作った風印を操作するなど、人には不可能に近い。それができるのは同じ大精霊位だ。しかし、世界に精霊はいるが、大精霊と呼ばれる存在は確認されていない。だが、つい先日”穢れた精霊”が素晴らしい物をドロップした。
「“穢れた精霊”の元となった古代の精霊。精霊王朝スフィア時代に英雄と共に過ごした精霊……現代の精霊とは一線を画す存在だネ。これを使って風印を小さくしていく。内部の圧抜きは頼んだよ」
「お任せください。内部の瘴気や公害対策についても、生きた神のフィルターを通す事で幾分かマシになるでしょう」
風印内部は千年を超える瘴気が滞留しており、漏れ出すだけで公害だ。そこでボンドルドが考え出したのが、生きた神を濾過フィルターに使う方法だ。不変の神であることを利用した自然に優しいやり方だ。
脊髄に器具を埋め込まれた神たちは、生き屍であり何もできない。
神ソーマ
神アポロン
そして、オラリオから追放されたところを捕えられた神イケロス。
本当ならばここに、神ヘスティアも並ぶはずだったのだが、彼女は運がよかった。
ボンドルドが
5m程の穴から漏れ出す瘴気を神フィルターで濾過し続ける。当然、神が死に絶えないように調整は必須であり、瘴気を除去する処理も死ながらフル稼働だ。
こうして世界の注目がオラリオのダンジョンに向く最中、【アスクレピオス・ファミリア】単独による三大クエストへの挑戦が始まっていた。
数百メートルクラスだと予想される黒竜…あかんやろう。
ゴジラ並じゃないか。